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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-2

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第七十九話 情報収集

 爆発寸前だった性欲が、ノイティとの出会いで解消された。

 不思議な現象だが、助かったのは事実だ。

 せっかくできた時間だ。有意義に使おうと思う。


 俺は気を取り直して、武器屋の『アーセナァラ』に向かった。

 発注しておいた鉄球と鉄球ケースの完成予定は明日だが、顔を出して様子を見てみよう。


「やあ、いらっしゃい。」

「おう、よく来たな。鉄球はまだ完成してないが、ケースはできてるぞ。」


 『アーセナァラ』には3度目の来店だけど、馴染みのように迎えてくれる。

 出来上がったケースを確認すると、皮革製のウエストポーチの形状をしていた。荷袋の底面と側面に磁石板が縫いこまれている。


 もっとカッチリした箱状の物を想像していたけど、それよりもずっと実用的な作りになっていて感心させられた。


 箱と違い、皮革製の袋になっているので中身の量によって形が変化する。中に入れた鉄球が減っていっても、それに伴って袋の幅も狭まるので、磁石の当たる面が常に減らずに済み、磁力の強度が落ちにくい。しかも中で鉄球がゴロゴロと移動しないので煩わしさを感じない。


 良い出来に親指を立てると、親方がニヤリと笑う。


「試作の意味合いが強いからな。まだまだ改良の余地は沢山あると思う。実際に使ったら感想を聞かせてくれ。」

「ああ、そうするよ。」


 俺は取り敢えずケースを受け取った。

 最初に作って貰った鉄球がまだ幾つか残っているので、それを入れておく。磁力を帯びた鉄球が、どれだけ《センス》に反応するのか楽しみだ。


「これは予め磁石にくっ付けておいた鉄球だ。これでちょっと試してみてくれ。」


 親方が指弾用の25mmの鉄球を寄こした。磁力を帯びるとどうなるのか、親方も見たくて仕方がないみたいだ。


 受け取った鉄球を観察すると、一見何の変哲もない丸い球だ。しかし、明らかに磁力が感じられるし、《フィールド》の在り方が感覚的に見て取れる。周りの空間に及ぼす力の作用が理解できる。

 こんなことは以前に感じられなかったが、今ならはっきりと理解して力を把握できる。


 俺は鉄球を指先で弾いた。

 真っ直ぐに飛んだ鉄球は俺の《センス》によってカーブを描き、螺旋軌道を飛んで行く。


「おおっ!」

「すげーっ!」


 親方と息子のモルティーソンは驚くが、この動きは以前に石ころを使って魔物のチャービゾンを倒す時に行っている。


 俺はここから更に《センス》を加えて鉄球を遠くに飛ばし、そこから引き戻そうとした。

 鉄球は一瞬だけ空中に静止すると、一直線に俺の居る方に飛んで来る。


 できた!


 今までは遠ざかっていく物を曲げることはできても、真っ直ぐに引き戻すことができなかった。それは進もうとする運動エネルギーを打ち消して、逆向きに進むように運動エネルギーを加えなければならないからだ。


 自分から遠く離れるほど《センス》が及ぼす力は弱まるので、それは不可能だと思っていた。できたとしても、大きく円を描いて飛ばすか、上空に飛ばして重力を利用して戻すしかなかった。


