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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十三章 みんなで大騒ぎ三回目
124/239

カニクリームコロッケ(お泊り会)

お花見に行こう!の続きです。

「わー、このケーキ美味しいねー」

「美味しいよなー!! 一番大好きなケーキだよー」


 俺と美穂子がはしゃぐ横で。


「………………」


 なぜか達樹がケーキを食べながら俺の顔をガン見してきた。


「そのヘアピンとネックレス合ってませんよ」


 スプーンで顔と胸元を交互にさしド直球に失礼な発言をかましてくる。

 ヘアピンとは竜神から貰ったものでネックレスは誕生日に浅見から貰ったものだ。


「ガキみたいな髪型とちゃちなヘアピンしてんのに胸元で高そうなネックレスしてんの、違和感凄くってチグハグに見えます。おまけにその下の胸がでけえから尚更ぎゃ」


 胸の事を言った達樹の頭に竜神のげんこつが飛ぶ。


「そ、そうかな?」

 考えたこともなかったぞ。


「貢がせなれた女がうわべだけガキっぽく作って男釣りしてるみてーな感じっス」

「ええ……!?」

「か、考えすぎだよ。そそ、それに、そ、そのネックレスは1400円だし」


 会話に浅見が割り込んでくる。


「うわ、下がった」

「下げたね」

「下げたな」


 達樹、美穂子、百合が『下がった』を繰り返す。何が下がったの?

 これ以上話を広げたくないのか、浅見は後ろに顔を向けてしまった。

 これ、たった1400円なのかぁ。デザインにしちゃ安すぎるぞ。超お買い得品じゃないか!!

 露店が出なくなったのは残念だなぁ……。


「1400円……?」

 竜神が怪訝に呟いた。

 もちろん、安物だと非難している表情じゃない。安すぎることを不振がってる感じだ。

「ほら不審がられてる」「露骨すぎるよ」「フォローはしないからな」

 達樹、美穂子、百合がブルブル震えてる浅見に小声でつぶやく。


「浅見、こっち向け――」


 竜神が眉間に皺を寄せて浅見を呼ぶ。浅見の肩が気の毒なぐらいにビクついた瞬間、


 突然、空が真っ黒になった。


「え?」


 ぼつん! と、空を見上げた俺のほっぺたで大粒の滴が弾けた。


 身構える間もなく、ドザアアアアアとバケツをひっくり返したみたいな大雨が降ってきた!!


「ケー、ケーキが!!」

 慌てて蓋を伏せどうにかケーキを死守する。

「弁当も片づけなきゃ……!」

 お弁当箱も重ねて片づける。こっちはカラだったけど。


 周りでお花見していた人たちも阿鼻叫喚だ。うわあ、きゃああと悲鳴みたいなのも聞こえてくる。

 雨の粒が大きすぎて痛いぞ!

