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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
152/239

【パラゼ部活動開始!】文化祭でバンド!!?

 季節が7月になり、俺が――日向未来が事故死した日から一年以上が経過した。

 竜神は何も言わなかった。『その日』が来てもまるで何事もない普通の一日と同じに過ごした。


 よかった。悲しまれても喜ばれても謝られても困ったから。


 んでもって、7月の最初の月曜日の放課後。


 俺と竜神と虎太郎と百合がブラスバンド部の部室に呼び出された。

 呼び出した相手はメイちゃんだ。

 ひな壇になってる部室に設置された椅子に適当に座り、指揮台に立つメイちゃんと向かい合う。


「曲が完成したわよ!!」


 メイちゃんは高らかと宣言し、高く紙の束を掲げあげた。


「はい、これ、未来! こっちは美穂子! これ、若頭。これは虎太郎、百合はこれ。このCDにアタシが歌ったのが入ってるから。データの取り扱いには気を付けてよ。文化祭前に流出したらガチでぶっ殺す」


「えええええ!? ほ、ほんとに文化祭でステージやるつもりだったの!?」

「ほんとに決まってるじゃない」

 思わず椅子を鳴らして立ち上がったのに、平然と答えられてしまう。


「私にも演奏をさせるつもりなのか?」

「百合はピアノやってるんでしょ? これぐらい楽勝だと思うけど」


「待て。何でオレと虎太郎にまで楽譜があるんだよ」


「若頭はドラム。虎太郎がベースだからに決まってるじゃない」


「はぁ?」

「えええ!? 無理だよギターなんか触ったこともないのに!」


 ごく当たり前みたいに突きつけられた言葉に竜神と虎太郎が困った顔になった。


「オレ、絶対に失敗するぞ。経験者を連れて来いよ。お前ならいくらでもツテがあるだろ。プロなんだから」

 竜神が楽譜を返そうとしたんだけど。


「文化祭にはパラゼ部として出場することになってんの。部外者を連れてくることなんてできないわ。それに、アタシが連れてきたら、『プロだったから舞台が成功して当然だった』って思われるでしょ。そんなの何もおもしろくない。第一アタシのプライドが許さない。ド素人のあんたたちを引きずって伝説を残したい。それが楽しいんじゃない」


 百合と言い、メイちゃんと言い……。なぜ俺の周りには戦闘民族が集まるんだ。

 伝説とかいらないと思うんだけど。

 無難でいいと思うんですけども(モブ的思考)


「プロレベルまで技術を磨けなんて言わないわ。けど、せいぜい、あんたたちの大切な未来が恥をかかない程度には練習して。下調べしてみたら、今年、文化祭でバンドとして参加するのは4組だったわ。軽音部と、一般生徒からの応募のバンドが3組。絶対に勝つわよ」


 文化祭のバンドに勝ち負けとか無いんだけどなぁ。採点されるわけでもないし。

 防音扉が閉まっているのを確認し、メイちゃんが小さなCDプレーヤーで曲を流す。


 甘いラブソングを書くって言ってたから、歌って踊るアイドルグループのようなポップな曲を想像していたんだけど全然違った。


 『貴方』が居ないと『私』は呼吸もできないという歌詞から始まる重たく苦しい愛の歌だ。『私』の世界は『貴方』の中にあり、『貴方』が笑ってくれるから『私』も笑える。『貴方』を笑わせるために『私』はピエロにもなれる。『私』がこの世にある全ての苦しみから『貴方』を守る。だけど、緩く握った手を振りほどかれたら、二度と追わない。嫌われる前に踵を返し逆方向に歩き出す。二度と会えなくても、千年後も百万年後も『貴方』だけを愛する。


 ――って感じの歌詞。


 高音なのに重厚な旋律から始まりサビでアップテンポになる。あ、サビの部分のメロディーいいな。これ、一回聞くだけで耳に残るタイプの曲だ。


 メイちゃんが曲の終わったCDを止めた。


「これが……未来と竜神を見て書きたくなったという歌詞か……」

 百合が顔を苦くして言う。


「うん。ちょっと過激過ぎたかな。でも、いいでしょ?」


「これってラブソングなの? なんか民衆を守る世紀末覇者の歌みたい」

「せい……!? 未来の感受性はどうなってんのよ」


「『私』は生まれた瞬間から『貴方』だけを見てるってくだりがあるけど、未来と竜神君が知り合ったのは高校一年生の頃だよ」


 虎太郎が楽譜を指さした。


「――――――――――」


 メイちゃんが沈黙する。


「ええええ!? うっそでしょ!? マジで!? ほんとに!? 高一で知り合ったの!? え!? 虎太郎の勘違いじゃないの!?」


 俺に突っ込んできたメイちゃんに肩をガシリと掴まれる。

「ち、違うけど」


「こんだけ綺麗なのに未来が無防備なのは、絶対絶対、竜神が甘やかしてきたせいだと思ってた……!!! 生まれた時からずーっと傍に居てほかの男から守っちゃったんだろうなーって!! ごめんね竜神。あんた無実だったんだ」


「まぁ……知り合ってからは甘やかしてきた自覚はあるんだけどな……」

「んなの見てりゃわかるわよ。ほらこっち来て」


 メイちゃんが部室の片隅に置いてあるドラムに竜神を座らせた。


「太鼓の数が多すぎてわけわかんねえな」

 持たされたスティックを持て余しながら、竜神が、ペダルを踏んだ。


 バスドラムが『ドン!!!』っと足に響く音を立てる。


「――――!!!!」

 メイちゃんの目の色が変わった。


「やっぱり体重があると違うわね……! うん、いい! すっごくいいよ!! アタシが知る最高の先生をつけてあげる! 超きっつい人なんだけど、若頭なら何を言われても折れそうにないし、いっか!」


 竜神、ドラムを触ったことさえない初心者なのにキッツイ先生をつけるの?


