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プロローグ 春の灯と、五つの旗

海は、きょうは穏やか。

駅から学園バスに乗って丘を上がると、窓の向こうで白い校舎が光っていた。屋上に近いポールには五つの旗――青龍・朱雀・白虎・玄武・麒麟。風のない空で、旗はわずかに揺れて見える。たぶん錯覚。でも、うちには、あの布が世界の中心に杭を立てているみたいに見えた。


ポケットの中で、五神獣ポータルがずしりと重い。昔の固定電話の子機くらい分厚くて、ほとんどがバッテリーだという。学園と寮には空中充電が張りめぐらされ、ビーコンが24時間うちの端末と呼吸を合わせているらしい。

電波がひととき揺れて、画面に「位置同期完了」。胸のあたりが、微かに温かい。


自由参加・自由不参加――それがこの学校の基本姿勢。授業も、行事も、政治も、宗教も。

でも、自由に選ぶということは、選んだ結果が記録されるということでもある。決済、移動、参加、寄付、医務室の受診まで、うちのふるまいはGスコアとして積み上がっていく。

G(五神獣コイン)は1円=1Gのステーブルコイン。現金は学園外専用、校内はビーコンの頷きひとつで完結する。商品を受け取った瞬間に自動で増減し、残高が足りなければ自動借入。それも尽きれば、警告→回収→治安局(学内警察)→最悪は学外連絡。ただし、店を出る前に商品を返せば決済は取り消し――“戻れる道”も用意されている。


自由はやさしく、制度は冷たい。

この二つが、同じ手でうちの肩を叩く学校。


遠くで鐘がひとつ鳴って、バスは正門で止まった。

砂の匂いに、春の光。うちは深呼吸して降りる。旗の下で、今日が始まる。


まだ、うちは知らない。

この学校のやさしさと冷たさが、どれほど正確に人間を写すかを。

――でも、好きだと思う。うちは、こういう正しさが。

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