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ROAR OF DRAGONS  作者: 紫鷹丸
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聖竜祭

 八月十四日。

 ログインした瞬間、セレスティアが変わっていた。いつもと同じ街のはずなのに、全てが違って見えた。

 

 街のあちこちに、見たことのない旗が立ち並んでいた。白と青を基調にした布に、竜と騎士をあしらったロゴが描かれている。風に揺れるたびに、その紋様がゆらゆらと動く。大通りの両脇、建物の窓、木の枝、どこを見ても旗があった。

 

 飾り付けも変わっていた。

 木々に青白い光の輪が巻きつけられている。建物の軒先には花と竜をモチーフにした装飾が吊るされていた。普段は素朴な石造りの建物が、祭りの装いをまとって全く別の顔を見せていた。

 

 陽は思わず立ち止まった。

 

 いつもは人が疎らな小道にも、今日は露店が並んでいた。武具、素材、食料、竜用の装備——祭り限定の品も多い。普段より安い値段が目を引く。


 立ち止まる足に言うことを聞かせ、いつも仲間と待ち合わせしている広場へと急ぐと、既に皆集まっていた。

 挨拶を済ませると、早速街を歩き始める。周りはNPC、プレイヤーでごった返し、皆浮き足立っていた。まさに祭りだった。

  

「値段安くなってるね」と陽が確認した。

「今のうちに買い込んどこ」と達也さんが言った。

「待て」とヒロが制した。


「まず全体を見て回れ。衝動買いするな」

「はーい、団長」と達也さんが笑いながら答えた。

 

 広場は特に賑やかだった。大樹の周りに、祭りの催し物が集まっている。竜の模型が展示されていて、歴史上の名竜たちが精巧に再現されていた。その中に、一際目を引く展示があった。

 

 白い竜と、騎士の像だ。

 竜は翼を大きく広げ、騎士を背に乗せたまま天を向いている。二体ともが光り輝いていて、大樹の木漏れ日を受けてさらに眩しかった。台座に文字が刻まれていた。

 

――《初代竜騎士 ヴェルゼアを討ちし者》

――《その名は語り継がれ、その絆は永遠に》

 

「……かっこいいな」

 

 陽は像を見上げた。

 セラが、像をじっと見ていた。白い竜の像を、真剣な目で見ている。

 

「セラ?」

 

 金色の瞳が、白い竜の像から離れない。まるで何かを思い出そうとしているようだった。けれど、それが何なのか本人にも分からない。そんな表情だった。

 

「どうしたんだろう」と葵が小声で言った。

「わからない」と陽も小声で答えた。

 

 昼を過ぎると、街はさらに活気を増した。

 遠くの街からやってきたプレイヤーも多いのか、見慣れない装備の人が増えている。竜同士が挨拶するように鼻先を近づけている場面もあった。どこかから音楽が聞こえてきた。NPC楽団が広場の端で演奏している。中世風の旋律が、セレスティアの空気に溶け込んでいた。

 

 四人は露店を見て回りながら、必要な素材やアイテムを吟味して買い込んだ。ヒロが値段を比較して最適な買い物をリストアップし、達也が交渉で少し値切る。陽と葵が荷物を確認する。気づけばこんなところでもチームワークが染み付いていた。

 

 午後は経験値アップの恩恵を活かしてレベリングに出た。フィールドのモンスターを倒すたびに、普段より多くの経験値が入ってくる。ドロップ率も上がっていて、素材が豊富に集まった。

 

 日が傾いてきた頃、街に戻ると様子が変わっていた。プレイヤーたちが広場に集まり始めている。皆、何かを手に持っていた。

 

「竜灯や」と達也が言った。

「竜灯?」と陽が聞く。

「祭りのイベントや。あそこで配ってる」

 

 広場の入口に、NPCが竜灯を配っていた。淡い光を放つ、小さな灯りだ。薄い紙でできた球形で、下部に炎のような光源がある。側面に小さな紙が貼り付けられていて、そこに願いを書けるようになっていた。


「願いを書くの?」と葵が言った。

「そうらしい。初代竜騎士に届くって言われてるんやて」

 

 四人はそれぞれ竜灯を受け取った。陽は側面の紙に、少し考えてから文字を書いた。

 セラのことを、もっと知りたい

 

 葵が隣で何かを書いているのが見えた。陽は覗かなかった。

 ヒロは無言で書いた。

達也は「どんな願いにするか迷うわー」と言いながら、結局素早く書いた。

 

 そして日が完全に沈んだ。

 空が、深い藍色に染まった。

 

「そろそろや」と達也が言った。

 

 合図があったわけではない。でも、広場にいた全員が、自然と空を向いた。

 一つ、また一つ、竜灯が空へ上がっていく。最初はぽつりぽつりと。やがて次々と。広場から、街の路地から、建物の窓から。あちこちから竜灯が飛び立っていく。

 

 白い光。青い光。無数の願いを乗せた灯り。 

 誰かは強くなりたいと願った。誰かは仲間をつくりたいと願った。誰かは、自分の竜が成長することを願った。数え切れない想いが、光となって空へ溶けていく。


 自分の竜灯に火を灯した。手を離す。ふわりと、上がっていった。白と青の光が、夜空へ向かっていく。陽はその光を目で追った。隣でセラが、空を見上げていた。


  

 深夜になっても、セレスティアは眠らなかった。


 休憩するために、四人はそれぞれ宿屋の個室で休むことにした。ゲーム内でも睡眠を取ることができる。ログアウトしなければ接続は途切れない。達也はログアウトせず、たまにゲーム内で仮眠して続ける事もあるらしい。

 例によって達也は少し仮眠するらしい。


 陽は、ふと部屋の窓を開けた。

 すると街が、光っていた。白と青の光が、建物の壁に、木々に、石畳に滲み出している。まるで街全体が発光しているようだった。普段は閉まっている店も開いていて、露店もそのままだ。プレイヤーたちが、夜の光の中を歩き回っている。

 

 そして——空だ。

 空に、沢山の竜灯が浮かんでいた。

 昼間に流した竜灯が、まだ漂っている。白と青の光の粒が、星と混じり合うように夜空を埋め尽くしていた。どこまでも続いているように見えた。

 

「……きれいだ」

 

 声が漏れた。

 セラが陽の隣に座り、窓の外を静かに見ている。金色の瞳に、竜灯の光が映っていた。

 

「セラ、見てるか?」

「ウン、キレイ」

 

 二人は、しばらく窓の外を眺めていた。

 光の海の中に、自分たちの願いも混じっている。

 どこかでヒロの声がした。外にいるらしい。葵は部屋にいるようだ。

 

 白青色に輝くセレスティアの夜。

 上空を漂う無数の竜灯。

 陽は思った。ゲームの中なのに、本物だと思えてしまう。いや、本物なんだ。今ここで感じているこの景色は、確かに本物だ。

 

「セラ」

「ウン」

「来てよかった。この世界に」

 

 セラは少し黙っていた。夜風が白色の鬣を揺らす。

 

「ウン、ボクも」

 その言葉は短かった。

 

 けれど陽には、不思議と重く聞こえた。セラ自身も、この世界で生まれたことを喜んでいるようだった。

 そして陽は小さく笑う。


 窓の外では、竜灯がまだ空を漂っている。

 聖竜祭は、まだ終わらない。

 一日目の終わり、まだ始まったばかりだ。

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