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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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修学旅行一日目!(大浴場)

「おーい、未来、こっちだぞー」

 宴会場に入ると席についていた良太が手を上げた。

 食事は班ごとで座る事になっているのだ。


「おー、早いな良太――うわ、ご飯美味しそう……! ちっちゃい鍋がある! これがあると旅館にきたって気がするなぁ。早く食べたい」

 深く考えずに良太の隣に座ろうとすると。


「そこに座ったらコロス」

「ひぃいい!?」

 真後ろに立ってた美羽ちゃんにドスの利いた声で脅されてしまった。

「良太も未来を呼ぶなこのバカバカバカバカ」

 まるで太鼓でも叩くかのように、左右の拳で交互に良太の頭を殴る。


 あ。竜神が来た。虎太郎も。


 浴衣に着替えた竜神が鴨居に頭をぶつけないように、少し腰をかがめて入ってくる――途端に、シーンと宴会場が静まり返った。


 先生たちまでも。


「あ、強志か! その筋の人かと思って驚いたじゃないか。浅見君が一緒のせいかな。迫力が5割増で腰が引けちゃったよ」

 2-5担任の50代の先生が竜神の背中を叩きながら笑う。

 追い打ちをかけるのはやめてあげてほしいな。虎太郎にまで見えない矢が突き刺さってるぞ。


「二人とも、こっちこっちー」

「おう」「未来」

 良太の席の隣から、もひとつ隣に移動して正座で座る。


「いい加減にしろよ、いてえって。いいじゃねえかよ未来が隣に座るぐらい」

 執拗に拳骨を落とし続けていた美羽ちゃんの腕を良太が乱暴に払いのけた。

「よくねーよ」

 答えたのは美羽ちゃんじゃなく、良太の隣にドカッと腰を下ろした竜神だ。

「すんまっせんっした」

 美羽ちゃんには上からだった良太が素直に頭を下げる。


「竜神君もちゃんと未来を見張っててよね! あたしが目を離したらすぐ良太にくっつこうとするんだから!」

「悪かったよ。未来もちゃんと謝っとけ」

「ご、ごめん……」


 頬を膨らませた美羽ちゃんが席に戻るとほぼ同時に食事が始まった。


――――


 ご飯の後はお風呂だ。

 俺は、女の先生の部屋にあるお風呂を使わせてもらえることになってた。

 修学旅行の為にと100均で買ったバッグにバスタオルやタオル、下着を入れて階下に向かう。

 大浴場のある一階に降りてから、俺は皆と逆方向へと足を進めた。


「あれ? ミキミキどこ行くの?」

「先生たちの個室のお風呂を使わせてもらえることになってんだ」

「生理なの?」


 ……なんで……美穂子と言い百合と言いうちの兄ちゃんといいこいつといい、こうもズバっと切り出すのだろうか。もっと遠慮とか恥じらいとかないのだろうか。


「違うけど――」

「違うなら大浴場行こうよ! ミキミキ居ないとつまんなーい。ひーちゃん! ミキミキのお風呂キャンセルね! 大浴場に持ってく!」


 俺を待って廊下の先に立っていた柊先生に手を振る。

 持ってくってなんだよ俺は手荷物か!? う、腕を引っ張るなー!


「おー了解。でもあんまり日向をいじめちゃ駄目だからな。恥ずかしがり屋さんには配慮しなさいね」

「待って、まず無理やり入れないところから配慮してください!」

 スリッパで必死に踏ん張るものの、

「はいはーい、いくよー」

「美穂子まで~~~!!!」

 美穂子まで俺の背中を押し始めた!

「ここの旅館、サウナだけじゃなくスチームサウナ塩サウナ、足湯、立って入れるお風呂まであるんだよ。楽しみだよね!」


「話を聞いてください美穂子様……!」


 俺はまた、たーすーけーてーと悲鳴を上げながら、生まれて初めて女風呂の暖簾を潜ったのだった。


「まったく往生際の悪い奴だ」

 百合が呆れて眉間に皺を寄せた。

「だって、しょうがないだろ」

「おっさきー」

 とっとと脱いだ琴音が浴室への自動ドアを潜る。

 わいわい、がやがや、ここのお風呂は広いらしく2クラス単位で入るから、脱衣所が満員状態だ。


 どこを見ても女子の裸!

