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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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(小話)他校の生徒に絡まれる

 2-2組の雨竜梨々花、入江ヒマリ、毎熊なみ、新島心海は4人で京都の町を周っていた。


 未来に言わせれば「ギャル軍団」と評価するだろう派手な見た目の女子たちだったが、多少化粧が濃く、行儀と言葉遣いが悪いところを除けば、ごくごく一般的な女子と変わらなかった。


 同じ班に男子を2人引き入れてはいるものの、その男子も軽薄な男子生徒などではなく、どちらもクラスで友達がおらず、どの班にも入れずに困っていた男子生徒だ。


 班行動が始まると同時に「男は男だけがいーんじゃねーの?」と2人だけで送り出した。お互い一人だった男子生徒が仲良く喋りながら遠ざかっていく姿に「うちら世の中の役にたってねえ?」と笑う。その程度には善良だ。


「次、どこに行く?」

「腹減ったからなんか食いてー」

 立ち止まってスマホで検索をしていると、他校の生徒と出くわした。


「ダッセー制服」


 こちらを見てクスクス笑う女子生徒に梨々花は眉間に皺を寄せた。

 ああん!?


(どっちがダセーんだよ! んだその赤のチェック! コスプレかよ! 鏡見てこいっての)

(ウチの制服はシンプルっつーんだよ! 腹立つ……)

 ヒマリもなみも心海も、赤のチェックのスカートと同じ柄ベストを着た女たちを睨みつけた。

 だがこちらは4人、相手は10人程度もいる。文句を言ってやりたくても言葉が出ない。睨みつけるのがやっとだ。


 そこに、同じクラスの3班が偶然に通りかかった。


「あ、丁度よかった、虎太郎、未来ちゃーんー」


「なに?」

「どうかした?」


 人気モデルと絶世の美女だ。

 道の角から2人が姿を見せると同時に、赤チェック女たちが息を呑んだ。


 二人が着ているだけでシンプルな制服がデザイナーズ制服に変化する。

 勝った!

 4人が一斉に溜飲を下げる。


「何の用?」

「なんでもない。すっきりしたー」


「僕は何もしてないけど……? どういう意味かな……?」

 虎太郎が困惑した声を出す。

 今回の旅行で世間知らずだと突きつけられた彼は周りの言動に対してひどく過敏になっていた。


「ムカツク連中に喧嘩売られたから仕返ししただけ。あんたたちが通りがかってよかったよ」

「え? え?」

 戸惑う虎太郎の後ろから同じく3班の竜神が言った。

「あんまり他校の生徒と張り合うなよ。絡まれたら危ねーだろうが」


「その時は竜神君が助けてくれるっしょ?」


「無茶言うな。オレ喧嘩スッゲーよえーぞ。すぐ泣くし。見掛け倒しだからあてにすんな」


「えー、そうなのー」

「泣くとこ見たいー」

 アハハハと笑う。


「田舎モンがウチの女ビビらせてんじゃねーよ」

「――!!」

 赤チェック女たちの後ろから男が出てきた。


 まさかの男子生徒までズボンが赤チェック。ダサい。ダサすぎて引くレベルだ。その制服を着なければならない彼らに同情さえしてしまう。絶対一緒に歩きたくない。恰好もダサいがセリフもダサい。二重苦とはこのことか。


 だけどヒマリも心海も笑えなかった。

 男の人数は5人。ダサいセリフを吐いた男はキツイ見た目の竜神よりも5歳は年上に見える。身長は竜神に及ばないものの腕の太さも足の太さも1.5倍はある。とても同じ高校生だとは思えない。


