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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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手作りのヌイグルミ

『アハハハハハーアーッハハハハハー!!』


「むう……欲しい……」

「お前の趣味は相変わらずだな」


 ここは『デパート夢屋』のおもちゃ売り場。『アーハハハ』と大爆笑しながら転げまわるバカ面犬のヌイグルミを前に、俺は、鞄から取り出した財布を開いた。


「うぐ……」

 笑う犬のお値段は八千円。俺の小遣いで手が出せるわんちゃんじゃなかった。

「ヌイグルミって意外とたけーんだなぁ……」

 竜神も並ぶ商品の値札を確認し眉を下げる。


 うちにあるヌイグルミはストーカーから貰ったウミガメのヌイグルミ『クッパ』と、達樹から貰ったサッカーボールのミニサンドバッグだけ。


 そろそろクッパに友達を作ってやりたいなーと、安易な気持ちでおもちゃ売り場を覗いたのだが。

 並ぶバカ面達はどれもお値段が高かった。


「り、りゅう……これ……!!」

 ストーカーさんからもらったクッパを発見してしまった。

 そのお値段、2万4千円……2万4千円!!!????

 nantekotta

 バカ面ちゃんたちは俺(日向未来)の値段より高い子ばっかだぞ……!


 か、悲しい……!!


「あのバカ面亀、こんなに高かったのか……」

 竜神も体を固くする。


 八千円の犬は無理をすれば買えるけど、八千円のヌイグルミを買うぐらいなら竜神と一緒に食べる晩御飯をステーキにしたい。もっというと外国産の肉じゃなく国産品にしたい。

 欲しくても、我慢するしかないな……。


 既製品を買うのは諦めよう。


「手芸品売り場に行こ、りゅう」


 市販されてるヌイグルミを買うのを諦め、俺は、1から自作することを決意したのだった。


 フェルトと綿を大量に買い込み、チクチクチクチク、と、頑張る。


 数日後。


「じゃーん、りゅうじん君人形作ってみましたー」


 デフォルメした三頭身の竜神の人形をかかえ、自分の部屋から飛び出した。

 大きさは俺の腰から胸ぐらいまで。

 初めて作った割にはうまく出来た……! って自分で言える程度には可愛い。ミニ竜神だ。


「すげえ良くできてるな……」

 竜神も褒めてくれた!


 クッパもサッカーボールもリビングに置いてるから、俺が部屋に飾るヌイグルミは『りゅうじん君』が初めてだ。

「よろしくな、ミニりゅうじん君!」

 宣言して俺の部屋の本棚の上に乗せたものの。


 竜神はしばし考え込み――――りゅうじん君を後ろ向きにしてしまった。


「「……」」


 二人して沈黙してしまう。

「なんで後ろ向けるんだ?」

「お前、部屋で着替えたりするだろ」

「うん。当たり前だろ」

「なら後ろ向きじゃねえと」

「…………そうなの?」


 せっかく作ったのに後姿のりゅうじん君が悲しい。俺的には、竜神が見たいっていうなら全裸になることぐらい平気なんだけどな。むしろ何をされても平気なんだけどな……。


 さらにさらに数日後。


「こたろう君人形とたつき君人形、みほこちゃん人形、ゆりちゃん人形も完成したぞ!」

 全員分のヌイグルミが完成した。喜ぶ俺を他所に、竜神はみほこちゃん以外のヌイグルミを全部抱えあげた。


「みほこちゃん以外はオレの部屋に飾る」

「えと……可哀そうだからいっそのことみほこちゃんも連れて行ってくれ」

「……わかった」


 なぜだか、俺の部屋には一つもヌイグルミが無いのに、竜神の部屋にだけ大量のヌイグルミが巣食うというわけが分からない状態になってしまった。


 まぁ、隣の部屋だし、いつでも見れるし……。と妥協しつつ、6体目の人形が完成した。


 みきちゃん人形だ。

「りゅー♪うー♪」

 俺のミニチュア人形を抱え、歌うような響きでリビングに出る。


「可愛いな……」

 竜神は手放しに誉めてくれた。

 そして、俺の大好きな掌が、みきちゃん人形の頭を撫でた。


 おれがだいすきなりゅうじんのてのひらが、おれいがいのおんなをなでた。


「殺処分!!!」

「やめろ!!!」


 俺が即ゴミ箱に叩きこんだみきちゃん人形を竜神が抱き上げる。


「お前と同じ姿をした人形を捨てるのはやめてくれ……! オレが辛いから……!!」

「さ……さっしょ……」

 涙目になる俺をりゅうが抱きしめる。

「殺すならオレの人形と一緒に殺してやってくれ」


 そんなことできるわけないだろおおおお!!!

