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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十三章 みんなで大騒ぎ三回目
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キャバクラの勧誘さんから貰った名刺

 耳付きフードパジャマ、なのですが。俺も美穂子も百合もフードはしていなかった。


 立ち上がった百合が、並んでソファに座っていた俺と美穂子にフードをかぶせ――「ふむ」と納得した顔で頷いた。


「…………。百合はかぶらないの?」

 百合のだって猫耳付きなのに。ちなみに黒猫だ。真っ黒のパジャマ。


「私は髪が邪魔だからな」

 腰まで届く長い黒髪を指先で流す、けど、俺も美穂子も髪長いんですけど!


 紅茶とコーヒー、達樹には希望でオレンジジュースを出し、学校のことや先生のことといった盛り上がりはするけどどうでもいいような話をしていると、冷泉の話題に行きついた。


「冷泉と関りを持ったせいで、いろいろとトラブルに巻き混んで悪いな」


 謝る百合に、皆が気にするなって言葉を異口同音に口にする。

 あいつと知り合ったばかりに俺はヘンリエッタに絡まれたし、竜神は撃たれたけど、百合に謝ってもらう必要なんてない。だって――。


「はじめて百合に誘われた時、冷泉家の御曹司とお近づきになれるかもって打算があって行ったんだもん」

「打算?」

「将来、就職するときに有利になったりしないかなって思っちゃって」

「……そんな事のために、付いて来たのか……」


 百合が呆れて眉間に皺を寄せた。


「そんな事ってなんだよ。社長令嬢にはわからないだろうけど、就職できるかどうかなんて人生を左右するターニングポイントなんだぞ。何の取り得も無い人間は、ちょっとでも可能性があるなら縋りたくなっちゃうの」


「先輩、超可愛いって取り得あるんですから、無理してコネなんか作らなくてもいい所に就職できるんじゃないですか?」


 む! なるほど! ――俺の力じゃなく、早苗ちゃんの力で就職するってことで少々複雑ではあるけど。


「愛想良ければ行けるかな。どう思う、百合」


 将来の経営者の意見が聞きたい!


「それだけの容姿なら就職は楽勝だな。人知を超えたバカだと難しいだろうが……」

「どうかな、人知を超えたバカかな!?」


「ギリギリアウトかもな……」

「アウト!?」

「そんなことねーっスよ! ギリギリセーフっスよ! さすがに人知は超えてませんって!」

「セーフ!?」


「でも先輩、給料いいからって目が眩んで、デートクラブなんかに就職しそうでコエーっスけど……」


 何言ってんだこいつ。

 デートクラブってのがどんな仕事かわからないけど、給料いいなら俺は頑張れる。


「達樹。職業に貴賤はないんだぞ。デートクラブ(?)だってちゃんとした仕事なんだろ? 給料いいの?」


「やっべこの人、人知を超えたバカだった」

「ギリギリどころじゃないな。レッドゾーンまで振り切ってるじゃないか」


「え!? じゃあやっぱりデートクラブ(?)にも就職できないのかな!? どうしよう、キャバクラなら就職できるかな!? こないだ名刺貰ったんだけど……!」


「そんな名刺捨てろよ! つか受け取んな!」

「め、命令するな後輩のくせに!」


「未来、名刺持って来い」

「え、うん」


 竜神に言われてサイフに突っ込んでた派手な名刺を部屋から持ってくる。

 手渡すと同時に、竜神は丸いゴミ箱を引き寄せ、細かく千切って捨てた!


「あー!! な、何すんだ! 唯一就職できたトコかもしれないのに!」


 涙目で竜神の肩を叩く。

 渡した事を後悔するけどもう遅い。名刺は見事に粉々にされてしまった。


 意気消沈してしまうけど気を取り直す。大学まで行くつもりだから、就職までまだ七年もある。また貰える日が来るかもしれないしな。


「う……」


 一人会話に参加せずに漫画を読んでいた浅見が涙を零した。

 開いた本の上で滴がパタパタと音を立てる。


「何泣いてんだよ浅見……。それ、泣くような本じゃないぞ」


 浅見が読んでいるのは竜神も愛読しているエンジェル伝説だ。


「北野君が気の毒で……。僕なんか子供に怖がられるだけでも辛かったのに、会う人全員に怖がられるなんてどれだけ辛いか……、なのに、こんなに真っ直ぐに生きてるなんて凄いよ……」