「虎太郎、全員向こうに連れて行ってくれ」

 青ざめるヒマリ達を他所に、竜神が一人、前に立った。


「待てよ、女は置いてい――」


 未来に向かって伸ばされた太い腕を竜神が掴む。


「ぐ……! ぐぅ……!」

 男は振りほどこうと抵抗しているようだったが、竜神は腕を掴んだまま平然と立ち、微動だにしない。


「行こう、皆」

 虎太郎が女子たちを促す。

「え、で、でも」

「竜神くん」

 発端は自分たちなのに逃げるなんてあまりにも無責任すぎる。

 4人は躊躇った。そもそも竜神は未来の彼氏だ。彼女の目の前で彼氏を危険に晒すのも心苦しい。

「竜神なら大丈夫だから」

 竜神は自分が喧嘩する姿を女に見せたがらない。それを知ってる未来は竜神の為に4人の背を押した。


 全員の背中が道の角に消えてからようやく竜神は動いた。


 男が必死に引き抜こうとしていた腕を強く引き、前のめりになった腹に、ドン、と、強烈な膝蹴りを叩きこむ。

「――――――!!!」

 体が浮き上がるほどの衝撃に悲鳴さえなかった。地面に崩れ落ちると辛うじて四つん這いになり、嘔吐を始める。


「て、テメ、」

 一番強いはずの男を容易く拘束され、動くに動けなかった周りの四人もようやく拳を振り上げた。

 だが、4人が竜神に迫るよりも竜神の動きが早かった。

 男に叩きこんだ右足を引くと同時に左から突っ込んできた男の胸に回し蹴りを胸に叩きこむ。

 その男が背中から石畳に叩きつけられ数メートルも滑るのを横目に見つつ、三人目の男の腹に拳を入れた。

 後ろから殴りかかろうとしてきた四人目の拳を避け、顔の横を通過した腕と胸倉を掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばす。

 かなりの高さから石畳に叩きつけられ背骨を強打した男は潰れた悲鳴をあげ、背中を逸らせてのたうった。


 仲間が一撃で沈められるのを目の当たりにしていた最後の一人は、顔を青ざめさせ完全に逃げ腰になる。「う、う」と呻きながら後退する彼を竜神は鼻で笑い――。


 最初に襲い掛かってきた男の後頭部を踏みつけ、男自身の吐しゃ物の中に顔を叩きつけながら宣告した。


「二度とこの制服に手ェ出すんじゃねーぞ。次はぶっ殺す」


 この手合いには説得も話し合いも通用しない。ただただ暴力だけが優劣を付ける。

 竜神としては、自分の目が届かない場所で他の同級生達が報復に絡まれたら厄介だと判断し、やむにやまれず徹底的に脅すという判断を選択するしかなかったのだ。


 が。


 班とはぐれ、一人街を彷徨っていた寺戸は見てしまった。

 善人で人と喧嘩をしたことも無い、大人しく小柄な彼からすると、5人相手に喧嘩をし頭を踏みつけた竜神はもう手も付けられない不良にしか見えなかった。


 寺戸の竜神に対する好感度は下がった。ただでさえマイナスだったのがさらに下がった。そりゃもう下がった。


 見られてることになど全く気が付かず、竜神はクラスメイトと合流した。青ざめて固まる赤チェック女には目もくれずに。


「り、竜神君、大丈夫?」


「大丈夫じゃねーよ。焼き土下座で許してもらった。頼むからもう他校の生徒に絡むなよ」

「マジごめん、未来ちゃんもちょーごめん! 彼氏使って悪かったよ」

「気にしなくていいよ。女の子が危ない目にあってるのを竜神が見過ごせるわけないもん」

「うっわ、すっげーのろけられた」

「のの、のろけじゃないよ!」


「おい竜神」


 楽しそうな百合の声に竜神の背に悪寒が走る。

 先ほど5人の男と対峙した時には恐怖感の欠片も無かったのに、百合が楽しんでいるというだけで嫌な予感が全身を覆う。


「どうした……?」

「さっきの喧嘩、寺戸が見てたぞ」

「!!? 最悪じゃねえか……。気が付いてたんなら逃がしてくれよ……ただでさえ怯えられてんのに……」

「なぜ私が。面白かったぞ。まるで現世に舞い降りた魔王と出くわしたかのような表情だった」


「…………」


 思わずその場にしゃがみこみそうになってしまった。

 親睦を深めるはずの修学旅行中だというのに、寺戸との溝を埋められる気がしない。


 今後は何事もなく旅行が終了するように祈るしかなかった。


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