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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十二章 ようやく三学期
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女の子はお揃いが大好き!

「ね、竜神、パルに寄っていい? そろそろ靴変えたいから」

「あぁ」


 横を歩く竜神の袖をちょっとだけ引っ張って、いつもの帰り道から横に逸れる。

 パル、とは桜丘駅前にある靴屋さんだ。二階建ての大きな店舗で、激安の靴からブランド品まで種類もメーカーも豊富に取り扱われている。


 女になった時、急に色々揃え無くちゃならなくなった。

 それこそ洋服から下着、バッグや靴、制服まで全部。

 一つ一つに大金掛けてたら一か月分の生活費が飛んじゃうから、当時に揃えた俺の持ち物は全部安物ばっかりだった。

 今使ってるローファーも1600円の安物だ。

 そのせいか、まだ一年も経ってないのにくたびれてる。

 さすがにそろそろ変えないとな。


 店内に入ると靴屋さん独特の皮の匂いが鼻腔をくすぐった。


「こっち」

 竜神の袖を引っ張って、ローファーの並んだ棚を目指す。


「えと……、アレはどこかな……?」

「アレ? 買うもの決まってるのか?」


「そ。――あ、あった!」


 下の棚にあったそれを両手で持って、竜神に差し出した。


「じゃーん。ヒールアップローファー」


 俺が探していたのはヒールの高いローファーだ。


「今までべた靴ばっかりだったろ? そろそろヒール高いのも練習しとかなきゃ将来困りそうだから。それに、この4センチのヒールを履くと、竜神との身長差がなんと!」


 なんと。


「さ、33センチに縮まるのだ」


 言いつつ物凄く落ち込んでしまう。

「それでも33センチか……」

 竜神と一緒に溜息を吐く。こればっかりはどうしようもないな。

 伸びない俺の身長も、無駄に伸びた竜神の身長もどうしようもないもん。

 7センチ、10センチ、13センチヒールなんてのもあるけど、俺、ヒール初心者だから4センチが精一杯だしなー。


 靴を試着して歩いてみる。

 うーん。ちょっと重たいかも。

 ヒールがあるから仕方ないか。サイズはぴったりだからこれでいいかな? 1900円で値段も手頃だし。


「いらっしゃいませ。お決まりでしょうか?」

 店員さんだ。丁度よかった。

「これをお願いします」

 靴を揃えて、いかにも仕事のできそうな40代っぽい女性の店員さんに差し出す。

 胸の名札には店長と書かれていた。へー、店長さんも接客するんだな。


 店長さんは靴を受け取ってはくれたけど、ちょっと考えてから、靴を床に置いて、俺の目線より高い位置の棚から靴を取って両手を添えて差し出してきた。


「ヒールの高いローファーをお探しでしたら、こちらはいかがでしょうか?」


 わ! 可愛いな。同じローファーなのにさっきのと全然形が違うぞ。

 薦められるまま試着して数歩歩く。


「履き心地はどうですか?」

「軽くてすっごく歩きやすいです。これにします!」

 靴を履き替えて値札をチェックして――――。


 う。


 思わず息を呑んでしまった。

 な、7000円もする……。

 いくらなんでも、俺の月の小遣いより高い靴なんて贅沢だ。


「やっぱりさっきのでお願いします。予算オーバーでした……」

 しょんぼりして靴を返すんだけど、店長さんは微笑んで人差し指を立てた。


「でしたら、こちらの靴を先ほどの靴の価格まで値下げ致しますわ」

「え、でも」

 さっきの靴、この靴の半額以下だったのに?

「その代わりと言ってはなんですが、お友達に靴を買った店を聞かれたら、ここで買ったと宣伝していただけませんか?」

「そんなことでいいんですか?」

「ええ!」


 安くしてもらえるんなら助かる。

「こちらはサービス品です。よかったらお使いください」

 なんと、靴の値段だけじゃなくて、雨を弾く靴用スプレーと靴下までおまけして貰っちゃった。

 実質、靴が無料になったぞ。

 会計が済むと、店長さんは靴の入った紙袋を持って店の入り口まで先導してくれた。

「おまけしたのは内緒でお願いしますね」

 と悪戯に微笑みながら紙袋を手渡されて、頭を下げる店長さんに見送られて俺と竜神は店を出たのだった。



 翌日、早速そのローファーを履いて登校した。


「足、痛くないか?」

「うん、平気! 新品なのに靴擦れもしてない。歩きやすいよ」


 鏡になってる薬局の壁に、制服姿の俺と並んで歩く竜神の姿が写る。

 やっぱり可愛いなこの靴。

 いつもは億劫な学校までの道のりが楽しくなる。

 テンションが上がってきて、また、下手糞なスキップをしてしまう。

「何、変な踊りしてんだ?」

「スキップだけど」

「えっ?」

「え?」


 沈黙。


 あ、百合と美穂子だ!

