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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十二章 ようやく三学期
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恐るべき生理、二回目

今回は生々しい描写はありません

 変だな。

 まだ十時なのに凄く眠い……。

 ここのところ、竜神のベッドで寝てるから毎日熟睡できてるのにどうしてこんなに眠いんだろ……?


 ご飯を食べて、お風呂入って、勉強して、一日の雑事が全部終了する午後十時。

 さー、これから竜神と一緒にまったりテレビでも観て過ごすぞー。って楽しい時間だ。

 寝るのは勿体無いから、しぱしぱする目をどうにか開いてテレビ前のソファに座った。


 途端に。


 ぎし、とお腹が……いや、下腹部が軋んだ。


「うきゃ」


「未来?」


 ぎし、だった痛みがギシシシシシ!! ってなって一気に腰までだるくなる。


「うきゃあー」


 ぼてっとソファーに横たわってお腹を押さえつけてしまう。


「どうした!?」


「お、おながいだい」

「腹!? あたる物食ったか!? びょうい」


「ちがうー痛み止めくださいー」

「痛み止め、」


 竜神はすぐに鎮痛剤と水の入ったコップを持ってきてくれた。

 ソファに蹲ってた体を起こしてくれて、竜神の胸にぐったりと寄りかかりながら薬を飲む。


「びゃー。いだいー。しぬー」

 お腹の中に小人が居て、内臓を剥がそうとしてるような強烈な痛みだ。

「薬だけで平気か? 病院連れて行こうか?」

「くすりだけで平気……」


 よたよたと立ち上がってトイレ行って、よたよた戻ってきてソファの上に横たわる。


 単なる生理痛だから病院は必要ありません。

 けど、今回、すげー痛い……!

 こんな痛いのって始めてかも。


 生理痛って毎月同じぐらい痛いモノだとばかり思ってたのにこんなにムラがあるんだな……。

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。早く薬効けええええ。


 竜神がソファの前にしゃがんで、心配そうに顔を覗きこんできた。


 いいよなー男は生理痛無くて……!

 ソファに寝転がったまま竜神の人差し指に噛み付いて、がじがじと歯を立てる。


「……?」

「すげー痛いからやつあたり中」

「これがやつあたりか? 甘噛みしてるだけじゃねーか。普通に殴ってもいいぞ」

「!? 怖いこというな! 殴れるわけないだろ」


 やつあたりを止めて、今度は手の甲に頬擦りする。いたいよー。いたいよー!


「オレに出来ることはあるか?」

「……なでなでしてください」


 痛みのあまり竜神を睨みつけながらどすの効いた声でお願いする。大きな掌が髪の流れを辿るように、ゆっくりと頭から首まで撫でた。

 これも気持ち良いけどなでなでの位置が違います。


 手首を引っ張って下腹部に持っていく。竜神はそのまま優しい手付きでお腹を摩ってくれた。

 うー。かなり気持ちいい……。ちょっと楽になってきた。


「暖かい飲み物でも作ろうか?」


 暖かい飲み物!? 欲しい!


「じ、じゃあ、蜂蜜ミルク飲みたいです」

 前、俺が落ち込んでるときに作ってくれたホットミルク。

 あれ、すっごく美味しかった上、気持ちが落ち着いたからまた飲みたい!


「どうしてさっきから敬語なんだよ。具合悪いときぐらいふんぞり返ってていいんだぞ」

 竜神は笑ってブランケットを俺に被せた。それからサイドボードから貼るカイロを取り出す。


「カイロ?」

「腹に貼っとけ」


 お腹に?


 頭にハテナマークを飛ばしてると、竜神が何かに気が付いたようにあぁ、と呟いた。

「暖めたら楽になるらしいぞ」


 そうなの?

 ――って、りゅう、何も言わないけど、俺が生理痛で苦しんでるって判ってる感じだよな。

 ウチの母ちゃんでさえ、「病気じゃないんだからどうしょうもないわよ」って程度しか知らなかった。

 なのに、どしてこんなに詳しいんだ??


 お、女か!? 女友達とかモトカノからの知識か!? おおおおおお。


「ど――どうしてそんなに詳しいの?」

 わけのわからない衝動につき動かされて、ついそう尋ねてしまった。

 自分から地雷を踏みに行ってどうする俺!


「花に躾けられたんだよ。女が腹痛いって言い出したらすぐにカイロ持ってこいってな。あいつ容赦ねえからな。下手したらジャンプ飛んで来てた」

 あ、そっか、花ちゃんかー。

 びっくりした。

 花ちゃん相変わらず竜神に容赦ないんだな。

 俺がウチの兄ちゃんにジャンプ投げようものなら容赦ない蹴りで反撃されちゃうよ。


 ブランケットに頭まで潜ってキャミソールの上からカイロを貼る。


「他に何か言ってた?」

 この痛みを楽にする方法があったら聞いておきたい。


「他……? 背中をマッサージしろとか、するなとか、して欲しいことが無いか聞けとか、話掛けられるのもウザイから黙ってろとか……だったか? 毎回言うこと変わるから大変だった」

 さすが竜神家のお姫様……。

「じゃあ、お母さんは?」

「お袋も似たようなもんだよ。飛ばしてくるのがクッションなだけマシだ」

 が、がんばれお兄ちゃん。


「ほら、出来たぞ」


 体を起こして、差し出されたマグカップを両手で受け取る。

 冷えた指先に気持ちいい、暖かいマグカップ。

 立ち昇る湯気は甘い香りを運んできた。

「ありがとう……」


 そっと口をつける。やっぱり甘くて美味しくて、体に染み渡っていく。

 じんわりと体を温めてくれる優しい味に、飲み終わる頃には瞼が半分も落ちていた。

 カイロの温もりとミルクの熱で痛みが随分楽になった。


 歯を磨いて竜神の隣に戻るけど、テレビの内容もわからないぐらいに眠い。

 あぁ、生理が来るからあんなに眠かったんだ……。すごいな人間のメカニズムって。

 俺の意識は今日生理来るなんて予想もしてなかったのに、体は先に気が付いて、眠さで始まるよってPRしてたんだ。


「先に寝るか?」

「ん……」


 うとうとする俺の手を引いて、竜神の部屋に入れてくれようとした。

「きょうは、自分の部屋で寝るよ」

「……ちゃんと眠れるのか?」

「すごい眠いから、ねれる」


「心細くなったらいつでも呼んでいいからな」

「ん」


 ベッドに横たわる俺の頬を撫でてくれる。

 やっぱりその手が気持ち良くて、布団はまだ冷たかったのに、すぐに眠気が襲ってきて朝までぐっすりと眠ることができたのだった。





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