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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
137/239

修学旅行一日目!

 待ちに待った修学旅行!


 3泊4日で奈良、京都への旅だ。

「えーまた京都ー奈良ー!?」「中学ん時も行ったってのにー」などとのブーイングがクラスのあちこちから上りはしたものの、班決めも無事に決定し、とうとう出発の日を迎えた。


「すっっげー楽しみ! 早く行こう竜神!」

 季節は6月。衣替えが終わり、半袖の制服を着た竜神の腕を引っ張って走る。

「今から走ってたらばてるぞ」


 俺は朝から――というか、昨日の夜から大はしゃぎだった。

 竜神と一緒に暮らしてなかったら絶対一晩中眠れなかったよ!(もちろん寝れなかったんで12時ごろに竜神のベッドにもぐりこんだ。竜神は爆睡してた)


 はしゃぎすぎて、集合場所の駅に15分も早く到着してしまった。


「あーミキミキーおっはよーい!!」

「おはよー!」

 琴音だ。いつもテンション高いけど今日は更に高いな。気持ちは判る!

「隙あり!」「にぇぇ!? や、やめろよ!」

 俺に抱き着こうとしたので慌てて竜神の後ろに避難する。


「琴音一人なんだからオレの後ろに逃げんな」「ひぃぃ!?」

 安全地帯に逃げ込んだはずなのに、ずいっと押し出されてしまった。

「竜神が居ないならこっちのモンよ……」

 琴音がキラーンと瞳を輝かせる。


「ぐうう……、こ、こうなったら」


 右手にはバッグを持っていたので、左手だけダラーンとたれ下げる。

「なにそのポーズ」

「兄ちゃんから貰ったボクシング漫画にあった最強の戦法、ノーガード戦法だ! くるなら来い! クロスカウンターで返り討ちにしてやる」

 殴られるかもしれないとわかれば近寄ってこないは、

「えい」

「うゃあああぁ!」

 一気に距離を詰めてきた琴音に抱きしめられ悲鳴を上げてしまう。

「ダメだ、ダメだった竜神! ボクシング漫画の付け焼刃の知識じゃ敵に勝てない!!」

「そりゃそうだろうな」


 たーすーけーてー。

 悲鳴を上げるのにスタスタと点呼に行ってしまった。


 竜神に裏切られたりしながらも、なんとか点呼を済ませて皆と一緒に新幹線に乗り込む。

 新幹線が動き出すと同時に良太は姿を消してしまった。美羽ちゃんとこに行ったんだろうな。


 椅子を回転させ、6人席を作る。


 俺と背中合わせに座ってるのは琴音だ。

 お菓子のおすそ分けしよっと。

 座席に膝立ちになり袋を開けたポテトチップスを目の前に差し出した。


「琴音ー! ポテトチップス鉄筋コンクリート味、一個あげるー」


「いらん!!!」


 大迫力で断られたぞ。意外と美味しいのに。


「日向さんって可愛いのに面白いんだね」

「お、面白い?」

 ショックである……。

「食べる?」

「「「「「いらない」」」」」 座っていた残り5人にも一斉に否定され、俺は悲しく席に座りなおしたのだった。


「私、小学校、中学校の修学旅行が九州と北海道だったから奈良も京都も初めてなんだー。舞妓さんと写真撮れるかな!?」

 美穂子が夢見るみたいに言う。


「絶対撮りたい!! いいよなー舞妓さん! すっごく綺麗だし清楚だし楚々としてて……。憧れだよ!」


「昼間に歩いている舞妓はほとんどが観光客のコスプレだぞ」

「え!?そうなの百合! ってことは一緒に写真撮ってくださいってお願いされるの迷惑かな……!? くうう、すっごい残念……」

「ほとんどの女性はちやほやされるのを喜ぶと思うが……むしろ未来と美穂子の舞妓姿を見たい。私が手配するからやってみないか?」


「え!?」


「や、やってみたい、けど……」

「私がやるのは恐れ多いよ」

「うん。浴衣も着た事無いもん。絶対変な失敗する自信がある」

 舞妓さんって何年も修行するって聞くし、せめて最低限の作法を身に着けてからじゃないと。でも、一生に一度は着てみたいなぁ……!


