第七十八話 天使…なのか?
『魅惑の炎』は若い女性だけのパーティだ。彼女たちに関わったために性欲の高まりを感じていたが、裸のアンレーヴァンと接したことで抑えが効かなくなってしまった。
俺は逃げるようにその場を後にして、街へと向かって街道をひた走った。
途中、いろいろと考え事をしていたので、道行く女性に意識を奪われることなく、性欲を爆発させずに済んだ。
ようやく、街の門が見えてきた。
夕日が辺り一面を真っ赤に染め上げて、美しい景色を作り出している。
普段は味気なく見えるグレーの街を囲む壁が、鮮やかなオレンジ色に変化して、まるで揺らめく炎が地平線を形作っているように見える。
その地平線の中央で、天まで伸びて聳え立つ《天柱》が光を反射して輝いている。それはとても幻想的な光景だったが、性欲に囚われている今の俺にはそこまでの感動はなかった。
ひたすら早く淀みとなって溜まっていく肉欲を発散させたいと願っていた。
そのため、街道脇の草むらから出て来る者に気づくのが遅れてぶつかり、二人で絡み合うように転がっていった。
「うわわわわ―――――っ!」
「キャ―――――っ!」
ぶつかったのが女性だと判り、咄嗟に庇うように抱きしめて草むらの中に横たわった。
「すまない。大丈夫か?」
「痛った~~~。う、うん、お尻を打ったけど、大丈夫だよ……………って!」
どういった弾みでか、モロに正常位の形で俺は女性の上になっていた。
暫くの間、お互いに見つめ合っていたが、女性が真っ赤になって叫びだした。
「イヤ―――ッ! 犯される―――っっ!! 助けて―――――っっっ!!!」
「まっ、待て待て待てっ!待ってくれ!事故だから!犯さないから!大声を出さないでくれっ!ノイティ!!」
そう、ぶつかった女性はノイティだった。少年と少女だけのパーティで、ゴブリンに襲われていた少女だ。
薬草の採取をしていたのか、籠から飛び出して散らばった草花が、俺とノイティに降ってきた。
その薬草まみれになった顔には、驚愕の表情が張り付き、見開かれた目の瞳には恐怖がありありと映し出されていた。
俺は罪を感じて、心を抉られるような感じがした。
取り敢えず、俺はノイティの上から退けようとしたが、悲鳴を聞いた仲間が駆けつけて来た。
俺とノイティの状況を見た仲間は驚愕する。
「テメー、ノイティに何してるんだっ!」
「ノイティ!」
「ノイティ、いや―――っ!」
名前を思い出せないが、自称彼氏の少年がナイフで切りかかってくる。思いっ切り殺意が込められていて、本気で俺を殺そうとしているのが伺えた。
ヤバいと思った俺は、咄嗟に《フィールドウォール》を強化してナイフを弾き飛ばし、俺自身もジャンプして距離をとる。
少年は追いかけて来て、俺を殴ろうと拳を繰り出してくるので、俺は掌で受け止めながらノイティに謝る。
「この野郎!この野郎!この野郎……」
「ノイティ、ごめんよ。これは事故なんだ。君を襲おうなんてこれっぽっちも思ってないからな。」
「嘘よ!絶対に襲う気だったでしょう!」
「いや、本当だって!」
ノイティは疑いの眼差しで俺を見ながら視線を股間へと移動する。
うう……
ノイティと重なった時にギンギン坊主になっていたからな。ノイティは感触で判ったのかもしれない。弁解のしようがないな。
それに、もし襲うならもっとボンキュッボンの女を狙うよ。という言葉を飲み込む。それを言ったら、ノイティには心の底から恨まれるな。
実際に、ぶつかった時に女性らしい柔らかさは殆ど感じなかったからな。
とにかく、ここはひたすら平謝りするしかない。いくら幼いといってもノイティも女性だ。感情的になった女性に理屈は通じない。
サラリーマン時代は、それで胃に穴が空くほどのストレスを受けていたからな。
俺は未だに俺を殴り続けている少年を《プレッシャー》で縛り付けて身動きできなくする。
そして、膝を着いて祈るようなポーズでノイティに謝る。
「本当にゴメン。申し訳なかった。あれは事故だ。それは理解して欲しい。」
「………」
突然動かなくなった少年を、ノイティは不思議そうに見たが、直ぐに視線を俺に戻して暫く睨み続けた。
が、大きく息を吐きだすとムフっと笑顔を浮かべた。
「ふう、本当にしょうがないなぁ。いくらわたしが魅力的過ぎるからって、襲ったりしたら、ダメなんだからね。」
「う、うむ……そ、そうだな……ほ、本当にすまなかった。」
「ああ、わたしって魔性の女だわぁ~~~♪」
頬を染めながら、満更でもない感じで科を作っている。
色気のあるポーズを取ってるつもりらしいが、どこにも色気は感じなかった。
しかし、機嫌はあっさりと直ったようで、エヘラエヘラと口角を上げてニヤついている。
まさか、女性扱いされて嬉しかった……のか?