「未来、早くしないとシャワーブース満員になっちゃうかもだよ」

 美穂子までもう脱いじゃってる!!!

 栗色の長い髪をさらりと流しながら、背中に手を回してブラのホックを――!

 って観察しちゃだめだ。

 よし、脱ごう。脱いで気を逸らそう。


 浴衣を脱ぎ、タオルで隠しながらブラとパンツを脱ぎ、タオルを入れてきた安物のバッグを一番上に置いて、美穂子と百合と一緒に浴室に入る!


 お風呂は確かに設備が整っていた。立って使えるシャワーブースが12か所、座って使える洗い場は30以上もありそうだ。しかも一つ一つに仕切りがある。


 俺たちが選んだのは座って使える洗い場。

「……」服を脱いでここに来ただけなのに消耗してしまった。

 ぐったりとイスに座り込んむ。

 いやいや、消耗してる場合じゃない。早く体洗わなきゃな。


 タオルを足に乗せてシャワーを手に取る。と。


「うっわ、日向、やっぱスタイル凄いね! 超エロイ体! 足もちっちゃいし羨ましー」

「――!!?」


 後ろの列に座っていた曲山さんの言葉にビクッと体を動かしてしまった。


「未来をからかうのはやめろ。生チチを揉むぞ」

「ぎゃああ!? 揉んでる揉んでる! やめてよ花沢!」

 百合が背中から伸し掛かって両手で胸を揉んだ。「はっはっは、役得役得」と笑ってからキリッと俺を睨みつけた。ちなみに百合は体をまるで隠してもないので直接見ることができない。睨みつけられたっぽい気配がするというだけだ。


「お前もいちいちビクつくな。臆病者なのもいい加減にしろ」

「ご、ごめんなさい」


 シャンプーやリンス、ボディーソープは小さい容器に詰め替え、ビニールのポーチに入れて家から持ってきていた。

 もちろん備え付けのもあるけど匂いが気に入ってるから。せっかくの修学旅行なんだから、少しでも竜神に『良い匂いがするなこいつ』って思われたい乙女心だ。髪を洗い、体も洗い、お風呂ゾーンに突入する。


「わぁ……!」

 こっちも予想してたのと全然違う! 浴槽だけじゃない。

 美穂子の言ってた通り、足湯、サウナ、スチームサウナ、薬湯、外には温泉まである!

 立って入れるお風呂には、強力なジェットが出てる。3か所しか入れる場所が無いので残念ながら満員だ。


「あれ、ミキミキに先こされちゃってた」

 聞きなれた声に振り返る。――と、タオルで隠しもせず全裸で歩く琴音が居た!

「こ、琴音、隠さなくていいの!?」

 百合が隠さないのは予想出来てたけど、まさか琴音まで!

 タオルを持ってないんじゃない。頭に巻いてた。そこに巻くぐらいなら体を隠せよ!


