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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十三章 みんなで大騒ぎ三回目
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動物園に行こう!(二回目のデート)

この話は「女の子はお揃いが大好き!」の後に入るエピソードでした。

「未来。土曜日に動物園にいかねえ? カピバラの温泉、今月までしかやってないらしいぞ。見たいって言ってたろ」

「!! い、行きたい、行きたい、絶対行きたい!!」


 食い入るように読んでいたガールズPOPを放り投げて、ラグに寝転がってた竜神に飛びつく。

 ここから車でおよそ一時間の距離にある華桜山動物園。創業50年を誇るこの動物園では冬の間、温泉に入るカピバラが見られるのだ!


 俺が愛するバカ面動物の頂点に立つと言っても過言ではないキングオブバカ面カピバラ!!


 そんな彼等が温泉でまったりする姿を、小学校のころから、いや、物心ついたころからずっとずっと見たかった。

 でも母ちゃんは家のイベント無頓着だし、兄ちゃんは出不精。

 そして唯一の友達だった良太と美羽ちゃんは寒がりで、真冬の動物園なんて本気で嫌がられてたから行く機会の無いまま16年が経過してしまった。

 と、とうとう行ける日が来た……!!!


 というか、俺、完全に忘れてた。クリスマス前のテレビのCM見て、行きたいなって言った記憶はあるけど、ぼやいただけで終了してた。

 りゅう、気にしてくれてたんだ……!


「土曜の何時から行く!? 百合達にも予定聞かなきゃ――」

 開こうとした携帯を、竜神が俺の手の上から掴んでパタンと閉じてしまった。


「?」


 どうしたんだ? 皆に連絡して予定聞かないといけないのに。ひょっとしてもう相談してんのかな?

 言葉を待つ俺に、竜神が言った台詞は予想外の物だった。


「たまには二人でな」


「――――!!!」


 デ、デート……!?

 動物園でデート!!!


「今から楽しみすぎて寝れないかも……学校行きたくない……!!」

「お前が休むならオレも休むけど……これ以上休んだら出席日数不足で留年して4月にはお前の後輩になりそうだな」

「ちゃんと学校行きます!!!」


 土曜日まで遠いよ……でも死ぬほど楽しみ!! 早く土曜日になれー!!

 俺の願いは天に届かず、ものすっごーく苦痛な水曜日、木曜日、金曜日を終えてようやくな土曜日。


 出発は十時だったのに朝六時に起きだして、お弁当作りに励んでしまった。


 ふんわりしっとりふわふわなハムと卵のサンドイッチ。

 ぱりっと美味しい、きゅうりとツナのサンドイッチ。

 竜神用にソースとキャベツたっぷりのボリュームあるカツサンドイッチ!!


 それとそれとー。そだ、グラタンつくろ!

 熱々グラタンも美味しいけどお弁当のグラタンも大好きだ。

 しまった、小さいカップしかないぞ。……いっそのこと、六個作ろうかな。

 俺が二個、竜神が四個。

 よし。そうしよ。


 ぴりっとスパイシーなカラアゲは下にレタス敷いてっと。


「みき……、早いな……」

「おはよ! 今日の朝ごはんは大根おろしと納豆、海苔、塩鮭と卵焼き、ジャガイモとたまねぎのお味噌汁だー」


 竜神は寝惚けてるせいでいつもより三割増し人相悪い顔で俺に抱きついて抱え上げてきた。足がブラーンとなってしまう。それから、ふらふらと洗面所へと入って行った。


 朝ごはん食べて、竜神は家事と筋トレと柔軟、俺は家事と着て行く服の吟味で午前中を費やし、出発の時間になった!!


「よし」

 華桜動物園は「動物との触れ合い」をモットーにしてる。

 カピバラ、ウサギ、モルモット、犬、猫、リスザルといった小動物は勿論のこと、カンガルーに似たワラビーやヤギ、羊、ポニー。ラクダの仲間のラマ、陸ガメ、プレーリードッグ、ミーアキャット――はてはフラミンゴやカモ、インコ、クジャク、フクロウといった鳥類まで園内に放し飼いにされている。


 一メートル以上ある鳥も平気で園内を闊歩してて、幼稚園児のころちょっかい出そうとして逆に追いかけ回されたのは懐かしい思い出だ。


 そんないつでも動物と接触できる動物園なので、汚されてもいい服装で行くのが鉄則だ。むしろ動物と接触しまくりたいので毛がついても、齧られてもいいぐらいの勢いで準備しなければ。


 試行錯誤して選んだのはスソが開いたAライン?のコート(Aの文字みたいにスソが開いたコート)とミニスカート、そして分厚いタイツとショートブーツ。

 ショートブーツって、スニーカーほどラフじゃないのに歩きやすくて好きだ。

 マフラーと手袋をつけて完成っと。


 結構可愛い服ばかりなんだけど総額はお安い。

 動物に引っかかれても汚されても悔いはないコーディネートである。


 お弁当を用意して、出発だー!!


「あ、そうだ、渡す物があったんだった」

「? 何?」


 中ドアを開けようとした竜神が、ふと足を止めて、リビングのコートハンガーに掛けていたスポーツバッグから紙袋を取り出した。


「お前に似合いそうだから買ってたんだよ」


 え!?

 何!?


 プレゼント包装された俺の掌程度の小さな紙袋。


 クリスマスに貰ったのは手袋だった。

 誕生日は商品券。

 そしてその前は防犯ブザー。


 似合いそうってことは身につけるものだよな。


 防犯グッズかな?