「未来」

 竜神がシートを畳み終わると同時に俺の頭にジャケットを掛けてくれる。


「あ、ありがとう……」

「美穂子さんは、これを」

「え、いいの? ごめんね」


 美穂子には浅見がジャケットを掛けてやる。

「百合せんぱ」

「いらん」

 達樹はあっさりと断られてしまってるが。


「桜が散っちまうな……、せっかく満開だったのに」


 見上げる竜神の頭にも頬にも桜の花びらがくっついてる。俺もだけど。

 俺たちが花見をしていたのはひときわ大ぶりの木だった。かろうじて雨を防いでくれているので六人で幹に固まる。

 どうしようこれ。あんまりにも大雨過ぎて身動きが取れないぞ。


「まいったな。ここまで天気予報が外れるとは。さすが竜神の誕生日。厄日だ」

 忌々しそうに舌打ちした百合のバッグの中で、携帯が鳴った。


「百合だ。――――あぁ、ご苦労。すぐに行く。――冬子がそこに迎えにきている。走るぞ」


 百合が真っ直ぐ先を指さした。

 たしかに、大きな黒い車が停車していた。


 全速力で走り車内に駆け込む。地面で跳ねる滴のせいであっという間に靴下までびっしょびしょになっちゃったぞ。


「災難でしたね」

 運転席に座っていたのは百合のメイドの冬月冬子さんだった。


「身動きが取れなかったんで助かりました……! 竜神も荷物全部持たせてごめんな。半分持つよ」


 お重もケーキもシートもペットボトルの残りもゴミ袋も全部持たせてしまってた。今日の主役なのに。

「気にすんな――って、美穂子も未来もびしょ濡れだな……」

 竜神と浅見がすぐにジャケットを貸してくれたのに、俺も美穂子も髪から水が滴るぐらいに濡れてしまってる。ジャケットを借りなかった百合なんか髪が絞れそうなぐらいだ。

 俺はともかく、美穂子と百合が風邪をひいちゃうよ。


「冬子さん、ウチに向かってもらえませんか? ここから一番近いから」

 運転席に乗り出してお願いすると、冬子さんは「かしこまりました」と返事をしながら車を走らせてくれた。


――――――


 雨は一向に弱まらなかった。


「うわぁ、さみいい」

 全員で家に走りこむ。


「未来様、これをどうぞ」

 一番最後に入ってきた冬子さんが奇麗に包まれたビニール袋を差し出してきた。


「パジャマ……??」


 渡されたのはやたらとフワフワモコモコしたパジャマだ。

「ジャ、ジャンガリアンハムスター耳付き……」

 うさ耳猫耳は聞いたことあるけどジャンガリアンハムスター耳とは初遭遇だ。


「わぁ可愛いね。未来にぴったりだよ」

「ええ……と」

「美穂子様にはウサギ耳付きパジャマを。百合様には黒猫耳付きパジャマを。下着も準備しております」

 さすがに下着は黒いビニール袋入りだ。


「いつでもパジャマパーティーができるように前々から準備していました。パジャマパーティーは女子の嗜みですから。わたくしが暇を見つけては各店舗を周り、吟味に吟味を重ねたパジャマです。お使いください」


 そ、そこまでがんばってくれたのか。着にくいけど着にくいとも言えなくなってしまったじゃないか。


「男子にもパジャマを準備しております。激安ワゴンに入ってた無地のパジャマです。目についたものをテキトーに購入しただけですが、どうぞ」


 言葉の本来の意味の「適当」じゃなく、あからさまに「いい加減に」ですといった感じの発音で男子チームにもパジャマを配っていく。


「さすが百合先輩の使用人……性格生き写しっすね」


「下着は一枚80円のトランクスもどうぞ」

「百均でもねーのかよ! つかなんすかこの柄! でっけーハートが一つとか、嫌がらせじゃねーっすか」

「売れ残りを激安販売してた品ですから」


 当たり前ですよと言わんばかりの返事だ。


「未来と美穂子、先に入ってこい。風邪ひくぞ」

「うん、行こう、未来。お風呂場はどこかな?」


「えっ」


 竜神に押し出され絶句してしまった。


「みみみみ美穂子と一緒に入れるわけないだろ!! 先に美穂子と百合で入って来いよ!」

「美穂子さんと百合さんなんて駄目だよ! 美穂子さんが襲われたら取り返しがつかないよ!」


 浅見が本気で俺に言い返してきた。


「う」


「海でだって美穂子さんに酷いことをしてたし……」

 た、確かに百合は海で男連中の前で美穂子のブラを外したぐらいだ。

 俺の胸を揉む容赦ないセクハラも噛ましてくるし……美穂子を襲わないって保証はどこにもない。


「清々しいほど浅見は私を信用してないんだな」

 百合が細目で浅見を睨む。

「信用できなくなるようなことをしまくってるお前が悪いんだろうが。風呂場はキッチンの横だ。未来を連れてってくれ」


 浅見の代わりに竜神が答える。


「了解しました。行くよ」

 美穂子に手を引っ張られてしまう。


「うわ、ちょっと、美穂子、本気で言ってるの!?  風呂場って裸になるんだよ! 裸を見られてもいいの!?」

 美穂子にさえ力負けする俺は抵抗もむなしく引っ張られてしまう。


「見たいならじっくり見ていいよ?」

「そんなことできるわけないだろおおお!!」

「ほら、入った入った。早くしないとみんなが風邪ひいちゃうよ」


 ひいいいい!!


