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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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リストバンドとスポーツテスト

「そろそろリストバンドを準備しとかなきゃな……」


 この街で一番大きなデパート『夢屋』の吹き抜けの通路を歩きながら、ポツンと呟く。

 通路の左側にはキラキラ光る雑貨のお店が入ってる。

 網みたいな棚にアクセサリーが釣り下がり、ネックレスや指輪に紛れてゴスロリ調のレースがふんだんに使われたリストバンドもあった。


 それを見て、もうじき半袖の季節が来るのを思い出したのだ。


 あんなド派手なリストバンドじゃ目立ちすぎるからダメだな。なるべく人目を引かない地味なの探さなきゃ。


「新調するのか? 山ほど持ってなかったか?」

「持ってるけど……」


 男からのプレゼントばっかなんだもん。


 前は平気に付けてた。汗で汚れたらガンガン取り換え『替えがいっぱいあって便利』ぐらいに思ってた……のに、なぜか、違和感がするようになっちゃったんだよな。

 可愛い柄が入ったリストバンドや、シンプルなスポーツメーカーのロゴだけのリストバンド。

 貰った種類は様々で、本数は何本か数えてもない。

 俺が自分で買ったのは可愛さの欠片もない100均で買ったリストバンドだ。冬の間も使ってたからボロボロになってる。なのに、男から貰ったリストバンドに腕を通すことができなくなってた。


「? じゃあとりあえずスポーツ用品店行くか」

「うん」


 エスカレーターに乗り吹き抜けのフロアを上がっていく。


 何気なく、左腕の袖を下げ傷を確認する。

 まだ、時々、疼くんだよな。

 う。

 意識したせいか、脈と同時にズキンと傷が軋んだ。


「――――――」

 苦しそうに眉を寄せた竜神の指が俺の傷にそっと触れた。


 剣ダコのあるごつい指が俺の傷を撫でる――――。

 あれ――? 触られただけなのに、傷の痛みが完全に引いちゃったぞ……?



「痛いな」

 竜神が自分こそ痛そうな声を出した。


「い――――痛くないよ。古傷だもん」


 痛かったけど、嘘をつく。


「見るたびに心臓止まりそうになる」

「過保護だよなー。指で押しても痛く無いから心配するなって。でも、リストバンド面倒だよ……。暑いし。むれるし。ゆううつ」


「じゃあ苦しみを分かち合うか。オレもリストバンドつけるよ。一緒に暑い思いしてやる」

「――――いいの?」


 思わず大きく息を飲んでしまった。


「おう」

「ペア!?」

「お前の好きにしていいぞ」

「ほんとに!? いいの? すっげー嬉しいよ! リストバンドつける楽しみが出来た!」


 竜神と一緒のつけるなんて楽しみだ!

 どんなリストバンド買おうかな!?


「早く行こう!」


 スポーツ用品店のある階にたどり着いた途端に竜神の腕を引っ張って走る。

 いいのがあればいいな!


 四階の角にあるスポーツ用品売り場はかなりの面積を誇ってる。

 リストバンドの種類も多種多様だ。カッコいいのから可愛いの、シンプルなのまで。

 数は少ないけど、恋人用のペアのリストバンドもあった。


「見て見て、こんなのがあるぞ!」


 どちらにも大きなハートが描かれてて、二人の腕をくっつけたらでっかいハートと、ハートの中にLOVEの文字ができるリストバンド。

 嫌がる顔を見てやろう、と、ぷぷ、と吹き出しそうになるのをこらえながら差し出したんだけど……。


「お前がそれでいいってんなら構わねーぞ。そんくらいアホっぽいのつけてたほうがオレにも都合いいし」


 ぜ、絶対嫌がると思ったのに……!

 というか、


「竜神の都合って何?」

「その……」

 竜神はしばし言いよどんでから答えてくれた。


「オレが、お前に暴力振るってるDV男だって誤解されてたんだよ」


「え」


 想像さえしてなかった竜神の答えにたっぷり一分間も時が止まった。


「ど――――どうしてええええ!? どっからそんなあり得ない噂がたったんだよ! 竜神が暴力振るうなんて宇宙が消滅してまたビックバン起こって地球が出来てまた消滅してビックバンからの地球再生ぐらいあり得ないことなのに!!!」

「宇宙規模の話になるのな。……誤解されたのはオレの見た目のせいかな。お前との見た目の差もな」

「見た目の差……? 全然分からない。どうして見た目の差からDVになるの? 竜神が手を上げたことなんて一回もないのに。誰かが見たって嘘ついたってこと?」


 俺の周りに『?』マークが飛び回る。全く意味が分からなかった。


「周りがお前を心配しての事だから、そうグルグル悩むな。これ買ってくるな」

「ストップ!!」


 ハートのリストバンドを手に立ち上がった竜神を全力で止める。

「それはいくらなんでも恥ずかしすぎる! バ、バカップルと言われるのは嫌だ!」


 俺でも絶対嫌なデザインなのに躊躇いなく買おうとするなんて……!

 竜神ってこんなリストバンドでも平気なのか!

 こいつがオリハルコンメンタルだって知ってたけど、メンタル強いやつって恥かくのも全然平気なんだな。今更か。百合だって時々ものすごくぶりっ子ポーズ(+2オクターブ高い声)するもんな。全然平気そうに。


 結局俺が選んだのは、3色の層になったシンプルな物だ。


 その日の気分で色を選べるように、カッコイイ色3色(渋い赤、白、黒の組み合わせ)、明るい色3色(暗めの緑、オレンジ、渋い赤)、そして、竜神に似合う色3色(黒、灰色、紺)の組み合わせ。これを、全部2本ずつ手に取る。


 ペアとして販売してるリストバンドじゃなかったんだけど、これで十分。


「お前が付けるには地味じゃないか? せっかくなら可愛いの付けろよ。お前の好きなバカ面もあるぞ」

「え!?」


 バカ面のヒヨコがプリントされたリストバンド……! こ、こんなのがあったなんて! 可愛い、可愛すぎるぞ!!


