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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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ギルド最弱の神官騎士、使えないからと廃棄物処理を押しつけられて十年。祈りを込めて解体してたら今ではあらゆる魔物の廃棄素材を一瞬で粉砕できます

あけましておめでとうございます!

「カラード、計測器に回復魔法を」

「……わかった。『万物に宿りし神々よ、我が願いは救済の光。ヒール』」


 俺はギルドの一室でパーティメンバーたちの目の前にさらされながら、リーダーのシエルに指示された通り回復魔法を唱える。


 唱え慣れたはずの回復魔法なのに、緊張で手が震えていた。


「──やはりな。回復量が、明らかに神官だった時より落ちている。これではカラードを回復職として、うちのパーティに置いてはおけない」


 示された計器の数値をみて、首を横に振りながら告げるシエル。

 他のメンバーたちからも、リーダーたるシエルの言葉に異議は上がらない。


「だ、だがっ。中級職の神官騎士になったから。これからは俺も剣を使える!」

「カラード、わかっているだろう。剣士は足りているんだ。それに魔法職だったお前じゃあ、アタッカーとしてはダメージ効率が悪すぎる。言ったら悪いがな、やはりお前がなってしまったその神官騎士は、最弱職なんだよ」


 言い聞かせるように俺に告げるシエル。俺もそれに反論できない。

 すべては、望まずになってしまった中級職たる、この神官騎士のせいだった。


 それまでの自身の行動によって職業は初級から中級、上級へと変化していく。

 かつて俺がついていた初級の神官という職は、回復職としては初級のなかでは一級の職だ。そして順当に行けば中級職も回復の専門職である、司祭になるはずだった。


 しかしどこを間違えたのか、俺がなった中級職は神官騎士。

 一説では、戦闘中に攻撃と防御を積極的に行った神官がつくとされている中級職だ。


 しかしその内実は、アタッカーとしても回復職としても中途半端な、中級職で最弱と昔から言われている職だった。


 そのあまりの不遇さに、今では誰もなるものがおらず、万が一、神官騎士になってしまったら冒険者を廃業した方がマシとまで言われていた。


 ──確かに、俺は、敵の攻撃から仲間を身を挺して庇ったことはある。時たま、だが。でもそれだって、自分を回復させながらだと効率が良いと思っての行動だったし。それに、その時はみな喜んでくれたんだ……


 思い当たる節はあった。


「カラード、残念だが──」

「わかった。パーティは抜ける。世話になったな、みな」


 最後までシエルが言う前に、俺は自らパーティの脱退を告げるのだった。


 ◆◇


「すいませんが、ソロの神官騎士では受注できる依頼はありません。簡単な採取系のものと町中の依頼は初級職の方に限定されますし。中級職の方向けの依頼は、カラードさんではどれも要件を満たしておりません」