 とうとう風呂場に到着してしまった。

 抵抗してる場合じゃないのはわかってる。一番濡れてるのは浅見と竜神だ。あの二人が俺たちより先に入るわけないから、さっさと入ってさっさと体を温めないといけないってのは。


 覚悟を決めよう。


 緊急避難的なアレなんだから。海でおぼれてる真っ最中、板にようやくしがみつけたのに、誰か知らない人が横から手を伸ばしてきたとする。二人でしがみついたら板は確実に沈んでしまうだろう。そんなときは、他人を蹴落としていいのだ。カルネアデスの板だ。


「裸を見られることぐらい我慢してくれ、美穂子……!」


 拳を握って宣言する。


「最初から見られても平気だって言ってるでしょ?」

「うやああああ」


 美穂子はとっくに裸になっていた。

 健康的な曲線美の全裸に、思わず叫び声をあげてしまった。


「どうして未来が叫ぶのかな? わ、私の裸ってそんなに汚い!?」

「ちがうちがうちがうちがう!! 心の準備が出来てませんでしたごめんなさい! せ、洗濯するから、濡れた服は洗濯機に入れていいぞ」

「え、いいの! 助かるよー。靴下までびしょびしょだもん……」

「乾燥機付きだからすぐ乾かせるからな」


 こんな時ばかりは高価な家電付きの家を買ってくれた兄ちゃんに感謝だ。


 美穂子が裸になった以上、俺が躊躇っててどうする!

 俺もさっさと全裸になって浴室へと入った。


「うわぁ広いお風呂……! これなら百合ちゃんと三人で入っても良かったかな……ううん、ダメだね。未来が百合ちゃんにセクハラされちゃうし。お風呂でセクハラされたら竜神君も助けられないしね」


