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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
一章 体の違いに右往左往する
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痴漢にあいました。何度も言いますが中身は男です。【挿絵有り】

挿絵をダンダダン男子様よりいただきました

ありがとうございますありがとうございます!気づくのが遅くなって(遅くなりすぎて)本当に申し訳ありませんでした…!

 翌朝、俺は、人いきれに閉口しながら、電車に揺られて浮いたり沈んだりしながら足を踏ん張っていた。


 男の体だったら人と人と隙間無く密集してたって、がんとして自分の位置を確保できてたんだけど、女の子の体じゃそれは不可能だった。


 まず周りが背中だらけ。見てるだけで息苦しい。


「ゃ……!?」


 大きな手が俺の太ももに触れた。

 手汗でべとついた気持ちの悪い感触が内またを撫でる。


 足の付け根まで撫で上げ、下着にまで伸びていく。周りは背中だらけだったけど逃げられるだけ掌から逃げた。でも駄目だ、追ってくる……!


 怖い怖い怖い! 本気で体が震える。やめろって言いたいのに声が出ない。

 逆らったらもっとひどい目に合うかもしれない。痴漢の顔を見ることもできない。


 顔を見ちゃったら口封じの為に殺されるかもしれないから。痴漢された上に殺人事件の被害者にまでなりたくない。


 誰か、助けて!



 思わず周りを見るけど俺の周りは不自然に男ばかりだった。

 スーツを着て眼鏡を掛けた中年のサラリーマンと目が合う。多分父ちゃんが生きてたら同じ年ぐらい。


(助けてください……!)


 半泣きの口パクで訴える。


 痴漢を捕まえてくれなんて言わない、場所を入れ替えてくれるだけでもいいから!


 そのおっさんは助けてくれるどころか俺を痴漢の方に押しやり、体を押し付けてきた。狭い間に挟まれた俺の胸がおっさんの胸で押し潰される。


 感触を確かめるみたいに、何回も。おっさんがニヤニヤ笑い、息を荒げて、震える俺を見下ろし、下半身まで体に押し付けてくる――!


「――――!!!」


 ひどい絶望に息が止まった。

 後ろから伸びてくる指は、パンツの中に入って――。


「やだぁああ……!!」


 ようやく、俺は悲鳴を上げることが出来た。他の乗客がこちらを注目したので指もおっさんも離れていく。


 電車中に響くんじゃないかってぐらいに心臓がバクバクなってる。体の震えが止まらない。


 目の下がぐわっと熱くなって涙が溢れた。ボロボロ溢れシャツにまでシミを作っていく。う、やばい、ガチ泣きだ。こんなところで泣きたくない、恥ずかしい……! 痴漢に泣かされるのも悔しいのに……!!



――――☆




 拝啓お母様。




 至らぬ私の不注意から女の子になってしまい、そろそろ半月が経とうとしております。昨日は同級生に絡まれ後輩に絡まれ、今日は朝っぱらから痴漢にあってしまいました。そろそろ心が折れそうです。


 心の中でつらつらと母ちゃんに手紙を書く。

 気分的には毛筆で。


 ――って母ちゃんに手紙なんか出せるはずねーよ!「普段男だ男だ言ってるくせになんで痴漢を捕まえなかったの!」スパーン!(ビンタ音)となるのが目に見えているもん!


 母ちゃんに相談しても助けてくれるはずない。じ、自分の身は自分で守らなきゃ……もうあんな怖い目に合うのは嫌だ。


 購買部でカッターを手に入れる。


 次、痴漢に会ったらこれで反撃しよう。刃物を持ち出せば向こうもビビるはず。

 できれば折り畳みナイフが欲しい……。


 体の前でカッターをチキチキ鳴らしながら教室へと入る。



「おはよう……、ご、ざいま……」


「ど、どうしたの未来。死相が出てるよ」

 と、美穂子。


「いっぺん死んだのにまた死相が出てるのかー。今度は何が原因で死ぬのかな……」


 ははははー。と笑う。


 沈黙。


「もう駄目だ、俺、次は男性不審で死ぬかもしれない……」

 がっくりと机に手を付いて項垂れる。


「痴漢にでもあったのか?」

 花沢の質問にコクリと頷いた。


「痴漢ぐらいで大げさだなー」

 中村(男)が笑う。


「あ! 言ったな! んじゃお前も見知らぬおっさんに手汗でベトベトの手で太ももを撫で回されてみろよ! 危うく手がパンツにまで入って来るところだったんだぞ!」


「……あー。そりゃ最悪かもなー」


 ようやく痴漢される女子の気持ちが分かったのか、中村が気持ち悪そうに顔を歪めた。最悪に決まってるだろ!


「無理やりエロいことしようとしてくる男全部バーコードハゲになれ!!!」

「元からバーコードハゲの男性にとっては何の意味もないから、チンコ腐り落ちろぐらいにしておけ」


 ひいい花沢怖い……!!