 パーティから脱退した翌日、ギルドの受付で淡々と告げられたのは絶望的な言葉だった。


 ──何も依頼が受けれない。これは確かに、神官騎士になったら冒険者を廃業するしかないのか。


 神官騎士という職の不遇さが、ひしひしと身に染みる。


 しかし、そんな折れそうになる俺の心を支えたのは、一つの約束だった。

 死別した、兄へと誓った約束。


 歳の離れた俺の兄も、神官だったのだ。


 憧れの兄だった。

 颯爽として格好よく、誰にでも親切で、回復職の神官がぴったりの、幼心に自慢の兄だった。


 しかし一流の冒険者になる志を持った兄は、その志の半ばで倒れてしまった。

 まだまだ幼かった俺には、信じられなかった。あの兄が、そうも簡単に死んでしまうなんて。


 そしてひっそりと自身に誓ったのだ。


 俺が、兄の代わりに一流の冒険者になろうと。


 ──だからここで、簡単に諦める訳にはいかないよな。


 もう、話しは終わりとばかりに書類を弄っている受付の女性に、俺は再度、声をかける。


「すいません。本当に何でもやります。何か、ギルドの仕事はありませんか? お願いいたします」


 俺は強い意思を込めて、深々と頭を下げる。


 依頼が受けられなくても、せめて冒険者ギルドに関わる仕事をしたかった。そこから、万が一、何か光明が見いだせるのではと、この時の俺は思ったのだ。


「──ですから、カラードさんが受けれるご依頼は……」

「依頼で無くて、かまいません。何か──」

「どうされました。これは何の騒ぎですか?」


 なおも、いい募る俺の声を遮るように、神経質そうな別の女性の声がする。


「あ、副ギルド長。じつはこちらの《《神官騎士》》のカラードさんが──」


 受付の女性が、現れたメガネの女性に事情を話し始める。

 確か副ギルド長のバーニア女史だ。切れ者だと言う噂だけは俺も聞いたことがあった。


「──なるほど。カラード様、本当にどんなお仕事でも良いのですか?」

「はい、構いません。ギルドに関わることであれば、何でもやります」


 俺は覚悟を決めて、バーニア女史へ答える。


「そこまで言うでしたら、わかりました。紹介しましょう。では、こちらへ」


 神経質そうな笑みを浮かべ、何か書類を受付で準備すると、俺をいざなうバーニア女史。

 彼女の笑みは、その時の俺には、不吉にも、希望にも見えたのだった。


◆◇


「こちらです」

「ここは、解体場?」

「そう、そのさらに裏手です」


 バーニア女史によって俺が連れてこられたのは、冒険者が依頼等で獲得したモンスターを素材へと解体する解体場だった。


 薄汚れた壁にそって、何とも言えない雑多なものが積み上がり、独特の強い臭気が漂っている。


 この建物の表側には、俺も何度も足を運んだものだ。

 解体場には専門の職人たちが詰めていて、冒険者の持ち込んだモンスターを有料で解体してくれる。


 ただ、建物の裏手に来たのは俺も初めてだった。


 ──解体場に来た時に感じていた臭いは、ここが発生源か。ひどく臭いな。


 バーニア女史もハンカチで鼻を押さえている。そのまま、バーニア女史が俺に告げる。


「カラード様に紹介できるのは、こちらの素材解体で出た廃棄物の処理です。つまり、ゴミ処理ですね。残念ながら、これぐらいしかギルドよりご紹介できるものはありません。さすがにこれでしたら──」

「なるほど。わかりました」


 俺は積み上がった素材の余りらしきものや、設置されている焼却炉らしき設備を確認していく。


「処理の方法にルールはありますか?」

「──やるのですか。これがマニュアルです。報酬は出来高制ではなく、日当ですよ。月毎に契約を更新する形となります。ただ、不定期に監査が入り、そこで働きが不十分だったり、処理方法に明らかな違反があれば契約解除の上、罰則がつきます」

「──ふむ」


 俺は手渡されたマニュアルをめくっていく。


「引き受けさせてもらいます」

「はぁ。物好きな方ですね。わかりました、契約を取り交わしますので、一度事務所へ」

「わかりました」


 こうして俺は正式に、冒険者ギルドで廃棄物処理の仕事を始めるのだった。


 ◇◆


「まずは、可燃物と、燃やすのが不可の物を切り分けて分別する、かな」


 ギルドの解体場裏にある焼却炉はそこまで高温になるものではなかった。

 燃料も薪で、しかも当然、薪は使用してよい量に制限がある。


 ゆえに、そこで燃やせるものはかなり限定的だった。

 それ以外の燃やせない物と、燃やした後の灰は、街を出た先にあるギルドの私有地の廃棄物を捨てる場所──マニュアルでは廃棄場となっている──に穴を掘って埋めていくらしい。