 浅見も俺も美穂子が百合にセクハラされるのを心配してたのに、美穂子は俺が百合にセクハラされるのを心配してるみたいだ。


 美穂子も結構警戒心薄いよなぁ。海でブラ外されたのに。


 俺は空っぽの浴槽に入り、蛇口から流れるお湯で体を温め、美穂子にシャワーを使ってもらう。


「気持ちいい……」

「あったかいねえ」


 ざっと雨を流しただけで、体を温めるのもそこそこにパジャマに着替えた。


「う、ミニスカートパジャマ……!!」

「ミニスカートだったなんて……!!」


 美穂子も俺と同じぐらいに露出が苦手だ。二人して戸惑ってしまうが、持ってきた着替えはこれだけだ。観念して着替えて脱衣所を出た。


「お、お風呂、上がったよ……」

「次、早く入れよ」


「おおおおお! ミニスカパジャマじゃねーっすか! エッロぐあ」


 身を乗り出した達樹の頭に竜神がタオルをかぶせて抑え込んでくれた。


 続いて風呂に入ったのは百合。


 体が冷えちゃってる男連中に出したホットココアが無くなるころに、百合も風呂場から出てきた。


「えー! 百合先輩は普通のズボンなんですか? 超がっかりっすよー。ミニスカじゃないなんて」


 余計なことを言った達樹の腹に百合の回し蹴りがさく裂する。

 受け身も取れないままモロに食らった達樹がそのまま失神してしまう。

 玄関に倒れこみかけた体を小脇に抱えた竜神と浅見が風呂場に消えていった。


「せっかくの竜神君の誕生日だったのに、ひどい目にあったね……」

 ソファに座った美穂子が残念そうに肩をすくめた。

「うん……この大雨じゃ桜も全部散っちゃうだろうなぁ……。残念だよ……」


 雨はやっぱり止まない。どころかますますひどくなってる。

 この家、防音がしっかりしてるから気にならないんだけど、昔の築40年の家だったら爆撃されてるぐらいの雨音がしそうだ。


「あれ? 冬子さんは?」


 俺たちをここまで送ってくれた冬子さんの姿が見えない。

 駐車場には車も無かった。


「冬子はあくまで使用人だからな。私の友人宅に上がり込むような真似はしないよ」

 百合が静かに笑う。


「そうなの? 別に上がり込んでも構わないのに……」

 六人もいるんだから一人増えても気にしないよ。


「雨、やみそうにないな。今日は泊まっていくか?」

「え!? マジっすかいいんすか!? やった! 泊まらせてください!!」


 俺の言葉に張り切って答えたのは風呂から上がってきた達樹だった。

 シンプルな無地の水色のパジャマを着てる。

 後から出てきた浅見は紺色のパジャマでその後ろの竜神は黒色のパジャマだ。


 モコモコ+耳付きの女子チームパジャマとは偉い違いだな。俺もそっちがよかった。


「晩飯食べたいのある? できるだけ要望に応えるぞ」


 立ち上がって聞くと真っ先に達樹が手を上げた。


「カレー! カレー食いたいです!」

「み、ミートボールを食べたいです……」

 続いて浅見。晩飯にミートボールトとはチョイスが微妙だな。弁当にも入ってたのに。

「煮物と煮魚と味噌汁だ」

 百合も簡潔に答え(チョイスが完全に成人男性のそれだ)。

「オレは――――」

 答えようとした竜神を止めた。


「ピーマンの肉詰めと豆腐のお味噌汁、で、白和えだったよな」

 答えた俺に嬉しそうに頷く。


「いくつか買い出しに行かなきゃな」


 カレーの材料はある。竜神が食べたいって言ったピーマンの肉詰めや白和えの材料も買いそろえてある。だけど、ミートボールまで作るにはひき肉が足りないし、魚や煮物用の材料もない。

 また雨に濡れちゃうなぁ。仕方ないか。


「オレが行ってくるよ。必要なモンを教えてくれ」


 竜神が携帯を片手にそう言ってくれたんだけど。



「食材を準備して参りました」


 またも冬子さんがあっという間に買ってきてくれた。

 テーブルの上に並んだのは

 各種野菜! 旬の魚!! 大きな牛肉のブロック!!! そしてなんと、なんと、カニ缶まで買ってきてくれた!!!!


「カニ缶まで……! ありがとうございます!」

「すっげーでっけー肉! 先輩、カレーにたっぷり肉入れてください! ゴロゴロするぐらい!」

「任せとけ! 分厚く切っていれちゃおうう~~~!!」

 達樹と二人でじたばた暴れる。

 カレーの肉は至宝だ!


「カニ缶は何にしよっか? カニ玉?」

「もちろん、アレだ!」

「アレ?」

 首を傾げた美穂子にそっと耳打ちする。


「なるほど。いいね」

「ね! ね!」


 魚も沢山有ったので煮魚だけじゃなく三枚に下ろして刺身にする。

 ところで、美穂子の飾り切りや盛り付けがプロ級なんだけど。

 刺身がバラの形になったり俺が作った単なるカブの酢漬けがカフェで出てくるみたいな一品になったり。


 テーブルの上の料理がキラキラ煌いてるかのようだ。


「盛り付けって大事なんだなぁ……。こんな繊細な作業が出来るなんて、さすが美穂子」


「こういう作業大好きなの。未来が平気なら、もっとこう……ホラーテイストに仕上げられるんだけど」

「それはやめて!」


 うずうずと両手を料理に翳す美穂子の腕を掴んで止める。


 カレーの量は万が一を考え20皿分だ!