 校門前で、逆方向からこちらに向かってくる見慣れた二人組みに大きく手を振った。


「百合ー、美穂子ー、おはよー!」


「おはよー。久しぶりにここで会うね」

「お早う。未来、靴を変えたのか」

 早速気が付いてくれた百合に片足を上げてはしゃいでしまう。


「うん! 可愛いだろ、このローファー。駅前のパルで買ったんだー」

「良く似合っているぞ」

「だね。ヒールの高いローファーってギャルの子っぽい印象しかなかったけど、未来が履くと上品に見えるから不思議。立ち振舞いが綺麗だからかな?」

「歩き方に関しては、クリスマス前に徹底的に仕込んだからな」

 百合がにやりと笑う。あの時、マナーの先生と一緒に百合も色々教えてくれたんだけど……ほんっきで容赦が無かった。

 思い出すだけでもお尻が痛い。教鞭みたいなのでバシバシ叩かれたからな。


「私もそのローファーに変えちゃおうかな」

「だめ!」

「どうして?」

「だってだって、ほら!」


 美穂子の横にならぶ。美穂子の身長は163センチ。なんと、このローファーを履いてたら4センチまで差が縮むんだ!

 背比べしながら俺と美穂子頭上で掌を頭上でスライドさせると、美穂子はなるほど、と手を打った。


「じゃあ、十センチヒールのローファー買っちゃおうっと」

「駄目だー! せっかく縮まった差が開くだろー!」

 鼻歌を歌いながら歩き出す美穂子に追いすがる。


「あの、先輩!」


「ん?」


 おお! 中等部の子だ。俺のこと先輩って言った! なんか嬉しいなぁ。

 女の子に先輩って言ってもらえると、こう、くすぐったい気分になる。

 二人組みの女の子はお互い目配せしてから俺に身を乗り出してきた。


「そのローファー、どこで買ったんですか? 教えてください!」

「超可愛いですよね、駅からずっと見ちゃいました!」


 駅から見てたの? 全然気が付かなかった。

 後輩(しかも女子)にも褒めてもらえるなんて嬉しいぞ。

 おまけしてもらったんだから、宣伝もちゃんとしておかないと。


「駅前のパルって靴屋さんで買ったんだよ。履き心地いいからオススメ」


 ヒール初心者の俺でもよろけないぐらい安定感あるのに重くないもん。


「ありがとうございます!」


 がばって頭を下げて中等部の玄関へ走っていく。

 その後、クラスメイトや先輩にもどこで買ったか聞かれて、その度に宣伝に励んだのだった。

 おまけしてくれたのを穴埋めするぐらいには、売り上げに貢献出来ればいいなぁ。




 この数日後。



「えい!」

「うや。な、なにすんだよ花ちゃん」


 珍しく六人揃って下校してたら、校門前で花ちゃんに背中を突き飛ばされた。通り魔かと思った……!


「未来さんのばかー! なんでローファー変えるって教えてくれなかったの!? 私も未来さんとお揃いで買いたかったのにいいいい」


 え? ええ……?


「パルで売ってるよ?」

「もう売って無いもん! 全部売れちゃってたんだもんー!」


「一気に広まりましたからね。ウチのクラスなんて、半分以上そのローファーに変わってますよ」

「中学生だけじゃないぞ。一年にも二年生にも増えていた」

 俺の靴を指差した達樹に百合が言葉を続けた。


「未来の影響力はすごいね。うちの社長が毎日毎日連れてこいって言う理由が良く判った」

「影響力があるからじゃないよ。これが広まったってんなら、友達が履いてたから履きたくなったってだけだろ。この靴普通に可愛いもん」

 変な感心する浅見に突っ込みを入れる。


「違うの! 未来さんが履いてたらなんか、こう、履きたくなるの! 可愛く見えるんだもん可愛くなれる気がするんだもん! とにかく、次持ち物を変えるときは教えてください。約束してよね!」

「わかった、約束するよ」


「お兄ちゃんも教えてよ! 何のために未来さんと一緒にいるの!?」

「少なくともお前のためじゃねーよ」

 花ちゃんは竜神を鞄で殴ってから逃げて行った。



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