「大人になったらお座敷遊びしたいよ。舞妓さんと一緒に踊ってみたい。むしろ一見さんお断りどすえって言われてみたい」


「……言われたいのか」

「未来は面白いねぇ」


――――


 一日目は奈良。バスに揺られ、定番奈良公園に到着だ。

 集合写真の後は班ごとに好きな場所をめぐることができる。


「んじゃ、俺、美羽んトコ行くから」

「おー。美羽ちゃんによろしくー」


 良太を見送ってから、どこに行こうかと5人で話し合った結果、東大寺に向かうことになった。

 東大寺の大仏殿は世界最大級の木造建築物らしいのだ。絶対押さえときたい。


「竜神君と未来は、いいのかな?」

 美穂子が並んで歩く俺たちを覗き込んだ。

「え?」

「二人で行動したいんじゃないの? 私たちに気を使わなくてもいいんだよ」


「気なんか使ってねえよ。二人で周りたいなら、また来りゃいいだけの話だからな。今は百合と虎太郎から目を離すのがこえーし」


「目を離すのが怖いだなんて……。まるで私が歩くことさえおぼつかない子猫のようじゃないか」

 百合が片足を斜め前に出し、唇に拳を当て瞳を潤ませ竜神を見上げる。お得意のぶりっ子演技炸裂である。


「お前は炎を吐くドラゴンだ。野放しにしたら犠牲者が出る。奈良の人の迷惑になるからな」

 ゲシッゲシッと百合に足を蹴られながら、この道であってんのかな、と、地図を広げる。

 虎太郎も同じく地図を開くんだけど。


「あ、あ、」

 ぬっとあらわれた大きな鹿に噛まれた。虎太郎の手から奪おうとしているようで、鹿に引っ張られた虎太郎がたたらを踏む。

「おい! 食わせるんじゃねえ。腹を壊したらどうするんだ」

 咄嗟に竜神が虎太郎の腕を掴んで高く持ち上げた。だがすでに遅し。4分の1程度も噛み切られてしまってる。


 竜神じゃなく虎太郎を狙うとは、この鹿さん、中々できる。

 もっしゃもっしゃと口を動かす鹿さんを心の中で称賛した。


「そっか。大丈夫かな。ごめんね」

 虎太郎。鹿に謝罪するとは生真面目な奴だな。でも日本語は通じないと思うぞ。


「あ、鹿せんべい売ってるよ!」

 はしゃいだ声をあげ美穂子が一点を指さした。鹿せんべいの屋台だ。


「鹿と遊ぶのは寺を周ってからでいいだろう」

「えええ!?」

 百合の制止に悲しそうな声を上げたのは、美穂子――ではなく、虎太郎だ。


「………………。わかった。買ってこい」

 しばし虎太郎を見ていたが、額に指先をやり溜息をついて許可をくれた。動物にエサを与える楽しさを虎太郎に教えたのは百合だもんな。


――――☆


「わー、見て見て、この子お辞儀するよ」

「えええ!? どうして!? すっげー! 頭良いなぁ。あ、この子もやってる。ご褒美の鹿せんべいだ!」

「無理に芸をさせてるみたいで申し訳なくなるな」

 竜神もまた、全く顔に似合わないことを言いながらせんべいを差し出す。


「あれ、虎太郎は……?」


 虎太郎は遠くにいる鹿にせんべいを渡していた。といっても、逃げる子たちだったので、地面に置いてすぐさま戻ってくる。逃げてた鹿たちは虎太郎が離れるとすぐにせんべいに群がり食べ始めた。


「食べたいだろうに人に近寄れない姿が……自分を見てるみたいで悲しくて」

「こ、虎太郎……」

 外見もいいし頭も良いしスペック高いのにな……こいつも竜神と同じで気の毒な性格してるよ……。


「わ、小鹿!」

「すっげーかわいーかわいー! ツノがあるのがカッケーって思ってたけど、やっぱちっちゃいと可愛いなぁ……!」

 一際小さな子に感動してしまう。触りたいけど触ったら怖がらせちゃうかな?


