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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十三章 みんなで大騒ぎ三回目
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お花見に行こう!(竜神の誕生日)

 4月上旬。まだ、春休みの真っ只中。


 そこここに桜が咲き乱れ、美しい花弁を惜しげも無く舞い散らす、そんな季節。

 それが、竜神強志が生まれた季節だ。


「ねーねーりゅう」

「どうした?」

「りゅうの携帯、電源切っててもいい?」


 夜11時50分。


「? いいぞ?」

 竜神は不思議そうにしながらも、スマートフォンの電源を落としてくれた。


 3、2、1、0!

 12時、丁度!!!


 俺の携帯が鳴りだした。

 曲名は当然、ハッピーバースデー!

 携帯の曲に合わせてハッピーバースデーを歌う。


「竜神、誕生日おめでとう!!」

 歌が終わると、そう告げて拍手をする。

「ありがとう」

 竜神は笑って俺を撫でてくれた。


「もう電源入れて良いよ。一番初めに伝えたかったんだ……!」


 スマホを差し出すものの受け取ろうとしなかったので、今度は俺が電源を入れる。教えてもらってた暗証番号を入れて画面が切り替わると、メールを受信しアプリが立ち上がった。

 おめでとうメールの数々だ。複数の女子の顔が映ってる動画モードの画像まである……!

 このアプリは、一年の頃のクラスのグループもあるからしょうがないんだけど……!!


「くぅ」


 わかってたはずなのに悔しくて唸り声をあげてしまう。

 いや、怒っちゃ駄目だ。みんな竜神の誕生日を祝ってるんだから。


「見たいなら見ていいんだぞ」

「いいデス……」

 竜神にくっついて不安なのを押し込める。一番近くに居るんだからヤキモチ焼くのも変だよな。


「明日のお花見、楽しみだな」

 そして、無理やり話題を変えた。

 明日は、竜神の誕生日のお祝いついでに、皆で花見をしようってことになってたのだ。

 誕生日ケーキも手配済みで、車で来る百合がお店から受け取ってきてくれる。

「だな。お前の弁当も楽しみだ」

「お腹一杯になるおかずを用意するから!」


 今年の俺の誕生日は二人きりでお祝いしたいけど、竜神の誕生日は皆とお祝いしたい。竜神は俺の我侭なお願いを聞いてくれて、ついでに花見をするか、と提案してくれた。


 明日が楽しみだ……!!

 翌朝、例によって俺は無駄に早起きしてしまい、早朝からお弁当作りに励んだのだった。


「みき……、早いな……」

「おはよ! 今日の朝ごはんは炊き込みご飯のお握りと、紅大根の甘酢漬け、南瓜とがんもの煮物、ゆで卵多めサラダと豆腐とワカメのお味噌汁だー」

 竜神は寝惚けてるせいでいつもより三割増し人相悪い顔で俺に抱きついて抱え上げてきた。足がブラーンとなってしまう。それから、ふらふらと洗面所へと入って行った。

 休日のテンプレ行動である。


「あら、おでかけ?」

 二人で家を出ると、庭先を掃いていた三軒先の奥さん、坂本さんがそう声をかけてきた。

「はい! お花見に行ってきます!!」

「あらあら、デートなのねえ。良かったわねぇ未来ちゃん。幸せそうな顔しちゃって」

 ぽやーってした顔をしてる俺に坂本さんが笑う。

 なんだかデジャブなやりとりして坂本さんと別れ、バスに乗ってお花見会場に向かったのだった。


 俺達が今回利用するお花見会場は、出店も出ている有名な場所だ。

 お花見するの初めてだから、と、妙に張り切った浅見が場所取りするって言い出して、日頃浅見の家に入り浸ってる達樹も嫌々ながらそんな浅見に付き合って場所取りしてくれている。


