美少女のお母さんはやっぱり美女
――――今日は日曜日。早苗ちゃんのお母さんと会う日だ。
この数日間でいろんなことが起きた。三年生が行く手にいきなり立ちふさがって、「日向未来、俺はお前が好きだ」なんて叫び、俺が返事をする前に達樹が飛び蹴りをかまして一騒ぎあったりとか、部活の勧誘が教室まで押しかけてきて、竜神が一睨みで追い払ってくれたのはいいけれども、「日向未来はヤクザの女」なんて噂が流れたりとか、全然大した事件じゃないよな。はははぁ……。
「これからどうするんだ? 真直ぐ帰るのか?」
休日まで律儀に付き合ってくれてる竜神を見上げる。
「んん、この体の主――上田早苗ちゃんのお母さんと会う予定になってるんだ。竜神はどうする?」
「どうもこうもねえよ。お前についていく」
駅前から徒歩十五分ほどののカフェ。まだ約束の時間より二十分は早かったが、見覚えのある女性が店の奥に座っていた。
竜神には別の席に座ってもらい、俺は小走りにおばさんの席に向かう。
「こんにちは……」
とりあえず頭を下げる。
「こんにちは。お座りになって」
促されるままに正面の席に座った。
じっと目を見られ、俺はまた頭を下げた。
「早苗さんは……本当に気の毒なことになってしまって……心からお悔やみ申し上げます。大事な娘さんの体を俺なんかに貸してくださってありがとうございます」
「あら、貸したんじゃないのよ。その体はもう、あなたのものなんだから」
痩せぎすで疲れた様子のおばさんは、困った顔で笑った。
目の下には隈があって、頬が落ち窪み顔色も全体的にくすんではいるけど、それでも美人だ。早苗ちゃんのお母さんだけあって、ウチのデブ母ちゃんとは比べ物にならないな。
「いいえ、お借りしているだけだと思っています。いつかお返ししなければなりませんので、大切に使わせて貰っています」
「……ありがとうね、未来さん……」
おばさんはじっと俺の顔、いいや、早苗ちゃんの顔を見詰めていた。悲しい瞳がふいに伏せられる。長い睫が瞳を隠してしまった。
「夫も未来さんにお会いしたがっていたわ。夫から家に呼ばれることがあったら、是非お友達もつれていらしてね。どんな生活をしているか聞きたいから、なるべく大勢がいいわ」
「え、でも、俺の友達は乱暴者とか、変わり者ばっかりですよ」
「ふふ、それはいいわ」
始めておばさんは笑った。