「どうして隠さなきゃダメなの? 別に恥ずかしくないけど」

「そうなの!!?」

「言っとくけど未来! お湯にタオル浸けちゃダメだからね。未来が恥ずかしがり屋なのは知ってるけど、マナーは守んなきゃ」

「う、うん、わかってるよ」

 そうだ。お風呂にタオル浸けるなって当たり前のマナーだ。どうせ、お風呂に入ったら隠すことができなくなるんだよな。ここまで必死になること無いのかな。

 でも、全員が全員隠してないわけじゃない。当然だけど恥ずかしそうにしてる女子だっている。

 隠さずに平気にしてるのは運動部系の人たちが多い気がする。合宿とか、毎日の着替えとか、学校のシャワーとかで慣れてるんだろうなぁ……。つよい。


「未来ーこっちおいでー。美穂子も一緒に入ろー」

 立って入れるお風呂でジェットを浴びていた道中みちなかが俺たちを手招いた。

「行ってこい。私は露天風呂でゆっくりするつもりだからな」

 と、百合が言ってくれたのでお言葉に甘え、美穂子と二人、道中のブースに入った。当然一人用なんだけど、かなり広さがあるので3人でも楽しめる。

「うわぁ痛いぐらいだな……!」

「痩せそうじゃない? プールが始まるまでに2キロ落とさなきゃならないから期待しちゃう」


 あんまりお邪魔しても迷惑だろうからお試し程度で上がり、次は寝湯。さっきとは真逆の寝そべって入れるお風呂だ。


「あー気持ちいいなぁ……!」

「ねー。こんなにお風呂が充実してるなんて幸せだよ……。眠くなっちゃう」


 ところで、素っ裸でのし歩く百合や琴音とは違い、美穂子はタオルで隠す派だ。

 お風呂の段差に降り、縁に座り、ゆっくりとタオルを取って中に入る――のがすっごく色っぽかった。です。「エロイ」じゃなく「色っぽい」。違いを説明しろって言われてもできないけど……エロよりレベルが高い気がするのはなぜでしょうか。


 寝湯で充分に温まってから足湯で石をコロコロ、足裏マッサージ。


「未来、おいで、ミストが出てきたよ」

 いつの間にか俺の隣からいなくなってた美穂子がスチームサウナの入り口前で手招いていた。


「え!?」


 スチームサウナと書かれたドアを開くと、中には真っ白な霧が充満してた。

「わーすっげー!」

「日向さん、熊谷さん、こっち、座れるよ」

 この声は隣の席の藤岡さんだな。声を頼りに霧の中を進む。木が張られた長椅子があった。

「ありがとう! 助かったよ」

「どういたしまして」

「気持ちいいなー! こんなサウナに入るの初めて!」


 竜神達も楽しんでるかなぁ……? 


 ――――


「楽しかった……!!」


 パウダールームの椅子に座り、がっしがっしと髪を拭きながら声を張り上げてしまった。


「こーらーそんな拭き方したら髪が痛むでしょー」

 美穂子にぺしんと掌を叩かれる。

 俺はそれに答えもせずに、美穂子と、その隣に座っていた琴音に身を乗り出してしまった。


「遊園地みたいで面白かったよ! 誘ってくれてありがとうな、琴音、美穂子! 百合も助けてくれてありがと」

 逆隣りに座る百合にもお礼を言う。最初、俺の体の事を言ってきた曲山さんに露骨なセクハラ攻撃を仕掛けてくれたおかげで、その後、誰にも何も言われなかったから。


 この旅館はパウダールームも大充実だ。ドライヤーだけじゃなく、消毒済のブラシ、化粧水、乳液まで準備されている。早速備え付けのドライヤーを手にし、スイッチを温風にして根元から乾かす。


「未来のシャンプー、いい匂いだねー」


 む。

 ドライヤーをカウンターに置きガタンと椅子を下げ、CMのセクシーポーズを決める。


「『小悪魔の誘惑。香りのラブパワー。ロイヤルローズプリンセスシャンプー』」


 ドライヤーの音と話声でうるさかったはずのパウダールームが一気にシン……。と静まり返った。


「全力で白けないで!!!」

 半泣きでその場に居た女子全員に突っ込んでしまった。


「あ、違う違う!! 可愛かったからびっくりしただけ!」

「あのCMのアイドルより可愛いよ~!」

「未来ちゃんってやっぱり面白いねー! お笑い寄りの子だと思わなかった」

「たしかにー!」

 お笑い寄り!?

 一斉に笑われ今更ながらに恥ずかしくなる。な、涙が。


「ミキミキ~~~」

 琴音が幽霊のように項垂れ俺の後ろに立っていた。

 鏡でそれを見てしまい全身が跳ね上がった。椅子から浮いた。


「お願い、明日、そのシャンプー貸して!」

 パンっと手を合わせてくる。なんだ。そんなことか。

「うん、いいぞ! 遠慮なく使え! お勧めのシャンプーだよ」

「ほんと!? ありがとう! ミキミキ大好き! うん、やっぱすっごい良いにおーい!」

 琴音が俺の髪の匂いをかぐ。

 や、やめてください。


「え? どんな感じ?」「あたしにもー」「ぅやぁー」「あ、ほんといい香りー」

 一気に沢山の女子にたかられ、髪の毛を掌ですくわれ匂いをかがれてしまう。

 たーすーけーてー。

 今日何度目ともわからない悲鳴を上げるしかできなかった。

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