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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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洋服に190万!?

 去年の誕生日。俺は竜神に商品券を貰った。

 商品券。商品券である。何度でも言おう、商品券だ。

 あの当時は全然意識してなかったんだけど、すでに竜神が大好きで堪らなかったという情けない状態だった。そんな俺が、竜神から貰ったプレゼントをワクワクして開け――――。

 出てきたのが商品券。


 半ば失神して机に倒れ込んだ俺は悪く無いと思う。

 大金の商品券より添い寝券が欲しかった。添い寝券が駄目なら百均のアクセサリーが良かったんだ……。


 などと嘆いても始まらない。


 その後、何度となく竜神と一緒に夢屋に行って色々見たけど結局何を買おうか決断はできなかった。

 竜神から貰った商品券はお出かけごとに二人分の昼食代として少しずつ消えていった。


「明日また買いに行くからな」

「わかったよ」


 俺の誕生日は去年の冬だ。というのに、7月まで持ち越した夏休み間近の土曜日の夜。びしっと竜神に指を突きつけて宣言した。因みに俺の誕生日プレゼントを買いに行くのは今回で五度目だ。


 明日こそ可愛いアクセサリーかバカ面小物が見つかればいいなーなんてぽやぽやしていた翌日の日曜日の朝に、突然、兄ちゃんが襲来してきた。


「未来、今から買い物にいくぞ。準備をしろ」


「いきなりだな。どうしたんだよ」


「夏物の服を買ってやれと母さんから連絡が来たんだ。丁度良く休日だから買いに行くぞ。今日を逃すといつになるかわからんしな」


「え! 買ってくれるの!? すげー助かる! 竜神、俺、先に出るな。昼頃に街で待ち合わせでいいかな?」

 夏物の服、安物ばっかり買ってたからビロビロになってたんだよな。新調して貰えるのは助かる!


「オレも付いて行く」

 あ、竜神が警戒してる。

 兄ちゃん、すっかり信用無くしてるなあ。

「いいよ。買い物するだけだから。洋服の買い物についてこられるの恥ずかしいし」

 別に恥ずかしくないんだけど、兄ちゃんって人の神経逆なでばっかするからな。竜神に嫌な思いはさせたくない。


「……」

 竜神が押し黙る。こいつ、恥ずかしいからって言ったら絶対強く出れないんだよな。


 部屋に飛び込んで洋服を着替える。


 二台停めるスペースのある我が家の駐車場には、兄ちゃんの車だけが置かれてる。母ちゃんが使ってたぼろい軽自動車はもうここには無いのがいつ見ても寂しい。

「何かあったらすぐ連絡しろよ」

「うん! 行ってきます!」


 竜神と挨拶を交わし、開いたスペースを埋めるみたいに停められてるでかいバイクを一撫でして、兄ちゃんの車の助手席に座った。


 何となく、携帯を開いて確認してしまう。

 新規メールは無かった。


「……随分と汚い携帯だな」

 兄ちゃんがシートベルトを締めながら眉を潜める。


「汚くて悪かったなー」

 もう五年も使ってるから外装が剥げちゃってるし、実はボタンも割れている。


「買い変えるお金無いもん。しょうがないだろ」

「ついでに携帯も買うか。みっともないからな」

「え!? いいの!? すげー兄ちゃん太っ腹!」

 服だけじゃなくて携帯まで買ってくれるなんてありがたい。コミュ障コミュ障言ってごめんな兄ちゃん! 尊敬できる兄だよ金銭面のみだけど!


 駐車場のある携帯ショップに入り、店頭で機種変更希望のボタンだけ押して、スマホの並ぶ棚の前に立つ。


「わー、いろいろあるなー」

「早くしろ」

「今入ったばかりだぞ。いきなり急かすなよ」

「では金を渡すから、後日強志君とでも買いにいけ」

「だから早い早い。折角きたんだからもうちょっと見させて」


「全くお前は昔から優柔不断で……」

「優柔不断って言われる段階まで進んでねーよ。まだ何も選びもしてねーよ。サンプル手に取ってもねーよ。そんなんじゃ未来永劫新しい彼女ができないぞ。女を急かす男は嫌われるんだから」


「そうなのか!?」


「生まれて初めて知りましたみたいな反応されても困る。兄ちゃんだってツレに急かされるのウザイだろ」

「確かに、急かされた時点で縁を切るな」

「人間関係が薄すぎるだろ! その程度で切るな!」

「面倒になってきたな。一旦帰るか」

「なんでだよ! ふざけんな、あ、これ! これでいいよ! これ欲しいです!」


 スマホなんてどれもこれも同じに見えるけど、一つだけ目を引いたのがあった。

 竜神が使ってる機種だ。

 カッコいいって思ってたんだよな。これがいい!