 ぐうううう、どうしてくれようみきちゃん人形……!!!


 数日後。

 皆が遊びに来てくれた。

 そして、リビングに飾ってた『こたろうくん人形』『みほこちゃん人形』『たつきくん人形』『ゆりちゃん人形』『みきちゃん人形』『りゅうじんくん人形』を見て、息を呑んだ。


「うわ……うわぁ…………」

「きゃー! かわいい……!! 全員そっくり、そっくりー!!」

「すっげー、よくできてるじゃねーっすか、未来先輩手先だけはほんっと器用ですねー! 超かわいー!」

「……!」


 いつも平然とした顔をしてる百合までも驚いて自分のヌイグルミを手に取った。

 喜んでもらえるのは嬉しいな。

「それ、みんなにやるよ。自分のを持って帰ってくれ」

「え!? いいんっすか!?」

「わぁ……嬉しいよ……!! よろしくね、みほこちゃん!」

「ヌイグルミを部屋に飾るなど、生まれて初めてだな……」

 百合……女の子なのにヌイグルミ持ってなかったのか……。


 それぞれ自分のヌイグルミを手に取って喜んでくれるみんなに、しばし、考えてから。


「美穂子、これ、あげる」

 みきちゃん人形を美穂子に差し出した。


「え? どうして?」

「竜神がこいつを可愛がったら即殺処分したくなるから」

「未来……」


「30回ぐらいゴミ箱に叩きこんだんだ」

「未来……」


 美穂子は苦々し気に俺の名前を連呼して、みきちゃんを受け取ってくれた。




――――――




 未来宅から出てバスを待ちながら、美穂子はしばし考えた。

 みきちゃん人形はとても可愛く、一生傍に置いておきたいと思えるほどに完成度が高い。


 が、自分の部屋には目玉モンスターのメダ君を筆頭にグロテスクなグッズやキャラクターがひしめいている。


 怖がりのみきちゃんをあの部屋に持っていくのは可哀そうだ。


「……これ、あげる」

 隣で一緒にバスを待っていた虎太郎にみきちゃんを渡す。

「え、僕が貰っていいの?」

「うん」

「ありがとう……」


 虎太郎の笑顔が純粋に嬉しそうで、美穂子は聞きたくなってしまった。


 絶対叶わない相手に恋をするの、きつくない?


 虎太郎がどれだけ未来を思おうが、未来は絶対に振り向かない。

 未来が見ているのは竜神だけだ。



 ――だけど、質問は言葉にはならなかった。

 この世界には叶わない相手に恋している人が山ほど居る。画面の中のアイドルだったり、二次元の住人にだったり。既婚者相手なんていうのも。


 虎太郎が恋をしている相手も似たようなものだ。美穂子自身、恋人はメダ君という目玉のマスコットキャラクターである。

 たくさんたくさん未来に恋をして、満足したら、次に行けばいい。

 まだ、高校2年生。自分たちには山ほど時間があるのだから。


 美穂子は嬉しそうにする虎太郎の背中を、トン、と叩いた。







 虎太郎は自宅に自分とみきのぬいぐるみを持ち帰り、自分しか開けない机の引き出しの奥に並んで座らせた。


 目の色が違い、髪の色が周りと違う大嫌いな自分自身。


 鏡で自分の姿を見るたびに、自分の首を撥ねたくなる。生きていることさえ鬱陶しい。

 大嫌いな自身を模したヌイグルミなど、すぐに火にくべたいぐらいだ。


 既に何体も自分を模したマスコットやグッズが販売されていたが、すべて受け取ることはなかった。

 なのに、未来から貰ったヌイグルミは見るだけで笑顔になってしまった。


 自分自身どころか、自分が模倣された偶像さえ大嫌いなのに、未来と居る時だけは少しだけ嫌悪感が失せるせいだろうか。理由はわからない。生まれて初めて褒めてくれた人だからかもしれない。


 そっと、『こたろう君』の手と『みきちゃん』の手を触れ合わせる。

「――――」

 それだけで頬が熱くなった。

 すぐに罪悪感に苛まれ触れた手を離す。

 自分と未来の距離感はこれでいい。




 人に近づきすぎれば嫌われる。そう決めつけて、一人でいることを選ぶ彼が一歩を踏み出せる日は、まだ、遠い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 虎太朗の傷はまだまだ深いなぁ……。
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