 それが、磁力を強化して磁場を反転させることで、逆向きに力を作用させられるようになった。

 これは画期的だ。

 今までは、半ば無理やり《センス》で物体の動きを操っていたが、《磁力場》の向きを把握し操作することで、僅かな力で物体を操れるようになった。


 そのまま自分に向かって飛んで来る鉄球を、今度は2時方向に飛ばした。

 すると、急角度で曲がって鉄球は離れていく。

 更に上へ下へと急角度で動かし、加速したり減速したり操作する。

 鉄球は自由自在に飛び回り、まるでUFOのような動きを見せた。

 できないのは瞬間移動くらいだ。


「おおおおおっっっ!!!」

「な、なんだこれ!なんだこれは!?」


 親方と息子の二人は目玉が零れんばかりに目を見開いて驚く。


 最後に、鉄球は減速しながら俺に近づき、手の中へと帰って来た。できるとは思っていたが、これほど劇的に効果が現れるとは思わなかった。


 後は、どれ位までの大きさと重さの物体を、どの範囲まで操れるか検証が必要だが、今の手応えからして、かなり期待できると思う。

 これで攻撃の幅が格段に広がり、更には回収の手間が随分と減るはずだ。


「一体全体どうなっとるんだ?」

「魔法なの?今のは新しい魔法なのかな。」


 二人が飛ぶように近づいて来て、鉄球をマジマジと見つめる。

 親方は自分の手の上で鉄球を転がそうとするが、何も起こらない。ひたすら唸りながら鉄球を観察する。


 武器屋の二人でも、鉄球の動きを見て魔法だと思うんだな。今のこの世界では、《センス》とは単なる不思議な能力で、魔法の一種という認識でしかないのか。


「厳密には魔法じゃなくて、《センス》という能力の一端なんだけどね。俺の場合はその使い方が特殊みたいだけど、まあ、それ以上は秘密だね。」

「成程、《センス》か、まさか上級クラスの技を使えるとはな。」

「ディケードの実力は実際のランクよりもずっと上だったんだね。納得だよ。自分の手の内を隠すのは当然だよね。」


 《センス》の存在は知っているんだな。

 やはり、一般的には《センス》は上級クラスが使う技という認識なのか。


 それと、手の内を隠してるというよりは、『連撃の剣』のメンバーに《フィールド》や《センス》を扱えるようにすると約束したからな。そこで金銭の授受が発生したからには、他の者においそれと話す訳にはいかなくなった。コンプライアンスの問題だな。


 俺は取り敢えずケースを受け取り、『アーセナァラ』を後にした。

 鉄球は明日の朝にはできるというので、ついでにハルバードのメンテナンスもお願いしておいた。


 ハルバードは特におかしなところはないが、実戦で何度か使ったので、内部構造も含めて見て貰っておいた方が良いと思う。


 尚、ジリアーヌからプレゼントされたウェストポーチは、そのまま指弾用の小石を入れて使用するつもりだ。小石はどこでも手に入れられるので、消耗を考えなくて良いのが利点だ。今後も用途に応じて使い続けようと思う。




 ☆   ☆   ☆




 外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

 これからどうしようか?


 風呂にでも入るか。

 昨日一昨日と『熟練の薔薇』でシャワーを浴びてはいたけど、のんびりとお湯に浸かりたいしな。それに、洗濯物も大分溜まった。今日は宿に泊まって、いろいろと情報の整理をしよう。


 少しは花街で発散しておいた方がいいのかもしれないけど、今はまだそこまでじゃないしな。できれば肉欲に溺れない日だって過ごしてみたい。

 ノイティ様々だな。



 宿『爽やかな風』の前まで来たが、守衛の気配がする。初日のように門の陰に隠れてジッとしているのが伺える。しかも、この気配にげんなりしてしまう。

 どうせまた門を抜けると同時に、驚かすようにヌッと現れるんだろうな。


 一体なんなんだ?

 あんなのを雇っていても、宿にはデメリットしかないと思うが。


 宿にしても、あのフロントマンが居るなら利用したくない。

 俺は関わり合いたくないので、宿を大回りして直接公衆浴場『清爽なる湯浴み』に向かった。


 受付で支払いを済まし、守衛に持っている武器を預ける。

 そして、洗濯係の奴隷の男に防具と溜まった洗濯物を渡す。洗濯料金とは別にチップを渡しながら、今着ているシャツと下着の洗濯も頼んだ。

 奴隷の男は笑顔を見せると、脱衣場まで付いて来た。


 日本と同様に、この世界にはチップの文化はないが、奴隷の対応を見る限りは仕方なく仕事をしているという感じで、日本のようにおもてなしの文化なんてものはない。なので、良い仕事をして貰おうと思ったらチップを弾んでおいた方が良いというのが俺の考えだ。