「いい匂いっすねー味見さしてください」

「あ、コラ!」


 達樹が勝手に揚げたてのコロッケを口に入れてしまう。


「あち、は――――、これ、カニクリームコロッケじゃねーっすか! 超うめー」

 ぐぅ、ネタバレされた。高いカニ缶貰ったから驚かそうと思ったのに。


「え、カニクリームコロッケ!?」

 浅見も大反応だ。


「ダメ! ご飯まで待つ! 次つまみ食いしたら晩御飯抜きだからね」

「ご、ごめんなさい」


 美穂子に怒られた達樹が大人しくリビングへ戻っていった。

 お母さんだ。お母さんがいる……。


「それにしても、先輩んち豪邸じゃねーっすかー! いいなー新築。おれんちアパートだから超羨ましいっすよー」

「兄ちゃんの家だから間借りしてるようなもんだけどな。母ちゃんにも、兄ちゃんが結婚出来なくなるからさっさと出ろって言われてるし」

「け、結構厳しい家族なんですね……」


「未来、美穂子」

「「何?」」

 竜神の呼びかけに二人同時に返事をする。


「すっげー腹減った」

「私もだ」

「ぼ、僕も……」


「……………………」


 俺と美穂子はしばし固まったものの、顔を見合わせ噴出してしまった。


「わかったよ。席についていいぞ」

「もうちょっと煮た方が美味しいんだけどね」


 コロッケだってまだ揚げてる途中だったけど、食欲に根負けした三人をテーブルに促したのだった。


「はい、どうぞ、お前のリクエストのカレーだ」

「うわあ、ほんっとに肉ゴロゴロじゃねーっすか! ありがとうございます未来先輩!!」

「お礼は肉を提供してくれた百合家にな。 カニクリームコロッケのカニも高級品なんだぞ」

「えー豪華ですね! 先輩ありがとうございます……って、もうコロッケねーじゃん! 百合先輩3つも確保すんのずりーっスよ!」

「腹が減ったからな」

「理由になってねー! おれ、1個しか食ってねーのに」

「まだあるから心配すんな。いくつ食べる?」

「4個!」

「そんなに食べれるの?」


 揚げるだけの状態だったコロッケを熱した油に入れる。

 和食メインだったから白ご飯がいいかもって、カレーは希望者だけのつもりだったんだけど、全員がカレー希望だった。

 でかい鍋に一杯作った20皿分のカレーが瞬く間に無くなって行く。10皿にしなくてよかったああ……!


「あ、達樹君、それ、僕のコロッケ……」

「いいじゃねーっすか。先輩が揚げてくれてんだから」

「浅見君、ミートボールも取っとかないと無くなっちゃうよ。浅見君のリクエストでしょ?」

「え、あ。もう二個しかないんだね、いつの間に」

「煮魚も美味いな。味付けがとても私好みだ」

「それ、私が作ったんだ。百合ちゃんのお口にあってよかったよ」

「そうか。嫁にこい」

「ふふ、私の恋人はメダ君だから嫁には行けないなあ」

「おい達樹、浅見の皿からばっか取ってんじゃねーよ。浅見も抵抗しろ。殴れ」

「うう」


 こういうとき、一人っ子は不利だなー。おっとりしてると皿からカモられるし好きなもの無くなるし。

 油をキッチンペーパーに吸わせてからコロッケを浅見の皿に乗せた。


「熱いから気を付けろよ」

「ありがとう未来……」

 ミートボールもすっかり空になってたので除けといた分を追加した。が、追加する端から百合と達樹に取られてしまう。手を出しあぐねてた浅見の皿に最後の三つを乗せてやった。

「これで終わりだからな」

「えー。ミートボールもう終わりなんすか? ちっちゃいから食べた気しねーなあ」

「達樹君結構食べたでしょ。浅見君の分まで取っちゃって」

 美穂子と俺が浅見の皿に一つづつミートボールを乗せてやる。俺でも一口で食べられるサイズだから、達樹の言う様に結構小さいんだよな。


「浅見さんばっかずりー――」


 また浅見の皿に手を出そうとした達樹の後頭部に、とうとう竜神のげんこつが入った。ゴ、といい音が響く。竜神、浅見、達樹って席順だったから、油断してたんだろうが残念だったな達樹。頭を抱えて苦しむ姿にざまーみろと笑ってしまう。


 ところで、カニクリームコロッケは俺も大好きな逸品だ!

 カニの風味とクリームのまろやかさが至宝の幸せを届けてくれる。


 席に座ると同時に真っ先にカニクリームコロッケに箸をつけた。

 形は定番の棒状。

 楕円形のよりおいしい感じがするのはなんでだろうなー。


 握力も少なくなってるせいで箸だけで支えるのには少々不安があったので、万一に備え左手も添える。


 竜神たちの口に合わせてるので、俺には少々でっかいんだよな。

 口を目いっぱい開かないと中に入らない……!


 舌をちょっと突き出しじゃらりとした衣を楽しんで、ゆっくりと噛む。


 うわ、我ながらうまくできたな! 超美味しい! カニいっぱいー!


「エッロ……」


 達樹がそうつぶやくと同時に後頭部に二発目の竜神のげんこつと、股に百合の蹴りが入った。

 エロいって何がエロいんだよ。椅子から崩れ落ちて苦しむ達樹を他所に、さっさと二つ目のカニクリームコロッケを手にした。


 カニクリームコロッケって最高の料理だ! 発明した人、すっごい!!!

ジャンガリアンハムスターフードパジャマで棒状の食べ物に両手を添えて食む未来です。

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