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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十三章 みんなで大騒ぎ三回目
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お墓参り

この話は竜神が退院して1か月後ぐらい、2月頃の話です。

 竜神と二人で曇天の空の下、緩やかな上り坂を歩く。

 背の低い塀に囲われたお墓が左右に続く。


 今日、今年初めてのお墓参りに来たのだ。

 お正月は色々とあって結局お墓参り出来なかった。ちょっと時期がずれてしまったけど許して欲しいな。

 お墓に眠る父さんと「」。

 もう一人の名前を呼んだ途端、急に風が拭いてコートとマフラーを揺らした。


「さむ……」

「大丈夫か? ほら、これ」

 竜神が俺のマフラーにカイロを突っ込んできた。

 ぬく……。じゃない。


「竜神が寒いだろ。カイロ持ってるからいらないよ」

「これぐらいなら平気だよ。平熱37度だからな」


 37度!?


「それ普通に風邪引いて熱出てるんじゃ……!」

「違うって。ガキの頃からずっと平熱が高いんだよ。39度でも動き回れるぞ」

「ほんっきで本当に? 人間の平熱が37度なんてありえるの?」

「さらっと人外扱いするのやめろ。本気で本当だよ」


「!!! 平気でも絶対動き回るなよ! 38度越えたら起き上がることを許さないからな!」

「気をつける。心配性だなお前は。オレの両親だってほったらかしだったのに」


 竜神は手袋を脱いで、バケツ二つに水を汲んで持ってくれた。


 すぐにウチの墓が見えてくる。


 日向家の、墓。


 個室(?)になってる墓なので、墓の下に骨壺を入れる場所があって、墓の位置が高い。

 昔ながらのお墓だ。



「竜神、見て見て」

 ちょっと悪戯心で竜神を手招き墓の横を指さす。

 竜神は指さした先を見て少し眉をひそめた。



 墓の横に書いてあるのは二人の名前。

 俺の父さんの名前と、そして。


「日向未来。享年15 201×年6月×日没――。なんか笑うよな」


 ぷぷっと噴出して口を押さえてしまう。


「笑えねーよ。どうしてお前の名前が入ってんだよ」


 俺が呼んだ父さんと「もう一人の名前」は、「日向未来」。だった。


「名前だけじゃないよ。参列者は母ちゃんと兄ちゃんだけだったけど、ちゃんとお坊さん呼んでお葬式もしたんだって」


 目を閉じて昔を回想する。


「母ちゃんさあ、前からずっと女の子が欲しかったって言って、女になったの喜んでくれたんだけど…………内心では複雑だったと思うんだ。当然だよな。自分が産んで、15まで育てた子供の体、無くなったんだもん」


 母ちゃんからしたら、俺は、父さんが残した忘れ形見だ。

 きっと、すごく、すごく、悲しかっただろう。俺の知らない場所で沢山泣いたに決まってる。

 俺が――もし、竜神の忘れ形見を失くしたら悲しいどころの騒ぎじゃないから。


「――――体にも魂があるかもしれないからって。怖がりの「日向未来」が迷ったら可哀相だからって。葬式をしてくれたんだ」


 目を閉じて、しばらく間を置いて、開く。


「体にも魂あったのかなあ」



 足元に視線を落としたままつぶやいた俺の頭に竜神の大きな掌が乗った。


「日向未来はここに全部いるに決まってんだろうが」


 その返事に「うへへ」と笑ってしまった。


「なんだよその変な笑い」


「お前ならそう言ってくれると思ってたんだよー! 体に魂が連れて行かれたなんて考えたくなかったから」


 自分の魂の一部が、天国か地獄にいるなんて考えたくなかった。引き摺られてしまいそうで。



「ありがとう」


「礼を言う話じゃねーだろ。お前がここに全部いるなんて当たり前なんだから。ほら、オレが墓を拭くから、お前は花を変えて来いよ」

「うん」


 枯れた花が刺さった花瓶を引き抜く。

 揺るがない竜神の言葉が心強い。いつでもふらふらしそうになる心を繋ぎとめてくれる。


 ざわめく心を落ち着かせてくれる。

 ありがとう。


 もう一度心の中でお礼を言ってから、花瓶を手に竜神の傍を離れた。

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