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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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【パラゼ部活動開始!】プール掃除


「あ、居た居た。おーいパラゼ部ー」


 俺たちの担任である柊先生に呼び止められ、6人で同時に足を止める。

 緩い感じの30代前半の男性教師だ。


 お嫁さん募集中らしく「お姉さんが居たら紹介してください」と真剣に言われたので「彼女居ない歴年齢の31歳の兄が居ます」と真剣に答えたら本気でへこまれた。


「何か?」


「お前たちどうせ何の活動もしてないんだろ? 話があるんだけど」


「活動はしているぞ。パラダイム概念における学説史的意義における議論に付いてノーウッドRハンソン氏が提唱した観察の理論不可性テーゼ言うなれば反証あってこその実証主義であると研究を進めている」「同時にクーンのパラダイム論への議論も進めています理論は反証されるものではなく反する事実があっても維持されるべきだという考えです僕たちの意見では――」


「浅見くん、花沢さん、理論武装で先生をけむに巻こうとするのやめなさいね。話ってのは部を廃止するとかじゃないから。ただ、頼みたいことがあるんだよ」


「? 何ですか?」

 浅見が首を傾げて問い返す。


「今年、学校にプールが出来ただろ? パラゼ部でプール掃除やってほしいんだよ。新品だから水を流してちょっと磨いてくれるだけでいいからさ。頼むよ」


 この桜丘高校には設立当初からずっとプールがなかった。

 なのに、なぜか今年、新しく完成してしまったのだ。もちろん授業に水泳も入ってくる。超面倒くさい。スクール水着も新しいの買わされたし。


「断る! その手の労働は運動部が適任だ」

 百合が間髪入れずに断った。


「まぁそう言わずに。夢屋のカフェの無料券3000円分やるからさ」


「「やります!!!」」

 先生に突撃する勢いで俺と達樹が同時に答えた。



 数日後の放課後。



「あの時、未来と達樹を柱に縛り付けておくべきだった……」

 デッキブラシを片手に百合がうんざりと言う。


「どうして!? 3000円分もタダ券貰えるんだよ? 一人500円だよ!」

「プール掃除が一時間で終わっても時給500円にしかならんだろうが!」

「それとこれとは話が別だよ! みんなで作業できるんだから」


 普通のバイトと皆で一緒にできる作業を同列にできるわけない。

 例えを上げてみよう。竜神と一緒に出来るバイト、1時間500円。竜神と一緒じゃないバイト、1時間2000円。こんな条件があるとしたら、俺は迷わず竜神と一緒に1時間500円を選ぶのだ!