「もみじ鍋が食いたくなってきたな……」

 その子を見ながら百合が呟いた。


「お前……」

 なぜか竜神が絶句する。

「もみじ鍋って何?」

 俺と虎太郎と美穂子が同時に聞く。


「鹿に「もみじを煮た鍋だ!」

 答えようとした百合の口をバンと塞いで竜神が答える。

「へー、そんなのあるんだ。美味しいのかな? もみじの天ぷらなら聞いたことあるけど鍋は初めて」

 竜神が百合を押さえつけたまま小声で「いい加減にしろ」とか「本気で引かれるぞ」とか言ってたけど、あれ、どういう意味だろうな。


「あ、東大寺だよ」

 虎太郎の声に視線を動かす。

「おー!!!」

 人混みと緑の奥に、写真で見たのよりずっとずっと迫力のある門がドーンとそびえ立っていた。


「写真撮ろうよ!」

 ちょっとお化け屋敷の入口みたいで怖かったけど、ここで写真を撮りたい!

「私が撮ってやるから全員固まれ」

 百合が手持ちのバッグからデジカメを取り出した。


「百合も入らなきゃ寂しいだろー。あ、丁度良かった、岩元、写真撮って」

 一年の時のクラスメイトだ。俺たちと違ってきちんと6人班で行動していた。

 百合からデジカメを受け取り、駆け寄ると。

「どこ揉ませてくれる!?」

 そうだった。こいつもこんな女だった。


「と、藤堂君、写真撮って」

「あ、逃げられた。チッ」

 真っ直ぐ岩元に向かっていたのを直角に逃げて、丁度その先に立っていたクラスメイトの藤堂君にお願いする。

「うん、いいぞ!」


 渡した瞬間に目の前でカメラを向けられてしまった。

「えと、わたしひとりじゃないんだ、こっちにうちの班がいるから」

 というか藤堂君は身長が高いからその角度から撮ったら俺の顔しか映らないんだけど、観光地でそんな撮影はないだろう。ボケなのか素なのか判断ができない。突っ込みをいれるべきなんだろうか。

「あぁ、なんだ……。撮るぞー」

 一悶着以上ありながらも、どうにか撮影が完了した。


 撮影してくれた藤堂君にまた駆け寄り、カメラを受け取る。

「り、竜神と二人で行動しないんだな」

「しないよ?」

「付き合ってんなら二人の方がいいんじゃねーの? やっぱ付き合ってない、とか」

「竜神とはいつでも来れるから今日はみんなと周ってるんだよ。撮ってくれてありがとうな」

「……そっかぁ……」

 俺たちお揃いのリストバンドしてんだけどな。これで付き合って無かったらどんな関係なんだろうか。藤堂君は天然なんだな。虎太郎と同じタイプだ。


 門に入ると巨大な像が俺たちを威嚇するかのように左右に陣取っていた。


「これが本物の仁王像か……。すっげー怖い。小学校の頃に見てたら泣いてたよ……。想像よりも遥かに大きいし」

「8m以上あるそうだよ」

「そんなに!? ひぃぃ動き出したらどうしよう」

「動かねーよ。涙目になるな」

 力いっぱいしがみついた竜神に呆れられてしまった。怖いんです。早く行きましょう。


 唐突に竜神が大きな掌を虎太郎の顔の横に翳す。


「あっ!」

 後ろから女の子達の驚いた声。

 百合が一歩前に出て虎太郎の前に立ち、他校の制服を着たその子たちを睨みつけた。

「う、」と息を呑んで逃げていく。


「全く面倒な……。未来を撮ろうとする男はいるわ、虎太郎を撮ろうとする女はいるわ、竜神、ここが終わったらパーティーグッズ店を探すぞ。この二人にスケキヨマスクを被らせる」

