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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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修学旅行二日目

時間が少し戻り、前回の話の数時間前から始まります。

本日2話投稿してますのでお気を付けを(´ω`*)

 翌日。俺たちのクラスが最初に向かったのは伏見稲荷大社だった。


 実はここを一番楽しみにしてたんだよな! 写真で見るだけでも幻想的で荘厳な場所なんだもん。

 でも、実際行ったらしょぼかったりするかもしれないっていう観光地あるあるも覚悟してた。

 ところが。


「ぅあ……!!」「わー!」「うわぁ…………!」

「おー、予想以上だな」


 一面の赤、これでもかというほど並ぶ巨大な鳥居!

 周りの皆も感動したり感心したりとテンションが上がってる。


「早く行こう!」

「ええい引っ張るな!」

 小走りになった虎太郎が立ち並ぶ鳥居に百合を引っ張った。


 鳥居のトンネルとしか言えない道を進む。

「神秘的だなあ……! この世じゃないみたいだよ。迷い込んだら抜け出られなくなりそうだ。来れてよかった……!」

「怖いこと言うな虎太郎……!」


 鳥居の道を抜けると奥社奉拝所だ。その裏手には有名なおもかる石がある。

 願い事をしながら灯篭の上に乗った石を持ち上げ、軽く持ち上がれば願いが叶い、重かったら叶わないと言われる石だ。


「りゅうとずっと一緒に居れますように……」

 俺はドキドキしながら、石に手を掛け、持ち上げようとしたんだけど――――。

 全然、全く、持ち上がらなかった!

 重かったら叶わないとかいうレベルじゃない!! 持ち上がらなかった!!!


「も、持ち上がらなかった……!! 一緒に居られないんだ……!」

 拳にした左手を右手で握りしめ、涙目でブルブルと体を震わせる俺の後ろから、同じリストバンドを付けた腕が伸びてきた。

 真後ろに立ってた竜神が俺を包むみたいにして石を掴んだんだ。

「じゃあ、未来とずっと一緒に居れますように」

 俺の目の前でひょいっと石が持ち上がる。

「ものすっげー軽い。絶対叶うな」

「竜神……!」


「見せつけてんじゃねーよバカップルが……!」

「羨ましすぎて腹立ってくる……。くっそー俺も彼女ほしい……」

 後ろに並んでた阪谷と高比良(1年の頃も同じクラスだったチャラ男3人組のうちの2人だ)に文句を言われてしまった。


「竜神が持ち上がろうとも未来が持ち上がらなかったからな。願いは相殺だ」

 傍で待っていた百合に宣言されてしまった。

「えええ…そんな……!」

 でも、その通りかもしれない……!


「皆、こっちに来て! 絵馬書こうよ! 可愛いのがあったんだよ!」

「か、可愛いの……!?」

 美穂子が『可愛い』って言うってことはグロ系ホラー系の絵馬なのか!?


 竜神を盾にしつつ恐る恐る絵馬を覗く。


「あ、かわいい」

 狐の顔の絵馬だった。自分で好きな顔を書けるみたいで、いろんな表情の狐が釣り下がってる。

 プロの漫画家が描いたとしか思えない異常に上手い狐までいるぞ。


「どんな顔を描こうかなー」


「竜神君、4つ目の狐なんて珍しいね」

 竜神の描く狐に美穂子が首を傾げた。

「真ん中のは鼻と口だ」

「どうして鼻と口と目の高さを全部同じにするんだ。絵が下手だと評価できるレベルにさえ達してないぞ」

「抽象画……なのかな?」

「写実画だ」

「そう……」

 美穂子は微笑んで頷いたきり、二度と竜神の絵には触れなかった。


「美穂子……、それ」

「私の恋人、メダ君を描いてみました」

 狐の顔いっぱいに巨大な目玉のドアップが描かれてる。怖すぎる。


 残りの3人は黒丸の目とヒゲという、面白味も何もない狐だった。無難とはこのことである。


「ん?」


 虎太郎の願いがちらりと見えてしまった『世間知らずが治りますように』だ。

 なにがあった。

 というか、世間知らずって治ったり罹ったりするものなの?


「馬鹿か! 住所を番地まで書こうとするんじゃない!」

 バン! と、百合が容赦なく虎太郎の頭を平手で打った。

 絵馬は名前や住所を書く欄もある。番地まで書こうとしちゃったんだな。

「ほんと、有名人になった自覚ゼロだねぇ……」

「うぅ」


 世間知らずが治ればいいな。虎太郎。


 完成した絵馬を下げる。

 俺の願い事はもちろん『竜神強志君とずっと一緒に居れますように』だ。




 伏見稲荷大社を全力で楽しんだ次は、超ド定番清水寺!!



