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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
128/239

暴力振るうDV男と誤解されてます【挿絵有り】

三人称視点です

「あ、居た居たー」


 浦田が小走りに近づいて来て竜神の後ろを覗き込んだ。


「あれ? 未来は?」

「……………………」

 竜神はしばし絶句し尋ね返す。


「なんで……オレの後ろに居ると思ったんだ?」

「だっていつもそこにいるし」

「!?」


 きっぱりとした浦田の返事に息を飲む。


「最近はオレの後ろに隠れず、あいつ一人で頑張ってるだろ」

「え? そなの!?」

 浦田に驚かれ竜神も戸惑う。


「あ、丁度良かった!」

 今度は美穂子が駆け寄ってきた。

 竜神の後ろを覗き込み、一言。


「あれ、未来は?」

「美穂子まで……」


 竜神は片手で目元を覆い項垂れてしまった。



――――――――――――――――



 竜神強志はとにもかくにもキツイ見た目で誤解される。


 毎日喧嘩三昧だとか、コンビニに通う気軽さでヤクザの事務所に出入りしてるとか、朝の挨拶程度の気分でおやじ狩りをしているとか。


 その手の噂に事欠かない。


 特に日向未来がらみの噂は数多かった。


 鍛えられた長身の体で小柄な未来の前に立っているせいか、未来を暴力で支配しているだのと、見た目だけで『女を束縛するDV男』に仕立て上げられていた。


「抵抗もできない気弱なか弱い日向未来を威圧し私物化している」「登校する時も下校する時も付きまとい未来を監視している」「未来がちょっとしたことで震えるのは竜神からの暴力のせい」ついでに、そばに居る浅見も目つきが悪い男だったし達樹も柄が悪いので、「竜神は金を稼いでる浅見や後輩の達樹から金を巻き上げるため、未来に性的な奉仕をさせている――」という噂までもがまことしやかにささやかれていた。


 日向未来は竜神の道具。

 それが、大多数の評価だった――――大変な誤解である。


 真実はというと、竜神はただただ「体が変化した挙句に外野から口を出されるのは辛いだろうから、未来の交友関係はすべてありのままにしよう」といったごくごく普通の対応をしていたに過ぎなかった。


 じゃれてくる未来の部活の後輩である達樹は、時にセクハラをかますが行き過ぎない限りは見守り、浅見は見た目の派手さを裏切り未来に指一本さえ触れられないチキン、もとい人畜無害だったのでそのまま二人で昼食を食べるのも許していた。


 竜神自身も未来に胸を押し付けられようと体に跨られようと自制に自制を重ねていた。


 にも、関わらず。


 2年になって初めて未来と竜神と同じクラスになったボクシング部所属の藤堂、直正、島村も竜神が悪人だと信じ込んでいた。


「いくぞ」

「おう」


 三人の中で一番体格がいいのは藤堂で、身長180センチ、体重80だ。続いて直正、身長178センチの体重83。島村は身長170ではあるが、体重は85である。

 竜神の体形は推定190センチの85キロ。三人で掛かれば勝てない相手ではないはずだ。


 意を決して竜神を取り囲んだ。

 可哀そうな被害者である未来を助け出すために。


「話あんだけどいいか?」


 藤堂が切り出す。

 竜神の席は窓際の最後尾だ。

 長い脚を組んで椅子に横向きに座り、窓を背もたれにしていた竜神が上目になり、答えた。


「あ?」


 こっちは三人だというのに、その一文字と眼光だけで腰が抜けそうになった。



 竜神をオープンスペースに呼び出し、三人で囲んで日向未来を解放しろと言うつもりだった。

 竜神に手を引かれ逃げることもできずに怯えている未来を助け出すつもりで。


(でもやっぱこいつ超コエー……! 3人で勝てるのか!?)