 でも……。


 棚から取り竜神の腕にはめてみる。

 予想はしてたけど、バカ面のヒヨコが伸びに伸ばされ可哀そうなことになった。


 小さくため息を吐き首を振る。


「そうか……サイズの問題もあるのか。ここでも体格差が関係してくるなんてな……」


 二人して、がっくりと項垂れるしかなかった。



――――――



 さて、今日はスポーツテストです!


「未来、次は握力計ろうよ」

「うん!」


 どれから測定していっても自由なので、俺は美穂子と二人で気ままに体育館を周っていた。

 体育の授業はもちろん男女別々であれど、スポーツテストだけは男女合同だ。


 下はジャージでもいいけど上は半袖の体操着じゃないと駄目な今日の授業。

 俺の左手と竜神の右腕にはお揃いのリストバンドがはまっていた。


 ステージに乗せてあった握力計を手にし目いっぱいに力を籠める!!

 まずは左手、そして、右手――――。


 表示された数字に、俺は、自分の瞳が煌めくのが分かった。


「りゅー! 見て見て、握力16キロ! 1キロも増えた!!」

「おー、すげーな。この調子なら14年後にはバイクに乗せてやれるな」


 !!!!


「た、足して30キロ」

 片手だけじゃ16キロだけど、左手まで足せば!


「ズルすんな。そもそも、足して30もあるのか?」

「あ」


 竜神に用紙を取られてしまう。そこに書いている数字は。

 右16キロ 左12キロ。


「…………」

 竜神の眉間に深いしわが出来た。


「お前ってほんと華奢だよな……。たまにすげー怖くなるよ……。ちょっと触っただけでも力加減間違えて殺しちまうんじゃねーかなとか……」

「そんなはずないだろ。その程度で死ぬなら助けてもらった公園で死んでそう」

「え? なんでだ!? 」


「凶悪面の竜神くんから出てた風圧的な圧力でショック死」


「そ、そんなモン出した覚えねーけど」


「出てた」

「出てたね」

 隣に居た美穂子までも頷いた。


「そういや、お前、初めて話しかけた時に、オレにカツアゲされるって勘違いしてビクビクしてたっけな……。あれ、スッゲー傷ついたんだよな……」


 あぁ……そんなこともあったっけなぁ……。


「あの時はごめんな。ところで、竜神の握力っていくつ?」


「あ」


 竜神の手から用紙を奪い取る。

 そこにあった数字は――――――。


 左手129キロ。右手155キロ。


「………………」

「………………」


「違うぞ、本当は右手9.5キロで左手5.5キロだ。怖がる必要はねーぞ、お前並みに華奢だから」

「だから! お前の嘘は思い切りが良すぎるんだよ!」


 カギムシ館で格闘家の男を一撃で沈めた癖、握力10以下なんてありえないだろ!


「頼むからオレを怖がるなよ。ほんとどうしていいかわかんなくなるから」

「うん、大丈夫だって。何があっても竜神だけは怖くないって前も言っただろ」

「美穂子も頼むぞ」

「うん、わかってるよ。そもそも竜神君が女の子に暴力を振るうなんて、月が地球に落ちてきて地球を貫通するぐらいにあり得ないって知ってるから」


「宇宙規模なんだな」

「宇宙規模だよ?」

「宇宙規模だよな」


 当然だ、とばかりに美穂子と二人で頷いた。


「おーっす、未来ー! また同じクラスだったなー」

「良太! やっと出てきたのか。インフルエンザ大丈夫だった? いきなり一週間も学校休むなんてずりーぞー」


 遅れて体育館に入ってきた良太が手を振ってきた。こいつも同じクラスだったんだよな。

 でも、季節外れのインフルエンザにかかっちゃって、始業式にも出れずに学校を休む羽目になってた。

 日頃の行いが悪いからだな。うん。


「佐野君」

 こっちに来ようとした良太を虎太郎が止める。


「万が一にもインフルエンザがうつったら大変だから、未来達に近づかないで欲しいな」

「あ、あの、お前の目が真剣にマジで洒落にならないぐらいコエーんですけど俺なにかしましたっけ? 会うのも一か月ぶりぐらいですけども」

「怖い? ごめん、そんなつもりはなかったよ。ただ、近寄らないでくれないかな」


 良太を睨んでいた虎太郎が、今度は笑顔を浮かべた。

 整い過ぎて怖い怜悧な刃のような笑顔に、良太は後ろ向きのままスタタタと虎太郎から逃げ、「よー祥吾ー」と一年の頃のクラスメイトの所にいった。


 虎太郎は、良太が離れたのを確認してから頭の横に汗マークを飛ばして俺たちに向き直ってくる。


「ご、ごめんね、未来、せっかく佐野君が登校してきたのに邪魔しちゃって……でも、インフルエンザが怖いから、もう少しだけ時間をおいてくれないかな」


「う、うん」


 良太が俺の胸を揉んでからというもの、めちゃくちゃ警戒するようになっちゃったんだよなぁこいつ。

 たった一瞬の事だったけど、おばあさんが暴行されたことで厳しい躾を受けてきた虎太郎にとっては、あれだけでも良太が信じられなくなるぐらいのドでかい地雷だったんだろうなぁ……。


 人に歴史あり。地雷あり。である。時間が解決するかもしれないから頑張れ良太。

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