今日、死ぬよ
目が覚める。
日は確かに巡っているはずなのに、変わり映えのしない日々のせいか、どこか既視感がつきまとう。
いつもと同じ曲を流し、いつもと同じコーヒーを片手に、いつもと同じパンをかじる。
「さあ、今日は本屋へ行くかな」
この言葉を口にするのも、もう何度目だろう。
家を出て、本屋へ向かう途中だった。
不意に、道端の占い師に声をかけられる。
「本に気を付けな。今日、死ぬよ」
「ありがとう。気にしておくよ」
そう返して、軽く礼をする。
妙な金色が印象的だった。
そして何事もなかったかのように、僕は本屋へ向かった。
そんなに本屋へ行きそうにしていただろうか?
本屋に着くと、店主が声をかけてきた。
「ああ、いらっしゃい。今日の夕刻、奥の本棚を片付けるんだ。お昼までしか営業しないからよろしくね」
「わかりました」
返事をしながら、胸の奥に小さな引っかかりを覚える。
――前にも、同じことを言われた気がする。
店内は静かだった。
紙とインクの匂い。軋む床。静かすぎるほどの空気。
ここも、いつもと同じだ。
奥の棚に目をやる。
店主が「片付ける」と言った、その場所だ。
そこだけ、妙に手入れが行き届いていない。
埃をかぶった本の中に、一冊だけ、光が差していた本の背表紙を見つけた。
近づいた瞬間、視界がわずかに歪んだ。
胸の奥が、きり、と痛む。
――触ってはいけない。
――でも、触らなければ終わらない。
どちらが自分の考えなのか、わからないまま、手を伸ばす。
本を引き抜いた瞬間、店内の音が消えた。
床の軋みも、外の気配も、すべてが遠のく。
表紙には、文字が刻まれている。
「未読のままでは、閉じられない」
ページをめくる。
そこに書かれていたのは物語ではなく、選択の痕だった。
同じ朝。
同じ言葉。
同じ道。
そして、いつも途中で途切れている。
最後のページには、空白の下に一行だけ、薄く記されていた。
「君は、まだ続きを選んでいない」
背後で、誰かが息を吸う音がした。
振り返ると、店主が立っている。
だが、その瞳は人の色をしていなかった。
「今日も、そこまでかい」
鈍い衝撃。
世界が裏返る。
目が覚める。
「ああ、またやり直しか」
金色の瞳の静かに輝いていた。




