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今日、死ぬよ

作者: 山谷
掲載日:2026/02/23

目が覚める。

日は確かに巡っているはずなのに、変わり映えのしない日々のせいか、どこか既視感がつきまとう。

いつもと同じ曲を流し、いつもと同じコーヒーを片手に、いつもと同じパンをかじる。


「さあ、今日は本屋へ行くかな」


この言葉を口にするのも、もう何度目だろう。


家を出て、本屋へ向かう途中だった。

不意に、道端の占い師に声をかけられる。


「本に気を付けな。今日、死ぬよ」


「ありがとう。気にしておくよ」


そう返して、軽く礼をする。

妙な金色が印象的だった。

そして何事もなかったかのように、僕は本屋へ向かった。

そんなに本屋へ行きそうにしていただろうか?


本屋に着くと、店主が声をかけてきた。

「ああ、いらっしゃい。今日の夕刻、奥の本棚を片付けるんだ。お昼までしか営業しないからよろしくね」


「わかりました」


返事をしながら、胸の奥に小さな引っかかりを覚える。

――前にも、同じことを言われた気がする。


店内は静かだった。

紙とインクの匂い。軋む床。静かすぎるほどの空気。

ここも、いつもと同じだ。


奥の棚に目をやる。

店主が「片付ける」と言った、その場所だ。


そこだけ、妙に手入れが行き届いていない。

埃をかぶった本の中に、一冊だけ、光が差していた本の背表紙を見つけた。


近づいた瞬間、視界がわずかに歪んだ。

胸の奥が、きり、と痛む。


――触ってはいけない。

――でも、触らなければ終わらない。


どちらが自分の考えなのか、わからないまま、手を伸ばす。


本を引き抜いた瞬間、店内の音が消えた。

床の軋みも、外の気配も、すべてが遠のく。


表紙には、文字が刻まれている。


「未読のままでは、閉じられない」


ページをめくる。

そこに書かれていたのは物語ではなく、選択の痕だった。


同じ朝。

同じ言葉。

同じ道。


そして、いつも途中で途切れている。


最後のページには、空白の下に一行だけ、薄く記されていた。


「君は、まだ続きを選んでいない」


背後で、誰かが息を吸う音がした。


振り返ると、店主が立っている。

だが、その瞳は人の色をしていなかった。


「今日も、そこまでかい」


鈍い衝撃。

世界が裏返る。


目が覚める。


「ああ、またやり直しか」


金色の瞳の静かに輝いていた。

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