「虎太郎には準キッツイ先生で勘弁してやるわ」


 『準』が付くけどやっぱりキツイ先生なんだな。


「う……、できるなら優しい先生にしてほしいんだけど」

「できない!! ライブで女を落とすのはボーカルでもドラムでもないわ。体を震わせるベースの低音よ。会場にいる女全員を未来に惚れさせるぐらいの覚悟でやって」

「それなら、うん、頑張るよ」


 それって虎太郎に何のメリットもなさそうなんだけど、いいの?


 ――って、何流されてんだよ俺!! 


「教室で自己紹介するのも怖いのにステージに立てるわけないよ。皆に迷惑かけるから抜けさせてください!」

 渡された楽譜とCDを突き返す。


「え、えぇ……? 未来ってそこまでの怖がりだったの? どうりで、それだけ桁違いに可愛いのにデビューしてなかったんだ……。それもそっか。普通なら、絶対にともえさんがほっとかないもんね……」


「巴さんは未来をモデルデビューさせるって言い張ったんだ。けど、僕が全力で止めたんだよ……。それこそ契約反故にしてもいいぐらいに。未来に負担を掛けたくなかったから」

「私もだな。以前の未来は下手に無理をさせれば壊れかねないぐらい脆かったからな」


 メイちゃんの独り言に虎太郎と百合が答える。


「巴さんって、誰? 百合と虎太郎が止めたってどういうこと?」


「はぁい、初めまして。私が巴よ。泉崎せんざき ともえ。虎太郎とメイが所属する事務所、サクラエンターテイメントの代表取締役なの。よろしくね、未来ちゃん」


 いつの間にかブラスバンド部のドアが開け放たれ、入り口に女性が立っていた。

 身長は180に近い。

 その上にヒールを履いてるので(学校内なのに)、目線の高さは竜神と同じぐらいだ。


 胸の上ほどまで伸ばした黒髪を横分けにした迫力ある美人――!! この人が虎太郎に修学旅行のお小遣いをくれたって言う社長さん……!? お、女社長さんだったんだ!


「巴さん!」

「来てくれたんだ」

「お久しぶりだな」

「――なぜここに」


 虎太郎、メイちゃん、百合、竜神が挨拶に声を返す。

 あれ? 竜神も社長さんと面識あるんだ。


 女社長さんがタバコを取り出した。真っ赤に塗られた唇が細いタバコを挟む。


「ここ、学校内ですよ」

 苦言を呈すのは竜神だ。

「教師の前でも平気で吸ってそうな顔をしてるくせ、固いことを言うんじゃないわよ。一本どう?」

「未成年に薦めないでください」


「あんたを未成年の枠にあてはめたら他のボウヤ達が可哀そうだわ。……未来ちゃん、やっぱり可愛いわねぇ。まるで夢の国のお姫様が間違えて現世に舞い降りたかのよう。ガラスの部屋に閉じ込めて私専用のお人形さんにしたいぐらいよ。メイや虎太郎が夢中になるのも当然ね」


 社長さんに、くいっと顎を上げさせられた。

 聞き取れない悲鳴を上げた虎太郎が俺を抱え部屋の隅まで逃げる。


「あら。これぐらい大人の女の他愛ない冗談に決まってるじゃない。虎太郎はもっと社交性を身につけなさいな」

「言っていい冗談と悪い冗談があると思うんですけど」


 答えるのは青ざめている虎太郎じゃなく竜神だ。


「ヌイグルミで埋めたガラスの部屋に居る未来ちゃんを観たくないの? 最初は嫌がるかも知れないけど、頼れるのがあんただけだと判れば満面の笑顔でガラスにしがみつくようになるわよ。絶世の美女に自分だけが懐くのを見るのは男の支配欲を満足させるでしょ」


「満足しません。オレは未来と一緒に学校に通うのが一番楽しいですから」


「あんたといい、虎太郎といい、ほんと人畜無害ねぇ。面白味が無いったら」

 呆れて言いつつ携帯灰皿に灰を落とす。


「ごく一般的な普通の高校生なだけです」


「ところで、なぜ貴方がこのような場所に? 虎太郎とメイに急な仕事でも入ったのか?」

 質問するのは百合だ。

「あんたに釘を刺しにきたのよ。念のため、私直々に」

「私にだと?」


 社長さん……巴さんはパイプ椅子に座り、タイトスカートから伸びる肉感的な長い脚を組んだ。


「今回の曲の著作権はサクラエンターテイメントで管理することになっているわ。たとえ文化祭の為に作られた曲だったとしても販売は禁止。納得して頂戴ね」


「う」


 百合が息を呑んで顔を逸らし、チッと舌打ちをする。

 売るつもりするつもりだったのか……。


「部費の足しにしようと思っていたんだがな」

「油断も隙も無いのよね。嫌いじゃないわよ。あんたみたいな娘。日本探偵事務所のお嬢様じゃなかったら私の片腕にしたのに」


 携帯灰皿に短くなったタバコを押し付ける。


「子どもの学芸会なんてオママゴトに、ウチのメイや虎太郎が参加するのは反対だったんだけど、未来ちゃんのステージが見れるなら、この子達を貸し出すのもやぶさかではないわ。楽しみにしているわよ」


 巴さんが立ち上がり「じゃあねぇ」と振り返らないまま手をひらひら振りつつ歩き出す。竜神の肩をトンと叩いて部室を出て行った。


「虎太郎の所の社長さんって怖そうな人だったんだな……」


「「怖そうじゃなく、怖い(わ)よ」」

 メイちゃんと虎太郎が同時に答えた。ところで、この二人って同じ事務所だったんだ。世間って狭いな。

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