「未来、あれやってみよう! あの鉄の柱を持ち上げることができたらご利益があるんだって!」

「うん! 絶対持ち上げような、美穂子!」


「錫杖か」


 本堂に置いてある弁慶が振り回したっていわれてる杖だ。

 ちっちゃいのとでっかいのがあったけど、俺たちが挑戦するのは当然でかいサイズの錫杖だ!

 高さが2メートル60センチもある、まさしく鉄の柱だ!


 錫杖には行列が出来ていた。他校の修学旅行生だけじゃなく、一般の観光客も交じってる列の最後尾に5人で並ぶ。


「あ、あの人持ち上がりそう……」


 竜神と同じぐらいありそうな身長の外国人。

 太い両手で掴んで踏ん張るんだけど……。う、動かないぞ!


「自信無くなってきた……。また持ち上がらなかったらどうしよう」

「二人でやるんだから大丈夫だよ!」

 列はサクサクと進み、大した待ち時間も無く順番が回ってきた。


「いっせーの、ぅやぁー」「えーいー!」


 二人がかりで全力を出すんだけどびくともしない!

 や、やっぱり駄目なのか……!

「がんばれー!」他校の女子生徒が応援してくれる。


 が、頑張ってるんだけど――「ぅわっ!?」「きゃ!?」

 びくともしなかった鉄の柱が急に浮き上がった。

 俺と美穂子以外の第三勢力のお陰だった。平たく言うと竜神が加勢に加わってくれていた。


 かなり高く上がった錫杖に「おー!」と周りから歓声と拍手が上がる。


「やった! 錫杖に勝った!」

「勝ったね。ほぼ竜神君のお陰だったけど」


 次は虎太郎の番だ。

「――――百合さん?」

 持ち上げようとする錫杖を上から百合が押さえつけている。

「嫌がらせすんな!」

 竜神が百合の首根っこを掴んで引きはがす。

「ぅ――――!」

「おおお! 上がった!」「すごいよ虎太郎君!」

 すかさずデジカメで記念撮影だ。

 虎太郎って意外と力あるんだな……。細身だから油断してたよ。負けたみたいで悔しい。いや、虎太郎をバカにしてたわけじゃないんだけどさ。


 続いては清水の舞台。

『意外と死にそうにない高さ』だと聞いたことあるけど……やっぱり高い! 怖い!。

「わぁ……飛び降りた人がいるのが信じられない……!」

 美穂子と並んで清水の舞台から下界を見下ろす。


「これが釘を使わずに建てられてるんだからすごいよね……!」

 建物好きの虎太郎がしみじみと呟いた。


「釘使って無いの!? ふえー」

 大工さんの技術力には感動してしまうな。しかもこれが400年も前に建てられたっていうんだから。


「ここから傘持った女の人が飛んでる浮世絵を見たことあるんだ……。傘があったらふわっと飛べるかもしれない」

「傘はパラシュートにはなんねーぞ」

「未来がやったらメリーポピンズみたいで可愛いけど、良くて大怪我、最悪死ぬからやめてね」

「恋の成就祈願だな。若い娘が傘を持って飛べば、恋が叶うと言われていたんだ」


 へー、知らなかった。相変わらず物知りだな。百合。


「なら、竜神から捨てられたら傘を持ってきてやってみよっと……」

「捨てないって言ってるだろうが! 不吉なことを言うのはやめてくれ」

 下を覗いてたのを無理やり引っ張られ建物の中に回収されてしまった。


 続いて足を運んだのは奥の院。触った場所が良くなるという『ふれ愛観音』だ。


「未来、虎太郎、頭を触っておけ。馬鹿が治るかもしれん」

「はい」「わかってます」

 スパルタ監督のごとく腕を組んで仁王立ちする百合に命じられ、二人で一緒に頭を撫でた。


 次は北野天満宮への移動だ。


 そこにあるのは頭を撫でれば頭が良くなるって言われてる、撫牛と呼ばれる牛の像。


「虎太郎、未来!」

「「はい」」

 そこでも百合に一喝され、二人並んで、艶めく真っ黒の石で作られた牛の頭を撫でた。

 たとえ賢くなれても、一体何のご利益かさえわかんないぐらい色々やらされてるよ……。


――――


「うー、疲れたぁ……!」

 旅館の部屋に入ると同時に座布団にダイブしてしまった。


 昨日の旅館では浴衣が貸し出されたけど、ここではそれが無いので全員がジャージ、もしくは上体操服、下ジャージになる。

 京都は暑いって聞くし、上は体操服でもいいかなーって思ってたけど、俺は念のためにジャージも持ってきてた。

