プール授業(胸合わせの感触と、竜神の銃創)
「プールだー!」
とうとうプール開きになってしまった。
着替えとか正直面倒くさいんだけど、でもやっぱりテンションが上がる。
煌めく水面、塩素の匂い。特にこのプールは俺たちが掃除したからか変な愛着が湧いちゃった。
目いっぱい泳ぐぞー!
「スクール水着……嫌……。せめて水着ぐらい自由にしてくれればいいのに……」
俺と一緒に更衣室を出た琴音がうんざりと肩を落とす。
確かに、学校指定にするならもっとがっつりした水着がいいよな。ラッシュガードぐらいの。あれなら日焼け止めいらないし。
更衣室はプールサイドにあって、女性更衣室と男性更衣室はプールの逆サイドに向かい合わせになっている。
男子更衣室のドアが開き、ぞろぞろと男子が出てくる。先頭に立つのは竜神だ。
けど、背後の連中がざわめいているぞ? どうしたんだろ。
竜神の背後がざわめく、というよりかは、竜神の背中を見てざわめいてる……?
まさか、ひょっとして、竜神。
「竜神君、銃創を隠さなくてよかったのかな?」
手にテープを持った虎太郎が問いかけた。
「……!!! 忘れてた……!」
やっぱり、忘れてたのか……。
「やっぱそれ、銃創なのか……!!」
藤堂、直正、島村が青ざめる。一般の生徒たちも。気の弱い寺戸君なんか失神しそうになってるぞ。怯える彼らに竜神も青ざめた。
「銃創じゃねえ! 鉄筋コンクリートの上に倒れちまって鉄の柱が刺さった痕だ」
水着姿の百合が竜神の横に立つ。
「お前は嘘が下手すぎる。心配するなボクシングトリオとその他大勢。竜神のこれは傷じゃない。蒙古斑だッ!」
嘘の下手さは同レベルだな。
百合はおちょくってる可能性もあるけど。
当然騙せなくて、ボクシング部トリオが井戸端会議をしてるおばちゃん達みたく顔の横に掌を立てコソコソ話してる。『まぁ見ました? あれ、銃創ですわよ奥様』『やっぱり竜神さんってああいう方だったんですわね』『怖いわあ……』 と言う所だろうか。
虎太郎がテーピングで隠してるけど、手遅れだなぁ。
「りゅー!」
怖がられてる竜神のフォローをしようと逆サイドから手を振る。
「「「うぉお!?」」」
野太い完成と共に一斉にほかの男子からまで見られ、上げかけていた手を下ろして慌てて肩に掛けたタオルを引っ張る。
胸を隠し視線を合わせないよう、俯く。決して赤くなった顔を見られたくないからではない。
「ほいほーい、未来をエロイ目で見るの禁止! 未来は女子の物なんだから」
「そーそー! 見たら減るから見ちゃだめー!」
そうだったの!? 俺って女子の物だったの!?
琴音や藤岡が俺にバサバサと自分のタオルを掛けて体で隠してくれた。
キャッキャとはしゃぎながらフォローしてくれる女子たちに甘え、引っ張られるままプールサイドに整列する生徒の群れに加わる。
今度はガシっと腕を掴まれた。
「メイちゃん……」
こないだ友達になったばかりの氷室メイちゃんだ。そっか、今日は8組との合同授業だったっけ。
「その女達、誰?」
メイちゃんがきつい目で琴音達を睨みつけた。
「あたし? 浦田琴音だよ。よろしくね氷室さん。あたしもメイちゃんって呼んでもいい?」
「わたしは藤岡真理香。わたしもメイちゃんって呼びたいな」
「ダメに決まってるでしょ! 未来にアタシ以外の女友達が居るなんて聞いてない! 友達はアタシだけだって言ってたくせに……!」
「言ってませんけど!? 美穂子だって百合だって友達だし琴音だって藤岡さんだって」
「言って無くてもアタシが居ないって言ったら居ないの!」
「どこの女帝様ですか!?」
「なんでミキミキの周りには変人ばっか集まるのよ! ミキミキを離せ! 氷室メイ!」
「ちょっと! 持って行かないで!! 氷室メイ!!」
「呼び捨てにするなー!」
左から琴音と藤岡さんに、右からメイちゃんに腕を引っ張られ「ピキャー」とガチな叫び声をあげる。痛い痛い!!
「やめなさいメイちゃん! そんな事ばかりしてたら未来に嫌われるよ!」
「え……」
美穂子の叱責に、メイちゃんの手から力が抜けた。
「ごめんね、未来……。き、嫌いにならないでほしいんだけど……」
体の前で手を重ねてしょんぼりと項垂れる。
「あらかわいい」琴音と藤岡さんがつぶやいた。うん、わかる。問題児だけど天使だよなぁ。
「なんていうとでも思ったか!」
「うゃ――!」
「未来がさらわれたあああ!!」
反省したふりをしながらあっさり掌を返したメイちゃんに腕を引っ張られ、防水シートの上を走らされる。
「体罰!!」
俺にしたように、美穂子がメイちゃんのお尻をペシンと叩いた。
「キャー! ママからも叩かれたことないのに……!」
涙目でお尻を押さえるメイちゃんからようやく解放される。
「私は容赦しないよ。ビシバシ叩くから覚悟しなさい!」
「うう……!」
美穂子……相変わらずのお母さん……! ありがとうございます。メイちゃんまでも躾けるとは!