「うわー、先輩達、その恰好えろーい……イダダダ!」


 俺も美穂子も、制服が濡れるのが嫌なので、新しく購入させられたスクール水着と、その上に体操服(上着だけ)を着てる。

 凝視してきた達樹の頭を竜神のアイアンクローが襲った。


「これのどこがエロイんだよ。水着だけの方がエロイに決まってるだろ」


 百合と男子達は、上が体操服、下はジャージで膝まで捲りあげた恰好だ。


 早速プール全体を水で流して気になる場所をデッキブラシで擦っていく。

 好き勝手動き回る皆とは違い、虎太郎はプールの角から念入りに始めていた。


「虎太郎。その調子で磨いてたら明日の朝まで掛かるぞ。もっと手え抜け」

「あ、そっか」

 竜神に言われて初めて気が付いたらしい。真面目だから全面磨き上げるのが当たり前だって思い込んじゃってたんだろうな。


「つーか予想以上に綺麗ですね。これなら水を流すだけでも問題なさそう」


 ホースを手にしていた達樹が、にやりと笑った。


「隙ありっすよ、先輩、美穂子ちゃん!」


「きゃああ」

「うやぁああ」


 勢いよく水が出ていたホースを俺たちに向けてきた。一気に二人ともびしょ濡れになってしまう。


「何すんだよバカ達樹!」

「もー達樹君! 今度からお弁当のカップグラタン無し!」


「そ、それだけは勘弁してください! ――って、うわああぁ、竜神先輩、やめてください!」

 今度は竜神が持つホースの水が達樹を襲う。

「先輩容赦なさすぎっす……」

 あっという間に頭から体操服、下のジャージまでずぶ濡れになった達樹が項垂れる。


「こ、これ、良かったら」

「ありがとう虎太郎君……」


 虎太郎が自分のバスタオルを俺と美穂子に貸してくれる……けど……。


「お前……そんな必死に見ないようにしなくてもいいんだぞ。この下、水着だから」

「そうだよ……脱いでも問題ないんだよ」


 俺も美穂子も水に濡れたせいで体操服が透けちゃってる。

 けど、この下、スクール水着だ。

 水泳が始まったら水着だけになるっていうのに、露骨に視線を逸らす虎太郎に突っ込みを入れてしまう。


「くっそー、達樹のバカ~~~」

「でも……涼しくなったね」

「うん」


 プールの中、暑かったんだよな。体温下がってさっぱりした。


 さっぱりしたけど、やられっぱなしで堪るか!

 2年生たるもの1年に舐められたらお終いなのだ!!


「死ね! 達樹!!」

「おっと」

 俺が発射した水を簡単に避けられた。

「甘いっすよ、先輩!」

 逆にホースを向けられ、咄嗟に回避する。


 ばっしゃあ。


「!!!」


 俺が避けたせいで真面目にプールを磨いていた虎太郎に水が直撃した。


「あ、すんません」

 といいつつ、水を掛け続ける。

「こら、達樹君!!!」


 我がチームの風紀を担当する美穂子が達樹をデッキブラシで追いかけまわし始めた。


 あ、ここ、汚れてる。

 報酬が出る以上、ちゃんと綺麗にしなきゃな。

 デッキブラシで磨いて……磨いて……磨いて……って全然落ちないぞ! スポンジで擦った方が良さそうだな。


 よいしょ。プールの底に膝を付き、四つん這いで念入りに擦る。

 濡れた体操服から水が滴りポタポタ弾けていた。


「…………」

「……何見てんだ達樹……」


 いつの間にか俺の背後に達樹が座り込んでいた。


「見るなって言う方が無理っス。超エロイっす。生AVっす」

「いちいち未来にちょっかい掛けんじゃねえ」

「うが」

 竜神に蹴り飛ばされ横向きに倒れこむ。


「未来も四つん這いになるな。起きろ」

「汚れが落ちないんだからしょうがないだろ! 報酬が出るんだから綺麗にしなきゃなんだぞ!」


「オレがやるから」

 竜神がデッキブラシで擦ると、すぐに汚れが落ちた。いいなー力強くて……。


「これでいいだろ……うわ」


 竜神の頭上に水が掛けられた。アーチを描いている水を視線で辿ると、その先には楽しそうに笑う百合が居た。


「……おい、百合……」


 竜神も百合に応戦を始め、身体能力の高い百合と竜神の攻防に巻き込まれ――――


「おー、綺麗にしてくれたじゃないか。ありがとうなパラゼ部……でも、そんなびしょ濡れになるまで頑張ってくれなくてもよかったんだぞ。風邪ひくなよ」

 柊先生が褒めたり心配したりしてくれた。


 先生の言う通り、俺たちは全員、髪から足までずぶ濡れになっていたのだ。


「これ、約束のタダ券な」

「ありがとうございます!」


 色々とゴタゴタはあれど、ご褒美のタダ券を貰って、夢屋のカフェで自分の好きなメニューを買いまくったのだった!

濡れて透けている体操服を体に張り付かせ、水着姿なのに尻を突き出し四つん這いになって掃除する未来。

きっと胸もたゆんたゆんさせていたに違いありません。竜神の苦労は絶えない。

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