 実際、商隊に居たバーバダーにしても、南門の衛兵にしても、チップを弾んだことで、その後の対応が良くなったからな。金があるなら出し惜しみはしない方が良いと思う。


 若者がチップを渡すと嫌味に見えるかもしれないけど、殆ど自由になる金のない奴隷は気にしないようだ。


 所持品をロッカーに入れて、裸になった俺は浴場へと向かう。

 その途中にあるスコールのようなシャワーを浴びて汗と汚れを落とす。最初は驚いたけど、そういうものだと分かっていると、痛いくらいの勢いが気持ち良く感じる。


「あぁ~~~…」


 お湯に浸かると、思わずオッサンの声が漏れ出てしまう。風呂は良いものだ。


 心地良い暖かさに包まれながら、今日のあった出来事を取り留めもなく考える。

 『連撃の剣』やバゲージス、『魅惑の炎』のアンレーヴァンやノイティのこと、そして戦った魔物たち。


 特に、ホブゴブリンとの戦いを思い出す。

 ホブゴブリンとは3度目の戦いだったけれど、殆ど苦もなく倒すことができた。どの個体も同じような強さで《プレッシャー》を放っていたけど、今回は俺の《プレッシャー》の方が圧倒していた。


 それだけ俺の強さが増したということか。

 というか、元々持っていたポテンシャルを幾らかは引き出せるようになってきたという感じかな。


 時折見える元々のディケードの記憶だと、もっとずっと高みに在ったように思う。が、いかんせん断片的なのでいまいちはっきりとしない。

 それでも、今の俺のように投球で魔物を倒したり、ハルバードのような武器を使っていたようにも見えないので、単純に比べる訳にもいかない。


 なんとなく、剣に似た武器を使いながら、不思議な技を駆使していたような感じだ。それが魔法なのか何かの技能なのかは判らないが、圧倒的な強さを持っていたのは確かだ。


 俺は俺なりのやり方でやって行くしかないけど、まだまだ強くなれるのは確かなようだ。グリューサーが言うには、バイタル的には俺の能力はまだまだ見劣りがするレベルらしい。努力あるのみだな。



 周りを見渡すと、マッサージ師のトフティッコリーが丁度他の客のマッサージを終えたところだった。

 俺は一息ついて水を飲んでいるトフティッコリーに声を掛ける。


「やあ、トフティッコリー。マッサージをお願いできるかな。」

「勿論だよ。指名をありがとう、ディケード。」


 石造りの長椅子の上にマットが敷いてあり、その上にうつ伏せで横になると、トフティッコリーが全身にオイルを塗っていく。

 風呂で温まった体がさらに熱を帯びて熱くなる。発汗が活発になったところで全身の筋肉をほぐす様に揉んでいく。


 なんとも言えない気持ち良さに浸りながら身を任せる。

 娼婦たちのしなやかな柔らかい手で体を洗って貰うのも良いけど、オッサンのごっつい手で力強くマッサージされるのも、また良いものだ。疲れが取れていく。


「さっそく活躍してるようだね。ホブシャウワーレを倒したと、ディケードの名前をあちこちで耳にするよ。」

「そうなのか…」

「おや、嬉しくないのかい?」

「ホブシャウワーレを倒したことは嬉しいけど、有名になるのはちょっとね。」

「へえ、珍しいね。請負人の殆どは名を売って一旗揚げたいと思っている者が多いのにね。」


 トフティッコリーは不思議そうだけど、俺にそんな願望はない。だいたい有名になったって、良いことは余りないと思う。

 名前を売ってからコネクションを作り、請負人のクランを立ち上げたり商売を始めようと思っているなら良いかもしれないけどな。


 今の俺にそんな長期的な計画を思い描く時間的な余裕はない。下手をすると、あと半年で命が尽きてしまう可能性だってあるんだ。


 それに、下手に有名になってしまうと、様々な人間が能力や富を利用しようとして近づいて来る。そういった者と関わって煩わしい思いをしたり、時間や労力を奪われるなんて真っ平御免だ。