「いらっしゃいませ、遠藤と申します。お手伝いできることはありませんか?」


 店を出ようとする兄ちゃんのジャケットを引っ張ってると、女性の店員さんが来てくれた。


「機種変更お願いします!」

「では、カウンターへどうぞ」

 カウンターに座ると、店員さんがジュースを持ってきてくれた。俺はピーチジュースを貰って、兄ちゃんはお茶を選ぶ。


「何色になさいますか? 在庫は、黒、青、パールピンク、桜カラー、バイオレットとございますが」


 黒色がいいけど、竜神が持ってるのが黒色だったからな。同じ色じゃさすがに紛らわしい。


「青色でお願いします」

 深い紺色でちょっとメタリックな感じでかっこいい。


「こちら、パールピンクも在庫がございますよ」


 ん?


「えと、青色で」


「サクラカラーもございます! バイオレットも素敵ですよ」


「あの、青色……」


「どうぞ、お手に取ってください。桜カラーは桜の濃淡を意識したカラーとなっております。パールピンクは天然に彩られるピンクの真珠の輝きを再現した色でございまして、どちらも当ショップのお勧めです」


 えっと、えっと。

 おかしいぞ? 希望の色を売って貰えない。青色在庫あるって言ったよな?


「桜カラーがいいんじゃないか? お前の体に良く似合うぞ」

 兄ちゃん、その言い方軽くセクハラだからやめて。


「…………それじゃ、桜カラーでお願いします」


 俺の希望よりも、見た目に似合う色がいっか。携帯なんて一回買っちゃったらずっと使うものだしな。


 店員さんは満面の笑顔で頷いて俺に桜カラーの携帯を差し出してくれた。


「よかった……! お客様のような可愛らしい子には似合う色を持っていただきたいと常々思っておりまして。なのに昨今の人気の機種は青だの黒だの嘆かわしいと店員一同気を落としていたのです。渋い色は歳を取ってから使えばいいんです! 若くて可愛い子が可愛い色を持たなくてどうしますか!」

「は、はぁ……」


 詰め寄ってくる店員さんに、どう反応していいのか戸惑ってしまう。

 隣の兄ちゃんは黙々と茶を飲んでるだけだし、やっぱり竜神に一緒に来てもらえばよかった。


 変な一幕がありながらも、機種変更はつつがなく終わった。

 念願のスマホを手に入れられて嬉しい!

 ハートのダイヤの飾りがついたストラップのおまけも貰った。落下防止の指輪がメインのストラップだ。普通に買えば一万円以上する品らしい。ほんとかな? というかスマホってストラップ付ける場所無い気がするんだけどどうすればいいの? よくわかんないな。


 次に兄ちゃんに連れて行かれたのは「街」の「高級店通り」と呼ばれる場所にある、有名なブティックだった。


 この通りに入るの久しぶりだ。

 学生が買える品なんて無いからこの道を歩くことさえほぼ無いからな。


「兄ちゃん、こんな高そうな店じゃなくて、ウニクロとかイマムラでいいよ」

「服はちゃんとしたものを持ってろ。お前なら粗末に扱うこともないだろう? 多少高い品でも大事に着れば元は取れるからな」

「そんなもんかなぁ……。そりゃ、大事には着るけどさ……」

 駐車場に車を止めて、見るからに高そうな店に向かう。って、ドアマン! 普通のお店なのにドアマンが居るぞ!


「予約していた日向だ」

「お待ちしておりました。どうぞ」

 ドアマンは鍵を開けて俺達を店内に招き入れてくれた。普通のお店だよなここ。なんでドアに鍵が掛かってるんだよ。しかも入店に予約がいるの?