 バスが到着するとほぼ同時に、お店からケーキを取ってきてくれた百合、百合の車に便乗していた美穂子も到着した。


「丁度一緒だったねー、未来、竜神君!」

 美穂子が笑顔で駆け寄ってくる。

 その後ろから、百合も来た。

 大きなケーキ箱を両手で持って。


「あ、あれ!? 買ったの、普通のホールケーキだったのに、箱の大きさ変だぞ……!?」

 俺が竜神の誕生日ケーキを買ったのは、ビュッフェしてたケーキ屋さん『ル・スーヴニール』だ。竜神が俺のケーキを買ってくれたお店でもある。ビュッフェしてたのは開店記念のサービスだったってだけで、招待券を持ったお店の会員しか入れなかった。

 普段販売してるケーキのお値段はびっくりするほどお高い。

 だから、五号(直径15センチ)のケーキしか買えなかったのに、箱がどう見ても五号サイズじゃないぞ!?


「『ル・スーヴニール』はアシュレイ嬢がオーナーの店だ。ヘンエリッタが迷惑をかけた詫びにと色を付けてきたんだよ」

 百合が苦笑した。

「アシュレイさんがオーナー!? そ、そっか。お嬢様校の人がビュッフェなんて珍しいっては思ったけど……まさかのオーナーだったんだ……」

 下界に姿を見せることさえ珍しいお嬢様学校の生徒だ。オーナーだったと言われると納得。


 お花見会場はぎゅうぎゅうづめってほどじゃないけど、まだ昼間なのに酔っ払いが盛り上がっていたり小さな子どもが騒いでいたりと大変な賑わいようだった。

「あ、未来センパーイ、竜神センパーイ! こっちっすよー!」

 達樹と浅見を探して順路を歩いてると、聞き慣れた声が俺達を呼んだ。達樹だ。

「うわー! いい場所取ったなー!」

 達樹と浅見が居たのは、一際大振りな桜の木の下だ。

「当然っすよ。朝四時から場所取りしましたからね……」

 達樹が疲れたように溜息をつく。

「四時!?」

「初めてだったから、ついついはりきっちゃって」

 横で笑う浅見は珍しくニット帽を被りサングラスをしていた。

「浅見……サングラス似合うな。かっこいいぞ。でもお前が眼鏡すんの珍しいな……」

 目の色を隠そうとしてるのかな? ってちょっと心配してしまう。


「これ、達樹君に掛けさせられたんだよ……。邪魔だから外したいんだけど……」

 どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。浅見は顔を渋くして眼鏡に触った。

 そんな浅見に、達樹がイラっとした顔をする。


「あんたと未来先輩が並んでたら滅茶苦茶目立つんですよ! ちゃんと掛けててください。動物園の時、おれと竜神先輩がどんだけ迷惑したと思ってんすか」

「迷惑?」

 意味がわからず聞き返した俺に、達樹は深い溜息を付いてから言った。


「動物を写すフリして、あんたらを隠し撮りしようって連中が多かったんです。未来先輩も気が付いて無かったんスねえ……。竜神先輩が睨みきかせて追い払ったり、おれがあんた等の盾になってやったりしたってのに……」


 え!? ぜ、全然気が付かなかった。カピバラ温泉のとき、竜神が後ろに立ってたのはなんでだろう?一緒に見ればいいのに、なんて考えはしてたけど、隠し撮りを追い払ってくれてたのかな……!?


「達樹君はノリノリなポーズで邪魔してたから楽しんでるのかと思っちゃった」

 美穂子が笑って達樹の隣に座る。

「嫌がらせです。普通に邪魔されるより、おれのキメ顔写ってた方がイラッとするでしょ?」

「自爆技か。確かにお前の面は腹が立つな」

「百合先輩、おれ、今、超傷つきました」


「どうせなら、昔使ってたメガネをかけたいな。サングラスじゃ不審者っぽいし」

 浅見が眉間に皺を寄せて人差し指の関節でサングラスを押し上げた。

「あの眼鏡なら、とっくに蓮さんに叩き割られてますよ。ダセーからって」

「えええ!? そうだったんだ……!」

 僕の私物なのに。と浅見が凹む。

「つか、あの眼鏡の方が不審者っぽいですよ。そのグラサンと帽子は、蓮さんが服装に合わせてコーディネートしてるんですから大人しく使っててください。おれからすれば、あんたら二人ともにフルフェイスマスクでも被せときたいぐらいなんスから……」


