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日下部の後を追うと、屋上へ向かう踊り場で足を止めた。こんなところで密会するなんて、何だか気持ちが悪い。
「で、話ってなんだ?」
「いや、まあ何だ……」
何で言い淀むんだよ。嫌な予感しかしないじゃないか。
「俺さ、今回の事件が起こって気付いたことがあったんだ」
まさか、本当に個人的な相談事なんじゃないだろうな。
「俺、今まで気付かなかったんだけど、たぶん……」
言い淀んでないで、さっさと言え。時間もないぞ。
「好きなんだ!」
俺は思い切り脱力した。おいおい、いい加減にしろよ。いや、俺には分かっている。だがな、ここはあまり人通りがないが、公共の場なんだ。誰ひとり通らないような、私有地じゃないんだよ。それで、たまたまここの近くを通りかかった人間が、今の発言を聞いたらどう思う?そして、今の発言を聞いた後、声がした場所から、俺とお前が登場したら、どう思うだろうか?ちょっと想像したら、分かると思うのだが。分かった俺は激しい頭痛に見舞われている。階段なんてところはただでさえ音が響くのだ。発言に気を付けてもらいたい。一応言っておこう。これは訂正させておく必要がある。
「主語と目的語を抜かすな。誰が、誰のことを、好きなんだ?」
「い、言わなくても分かるだろ。他にいない!」
追い打ちをかけるようなことを言うな。あぁ、分かった。お前に少しでも期待をした俺が悪かった。じゃあ、俺がはっきり言ってやろう。誰に聞かれても知ったことか。
「日下部が、星野のことを好きなんだな?」
「そ、そうだよ!文句あるか?」
お前の恋愛事情に口を挿むつもりなど、爪の先ほどもない。日下部の好きにしてもらって何ら困らない。一応はっきりさせておいてが、結局俺は脱力することになる。
「何でそれを俺に言ったんだ?」
「いや、お前には世話になっているし、星野のことをお願いしているからな。隠しておきたくなかったんだ」
こいつは本当に意味が分からない。同じ国で同じ時代に育った同性とは思えない。本当に理解できない男だ。
「言っている意味がさっぱり分からない。一応言っておくが、俺はお前と星野の仲を取り持ってやったりしないからな」
「そこまで望んでねえよ」
本当にそうだろうか。ちなみに、こいつに苦労させられているが、世話をしてやった覚えは全くないし、これからもそのつもりはない。
「で、何か俺にできることはないか?」
正直、日下部にはじっとしていてもらいたいね。
「とりあえず今のところはないな」
「そうか……」
そこでチャイムが鳴り、俺と日下部は教室に向かった。正直、助かったね。
「どうでしたか?」
教室に戻るなり、岩崎に声をかけられた。
「あんたの予想通り、個人的な相談だな」
「それはそれは」
どういう感想だ、それは。
「すっかり仲よくなりましたね」
「冗談でもよせ。一方的に付きまとわれているだけだ」
あんな面倒な人間、あまり見たことがない。面倒事が嫌いな俺にとっては、悪魔みたいな存在だな。
「付きまとわれている、というよりは、懐かれているように見えますが」
「どっちにしても、嬉しくないぞ」
言って、俺は席に向かった。
「何の話だった?」
今度は真嶋から声をかけられる。ま、分かっていたことだ。
「個人的な相談だ。いや、どちらかというと告白だな」
「こ、告白って……」
分かっていて、そんなリアクションを取るな。告白って言葉は実に厄介だな。もともとの意味は『心の中に秘めていたことを、ありのままに打ち明けること』だ。その内容は何でもいい。しかし、現代では告白イコール愛の告白になってしまっている。付き合う、という言葉も同様だな。言葉の乱れは嘆かわしいね。
「あいつから何を告白されても、全く嬉しくない」
「成瀬はあいつが苦手みたいだね」
「あんただってそうだろ」
「ま、否定はしないけど」
言う真嶋は、なぜか面白くなさそうな表情をして、そっぽを向いた。どういう感情からの行動だ、それは。
直後、担任が教室に入ってきて、朝のホームルームを開始した。




