表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
153/239

消しゴム半分こ。帰ってきたカッター。

「竜神……お金貸してください。100円」


 1時間目の終了後、竜神の机に顎を乗せて懇願する。


「どうした?」


「消しゴム忘れてきちゃったんだよ……。購買部に買いに行こうって思ったら財布まで忘れてた。家に帰ってから返すからお願いします」

 パンっと手を打ち合わせた俺に、竜神は自分の筆箱を開きながら答えた。


「わざわざ買いに行くことねーだろ。オレのを半分やるよ」

「え」


 竜神が筆箱から取り出した消しゴムを、カッターで二つに切る。


「ほら」

 下半分を掌に乗せてくれた。


「あ、ありがとう……!」

 やった、竜神と半分こ! すっごい嬉しいのはなぜ? りゅうと半分このケシゴム一生大切にします!!


「そろそろ、これを返さねえとな」

 カッターの刃を引っ込め、引っ込めたくせに持ち手の方を俺に向けて差し出してきた。


「……?」

「お前のカッターだよ。初めて話したときに没収したろ」

「――!!」


 懐かしい……。痴漢の手を切り刻んでやるって意気込んでカッター買ったっけ。今思い返すと、あの当時の俺何考えてたんだろうな。超イタイ女だったよ……!


「もう刃物を持たせても大丈夫だよな?」

「うん、大丈夫! 痴漢されても相手を刺すんじゃなく、自分の喉元を、こう」


 カッターで自分の首を切るふりをする。と。


「没収」


 再びカッターを没収されてしまった。



――――



 些細な冗談で没収されそうになってしまったけど、カッターは一年と言う時空を超え俺の手元に戻ってきた。

 懐かしいなぁ。

 スカートのポケットにカッターを入れて、8組のメイちゃんのとこに行くため廊下をてこてこ歩く。


 話の内容はただ一つ。文化祭のステージへの参加拒否だ。

 何度も断ってるのに撤回してくれないんだよな。今日こそちゃんと断るぞ!!


「お、未来じゃねーか」

 廊下の途中で、野太い男の声に呼び止められた。


「せ、せんぱい」


 サッカー部だった頃の先輩達だ。人数は五人もいる。

 5組と6組の間にある階段で出くわしてしまった。


 う、う、どうしよう。あんまり話したくない。

 先輩たちは昔の俺を知ってるせいでやたらと上からなんだよな。

 特に、俺、中途半端にサッカー出来たせいで入部してすぐレギュラー取っちゃったから、一年上の先輩達には睨まれてた。

 その俺が女になったせいで、昔、体育教師だった辻なみに平気で体を触ってこようとする。


 超怖い。けど、部の先輩と揉めたくない。


 『部の先輩』って『兄さん』っぽい立ち位置にいるから。

 先輩達には『兄さん』の幻想を崩さないで欲しい。『兄さん』のままでいて欲しい。


「もうすぐインハイですよね! 応援してます、頑張ってください!」

 ぺこり、と頭を下げる。そして踵を返し早足に逃げた。


「待てよ、未来」


 呼び止められ、足を止めてしまった。

 後輩時代の、先輩に逆らっちゃいけないって心理が働いたのかもしれない。


「お前男と付き合ってんだろ? なら俺たちの相手もしてくれよ」

「女になったからって髪型まで男受け狙ってんじゃねーよ」


 笑いながら、先輩が俺の髪を引っ張った。

 がくん、と、後ろに頭が下がる。


「は――放してください……!!」


 大声で叫んだつもりだったけど、震えた細い声しか出なかった。

 怖い、怖い、怖い、気持ち悪い……!!!!


「こっちこいよ」

 笑いながら引っ張られる。部室のある上の階に連れて行こうとしてる。


「嫌……!」


 このままじゃ連れて行かれる。おまけに、掴まれた髪から病原菌みたいなのが這い上がってくる気がして、咄嗟に、スカートからカッターを取り出していた。


 刃を出し、横に振るい、ざくっと、髪を切る。


 切った長さは15センチぐらい。

 腰に届くか届かないかって程度まであった髪が胸の下になる程度。


 後ろから引っ張られ力がなくなって、半泣きで一歩を踏み出す。

 暴力的にふるまわれるの、超、怖い!!!


「未来先輩ぃぃぃぃ!?」

「未来――――!?」


 聞き慣れた安心する声に先輩たちのせいで逆立ってた心が癒える。

 達樹と虎太郎だ。


「たつ、こた」

 ほっと安堵して腕を伸ばす俺の横を駆け抜け、二人が先輩達に飛びかかっていく。


「てめえええ!! 未来先輩に何してやがる!!! 死ねえええええ!!」

「――――――」


 達樹が全力で罵倒しつつ蹴りを入れ、虎太郎が無言のまま先輩達を殴りつけていく。

 ひょげぇぇぇ!?? こんな目立つ場所で喧嘩はやめてぇぇぇ! 停学になっちゃうだろうがぁぁぁ!!


 空手をやってる虎太郎はガチで強い。達樹は俺と同じぐらいに怖がりで虫が嫌いな根性無しのくせ、生身の相手との喧嘩だけはそこそこ強い。強いというか、自分が大怪我してもいいってぐらいの心構えで突っ込んでいくめんどくさい喧嘩スタイルをしてる。

 一瞬で3人も叩き伏せてるぞ!


「もう大丈夫だからやめろ! 虎太郎、達樹――――!!」


 俺が2人に飛びかかろうとするより早く、大きな背中が走りこんできて首根っこ掴んで先輩達から引きはがした。

「相手はもう戦意喪失してるだろうが! オーバーキルしてんじゃねーよ」


 り、りゅうだ。

 よかった、騒ぎに気が付いてくれたんだ……!


「オーバーキルだって生ぬるいっすよ!! 未来先輩の髪見てください! ガチでぶっ殺してやる!!!」

「髪……?」


 竜神が床に散った髪を見、俺を振り返り、う、と息を呑んだ。


「違う違う! 引っ張られたから思わず切っちゃっただけで、切られたわけじゃないし! 怪我もしてない! お前たちが怒る必要無いって!!」


「引っ張られたのか!?」


「いやもうそこも置いといてくれ! 教室に戻りま……」


 虎太郎と達樹を止めたままの竜神の背中を押す。


「!!!」

 廊下に居た生徒たちがドン引きした顔でこっちを見てた。


「未来ちゃん……、綺麗な髪……、可哀そう……」

「髪を引っ張るとか最低だろ」

「あれ3年? 女の子無理やり連れて行こうとしてたよね。超きも」

「竜神君、止めなくて良かったのに……」


 女子にも男子にも睨まれ先輩達が青ざめて逃げて行った。

 廊下での喧嘩だったけど、虎太郎にも達樹にもお咎めはなく、俺の髪が少し短くなった程度で済んだのでした。


 ちなみに、散らばった髪の掃除は自分でやりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