……。
プールにも入ってないのに、つ、疲れた……。
準備体操したりシャワーを浴びたりして、水に入る。
最初は自由時間だった。
「つ、冷たい……!」
「すぐ慣れるよ。泳ぐなんて久しぶりー」
美穂子がトンと飛び上がった。浮力に支えられ体が高く上がる。
「うわあ……強志も虎太郎も筋肉凄いね……!」
「竜神君は判ってたけど虎太郎君も細マッチョだったんだ!」
「きゃー、かたいー!」
竜神と虎太郎が女子に囲まれてる。
「あー、触んな触んな。セクハラ反対」
「うわあああ」
体に触ってくる女子を竜神は上手く追い払ったものの、虎太郎は悲鳴を上げて逃げ出す。そして向かった先は。
百合の後ろだった。
「何故私を盾にするんだ! お前は未来か!! 自分で対処しろ!!」
ゴンっと百合に強烈な頭突きをかまされ悶絶する。
それでも百合の後ろから出なかったので、とうとう諦めた百合が女子を追い払った。
ダメな弟をフォローする姉みたいな立ち位置になってるな……百合……。
ところで虎太郎、女子に触られるのは恥ずかしいのに、百合になら平気に触れるんだな。掌が肩に乗ってる。って今更か。海水浴の時から平気に触ってたっけ。
「未来! こっちに来なさいよ!」
「また来た……」
そろそろ天敵になりつつあるメイちゃんがザブザブと水をかき分け攻めてきた。
「こら、メイ! ほかのクラスに迷惑掛けちゃダメだって」
「ごめんね、未来ちゃん、美穂子ちゃん。メイはこっちで面倒見るから」
なによー! と、文句を言うメイちゃんが8組の女子に引っ張られていく。
「メイちゃん、クラスに沢山お友達がいるみたいで良かったよ」
美穂子が笑顔で頷く。どちらかというと保護者っぽかったですけども。
「未来、泳ご」
「うん!」
ガボガボガボガボガボ。
トンっと蹴って泳ぎ出した次の瞬間、プールの水底まで体が沈んだ。
「未来ぃぃぃ!」
美穂子が叫んで引っ張り上げてくれる。
「お、泳げなかったんだね、未来」
美穂子にしがみついたままゲホゲホ咳き込む。
「今初めて知りました!」
そういや、俺、海ではずっと浮き輪にしがみついてたし、竜神に引っ張られたりしてたっけ……!
まさか泳げなかっただなんて! 脂肪って浮くんじゃないの? 何のために邪魔な胸があるんだよ! 肩が凝るだけのゴミじゃねーか!
あ、でも竜神が巨乳好きだっていうならアリかも……。どうなんだろう。貧乳派だったらどうしよう……!! ただでさえ竜神の好みって身長高い年上の女の人だっていうのに……!
ん?
美穂子の胸に俺の胸が当たってた。しかも、ぷにゅーっとお互いの胸に押しつぶされるぐらいに強く。
「ご、ごめん!?」
「? 何が?」
不思議そうに首を傾げる美穂子から離れ頭まで水に潜り込む。
自分の胸を腕で押さえながら。
ううう、すっげー恥ずかしい……、水着って普段の服より防御力が高いはずなのに、何!? この、生胸感!!
体にぴっちりくっついてるからかな……!? 美穂子の胸の柔らかい感触がリプレイされ、じたばたと――――。
は、しなかった。長い間水に沈み過ぎてたせいで息が続かず、ぷかーと俯せに水面に浮き上がってしまう。
「未来ぃぃぃぃぃ!!? 何やってるの!?」
再び美穂子に助け上げられた。
「ううう、ちょっとプールサイドで休む……」
「うん……それがいいよ……」
プールから上がった途端に自分の体が重くなった。
う、ぅ、疲れた……。
ついつい、プールの金網の所に膝をついて四つん這いになってしまう。
水着の違和感酷い……、食い込んでるよ……。
お尻の部分に指を入れ、パツンとはじいて食い込みを治す――――
「このバカ(が)あああああああああああ!!!!」
一気に美穂子メイちゃん琴音百合藤岡さんその他の女子に怒鳴られた。
「ななななな何!?」
「未来は怖がりの癖にどうしてそう警戒心が無いの!!? 怒るよ!!! ほんっきで怒るよ!!!」
美穂子
「いつになったら学習できるんだ!! いつまで保育園児のままなんだ!!!」
百合
「ケツを突き出して食い込みを治すんじゃないわよ!! お前はあほか!!!!!」
メイちゃん
「みきいいいお仕置き!!!」
琴音に抱えあげられバックドロップするみたいにプールに投げ捨てられた。
ガボガボとプールの水底に沈みながら、何がダメだったのか振り返るものの、よくわからないまま意識を手放す俺だった。
助けてくれたのは竜神でした。
でも竜神にも怒られました。
食い込む構造のスクール水着がすべて悪い(責任転嫁)
挿絵をダンダダン男子様よりいただきました
ありがとうございますありがとうございます!