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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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香水を買いに行きました

「ね、ね、竜神、香水買いたいからドラッグストア寄っていい?」

「おー」


 この地区で一番安いと評判のドラッグストアに入る。

 ごちゃごちゃした店内の一角に香水コーナーがあった。


 むぅ。

 予想外に数が多い。コロンまで合わせたら100個ぐらいありそうだ。

 とにかく試さないことには判らない。テスターを手に取り、ぷしゅ、と手首に掛けた。


 一番最初に手に取ったのはベビードールだ。入れ物が可愛かったから真っ先に目についた。

 竜神の鼻に近づける。

「どう?」

「あめえ」

 甘いのか。じゃあ次は、

「インカントチャーム 」

 今度は右手首にプシュッとする。

「あめえ」

「エタニティ」

 腕がなくなったので、竜神の右手にプシュッとする。

「あめえ」


「……甘い以外の感想は無いのか」


「全部甘いとしかわかんねーよ。オレじゃなく美穂子に相談した方がいいぞ絶対」

 竜神が好きだと思う匂いを付けたいんだけどな……。でもこの反応は香水に興味が無い感じの反応だよな。

 でも、男はこんなもんか。


 男にとって香水って言えばきつく香水振った迷惑なおばさんのイメージしかわかないもんな。

 「女はシャンプーの匂いがすればいい」って思ってたりもするし。


 でもでも、香水って重要だと思う。

 クリスマスパーティーで蓮さんと麗さんが選んだ香水の香りがすごく……『綺麗』だったんだもん。


 百合から漂う他者を拒絶する凛とした香り、美穂子から漂うもっと傍で嗅ぎたくなる甘い香り、虎太郎から漂う攻撃的な香り、竜神から漂う癒される香り、そして、達樹から漂うフルーツを基盤にした元気が出るような香り。


 たたが香水だ。だけど、香りだけで、それぞれの個性を引き立てたり、逆に抑えたりもしていた。


 竜神の見た目は怖いのに、近づくと優しい香りで周囲の警戒心を解していた。

 見た目は良いけど中身がアレな虎太郎は、煙草に近い香りで冷たい空気を纏い、長話しようとする連中を拒絶していた。


 見た目や、本質とは違う香りで、周りを錯覚させてたんだ。


 竜神と虎太郎が逆の香水を付ければ、また別の感想になると思う。

 美穂子と百合が逆の香水を付ければ、全く別の感想になると思う。


 それだけ、香りって重要な要素だった。


 ふと、シンプルなボトルが目に留まった。


「これかっけー。サムライウーマンだって。かけるだけで強くなれそう」

 細身のボトルを手にした俺に、竜神が言った。

「なら、それがいいんじゃねーか?」

「ジャケ買いならぬ、名前買い?」

「オレも東(あずま)さんが使ってた竹刀を持った時には強くなれた気がしたんだよ。心の持ちようってあるだろ。少しでも強くなれるなら名前買いだってありだ」


 竜神がサムライウーマンのテスターを俺の鎖骨の間に振り掛けた。

 顔を近づけ、匂いを嗅いで、一言。


「あめえ。でも清涼感があるし、お前に似合ってるんじゃねーか?」


 心の底からピャギャーとなった。恥ずかしさの余り大暴れしそうになった。

 全力で竜神から離れる。


「はぎ、ぎ」

 変な声を上げつつ胸元の制服を握りしめ引っ張りガッチリと体を隠す。目がぐるぐるする。


「未来?」

 竜神の掌が肩に乗った。それだけでぞくぞくして、


「さわるにゃあああああ!」

 訳の分からない悲鳴を上げてしまった。


「わ、わりぃ」


 びくりと竜神が手をひく。俺が悲鳴を上げたせいで周りのお客さん達が「何あれ」「暴力?」「性的暴行!?」と警戒感をあらわにする。


「違います違います! 大好きな人に匂いを嗅がれたからびっくりしただけなんです、これ買いますんで通報しないでください!!」


 完全に涙目でサムライウーマンを手にレジに駆け込む。


「ごめんごめんごめんりゅう! りゅうが好きな匂いを選びたかったのにびっくりしちゃた匂いをかがれたのやじゃなかったのにぐるぐるして」

「わかったわかった、わかったから落ち着け」


 とんとんと俺をなだめつつ、会計は竜神が支払ってしまったのだった。


 通報通報と警戒していた大人の人たちが、「あぁ……ばかっぷるだったのね……」と言わんばかりの生ぬるい目になったのは俺の妄想だと思いたい。まじで。



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