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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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修学旅行最後!

「待ちに待ったおばんざいのバイキング……!」

「うわぁ……! どれから食べようかなー!」


 遅めのお昼ご飯を食べるお店はガイドブックにも乗ってる有名なおばんざいのバイキング店。

 おばんざい――京都風のお惣菜だ。

 旅館で出る料理はいまいち京都!って感じがしなかったからここで今回の旅行の京都成分を食すのである。


 お豆腐、つくだ煮、ひじき、昆布巻き、茶碗蒸し、煮物――。シンプルだけど美味しそうな料理に目移りしてしまう。各々好きな品を皿に乗せ、席につく。


「昨日はごめん竜神君……。止めてくれてありがとう。本気で暴力を振るったかもしれないから助かったよ……」

 改めて虎太郎が謝罪を口にした。俯いて竜神の顔を見ないままだったけど。

「構わねえよ。けど、女相手に切れんのはほどほどにしとけ。後から苦しむのはお前自身だぞ」


「うん……。でも、百合さんから話を聞いた途端に、自分でも驚くぐらい頭に血が上って……」

「確かに、あれは頭に来るよね。私もそうだった」

「気持ちは判るけどな」

 ガチモブの俺から見たら竜神も虎太郎も美穂子も温厚過ぎるぐらいなのに、3人をいっぺんに激怒させるなんて何があったんだ。


 ぼかして話してるってことは質問されたくないって事だから、俺から尋ねるわけにいかないのがもどかしい。


「――これ美味しい。生麩! もっちもち」

「生麩? ……食べたことないかも……。次、取ってこようかな」

 テンション高くはしゃぐ美穂子に虎太郎が興味を示す。

 麩なのにもちもちなの? 俺も次取ってこようっと。

 ここ、1時間しかないから早く食べないとな。


 おばんざいって女性向けの軽めのメニューが多いから竜神と虎太郎には物足りないかもしれないって心配してたんだけど、カレーや揚げ物、うどんもあって満足そうだった。


 1時間しかない時間のぎりぎりまで堪能して、向かうは、祇園。

 清水寺周辺は二日目に回ったので、今日行くのは八坂神社と祇園甲部。時間が余ればほかの寺も周ろうというアバウトな予定を立てている。


 八坂神社に入ると、ド派手な制服を着た一段と出くわしてしまった。

 ヒマリさんたちに絡んでいた、赤チェックの制服軍団だ。


 広い京都の街でまた会ってしまうだなんて……!!!

 警戒してしまったのだが。


「こ、こんにちは、竜神さん……!! おとといは失礼致しました!!!」


 一番最初に俺を捕まえようとした、竜神より5歳は年上に見えるでかい男が直角に頭を下げてきた。

 ど、どうして竜神の名前を知ってるんだよ!?


「貴方の正体を知らず、喧嘩を売ってすいません……! 許してください! できることなら、俺たちを舎弟にしてください……!!」


 頭を下げ、蟹股に開いた膝に手をついて懇願してくる男達に竜神は全身全霊で硬直していた。

 うん。竜神って普通の高校生だもんな。正体なんてないもんな。多分、竜神が八代目ヤクザ跡取りだと勘違いした同じ学校の誰かがこいつらにいいかげんな話をしちゃったんだろうな。


 人は余りにも圧倒的な大差で喧嘩に負けると、「自分が弱かったから負けたんじゃない。相手が強すぎた」と思い込みたい生き物だ。

 俺みたいなモブモブは普通に自分が弱かったからだって思えるけど、自分に自信とプライドのある『男』はそうじゃない。負けた原因を自分自身じゃなく相手に求めてしまう。


『ヤクザの跡取りに負けたのなら仕方ない、自分たちが弱かったんじゃない、相手が悪かった、むしろ尊敬できるレベルの相手だった』

 そう、思いたいのだろうが、竜神は普通の男子高校生より優しい一般人なんだけどなぁ……。


 竜神はギリギリと瞼を閉じてから「舎弟なんかいらねえ。二度とオレ達に関わるな。――だけど……テメーらを使いたいときには呼び出すから覚悟しとけ。二度と普通の高校生に手を出すなよ。出したらどこにいても追い詰めるからな」


 と、告げた。


 面倒くさい相手を切りたい、と、同時に、相手のメンツもそこそこ守ってやりたいという優しさが垣間見える落としどころだ。あくまで自分はヤクザの跡取りだと、怖がられるのも仕方が無いのだと、受け入れている。使うつもりもないのに使うと宣言を繰り出し、その上に、普通の他校の生徒に絡むことも禁止している。多方面に配慮しているのは、偉い……けど。


 竜神、お前のその優しさは自分自身が怖がられることに直結するんだぞ。

 竜神強志はお巡りさんを志望しているだけの普通の一般人です。お前たちはごく普通の男子生徒に負けたんです。そう指摘してやったほうがいいのに。


「姐さん、よかったら……これを受け取ってください」


「え?」

 ボスが俺に包みを差し出してきた。ところで、姐さんってなんですか。なぜ俺まで極道界に足を踏み入れてる設定になってるんだ。


「うちら全員で選んだんです……、その、あんたに、使って欲しいかなって……」

 そういうのは赤チェック女の子だ。何だろう……?