 と、3人が3人とも尻込みした瞬間、藤堂の横をやわらかな香りと共に、小柄な女子が通り過ぎた。


「竜神たすけてえええ!」


 未来だ。

 椅子に横向きに座っていた背中と窓との狭い隙間に飛び込む。

 え。


 藤堂も直正も島村も固まった。


 未来が、

 竜神からDVを受けてはずの女の子が、竜神に助けを求め、背中に逃げ込んだのだ。


「未来、そろそろオレの後ろに逃げ込むのやめろ」


 えっ。逃げ込むのをやめろ、だと!?


「どうしてそんなこと言うんだよおお! やだやだやだお前の後ろが安全地帯なのに!」


 安全地帯、だと!!!!???? というか、こんなに華奢で可愛い子が、極悪非道な男をお前って呼んだ!?????

 言葉もない三人の前で竜神と未来の会話が続く。


「浦田と美穂子に未来がいつもオレの後ろに居るみたいなこと言われてショックだったんだよ。頑張ってると思ってたのにあんま頑張って無かったんだなって」

「ばんがってます!! じゃない、がんばってます! でもでも10回に9回は耐えられないんだもん。怖いんだもん!」

「――そんなに確率低かったか!?」


「竜神って甘いもんね……、もっと頑張ってるように見えてたんだろうけど――そんなモンだッ」


 そんなモンだ、だけをハードボイルド口調に言い放つ。


「すっげーショックだ……。お前とクラス離れた方が良かったかもしれねーなー」

「やめてください! 竜神さんがいなかったら新しいクラスに馴染めもしません、死んでしまいます見捨てないで! うやあああきたあああ」


「――――――――――!!!????」

 竜神が甘いだと、竜神がいなかったら馴染めないだと、見捨てないでだと!!!!?

 三人がさらに息を飲む。


「みきー!」「あーまた竜神に隠れてるー!」


 迫ってきた女子の数、5人。


「おい、未来で遊ぶんじゃねーよ。怖がるって分かってるだろうが」

「だって未来とクラスが離れちゃったから未来成分が足りないんだもん! 未来で遊びたいよー」

「りゅうは未来を甘やかしすぎー」「ばかっぷるもほどほどにしなよー」「出ておいでー未来ー」


 おそらく一年の頃同じクラスだったんだろう女子達が竜神の後ろに隠れた未来に腕を伸ばそうとする。


「絶対出ない!! うきゃー!」


 未来は伸ばされた女子の腕を振り払おうと竜神の腕を横に振り回した。

 腕の長さが違うせいで、竜神の指先が背後のロッカーに当たりガコガコと痛そうな音を立てているが全く気が付いてない。

 竜神自身も抵抗することなくされるがままになっていた。


「そ、そのぐらいにしてあげてくれないかな、人に囲まれるのって怖いから……」

 浅見がおずおずと5人の女子に言う。

「あ、浅見くん!」「浅見くんともクラスが離れちゃって寂しいよー!」

「え、う、」

 今度は浅見が女子に囲まれ「ご、ごめん」と逃げ出す。

「あ、また逃げた」「待ってよー!」

 女子たちは今度は浅見を追って走り出した。


「虎太郎も進歩してねーな……」

 竜神が困ったような声を出す。

「そう? 前は女子に近寄られただけで真っ赤になってたけど、ちょっとしか赤くならなくなってるよ。大進歩だよ」


「…………」

「…………」

「…………」


 見た目とはまるで印象の違った竜神と浅見に、3人は、何も言葉も無いままに踵を返していった。





「あれ、藤堂君どっかいっちまったな。何の用だったんだ?」

「え、お前に話しかける男子がいたの!? すっげー勇気あるな。あんな脅しみたいな自己紹介してたのに」

「え」

「あれはない。完全に脅しだ」

「マジか」

「まじだ」

「……未来」

「なに?」

「胸押し当てんな」

「!!!」


 未来は竜神の肩に手を乗せ、背中にぴったりとくっついていた。

 もちろん胸も目いっぱい押し付けている。


 以前は胸を押し当てても平気だった日向未来だが、竜神を異性として意識するようになってからはまるで駄目になってしまってた。


 一気に耳まで真っ赤になり、叫ぶ。


「あててててんのよ!」


「て多いぞ」

「竜神のバカ! デリカシー無し無し君!」

「デリカシーナシナシクンって何だ?」


 未来は捨て台詞を残し、わー、と騒ぎながら自分の席へと逃げた。

 が、着席はせずに自分の4個前の席に向かった。


挿絵(By みてみん)