「絶対やだよ!! あれ怖すぎるだろ! ……って、また撮られてた?」「全然気が付かなかった……」

「明らかにスマホが向いてても無警戒だもんね二人とも。未来はともかく、虎太郎君は有名人なんだからもっと気を付けなきゃ」

 美穂子にまで眉根を下げられてしまう。


「一人でいるときは気を付けるようにしてるんだけど……皆といるとつい……」

「全く。いつもなら達樹のバカに丸投げできるんだがな。くそ。なぜあいつはあと一か月早く腹から出てこなかったんだ」

 達樹の誕生日は五月上旬。たしかに、一か月早かったら同級生だったかもしれないな。


「虎太郎の画像ぐらい何千枚ネットに出回ろうとどうでもいいんだが、リアルタイムでSNSにでもあげられたら厄介だからな――あ、そうだ」

 ぽん、と手を打つ。

「虎太郎、バスに籠ってろ。お前が居なければ未来一人だけのフォローで済む」


「「さすがにそれは酷いだろ」」

「さすがにそれは酷いと思うの」

 俺、竜神、美穂子がほぼ同時に答えた。


「でも、竜神君と百合さんと一緒に居ると誰も話しかけてこないから助かるよ。二人とも顔が怖いから周りも遠慮してくれるんだろうね」

「虎太郎君。ド直球に失礼な発言してるよ」

「あ、ち、違うよ、顔だけの話じゃなく、雰囲気とか立ち振る舞いとかも全部ひっくるめてだよ」

「それ以上言うな! 百合に口を縫われるぞ!」

 俺が止めるもののすでに遅く、百合が虎太郎の首を小脇に締め上げ、ドドドドドっと頭上に連打で拳骨を落とした。





「さすが世界最大級……! でっかい建物だなー!」


 大仏殿の迫力は物凄かった。思わず携帯で撮影しちゃったぐらいだ。俺の古いガラケーと未熟な撮影技術じゃ、迫力の1割も写し出せないのがすっげー残念だよ……。


 入り口前にはお線香が沢山焚かれた大きな香炉がある。

 体の悪い場所に煙を浴びると良くなる、と言われているアレだ。


「未来、虎太郎、頭にたっぷり煙を浴びておけよ。馬鹿が治るかもしれん」

「治ればいいなぁ……」

 ぐったりとした虎太郎が掌で煙を頭に引き寄せた。

 煙で身を清めてから、参拝。


 入口の仁王像よりさらに大きい大仏にまたびっくりしてしまった。



――――☆



 楽しい時間はあっという間だ。油断してたらすぐに集合時間が来てしまった。

 再びバスに揺られ宿泊予定の旅館へと向かう。

 はしゃぎ過ぎたせいかバスの中で熟睡しちゃったよ……。隣に竜神居たし。


「浴衣に着替えたら一階の宴会場に集合な。降りてこない奴は飯抜きだから覚悟するように」

 旅館に付くとバスの前に整列させられ、柊先生からの説明があった。

 ありがたいことに、一日目の旅館では浴衣が準備されてる。中学校の時はずっとジャージだったけど、やっぱり高校生だと待遇も良くなるんだな。


 男子は3階で、女子は4階の部屋を利用する。

 案内されたそこはオーソドックスな畳の和室だった。10人が泊まるにはちょっとキツキツかも……。


「はい、未来の浴衣」

 美穂子から浴衣を受け取り部屋の隅で着替える。


 エレベーターは使用禁止だ。着替えを済ませた美穂子と一緒に階段を下りていると、すぐ下の男子の階で制服姿の竜神が柊先生に止められてた。


「浴衣に着替えなさいって言ったよね? 当たり前みたいに制服で出てくるんじゃない」

「先生……オレ、浴衣を着たら益々ガラが悪くなってヤクザの息子だって周りからいじめられるんです。制服で居させてください」


「大丈夫だよ。君をいじめられる奴なんて、プレデターか範馬勇次郎か花沢百合しか居ないから」


「最後にごく身近なクラスメイトの名前が出てるんですけど」

 竜神は抵抗していたけど、結局、虎太郎を見張りにつけられ着替えに戻らされて行った。


自分の修学旅行先だった北海道や九州にしようか色々はっちゃけられるティズ〇ー関係にしようか迷ったのですが、この作品を書こうと思い立った私のTSバイブルてんこなの修学旅行ルートを周らせてもらいます!

話の都合上奈良と京都の順番が前後したのが無念です…無念です……!!!!


因みに百合が言っていた「もみじ鍋」とは鹿肉の鍋です。

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