 ちなみにその穴堀り、穴埋めも当然、俺の仕事だ。


 ──一通り確認したが、穴に埋めていくものを、いかに減らすかが肝みたいだな。


 燃やさない物の処理は、とにかく大変そうだった。


少し考えるだけでも、廃棄場への運搬、穴堀り、穴埋めと、物量があればあるほど、一人でこなすにはかなりの労力なのは明白だった。


 ──あとは、換金可能な物があったら、換金してもよいのか。で、換金時の受領金の申請の書類のフォーマットは、これか。


 価値のある物は換金しても良いらしい。とはいえ、俺のもとに来るのは、ギルド所属の解体のプロたちが処理したあとの、廃棄物ばかりだ。

 そうそう簡単に換金出来るものは残っていない。


 ──とりあえず、一つ一つ、試していこう。


 俺は決意を新たに、目の前の廃棄物の処理へと取りかかるのだった。


◇◆


「よいしょっと」


 俺は作業用のボロボロの手袋を嵌め、切り分け用の幅広のナイフを装備する。

 目の前には、簡単な木の板でしかない作業台。そこには壁に積まれていた廃棄物から持ってきた、モンスターの肉片。


 骨と、所々に筋のようなものが残っている。


 俺はナイフを入れる前に祈りを捧げる。

 もう、これは神官としての習慣のようなものだった。俺の信じる神々は万物に宿る八百万の神々。


 つまりはこれから処理しようとする目の前の肉片さえも、それは変わらない。


「『万物に宿りし神々よ、いと安らかたれ』」


 それは単なる祈りの言葉。魔法を使うには至らない、しかし俺としては真摯な祈りの文句。


 俺は何べんも口にしてきたはずの祈りの言葉を唱えたはずだった。だがこの時、俺はいつもとは違う、ある感覚を得ていた。


 その感覚を無理やり言葉にするとしたら、こうだ。

 これから処理しようとしていた目の前の肉片が、祈りの言葉を唱える前よりも、ひどく身近に感じられたのだ。


 まるで長年使い込んで、よく見知った物のように。


 ──ああ、これはオークジェネラルの肩の所の骨と筋、か。切り離すとしたら、この角度で刃を寝かせるように滑らせていけば……


 その不思議な感覚のままに、ナイフを入れていく。それはすっと目の前の骨と筋へと入り、気がつけばあっという間にバラバラになっていた。


 ──神々よ、感謝いたします……


 解体の終わったそれを前に、俺は改めて神への感謝を捧げる。そのまま次の肉片の処理へと移る。

 もちろん、先に祈りを捧げるのは忘れない。


 そうして、俺は無心に取り組んでいくのだった。


 ◆◇


 一年が経った。


 俺は変わらずにギルドの解体場の裏手で、廃棄物と向き合っていた。


 廃棄物の処理に際し、常に神への祈りを捧げてから取り組むのを、俺は一時も欠かしたことはなかった。

 そのせいか、今では一連の廃棄物の処理は流れるように済ませることが出来ていた。


 一年前に始めた頃は、廃棄されるものの物量に対し、処理できる量は追い付いてのだが、あるときからそれが逆転したのだ。


 つまり、壁に積み重なっていた廃棄物はとうの昔に全て処理を終え、今では日々出されてくる廃棄物の処理を済ませても時間が余るほどだ。


 そのため、不燃のものを余裕をもって廃棄場に埋めに行けていた。


 今もすでに可燃部分の切り分けと、その焼却も終え、あとは灰と不燃物を埋めに行くだけ。

 日も高々とのぼっている。


 だからそれは時間があったゆえの、ほんの気まぐれだった。

 不燃として埋めにいく諸々の一番上に乗っている、一本の骨。

 それを手に取る。


 それがオークジェネラルの肩の骨だったのは、たまたまだ。


 骨は燃やすのに、かなりの火力を要する。そしてモンスターの骨ゆえか、非常に硬い。とはいえ防具や武具にするには脆く、錬金術等の素材としても、使えないと聞いたことがある。