「と、藤堂君……」

 着席していた藤堂に恐る恐る話しかける。


「え、」

 まさか未来が話しかけてくるだなんて夢にも思っていなかった藤堂は息を飲んだ。


「竜神に話しかけてくれたんだろ? 何の用だったの?」


 君をDV男から解放するために喧嘩を売るつもりでした。とは、言えるはずもない。

 藤堂は思わず竜神を振り返った。

 ほかの男と話すだなんて許しそうにないのに、竜神は椅子から立ち上がりもせずにこちらを静かにうかがっている。


「竜神ってあんな見た目で超怖いくせ、体が弱いだなんてアホみたいな自己紹介してたのに話掛けられるなんて凄いね! 藤堂君すっげー鍛えてるからかな? 竜神でも怖くないんだね」


 潤んだ大きな瞳を細め、眦を桜色に染めて未来が笑う。

 藤堂はふわんと揺れる大きな胸や、艶めかしく動く唇、その奥に除く小さな舌をガン見してしまう。


(うやああああ、超こえええええ!!)


 性的な視線で見られてるのがわかって未来の瞳がさらに潤み、目じりの赤みがさらに増す。

 でも、竜神の為に頑張るのだ!!!!

 カラ元気を出すためオーバーアクションになったせいで益々胸が揺れスカートが翻る。


「知ってるかもしれないけど……あいつって怖いのは見た目だけで中身はスッゲーいい奴だからよろしく頼むな! じゃ」


 最後まで震えずにいえた! 俺、超頑張った!!! 未来は自分自身に喝采を送りながら、着席した。


 そして、藤堂の頭の中ではこのあと数千回も、揺れる未来の胸と小さな舌、潤んだ瞳、怪しく動く唇、チラチラ覗いた太もも、流れる艶めいた髪、そして何より「中身はスッゲーいい奴」という単語が繰り返されることとなった。


(こ、こわかった~~、でも頑張った、えらい、俺)


 着席して袖で浮かんだ涙を拭う。

「!?」

 そんな未来を、隣の席の女子が怪物でも見たかのような顔で眺めていた。


「な――なに?」

 何故そんな顔をされるのかわからずに未来が恐る恐る尋ねる。


「日向さん……竜神君みたいな怖い人相手にバカって言っちゃうなんて……凄いんだね……」

「あぁ、竜神なら全然怖くないんだよ」

「え!? そ、そうなの……?」


 その瞬間、未来はキュピーンと閃いた。

 竜神は一年生の頃、一学期が終わるぐらいまでクラスの半分ぐらいに怖がられていた。

 おそらく2年でも同じごとが起こるだろう。

 だけど、ここで、この女子にも「怖い奴じゃない」と宣伝すれば、竜神も早くクラスに馴染めるんじゃないか――――と。

 よし、竜神が怖くないのを教えてやろう! 決意して口を開く。


「うん! わたしが泣いたらどうしていいかわかんなくってオタオタするような根性無しだよ! おまけに、失敗した料理でも美味いって全部食べてくれるし、割り勘でいいって言うのに全額払おうとするし、めんどくさい男にナンパされた時も全部追い払ってくれし、誕生日にごちそうとホールケーキまで用意してくれるし、何をしても怒らないすっげーいい奴なんだよ!」


「そ、そうなの……?」


 女子は同じことを二度繰り返した。


 未来のセリフで、確かに、竜神は怖くないのだとそこそこに知れ渡りはしたのだけど、それと同じぐらいに、日向未来と竜神はバカップルなのだという、未来にとっては大変不名誉なうわさも流れたのだった。




 自業自得であった。



挿絵をダンダダン男子様よりいただきました

ありがとうございますありがとうございます!気づくのが遅くなって(遅くなりすぎて)本当に申し訳ありませんでした…!

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