 動物達に一生懸命で、達樹や竜神が頑張ってたなんて知らなかった。悪いことしたな。

 お詫びにもならないだろうけど、竜神が持ってくれていたお重を並べた。


「じゃじゃーん! 今日のテーマは花より団子ガッツリ弁当です! ミートボールにウズラの卵のフライ、花型に巻いたハム、エビフライに高野豆腐、糊のおにぎりもあるけど巻き寿司の具を焼肉にした焼肉巻きもあり! 女子用にカニカマときゅうりと桜でんぶの入ったサラダ巻きも作ってきてるぞー」


「おおおお!」


「私もがっつりめにしちゃいましたー。エビチリ、卵焼き、肉巻きお握りと塩お握り、アスパラのベーコン巻きに六人分のミニヤキソバカップー。そしてつくねの串焼きと煮物もありますー」


「おおおお!」


「ひ、久々の未来先輩と美穂子ちゃんの手作り弁当!」

「春休みの間、ずっと食べてなかったからすごく久しぶりに感じるよ。いただきます……!」


 全員が取り皿とお箸を手にして、お重にたっぷり入っていた食べ物が一気になくなっていく。

 桜を楽しむ暇もなく、お弁当は空になったのでした。




「ではではとうとう、ケーキの出番です……!!」


 でれでれでれでれ、と、口で効果音ドラムロールを言いつつ、箱を開ける。


 な、中にあったのは、二段になった大きなケーキだった……! 春らしい苺とブルーベリーだけじゃなく、キウイやラズベリーなどなど沢山のフルーツが乗せられていて超豪華だ!!

 上にはもちろん、お誕生日おめでとう つよし君のプレートも乗ってる。


「うっわすげーっスね……! これ、もう、ちょっとしたウェディングケーキじゃねーっすか!」


 ウェディングケーキ……。


 ビビッて体に電流が走って、竜神にナイフを持たせて横から一緒に持つ。


「初めての共同作業……」


「なんすかいきなり」


「もし竜神が他の女の人を好きになって捨てられたら、この思い出を結婚式だって思って一生大事にするんだ……」

「またか」

「未来はほんとクリスマスから進歩してないねえ……」

 百合と美穂子が呆れて突っ込みを入れてくる。


「大丈夫だよ。竜神君が未来以外の女の子を好きになったりしたら、僕がその女の子をどうにかするから」

 浅見がサングラスの奥の瞳を細めた。


「おっと新展開っすね」

「浅見は意外と進歩しているんだな」

「進歩しちゃ駄目な方向に行ってるけどね……とりあえず、えい」

「う」

 浅見が美穂子に手刀でペシっとやられてうめき声をあげる。

「あんまり不穏なこと言ってると、次から浅見君にはカップヤキソバ無しにするよ」

「ご、ごめんなさい、美穂子さん……」



「オレは浮気なんてできねーんだけどなぁ……」


 竜神の手がナイフを握った俺の両手を上から片手で掴んで、ゆっくりとケーキにナイフを入れていく。

「このプレートはオレが食べていいんだよな?」

 竜神が『お誕生日おめでとう!つよし君』のプレートを皿に取る。

「うん! それ、実は、お店の人に頼んで書かせて貰ったんだー」

「え! そうなんスか。いいなー竜神先輩……。おれの時にも書いてくださいよー」

「おー。オレが書いてやるよ」

「やっぱ遠慮します……」


 竜神の切り返しに、達樹は脱力してうな垂れたのだった。


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