 現にクレイゲートの商隊で一緒だった『惨殺の一撃』のケルパトーやジョージョがそうだった。

 たまたま盗賊騒ぎのせいで関わりは断たれたけど、あれがなければ、未だに纏わりつかれていたように思う。


 俺にはそういった者をガンとして跳ね除けるだけの強固な意志が不足している。流されるままに生きてきた俺は、そういった対処が苦手なんだよな。



「『魅惑の炎』というパーティを知ってるかい?」

「ああ、《火魔法》を使う女性だけのパーティだね。噂程度なら知ってるよ。」


 俺は話題を変えるために『魅惑の炎』の情報を訊いてみた。

 一緒に居た時の様子から、その内接触を図ってくると思う。単なるパーティへの誘いなら断ればいいけど、アンレーヴァンの件があるので厄介だ。


 彼女に後遺症がなければ問題ないが、それを盾にして話を持ち掛けられたら、断るのは難しい。その為にも、何かしら役立つ情報でもあればと思う。


 しかし、トフティッコリーの情報は本当に噂程度のもので、殆どがどうでもいいものばかりだった。


 彼女たちは他の請負人の男たちから言い寄られているとか、リーダーのイオンテは少女たちのファンクラブが在るとか、そんな感じだ。

 それでも、一つだけアンレーヴァンに関して興味を引く話があった。


 彼女自身は一般庶民らしいが、裕福な家のお嬢さんで貴族と血縁のある分家筋に属しているという。

 しかも、それだけにあらず、一度他の街の貴族に嫁いだが、離縁されて戻って来たという噂があるようだ。


 流石に離縁の理由までは分からないが、いろいろと陰で噂されているようだ。

 が、貴族絡みの話なので、誰も表立って噂話はしないらしい。

 それもあって、『魅惑の炎』は女だけのパーティでありながらも、他のパーティからちょっかいを掛けられたり、嫌がらせを受けることはないみたいだ。


 離婚歴のあるお嬢様か。

 でも、彼女はどう見ても、まだ22〜23歳位だったよな。それなのに離婚歴があるなんて、何歳で嫁入りしたんだ?


 この世界は日本とは違って晩婚化してないようで、一般女性はだいたい20歳前後で結婚するみたいだけどな。貴族との結婚となると、家同士の結びつきを重視した政略結婚が当たり前で、そのために十代での早婚だったんだな。


 しかし、それが請負人をやっているなんて、随分と異色の経歴だ。ちょっと興味が湧いてきたな。

 彼女というよりも、その貴族と繋がりがある関係性に、だけどな。



 元々日本人の俺には馴染みがないのも相まって、貴族という存在は謎だらけだ。

 一般人には単に恐れられているみたいだけど、街の支配階級でもあるし、街の中心を形成する壁の中の住人だからな。何より、その中心部には《天柱》が聳え立っていて、貴族はその管理なり運営に関わっていると推察される。


 《天柱》は、ディケードたち異星人が作り上げた惑星を覆いつくす籠『アイゲースト』に繋がったスペースゲートだ。そのことから、貴族は異星人のテクノロジーを理解して利用しているようにも思える。


 その証拠の一端と思えるのが、請負人組合で利用されている女神システムのテクノロジーの数々だ。

 この世界の住民の理解を超えて、女神の魔法だと思われているテクノロジーが、局所的に当たり前のように使われている。


 どんなに優れたテクノロジーだって、管理運営する者が居なければ成り立たないはずだ。

 もし、貴族が管理運営の一端を担っているのなら、俺は貴族と繋がりを作って、そのテクノロジーの中核に触れてみたいと思う。


 テクノロジーの中心に居るというか、なっているのは勿論グリューサーシステムだと思う。

 そのグリューサーと俺は邂逅したが、貴族との関わりまでは言及していなかった。


 というよりも、あえて触れないようにして俺と会話をしていたように、今なら思う。何か訳があるのかもしれないな。


 もしシステムを貴族が運用しているなら、貴族の思惑とグリューサーの思惑が乖離しているのかもしれない。

 単なる想像でしかないが、そんな気がする。


 そんな訳で、貴族を知るにはアンレーヴァンと繋がりを持つのも悪くないかもしれない。向こうが俺を利用しようと近づいて来るなら、こっちも利用させて貰うとしよう。


 さっきまで、『魅惑の炎』が接触してくるのを鬱陶しいと思っていたけど、こうなると何となく楽しみに思えるから面白いな。

 俺はマッサージを終えたトフティッコリーにチップを弾んでおいた。




読んでいただき、ありがとうございます。

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