 日が沈むと肌寒くなったので体操服の上からジャージを着る。持ってきてよかったよ。


「未来ーお風呂行くよ」

「うん! ここのお風呂はどんなかなー」


 ワクワクしながら大浴場へ。


「残念ながら普通のお風呂です」

 お風呂場に入ると同時に、リサーチ済だったらしい美穂子に無情な宣告をされた。

 たしかに広かったけど、浴槽が二つ並んでるだけの普通の大浴場だ。

「う。がっかり……! でもこんなもんだよな。昨日が豪華すぎた」


 ここも広いんで2組単位(昨日とは違うクラスである。交流を深めるためらしい)で入るんだけど、洗い場も仕切りのない普通の椅子だけだ。


「ミキミキ」

「はい! 約束のシャンプー。たっぷり使っていいからなー。このボディーソープも匂い良いからおすすめだ。気に入ったら使って」

「サンキュー!! ミキミキ愛してるよー!」

 琴音に裸で抱き着かれ、ピキャーと怪鳥のような悲鳴を上げてしまった。

 大注目され一斉に笑われた。恩を仇で返した琴音、許すまじ。まぁ、告白の成功を祈ってやるぐらいはするけど。


 シャンプーを渡しちゃったので、俺は備え付けので髪と体を洗い、美穂子と百合と一緒に浴槽に入る。

 がっかり、などといいつつも、時間一杯までゆっくりと旅の疲れを癒したのだった。


「あー気持ちよかったー」

「明日は温泉だから楽しみにしてていいよー。肌がつるつるになるかも」

「ほんと!? 温泉に入るの久しぶり! 何年ぶりだろ。楽しみ……!」

 いつ以来かなぁ。町内会で旅行に行ったっきりだったから、10年ぶりぐらいだ!


「なー、未来。ちょっと話したいんだけど、オレと一緒にこいよ」

「ん? どしたの、彩夏。美穂子、百合、ちょっと行ってくるな」


 一年の頃のクラスメイトの戸田彩夏だ。体育大会の時、保健室で世話になったんだよな。

 話すのも久しぶりなんだけど何の用だろ。


「あぁ。荷物は部屋に持って行ってやるから寄越せ」

「お願いします」


 お言葉に甘え百合に荷物を預ける。


 大股に進む彩夏の後を小走りに追いかけた。


 誰も居ないロビーまで到着してからようやく彩夏は足を止めた。

 そして、キッと俺を睨みつけてきた。


「なんで女子風呂に入ってきたんだ? お前、男なのに。お前の中の日向未来はちゃんと死んだのか?まさか、男の意識があるくせ、女子風呂に入ったわけじゃねーよな?」


「――。」


 あ。そっか。一緒のお風呂、だったんだ。


「――――――日向未来なんてとっくに死んだよ。臓器移植で性格が変わるって話、聞いたことある?」

「あるけど……」


「わたしは全身入れ替わったからかな? 少しずつ、日向未来が消えていったんだ。今は、この体の持ち主――って言うのもおかしいかな。わたしになったんだ。『上田早苗』にね。日向未来は完全に死んだ。今は私、上田早苗が記憶を引き継いで暮らしてる。名前や苗字を変えるのは難しいから未来の名前をそのまま使ってるだけで」


「名前を変えるなんて難しくないだろ! 実績があれば裁判所で変えられるはずだ。今度からあんたのこと、早苗って呼ぶよ。あんたも周りに言えよ。『私のことは早苗って呼んで』って!」


「――――。それは……無理。日向未来にも家族がいるから」

「上田早苗にだって家族は居るだろ! 約束したからな。早苗を名乗れ!」


 彩夏が離れていく。


「はぁ………………」


 長いため息が出た。

 疲れた……、消耗した……、久しぶりにこんな会話したからかな……。

 むっちゃくちゃ言うなあ彩夏……。


 こんなことになるなら、やっぱり大浴場に行くのやめとけばよかった。

 明日は個室のお風呂を使わせてもらおっと。温泉は諦めなきゃ。

 生理だからって言えば皆納得してくれるはず。


 自業自得とはいえ……、苦しいな。

 う……。

 視界が二重にぶれた。

 それがまるで自分(日向未来)だけじゃなく、自分の中にいるもう一人の誰かとの視界のような気がして一気に気分が悪くなった。


「未来、ここに居たのか。探したぞ。あんま一人で出歩くなよ」

「りゅー……」


 竜神が階段を下りてきた。会いたかった。でも、今だけは絶対に会いたくなかった気もする。

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