(小話)女友達
「ねーミキミキー、今からあそぼー」
午後8時。浦田からそんな電話がかかってきた。
俺にセクハラしてくる天敵の浦田琴音。
断るのが当然なんだろうけど、俺は、なぜか、断ることが出来なかった。
「今どこにいんの?」
『夢屋の広場ー』
「すぐ行く。20分ぐらいでつくから」
夢屋ならここからバスで10分程度だ。バスの待ち時間を考えても20分もあればつけるはず。
「竜神、浦田と夢屋の広場で会ってくる。なるべく早めに帰るつもりだけど遅くなったらごめん」
竜神は「あぁ」と答えただけで止めはしなかった。
行くなと言われなくてよかった。ダッシュでバス停に向かい、数分も待たずに到着したバスに乗り込んだ。
「おー! 今日も可愛いですなぁミキミキー」
ベンチに座ってた浦田が片手を上げた。
「どうしたんだよ。こんな時間に呼び出すなんて」
「未来ちゃんと話したかったんだもん」
浦田が笑顔を向けてくる。
――いつもだったら間を開けて座るんだけど、今日はくっついて座った。
「体、冷たくなってんじゃねーか……」
「ミキミキあったかい」
浦田は俺を呼んだ理由を話そうとはしなかった。
俺も聞けないまま、ただ、待った。
ほんっとに、俺も浦田も何もしゃべらないまま時間が過ぎていく。
色の変わるイルミネーションに光る噴水を眺めていた。
「……」
何のために俺を呼び出したのかさえわからない。
でも、浦田が寂しそうで、なんとなく、手をつないでみた。
生前の俺だったらこれだけでぶっ飛ばされる所業だ。
でも。今は許されると信じたい。
手をつなぐと同時に、浦田の指がぎゅっと握りしめてきた。
冷たい浦田の掌と暖かい俺の掌の体温が同じになるころ、ようやく、浦田が口を開いた。
「あんねー、あたし、すっごい好きな人がいてさー」
こ、コイバナ!?
「バイト先の年上の人……、すっごい好きで頑張って告白して付き合ってたんだけど、先輩には彼女がいてさ。二股かけられてたんだー。あはははー」
笑った浦田の声が、すぐに、歪んだ。
「二股、されてたんだ…………!!!」
ボロボロ泣きながら俺の肩に顔を押し当ててくる。
「はじめて、こんなに好きになったのに……!! 大好きだったのに……!!!!」
「――――――――――!!!!!」
浦田の悲鳴に俺まで涙があふれた。
「なんで未来まで泣いてんのー? 全然関係ないのに」
「泣くに決まってるだろ! 二股するような最低男のことは忘れろ! お前にはもっと誠実な奴がふさわしいからな!!」
「未来ってばあたしのセクハラに泣いてた癖、おっかしいの」
感情のままに怒鳴りつけると、浦田は泣き顔のまま笑った。
「髪、切る? 切るなら一緒に切るよ。お揃いの髪型にするか?」
失恋した女子が髪を切るというのは定説だ。
浦田も髪を切りたいかな、なんて思ってそう切り出したけど。
「あははは、未来とお揃いなんて超嬉しい。けど、竜神に怒られそうだからいいよ。つか、二股ヤローのために髪切るなんて絶対やだし」
それもそっか。
浦田が急に立ち上がった。
「未来、立って!」
「?」
言われるがまま勢いよく起立すると、俺を抱き上げ、ぐるぐると振り回した。
「うやああああ!!?」
宙に浮く感覚に悲鳴を上げる俺を他所に浦田は楽しそうに笑う。
そして、地面に下ろして。
ふらふらする俺の手を握りしめ恋人つなぎにして、ぶんぶんと振り回した。
「ほんっとに、来てくれてありがとーねミキミキ!!!」
いいよ。
傍に居れて、良かった。