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文化祭が終わり、早一か月が過ぎた。お祭り気分などとうの昔に抜け、目の前に迫った定期テストが終われば、あとは冬休みを待つばかりだ。あと一か月ほどすれば、今年もう終わりである。早いものだ。瞬間瞬間を切り取れば、それはそれは長い時間を過ごしたように感じていた。しかし、過ぎた日を振り返ると、あっという間だったような気がしてしまう。時間というのは実に不思議なものだ。
俺は窓の外を見て、物思いにふけっていた。秋になると、自然に物悲しくなってしまう。それはおそらくだんだん日が短くなることや、気温が下がることに影響されているような気がする。子供のころはクリスマスや正月が楽しみでしょうがなかったが、この年になると正直悲しいやら寂しいやらで、ちっとも楽しくない。また一つ年を取る。その事実が俺をこうして憂鬱へと誘うのかもしれない。俺はこう見えて、実は繊細なのだ。
「成瀬さん」
俺が何となく物悲しくなって真剣に考え事をしていると、すっかり耳なじみになった声に呼ばれた。一年の時から同じクラスであり、部活も同じである岩崎だ。
「もうとっくにホームルーム終わりましたよ。早く行きましょう」
どうやら思いのほか時間が経過していたらしい。実に俺らしくない感じで考え事をしていたため、担任の有難いお言葉を全く聞くことができなかった。
「どうしたの?何か考え事?」
俺が帰り支度をしている横で、どこか心配そうな様子で声をかけてくるのは、一年間ずっと俺の隣にいた、今年から同じクラスになり今年から同じ部活に所属している真嶋綾香だ。
「いや、別に。ただボーっとしていただけだ」
手早く帰り支度を終えると、俺は席から立ち上がる。
「ところで、再来週から定期テストだが、帰って勉強しなくていいのか?」
これは疑問ではない。ただの確認だ。
「何言っているんですか。TCCはテスト休みなんてありませんよ。悩める生徒を救う役目を背負った我々に休みなんてありません」
分かっているよ。ただの確認だ。
「言っておきますけど、三年生になってもそのスタイルに変更はありませんよ」
やれやれ。三年になれば、どの部活も世代交代が始まるというのに。どうやら俺たちは三年になろうと、特別変化しないようだ。先ほどまで物悲しくなって、物思いにふけっていた俺の気持ちを返してほしいね。
「あ、岩崎さん。今回の範囲でちょっと聞きたいことあるんだけど、いいかな?」
「ええ、構いませんよ。あ、これも言っておきますけど、部室で勉強する分には問題ありませんから。そのつもりで」
何が、そのつもりで、だよ。意味が分からないぞ。
こうして、俺たち三人は教室を出て、部室に向かった。