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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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真夏に雪を降らせる硬質な美少女(通行人視点)

 雪のように白いスカートを靡かせ、夢屋前の噴水公園に少女が入ってきた。

 季節は7月だ。噴水公園にも夏の熱気と湿気が籠っていた。


 町全体がせいろにでもなったかのように蒸し暑く、熱気が体に纏わりつく。なのに、その少女が現れた途端に空気が変わった。

 少女の周りにだけ雪が降り注いでいるかのような錯覚を起こした。

 目にした全員が思わず息を呑んで凝視した。男も女も子供も老人も関係なく。


 高い腰、細い肩、形のいい胸。ミニスカートから覗く撫でまわしたくなるような淫靡な太もも、可愛らしいサンダルに収まるはだしの曲線、小さな足の指までも目を見張るほどに上質だ。


 夏の日差しの中、姿勢を真っ直ぐに歩く姿は余りにも高潔で、この世の生き物ではないかのような錯覚を起こした。

 

 表情が硬く、雪のワンピースに似合う氷じみた美貌のせいか、侵しがたい迫力があった。

 少女は公園に居た全ての人間の視線を惹き付けながら、軽やかな足取りで公園の中心に置かれた銅像の横に立った。


「くわ、すげー美人……。待ち合わせしてんのかなあの子」

「ちょっと声かけてみっか?」

「ばーか、レベル違いすぎだろ。相手にもしてもらえねーって。モデルかなんだかだろあれ。しかも読モとかじゃないモデル」


 いかにもナンパな男達が声を潜めもせずに声を交わす。


 大抵は尻込みしているというのに、恐らく大学生だろうか。勇気のある二人組みの男が、銅像の前に立つ少女へと足を向けた。


「待ち合わせしてんの? 相手、女の子? よかったら一緒に遊ばない? ちょうど飯時だし、ご飯おごるか――」


 少女は声を掛けてきた男を一瞥もせずに、銅像の前から離れ、ベンチに腰を下ろした。


 二人組みの男は「やっぱ無謀だったか」「しゃーねーわ」と顔を見合わせて苦笑する。相手にもされていないというのに怒るでもなく、少女に無視されたことを当然だと受け取っている。


 少女の横にはサラリーマン風の男が居た。顔を赤くしてチラチラと少女を伺っている。だが少女はただ真っ直ぐに視線を上げていた。


 ひょっとして感情のない人工物アンドロイドなのではないかと錯覚しそうになる。

 だってあれだけの美しさだ。

 人造だと言われても不思議は無い。


「……よかったら、どうぞ」


 少女が立ち上がって、自分が座っていた場所を掌で指した。


 声を掛けた先には、腰の曲がった小さな老婆が居た。

 少女ばかりに気を取られて気が付かなかったが、ベンチは全て埋まってしまっていた。


「あぁ、お嬢ちゃん、ありがとうね。助かったよ」

 老婆は笑ってベンチに腰を下ろす。


「お母さんと待ち合わせでもしてるのかい?」

「友達と待ち合わせしているんです。……兄と買い物に来てたんですけど、置いてけぼりにされちゃって」

「あらあらかわいそうに。よかったら、友達がくるまでミネばあちゃんが話し相手になるよ」

「ありがとうございます。……男の人に話しかけられるのが怖かったから、嬉しいです」


 怖い?

 一瞥もしないまま、男など無かったかのように扱っていたのに、内心では怖がっていたのかと驚かされる。

 殆ど老婆が喋り、少女はほのかな笑顔で相槌を打っていた。




 少女の視線がふ、と上がり、ふにゃ、と、表情が変わった。


 大理石で作られた彫像のようだった美貌が、突然、弱く小さい無邪気な女の子の顔へと変化する。もちろん、美しさはそのままに。


「――――――!!!」


 ちらちらと横を見ていたサラリーマンも、ナンパ男も、主婦らしき女性も、ぎゃーぎゃーとわめきながら走り回っていた子供でさえ、変わりように息を呑む。



「竜神!」



 効果音をつけるなら、ててっ、だろうか。

 完璧なアンドロイドのようだった印象が嘘のように、今にも転びそうな、サンダルが脱げてしまいそうな危なっかしい足取りで走りだす。動きも表情も保育園児のそれに近かった。


 公園にいた全員が、走り出した少女の視線の先を追い――――。そこにいた、頭一つ飛び抜けて体格が良く、人相の悪い少年にう、と息を呑んだ。


 しかしその少年は、女の子を見た途端、安心したように人相の悪い顔を緩ませた。


「大丈夫だったか? 絡まれたりしなかったか?」

「うん。ミネさんが一緒に居てくれたから」

「ミネさん?」


 不思議そうに聞き返した少年に、少女が説明する。


 少年は少女の手を引いて、老婆の前へと進んだ。


「こいつの相手をしてくださってありがとうございます。一人にするのが心配だったんで助かりました」


 礼儀正しく一礼する男の子に、おばあちゃんは「いいのよ、頭を上げて」と笑って、膝に乗せた巾着袋を開いた。


「これ、あげるわ。お嬢ちゃんが席を譲ってくれたお礼」

 老婆の手には飴が二つ乗せられていた。


 少女は大げさな動きで両手を振って遠慮してたけど、結局受け取った。


 少女はおばあちゃんに手を振って「ありがとうございます!」と笑う。それとは対照的に、少年は静かに会釈した。


 二人が手を繋いで夢屋に消えて行く。


 しっかりと握り締めるのではなく、軽く繋がれた指先が、想いが通じ合う前の柔らかい時期なのだと象徴していた。


 美しい少女を手にしようとしている少年に嫉妬するよりも先に、なんだか、心が温かくなった。


未来が「自分は女だ」という自覚がないころには安っぽい家出少女みたいな服を着て、男にも安く見られ、連れ去られかけたりという危機があったものの(強引なナンパ回参照)未来が自分が女だという自覚してからは断りの言葉さえ無くとも男が引く、という展開はやりたかったんです! 正直言うと2年生の冬にやりたかったのですが少々前倒ししてしまいました。それでも60万字をこえてようやくたどりつけるとは…

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