 騒がしかった教室が一瞬でシン、と静まり返った。


 先生なんかよりもずっと大きい、百九十に届くかという体躯の男が腰をかがめてドアを潜ってきたからだ。言わずと知れた竜神だ。


 相変わらずの物騒な面で、ただ教室に入ってきただけだというのに、風に吹かれたススキさながらに生徒達が気圧されちゃってる。


 そんな沈黙の中、俺はスポドリ片手に竜神に駆け寄った。




「竜神君、お早う! この前はありがとうな! これ、お礼のスポドリ! 今日も休みかなって思ったけど念のため買っといてよかったー」


 どうでもいいけど、こいつ本っ気にでっけーなー。

 手もでかい。痴漢の手もでかいって思ったけど、それよりもっと大きい。


 俺が差し出したスポドリを竜神は反射的に受け取っている。俺の指と竜神の指が重なった状態だから余計でかいのを実感しちゃう。


「あ、そだ、竜神君がクラスメイトだって話したら、母ちゃんがお礼したいから家に連れて来いってうるさくてさ、よかったら今度遊びに来てよ。好きな食べ物ある? 松坂牛って言われても無理だけど、ステーキぐらいなら準備するから」


 竜神はこっちを見たまま停止してた。


「うん? どうかした?」


「いや……、お前、すげー喋るのな」


 久々に声聞いた。低いけど聞き取りやすい声。こいつの声好きだな。耳に気持ちいい。


「そう? 普通じゃない?」


「病院に連れて行った時は大人しかったから……。体は大丈夫なのか?」

「うん、平気………………」


 体は大丈夫だけど、メンタルが……。明日もまた痴漢にあったらどうしよう……。

 一気に落ち込んでどよどよと暗雲を背負う。


「……出せよ」


 竜神が俺に向かって掌を差し出した。

 だ、出せって何を!?

 も、もしかして金!? 救い料100億万円ローンも可的な事!?


「か、金とか、あんま無いんだけど! 俺の家、母子家庭で貧乏だし」


「なわけあるか。さっき思いつめた顔でカッター買ってたろ。大方、痴漢にでもあって反撃するつもりだったんだろうけど、カッターでやったら前科が付くのはお前だぞ」


「う……」


 それもそうだよな。差し出された竜神の手にカッターナイフを乗せる。

 今度からは一時間ぐらい早起きしてから家を出ようかな。それぐらいなら混んでないだろうし。そっちが――。


「明日からはオレが送り迎えしてやるから」


 竜神からの思いもかけない言葉に驚いて顔を上げる。


「え? ど、どうして? 竜神君にそんなことして貰う理由が無いよ」


「あるんだよ。お前を轢いたのがオレの親戚だったんだ。お前に不便が無いように手助けしろって言われた。遠慮しないでいいから困ったことがあったら何でも言ってくれ」


 え!! そ、そうだったの!? 世間って意外と狭いな……。


「せんぱーい、遊びに来ちゃいました」

 おじゃましまーすと教室に頭を下げて達樹が教室に入ってくる。

「中学生のくせに高校生の校舎に入ってくるんじゃねーよ」


 じっとりと睨みつつ先輩として注意する。


「未来先輩と話したかったんですもん」


 達樹は中学三年生だ。いっこ下のこいつとは何回か試合もしたことがあって、高校に入る前から面識があった。バカだけど、俺みたいなモブ先輩にも無邪気に懐いてくるガキっぽい後輩だと認識してた。


 はずなのに。


 達樹が近寄ってきた瞬間、体が震えた。

「え?」

「え?」


 俺と達樹が同時に呆然と呟く。

「せ、せんぱい、どうしたんですか?」

「わ、わかんねえ」


「ひょっとして、おれの事が怖いの? どうして!?」

「怖いわけあるかぁ! 全然違う!」


 誰が後輩を怖がるか! しかもよりによって達樹なんか!


「下がれ」


 竜神が俺と達樹の間に割って入った。

 背中に自分の体が隠れた途端、体から震えが止まった。


「りゅ――りゅうじんくん、俺は達樹が居ても平気だから……」


「今は無理すんな。教室から出て行け中学生。お前だって日向さんを怖がらせるのは本意じゃねーだろ」


「…………!」


 竜神に促され達樹が唇を引き結ぶ。

「すいませんでした……先輩……」


 想像以上に憔悴した達樹が俺に向かって頭を下げ、教室から出て行った。

 もっと自分勝手な後輩だと思ってたのに、意外と素直なんだな。

 ん?

 廊下から女子の歓声みたいなのがこっちに近寄ってきてる。

 なんだろ?


 俺の席は廊下から二列目。ふ、と廊下側に視線を向けると、オッドアイで茶髪の男が教室に飛び込んできた。耳まで真っ赤になって。



「あ、浅見、おはよー。やっぱかっこいいな。そっちの方が似合うぞ」

 早速追っかけまで出来てるじゃないか。


 浅見を追っかけてきた数人の女子が教室の前で「1年2組の子だったんだー」とか言ってる。


「未来」


挿絵(By みてみん)


 ほっと息を付いて駆け寄ってくる。


 片目は茶色、片目は青色の綺麗なオッドアイに喜色が広がった。ヘルメットを被ったみたいな髪型も、長さはあんまり変わってないけど、毛先が程よく不ぞろいにされていて、染めていたのも落としたのだろう、茶色の髪がオッドアイを引き立ててた。


「ここに来るまでにずっと人に見られて……物凄く恥ずかしかったよ……! 未来が居てよかった。これで未来と会えなかったら絶対学校から逃げてた……」


 浅見の顔は例によって耳まで赤い。


「きゃー、浅見君なの?」


 唐突にでかい声で話しかけられて、浅見が可哀相なほどビクつく。

 美穂子だった。美穂子は美人の癖に誰にでも気安いのだ。


「両目の色が違ったんだね。それってオッドアイっていうんでしょう? 綺麗~。何で俯くの? もっとちゃんと見せて」


 真赤になって俯いている浅見を無理やり上向かせようとする美穂子を慌てて止める。

 あんま構いすぎたらこいつ、沸騰して泡になって消えちゃいそう。


 浅見は絶対絶対女子にエロいことなんかしないだろうな。

 いい奴だ。

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