「開けていい……?」

「はい!!」

 多分同じ年だろうに丁寧語な彼女たちの答えを受け、包みを開く。


「わ……!」


 包みから出てきた箱を開くと、可愛いかんざしが入っていた。

 た、高そうなんだけど!


「使ってやってください!! 絶対に合うっすから!」

 達樹みたいな口調で赤チェック女子Aさんが叫ぶ。

「着物着た時に使って欲しいよ! えと、アプリのID教えてください、画像送ってください!」

 続いて赤チェック女子Bさんが詰め寄ってくる。

「ガラケーだからアプリに登録はしてません! ――って、これ、本物の宝石が使われてない!? こんなの受け取れないよ! お返しします!!」

 同じぐらいの声量で叫んで突き返してしまった。

「えええええええ!!」

 めっちゃ涙声で叫ばれる。


「未来、せっかくのプレゼントなんだから受け取っとこうよ。画像は私が送ってあげるね」

 前に出たのは美穂子だ。

 俺と同じ制服を着た女子のフォローに、赤チェック女子軍団が息を呑んで喜ぶ。

「初めまして。熊谷美穂子っていいます。よかったら友達になってください」

「あ、え、うん、アタシ、木村依里きむら よりっす、よろしく」

「わたしは近郷葵こんごう あおいです」

 コミュ力高い美穂子が携帯で通信してる。

 まさか、こんなところで友人の輪が広がることがあるとは……。


 修学旅行、恐るべし。




 神社から出て、お土産物屋さんの前を通りかかった百合が木刀に目を止め、竜神の肩を叩いた。


「おい、木刀を買い忘れてるぞ」


「なんで買うことが前提になってんだよ。忘れてねえよ木刀なんかいらねえよ」

「お前が木刀を買わずして誰が買うんだ」

「百合ちゃんの中では竜神君の必須アイテムが木刀なの?」

「あぁ。ちなみに虎太郎の必須アイテムはペナントだ」

「オレもそっちにしてくれ」

 ペナントって旗みたいなお土産か。あれ、何に使うんだろうな?


「とにかく、今、京都に居る人間で木刀が一番似合うのはお前だ。つべこべ言わずに買え!」

「いらねえ!」

 世界で一番非生産的な押し問答だな。


「達樹と花ちゃんにもお土産買わないと」

 何が良いかな? やっぱり食べ物かな?

 竜神の家族にも買って行かなきゃ。母ちゃんに頼まれてた生八つ橋も。兄ちゃんへのお土産もそれでいいかな? お世話になってる看護師さんたちに配れるような個包装された八つ橋があればいいけど……。


「お揃いのにしようかな。あの二人、仲良しだし」

「なか……よし……?」

「ほら、これなんか可愛い。達樹君に黄色で、花ちゃんにピンクでいいかな」

 八つ橋のキャラクターのラバーマスコットを買っちゃった。

 喧嘩しなきゃいいけど……。


「うーん……お酒にしようかな……」

 虎太郎が並べられた酒瓶の前で悩んでいる。

「誰にお土産?」

「事務所の社長と、蓮さん、麗さんに……。お小遣いを貰っちゃったからお土産を買って帰らないと」

 そっか。

 虎太郎の周りにはちゃんと気にかけてくれる大人がいるんだな。よかった。

 だけどな。


「制服姿で酒は買えないぞ」

「あ」


 残念だが、天然は治ってないみたいだな。


「おい、もう時間が来るぞ」

「え!? もう!?」

 慌てて時間を確認する。確かにそろそろ集合場所に向かわないと遅刻してしまう時間だ。

「ま、まだお抹茶も飲んでないし舞妓さんと写真も撮ってないのに……!」

「残念だが、次の旅のお楽しみだな」

「がっかり……」

「しょうがないよ。行こう」

 差し伸べられた美穂子の手を取って歩く。


「寂しいなぁ……あっという間だったな。修学旅行……」


「いろいろあったけど、楽しかったねぇ」

「うん……」


 本当に、色々あった。でも、楽しかった。それだけは違いない。


 行きの新幹線の中ではあれだけ大騒ぎしていた俺たちだったけど、帰りでは見事に爆睡してしまった。

 達樹からの鬼のようなメッセージを律儀にチェックする竜神に凭れ掛かって眠る。

 虎太郎も、美穂子も完全に眠ってしまってる。


 数時間後には桜丘に居るなんて信じられないぐらいだ。

 でも、逆に言えば、数時間あれば京都に来れるということで。

 また、来よう。出来れば達樹も入れて、6人で……。

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