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まだ、痛む?
「早苗の友達は、皆大人しいお嬢さんばっかりだったから。あの子ね、凄く地味だったのよ。貴方みたいにちゃんとヘアスタイルを整えてもなかったし、いつも俯き加減でね。真直ぐ前を見て歩いている貴方を見て、あら、この子、こんな顔してたかしらって驚いちゃった」
それは……意外だ。こんな可愛い子が地味だったなんて。
「………………傷口を見せてくださいな」
促され、左手をテーブルに乗せて袖を捲くった。
いくつもの躊躇い傷と、一際深い傷の残る手首が露になる。
「…………まだ、痛む?」
「……時々」
おばさんは俺の手を両手で掴んで、顔を伏せた。
「ごめんなさい、……ごめんなさいね…………」
それは俺に向けられた言葉ではなかった。
かける言葉も見付からないまま、黙っておばさんのすすり泣きを聞いていた。
娘の苦しみに気が付いてやれなかった母親の嘆き――というよりは、懺悔のように聴こえるのは、なぜなんだろう……。