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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十二章 ようやく三学期
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小話(良太の誕生日)

「あ、そろそろ良太の誕生日だった! プレゼント買わなきゃ」

「……!」


 竜神と二人での登校途中、ふと思い出して呟いた。


「駄目だ」


 頭上からそんな声が降ってきて、「?」と見上げてしまう。


「誕生日の時、佐野からなんか貰ったのか?」

「貰ってないけど……、でも、誕生日だし」


 毎年祝ってくれてたしな。

 ケーキも無かった去年までの俺の誕生日を祝ってくれたのは良太だけだった。

 今は竜神がいるから寂しく無いものの、今までのお礼もかねて何か渡したい。


「じゃあプレゼントする必要もねーだろ」

「どうしたんだよ。竜神がそんなこと言うなんて珍しいな」


 メイド喫茶でのバイトだけは頑なに断られてるけど、基本的に竜神は俺の行動を制御しようとはしない。

 こんなにきっぱり断られるなんて珍しいぞ。


「佐野だけは嫌なんだよ」

「なんで?」

「――お前を取られそうだから」


 ええええええええ!?!?

 思わず竜神から離れて、鞄を盾にして体を振るわせてしまう。

「気持ち悪いこと言うな! 十年も一緒に居た兄弟みたいな奴なんだぞ! 想像しちゃったよおおおぞましい……」


 良太だって俺と付き合おうなんて考えたこともないだろ。

 そもそもあいつには美羽ちゃんっていうラブラブ彼女がいるんだからな。


「……じゃあ、プレゼントはオレが選ぶ」

「ん、いーぞ。予算は百円な」

「百円か」

「百円だ」

 あいつからのプレゼントは貰ってないから、このぐらいの金額が妥当である。


 竜神は俺の手を引いて、道を逸れた。

「どこ行くの? 学校遅れちゃうよ?」

「すぐだよ」


 言葉の通り、曲がり角を少し進んだ場所に、サッシ戸もレトロな駄菓子屋さんがあった。こんな朝早くから店を開いているってことは、文房具も売ってるタイプのお店だな。

 予想通り、三畳程度の小さな空間に駄菓子と文房具がひしめいてた。

 店の奥に小柄なおばあちゃんが正座してる。


「あー。いらっしゃい。強志じゃないか。久しぶりだねえ。見るたびにでかくなるねえ。次会う時は三メートルかねえ」

「久しぶり。ばあちゃんは相変わらずばあちゃんだな」

「ばあちゃんは時々セクシーギャルになるんだよ」

「そうかよ」


 お婆ちゃんは顔色一つ変えず冗談か本気か判らないことを言って、竜神も軽く聞き流して、雑多に商品が並べられた棚の前で膝を折った。


「あー。随分可愛い子だねえ。どこからさらってきたんだい。強志」

「さらってねえ」

「お嬢ちゃん、強志の彼女かい? 可愛いねえ」

「あ、ありがとうございます……」


 どうしていいか判らなくてお婆ちゃんと向き会ってると、お婆ちゃんが突然くわっと目を見開いた。びくっと後ずさってしまう。


「お嬢ちゃんのお目々があんまり大きいから、ばあちゃんも対抗したくなったよ」

「は、はぁ……」

「佐野にはこれで充分だろ」


 竜神が差し出したのは、すもも味の飴だった。20円である。


「うん」

 特に拘りは無かったのでそれに決定してしまう。


「あ、これ、好きだったなー」


 俺も竜神の横に膝を折る。

 指輪の飴だ。値段の割りに飴が大きいから気に入っていた。だけどデザインがデザインなので、買っているのを見られるのが恥ずかしくて、店に誰も居ない隙を見計らってこっそり買っていた。懐かしい思い出だ。

 竜神が俺の手から指輪を取って、お婆ちゃんに商品を差し出す。お婆ちゃんはまだ目をくわっと開いたままだった。


「ばーちゃん、これ」

「りゅう、お金」

「いらねって」


 サイフからお金を取り出して竜神に差し出すんだけど受け取って貰えなくて、こっそり竜神のズボンの後ろポケットに突っ込もうとしたら睨まれてしまった。

 すごすごとお金をサイフに戻す。


「あー。五十万円だよ。あー。そういえば強志、とうとうヤクザに就職したって本当かい」

「誰がんなデマ言ってんだよ。警察官目指してるって言ったろ。第一まだ高校生だし」

「あー。そうかい。幹部就任おめでとう。犯罪にだけは手を染めるんじゃないよ」

「……ばーちゃんが広めてるんじゃねーだろうな。その噂……」


「五千万円のおつりだよ」


 竜神が俺に「手」と言った。

 鞄を持ってなかった左手を上げる。と。左手の薬指に飴の指輪がはめられた。


「予約」

「え!!?」


 左手薬指――。

 結婚!?

 結婚指輪!!?


 おおおおおお!!

 飴の指輪がダイヤモンドの指輪より貴重なものに見える……!

 高く手を掲げて見上げてしまう。


「ちゃんと本物送るから、他人から指輪貰っても受け取るなよ」

「受け取るわけないだろー!」


 写メ! 写メ撮っとこう!


 掌を顔まで上げて、カメラに指輪を見せつつ、シャッターを切る。

 にゃろーん。って気の抜ける撮影音がしてばっちり撮れました!



――――


 良太の誕生日、当日。


「みーき、今日何の日か覚えてるかー?」


「はい、これ」

 差し出されてた良太の掌に竜神が買ってくれたすもも味の飴を乗せる。


「飴だけかよ。ケチくせーなぁ」

「やるだけありがたく思え。去年プレゼントくれなかったくせに」

「しょうがねーだろ、美羽が嫌がるんだから」

「ならプレゼント欲しがるなよな」


 良太は早速包みを剥いで飴を口に入れた。

「うわ、懐かしい味。すげー久しぶりに食ったな」

「ありがたく食べろよー」


 良太が席から立ち上がって歩き出した。美羽ちゃんの所にいくのだろう。

 背中に呼びかける。


「良太」

「ん?」


「誕生日おめでとう」


「おー。さんきゅ」


 良太は笑って手を振って、短く返事だけ残して教室から出て行った。





 10年間。一緒にいてくれてありがとうな。元、親友君。






未来は女の子に触られるのも怖がるくせ、良太になら胸を触られても全然平気なので、竜神にとって良太は最大のライバルです。もし未来を取られることがあるならば、浅見でも達樹でもなく良太だろうと考えてます。

そして、浅見にとっても、一番の親友ポジションを競う相手として良太が最大のライバルです。良太自身はごく普通のモブレベル男なのに、売れっ子モデルとヤクザ風同級生にライバル視されるという謎な現象が

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