 ゆえに破棄される不要物なのだ。


「『万物に宿りし神々よ、いと安らかたれ』」


 毎日毎日、飽きることなく唱え続けたその祈りを今日も捧げる。


 その時だった。

 神からの啓示のような衝撃が、俺の体を走る。その啓示のままに手にしたオークジェネラルの肩の骨に手にしたままだったナイフの刃を当てて優しく滑らせていく。


 それはまるで並べられた大量のドミノの一つを倒したら、連鎖的に全てが倒れていくかのような光景。

 俺のナイフの刃が通った所を起点に、手にしたオークジェネラルの肩の骨全体へと、次々にヒビが広がっていく。


 気がつけば俺の手のなかでオークジェネラルの骨は完全に粉砕され、粉の山へと変わっていた。

 そこに吹いた一陣の風が、俺の手の中の粉を吹き散らしていく。


 目の前で起こったことに俺は言葉が出ない。


 ただただ、感動と感謝があった。


 誰からもかえりみられないと思っていた俺のこの一年は、無駄ではなかったのだという感動。

 祈りを捧げ続けていた神だけは俺を見守り応えてくれたという感謝。


 俺は神への祈りの言葉を呟きながら、まだまだ大量につまれている不燃物の山へと手を伸ばすのだった。


 ◇◆


 十年が経った。


 この日は俺の廃棄物処理の契約の最終日だった。


 どうも廃棄物処理施設を新設するらしく、あえなく俺はお役御免となったのだ。


 その事には何の感慨もない。


 この十年、祈りを捧げ続けてきた俺は、今ではあらゆる廃棄物を一刀で粉塵へと変えれるまでになっていた。それがどんなモンスターのものでも例外なく、完璧に。


 ──これも全ては、万物に宿りし神々の加護。ただただ、感謝しかない。


 そうして最後のつとめとばかりに、俺は今日の分の廃棄物をあっという間に粉塵へとかえると、手早く処理場へと埋めていく。


 そうやって全てを終えて最後の挨拶へとギルドの受付へと赴いた俺を迎えてくれたのは、なんとバーニア女史だった。


「バーニア副ギルド長?」

「カラード様、長年の廃棄物処理のお勤め、ご苦労様でした」

「わざわざ副ギルド長が応対してくださるとは……ありがとうございます」

「いえ。カラード様の十年にも及ぶ堅実は働きぶりを私は尊敬しています。不定期に行われた監査でも、全て問題なかったと伺っていますし」

「……それは、恐縮です」


 そういえばそんなこともあったなと思い出す。基本的には廃棄物が残っていないタイミングで監査の人間が来ていたので、そういう評価になったのだろう。


 まあ、問題ないなら良かった。


 そう、俺が廃棄物を処理している所を、結局ギルドの人たちは見ていないのだ。


 そしてそのまま、高火力での焼却施設が完成したことで俺が行っていたことは知られることなく、ギルドでの廃棄物処理の仕事を辞めていくこととなった。


「カラード様は、このあとはどうされるのですか?」

「現れたという、ダンジョンとやらに挑んでみようかと思っています」


 数ヵ月前、魔王を名乗る存在がその最奥に巣食うと噂せれるダンジョンなる大穴が突如現れたのだ。

 そこから溢れだしたモンスターたちが周囲の国々に被害をもたらし、各国の兵と冒険者がその対応に追われているという。

 最近の噂では大規模な反攻作戦が計画されていて、あらゆる冒険者にその門戸が開かれていると聞いていた。


「それはっ!? 確かにダンジョンでしたらあらゆる冒険者は無条件で募集されていますが。そこへソロで、ですか?」

「はい。そうなるでしょうね」


 俺は相変わらずの神官騎士の不遇職ぷりに苦笑してしまう。なかなか懐かしい感触ですらあった。


「──そう、ですか。しかし、どうしてそこまで、冒険者たろうとするのですか」

「誓ったので」


 俺は静かにそれだけ答える。

 何にとも、誰にとも告げない。


 ただ、不思議なことにそれだけでカラード女史は押し黙る。まるで圧倒されたかの様子に俺は不思議に思いながらも、静かに頭を下げると、十年お世話になったギルドを去るのだった。


 その俺の足はまっすぐにダンジョンへと向かっていく。


 あらゆるモンスターを一刀で粉塵へと変えれる神官騎士が魔王を倒したという報せが冒険者ギルドへと届くのは、これからしばらく後のこととなるのだった。


 fin



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