ぽたり。
文武両道を目指し、勉学に励みスポーツに勤しむ。
本当は、勉強も運動も好きな訳じゃない。
社会秩序に則った模範的な行動を心掛け、誰よりも率先して行動する。
本当は、やりたい訳じゃない。
性的なことに興味をもたず、純真無垢。
本当は、興味がない訳じゃない。
それでも気持ちを無視して
毎日「いいこ」であろうとする。
ただ落ちてきて欲しくないから。
ぽたり。
今は8時か。
風呂掃除忘れてたな。
落ちてくる。
外ではない。
ずっと家に居る。
雨漏りもしていない。
ただ、
ぽたり。
咎めるように一滴。
落ちてくる。
家で惰眠を貪ろうとすると
ぽたり。
約束を破ろうとすると
ぽたり。
大人向けの本を覗こうとすると
ぽたり。
何処にいても
ぽたり。
いつも、いつも、いつも。
こんな日常が続いていく。
そう思ってた。
「だめだよ」
ぽたり。
声が聞こえた。
少女の声。
子は自分一人。
遠くに聞こえた。
少女の声。
「誰だ」
返答はない。
辺りを見回す。
誰もいない。
もしかしたらという憶測はある。
怪奇な憶測ではあるが。
言葉と共に一滴。
落ちて来た。
ならばこの声の主こそが。
いつも落としてくるモノなのか。
こんなに恐ろしいことは無い。
なのに震える心臓は。
好奇心を携える。
そして
声が日常になる。
「だめだよ」
ぽたり。
以前より近くに聞こえる。
少女の声。
「明日は雨が降るだろうか」
正体を知りたくて始めた問い掛け。
返事は一度もない。
それでも話しかけ続ける。
ぽたり。
落ちる。
返答のように。
親近感をもつのに時間は掛からなかった。
異常は日常に。
そんな日々を過ごして少し。
18歳の誕生日を迎える。
両親の祝福。
豪華な夕食。
心が弾んだ。
話も弾んだ。
口が軽くなっていた。
語って聞かせた。
声だけの存在を。
自身の不心得な行動を咎めるように。
落ちるそれを。
得々と話す。
奇矯な話。
口を挟むことなく。
頭がおかしくなったと嘆くでもなく。
2人は涙を浮かべる。
そして語った。
自身が生まれる前の子について。
「お腹の中で流れてしまった子がいる」
見守ってくれていた。
そうやって泣き震える母。
その背を摩る父。
18歳の誕生日。
ぽたり。
落ちてくる。
涙と同じ温かさだと知った。
週明けの昼休み。
誕生日を祝ってくれる友人。
途切れることなく咲かせる雑談の最中。
何の気なしに語った。
摩訶不思議な話。
優しい姉の話。
静かに聞いてくれた。
そんな相手が首を傾げる。
ぽつり。
問いを一つ。
「上を確認したことは無いのか」
ぽたり。
飛び上がるように席を立つ。
友人の驚いた顔。
呼び止める声。
伸ばされた腕
それらから逃げる。
転げ落ちるように。
落ちるように。
階段を下る。
学校から飛び出る。
全力で走る。
家に向かってひたすら走る。
なぜ今まで気付かなかった。
なぜ今までそれをしようとしなかった。
なぜ
なぜ
なぜ
なぜ上を見なかった。
ぽたり。
一つを疑えば二つ。
二つを疑えば三つ。
全てが怪しくなる。
「きょうだいは女の子?」
急な帰宅を咎める母。
それを無視して問う。
きょとりとした表情。
心底不思議そうに。
「男の子」
ぽたり。
ぞわっ
悪寒が走る。
背中に汗が伝う。
部屋へ駆ける。
戸惑う母の声。
だがそれに構っていられない。
あれは誰だ。
あの少女は。
跳ねる心臓。
階段を上る。
ぽたり。
ぽたり。ぽたり。
ぽたり。ぽたり。ぽたり。
ぽたり。ぽたり。ぽたり。ぽたり。
ぽたり。ぽたり。ぽたり。ぽたり。ぽたり。
落ちる、落ちる。
ぽたり。
たったの13段。
それが今日は長い。
戸に手を掛けた。
扉を開ける。
少女がいる。
こちらを見る少女。
脚
2本ある
腕
2本ある
耳
2つある
目
2つある
鼻
1つある
口
ない
あるべき場所にあるべき物がない少女。
元から無いように。
そこだけ滑らかに。
のっぺりと。
口は無い。
なのに聴こえる。
少女の聲。
「おいで」
ぽたり。
部屋に入る。
「君は」
ぽたり。
扉を閉める。
「貴女は」
ぽたり。
歩を進める。
「誰だ」
ぽたり。
口は無い。
だが聴こえる。
少女の聲。
「うえをみて」
ぽたり。
顔に一滴。
温かい。
「いただきます」
ぽたり。
本当に雰囲気で書いたので読みづらかったと思います。初心者の作品を閲覧していただきありがとうございます。