「いらっしゃいませ日向様」

 壮年の女性がうやうやしく頭を下げてくる。兄ちゃんは俺の背中をとんと押した。


「先日依頼した服を見せて欲しい」

「かしこまりました。こちらへどうぞ、お嬢様」

 せ、先日依頼した服ってなに!? それに、お嬢様なんて初めて言われたぞ!


 俺の部屋より広い試着室に入れられて、あれやこれやと着替えさせられ、最終的にワンピースとショートパンツと、ミニスカートと、体のラインにフィットしてるのに窮屈じゃないシャツに決定した。あと靴を一つ。


 着てきた服を包んでもらって新品のワンピースを着て試着室を出る。


 体の幅も腰の位置も俺に合わせているので着心地がいい。腕とスカートの裾がレースになってて本物のお嬢様みたいで上品だ。

 店員さんの話からすると、もともと兄ちゃんは俺のサイズを店に告げてオーダーメイドの服を発注してくれていたらしい。知らなかった。胸が苦しく無いのに太って見えないジャストフィットな洋服に感動してしまう。着心地もいいしすっごい楽だ!


「どう、兄ちゃんこの服!」


「あぁ。服だな」


「服だよ! そうじゃないよ! 似合うか似合わないか聞いてるんだけど!」

「プロが作った服だぞ。俺が似合わないと思ったところで、プロのセンスに叶うわけがない。ひょっとしてその服が気に食わないのか? 文句があるなら試着する段階で申し出るべきだろう。全く、昔から要領の悪い……」

「気に入ってます! 女に服の事聞かれたらどんなにアレでも『似合う、可愛い』ぐらい言えよ! ちょっとぐらい褒めろ!」

「自分を自分で可愛いなんて言うんじゃない。引くぞ」

「勝手に引いてろ! 兄ちゃん最低だよ割と本気で」


「日向様、お会計をよろしいでしょうか」

「あぁ」

「百九十三万六千円でございます」


 ひ、


 ひゃくきゅうじゅうまんんんん!!??


「ちょ、にいちゃ、これ」

 動揺する俺を他所に、兄ちゃんはカードを店員さんに手渡してから、一緒にカウンターへと向かってしまった。


「兄ちゃん……よかったのか? 服程度であんな大金……!」


「構わん。というか、服を買いにきたんだぞ。金が掛かるのは当然だろうが」

「でも、学生の服に百九十万なんて……」


「未来、お前、この後強志君と待ち合わせをしているんだったな?」

「うん? そうだよ。この後っていうか、お昼頃だけど……」

「俺は今から瑞穂町の古書店に行かなきゃならん。荷物は持っていくから、ここで別れよう」

「え」

「じゃあな」


 止める暇も無く、俺のバックとスマホだけを残して、兄ちゃんはさっさと車を出してしまった。


 ちょ、兄ちゃんんん! せめて家に連れて帰ってくれよぉお!


 急かすわ、人の意見は聞かないわ、女の服を褒めることもできないわ、自分の都合で置き去りにするわ……。

 兄ちゃん、結婚どころか二人目の彼女も未来永劫できないんじゃなかろうか。


 うんざりと歩きながら、金持ち通りの通称に相応しく、豪華に装飾された電話ボックスに入る。

 十円玉を大目に入れて、覚えてしまった番号を打つ。

 掛ける相手は当然、竜神だ。


『どうした』


 まだワンコールも終わって無いのに通話が繋がってびっくりしてしまう。


「兄ちゃんに置き去りにされて街で一人になっちゃったんだ。暇だったらすぐ出てこれないかなって思って」


『やっぱりか……』


「やっぱり?」

『なんでもねえ。十分で行くから待ってろ。絡まれたら傍に居る人に助けを求めろよ』

「大丈夫だよ。じゃ……えと、夢屋前の公園で待つな」

『あぁ。携帯はどうした? なんで公衆電話からなんだ?』

「スマホに変えたんだ。通話料がめっちゃ高くなるプランで申し込んだから節約」

 スマホなら無料で通話できるアプリがいくらでもあるから、通話プランにお金は掛けなかったんだよな。

『そうか。すぐ行く』


 電話越しにバイクのエンジン音が聞こえる。


 バイクで来るってことは、帰りはりゅうのバイクに乗れるってことだよな! やった! まだ一回も乗った事無いから楽しみ!

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