 サイズ的に、鞄に貼ると夜道で光るシールっぽいな。



 どこに貼ろうかな……なんて考えながら中身を出すと――――出てきたのは、シンプルな花の飾りがついたヘアピンだった!!!


「ふゃああー!! あ、ありがとう! 絶対大事にするよ! 一生大事にするよ!!」


 何これ予想外だよ! まさかアクセサリー貰えるなんて!


「一生!? 言っとくけど、それ、夢屋の雑貨店で買った500円の安物だからな。大喜びするほどのモンじゃねーぞ」

「どこにつけたらいいかな?前髪?横の髪?」

「聞いてるか?」


 玄関横に置いてる姿見の鏡に飛びつく。

 前髪もいいけど、やっぱり横かなー。前髪と横の髪の分け目のところにゆっくりとさす。

 よし、完成――わー、可愛いなー!


 ヘアピンしただけなのに、顔の印象が明るくなった気がする。

 りゅうに始めてもらったアクセサリーだー! しかも始めてつけたのがデートの日なんて!!


「お待たせ、行こう!」

「ん」

 竜神に飛びついて、二人一緒に玄関を出る。




「あら、おでかけ?」

 庭先を履いていた奥さんに声を掛けられた。三軒隣の奥さん、坂本さんだ。


「はい! 動物園にカピバラ見に行ってきます!」

「あらあら、デートなのねえ。良かったわねぇ未来ちゃん。幸せそうな顔しちゃって」

 ぽやーっとふぬけた顔をしてる俺に坂本さんが笑う。

「いってきまーす」「行ってきます」

 挨拶して別れ、桜咲のバス停で、バスを待つ。

 お弁当が入ったバッグは竜神が持ってくれた。

 動物園までの交通手段も調べてくれてて、俺は言われるがままバスに乗り込むだけで良かった。らく……。

 

 バスは半分以上席が空いてた。だけど運悪く一番後ろの座席が埋まってたので、二人掛けの椅子に並んで座る。

 竜神、身長が高いせいでバスだと足が窮屈になるんだよな。一番後ろの、前の座席が無い席にしかゆっくり座れない。今日も座り方がなんか斜めになった。

「お前が小さくて助かるよ……」

「でかいのも大変だよなー。このバスだと、竜神が後ろ側に立ってたら頭が天井につきそう」

 後ろの席の床が高くなってる古いタイプのバスだから、一番後ろに立ってたら、バスが揺れるだけで天井に頭をぶつけそうだ。

「中学の時とっくについてたぞ。今じゃ腰曲げないと立てねーだろうな。早く18になって車の免許取りてえ」

 気の毒に。

 早く動物園につかないかなー。


「竜神はどの動物が楽しみ? やっぱライオンとか象?」

「どれが楽しみかって聞かれたらラマかな」

「そうなの? なんか意外」

「ラマなら触れるだろ? 観るだけの大型獣より、触ったり餌やったりできるのが楽しいからな。リスザルもいいよな。肩に乗ってくるから」


 それは判る!


「アルパカも増えたらしいぞ」

「――! 世界二大バカ面動物が揃ってるなんて楽しみ……!」

 竜神にぐいって近寄ったせいで、マフラーで押さえられてた髪が一房はらりと顔の横に流れた。


 突然竜神が髪に指を通して、俺の耳に引っ掛けた。


「ぁう……」


 ごつくて長い指にいきなり触られて、変な声が出てカアアアって全身の血が沸騰した。

 わなわなして硬直してから竜神の太腿を拳でバシバシ叩く。


「髪がくすぐったいって知ってるだろー、いきなり触るなー」

「悪かった。ヘアピン似合うって思って、つい」


 ヘアピン。


「似合う?」

「想像以上に似合ってる」


 なら許す。



『間もなく、華桜山動物園前です。お降りの際は――』


 バスでの一時間はあっという間だった。

 家族連れやカップルと一緒に俺たちもバスを降りる。

 目の前が動物園の受付ゲートだ。


 ポップな動物の絵の書かれた雨避けを周りこんで入場券売り場に入ると――。


「あ、来ましたよ」

「竜神君、未来ー」

「お早う!」


 百合、美穂子、浅見、達樹。見慣れた面々がそこで待っていたのだった。


「何で居るんだよ……!」

 竜神が唸るように言って、その場にしゃがみ込んでしまう。


「あぁ! 偶然だな未来、竜神」

 語尾に(棒)ってつくぐらいの判りやすい棒読みで百合が手を上げた。


「白々しいんだよ。お前、盗聴器仕掛けやがったな? どこに仕掛けた」

「何のことだかさっぱりわからんな」

 竜神に詰め寄られた百合がくくくくくと口を三日月にして笑う。


「え!? ひょっとして、未来と竜神君デートだったの!? ごめんね、私てっきり」

「ぼ、僕も皆で行くと勘違いしてたよ! ごめん邪魔して」

 美穂子と浅見が慌てて謝るが、竜神は掌を向けて制した。

「お前達は騙されただけだって言われなくても判るから謝らなくていいよ」


「おれは先輩たち二人と別行動な時点で予想してました」

「それも判ってるよ」

 でかい手のアイアンクローで頭を締め付けられて、達樹がガチな悲鳴を上げる。


 デートじゃなくなったのは残念だけど、でも、皆で周るのも楽しいよな。

 どっちにせよ、せっかくの動物園――カピバラ温泉なんだ。

 たっぷり楽しむぞ……!


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