「確かにそれ、感動するよな」


 竜神まで。ギャグ漫画なのに。


 もともとは兄ちゃんの本だったのを俺が貰ったのだ。

 竜神が気に入ってるみたいだからリビングに全巻おいてたんだけど、ギャグ漫画としてではなく感動巨編として気に入っていたとは。

 二人とも見た目が怖いから北野君に感情移入しちゃうのかな。


「浅見君は最近怖くないから大丈夫だよ。前はしょっちゅう睨むみたいな目してたけど」


「え? 睨んでた?」

「うん。睨んでたぞー。目を細くしてギロって感じで」


「そんなつもりなかったのに……知らなかった……」

「美穂子……、『浅見君は』って」

 聞いた竜神に美穂子は見本みたいな奇麗な笑顔で言った。



「竜神君は諦めた方がいいと思う」



 むごい。



 ゲームで遊んだりぐだぐだ話したりで夜中になってからようやく、就寝。


「うー、布団が2組しかない……」

 3組あると思ってたのに!


 母ちゃんが帰ってきたときに兄ちゃんの部屋に持って行っちゃったんだな。


「二組で十分だろ。浅見と達樹がオレの部屋、未来と美穂子が未来の部屋、オレと百合が空き部屋で寝るから」

「なぜ私がお前となんだ」

「未来と美穂子にちょっかい掛けないように見張るためだよ」

「私じゃなく浅見と達樹を見張るべきだろうが!」

「達樹は浅見に見張らせる。お前より浅見の方が信用できるからな……」

「こいつだって脳内では美穂子や未来を素っ裸にしてあれやこれやしてるに決まってる」

「そそそぼぼぼくは」

「浅見さんうるさい」


 ぎゃーぎゃーと言い合いつつも、結局、俺と美穂子が俺の部屋のベッドで。百合は布団で。

 男連中は竜神の部屋で就寝となったのでした。


 美穂子と一緒に寝るなんて緊張する……今日は一緒に風呂まで入っちゃったし。

 ううう。


 でも、皆で騒げてすげー楽しかった。いっそのこと、皆で住めたらいいのにって思うけど、流石にそれは無理だなあ。



 翌朝、携帯のアラームがなるより早く目を覚ましてしまった。不眠の症状がでちゃったな。

 みんなの朝ごはんを作らなきゃならないから丁度いいか。


 ハムスターパジャマの上からエプロンを掛ける。

 やっぱり背後の尻尾が気になって腰をフリフリ昨日の残りのカレーを火に掛ける。

 意外にも一番最初に起きてきたのは達樹だった。


「カレーの匂い……」

「ん。食べる?」

「食べる……」

「んじゃ、顔洗って来い」

「……」


 寝ぼけた顔のまま洗面所に行く。カレーの匂いに釣られて出てきたのか。あいつ、どれだけカレー好きなんだ。


「未来! ごめん!」

 美穂子が部屋から飛び出してきた。

「な、なにが!?」

「朝ご飯手伝うつもりだったのに寝坊しちゃった!」

 ばたばたと洗面台へ入っていく。おーい、枕持ったままだぞー美穂子。


「達樹君ちょっとどいて先に使わせてこれ持ってて」

「あいー」

 この家の洗面台は無駄に広くて、三人並んで使えるぐらいなんだけど、達樹は押し退けられたようだ。


 そうしてる間にも竜神が起き出して来た。

「おはよー。お前もカレー食べる?」

「お早う。食う」

「おはよー竜神君! ごめんね未来、何すればいいかな?」

 美穂子がエプロン掛けながらキッチンに走りこんでくる。

「えーと、それじゃ、サラダ用のアボカド剥いて」


「おい達樹、こんな所で枕抱えて寝るな」

 あ、枕、渡されたまま寝ちゃったのか。

「…………」

「……さっさと起きねえとカレー無くなるぞ」

「え!?」

 目、覚めたな。単純な奴だ。


「浅見おはよーってお前……、目付き、こわ、」

「…………」

 浅見は人でも殺してきたかのような怖い目付きをしてた。ふらふらと俺の方へ近寄ってきた――かと思うと、がくん、と膝が折れそうになった。

「あぶッ」


 完全に床に崩れ落ちる前に、百合が首根っこを掴んで引っ張りあげた。

「まったく……、起きろ!」

 どす! 浅見の腹に百合の拳が入る。


「ぐっ……! あ、ゆ、百合さん、う、」

「おい、乱暴すぎるぞ! 大丈夫? 浅見」

「あ、うん、おはよ、いいにおい」

「カレー。浅見もカレー食べる?」

「うん。かれー、たべる」


 返事したしもう大丈夫かなって目を離したんだけど、「あれ? どあ……」まだ寝ぼけて洗面所への引くドアを一生懸命押してた。浅見……。


「あーもう朝っぱらからイラつかせるな!」と百合が蹴りを入れる。


 ブランチ中もだけど、皆が帰る時間までずっとずっと家の中は騒がしかった。



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