なんというか、涙ぐましくも微笑ましいな。
そんなノイティを見ていると、気持ちが静まってリラックス状態になっていく。
あれだけ昂っていた性欲も、ギンギンに漲っていたジュニアも静かに治まってしまった。
あれ、あれれ~…… 一体どういうことだ?
訳が分からないが、まるで賢者タイムを迎えたように穏やかな気分になっていた。不思議なことがあるものだ。
ノイティは童顔だし、小柄で寸胴な体型も相まって、小学生にしか見えないからな。何より日本人にしか見えない容姿は、性欲よりも保護欲というか父性愛を感じてしまう。
つい、優しい眼差しで見てしまう。
「ちょっとぉ、なんでそんな目で見るのよ。」
それが気に入らないのか、プリプリと怒り出す。
「いや、ノイティは可愛いなぁと思ってね。」
「へっ… や、やだぁ、わ、わたしが可愛いのは、あ、当たり前じゃない。」
ノイティは口ではそう言いながらも、身体をクネクネと揺らして照れている。
まるでジェットコースターのように感情が変化して、表情がコロコロと移り変わるノイティは、見ていてとても面白い。
「ありがとう。」
「えっ、なんでお礼を言うの?」
「いや、あっさりと許してくれたからさ。」
「えへへ、この前はわたしが助けて貰ったもんね。これでおあいこだよ。」
自分でも驚くほどに、自然と感謝の言葉を口にしていた。
本当に不思議だけど、あれほど猛り狂っていた性欲が収まって、こんなにも気持ちが安らぐなんてな。
ノイティの天真爛漫さは一緒に居て心地好さを感じさせる。
まだ女として目覚めていない、無垢な少女の愛らしさを所々に見せてくれる。いわゆる、癒しを感じさせてくれるキャラクターだ。これは貴重な存在だな。
俺がそんな風にノイティを見ていると、仲間の少女が心配そうに近づいて来た。
「ノイティ、大丈夫なの、怪我とかしてない?」
「『アミーエ』。うん、大丈夫だよ。ビックリしちゃったけどね。えへへ。」
「なら、良かったわ。でも、せっかく集めた薬草が散らばっちゃったね。」
「あっ、そうだったわ。って、バラバラになってる~~~!」
アミーエと呼ばれたノイティの仲間は、チラッと俺を不満そうに見てから薬草を拾い始めた。
「す、すまん、俺のせいだな。手伝うよ。」
俺は慌てて地面に散らばっている薬草を拾う。
幸い、薬草は地面に生えている雑草とは明らかに違うので、拾うのは楽だ。
目の前でノイティとアミーエが薬草を拾っているが、二人の容姿と雰囲気は随分と対照的だ。
見るからに子供っぽいノイティとは違って、アミーエの方はアラブ系の堀の深い顔立ちで、身体も大人の女性に近い発育を見せている。しかも、持っている雰囲気や物腰が女を感じさせる。年齢はノイティと変わらないと思うが、こうも違うものかと感心させられる。
多分だけど、この娘は処女じゃないと邪推してしまう。
っと、いかん。アミーエを見ていたら、また性欲が沸き起こってきてしまった。
まったく見境なしだな。我ながら嫌になってしまう。
ノイティへと視線を戻すと、性欲が治まっていく。
自分でも驚くほど極端な反応だけど、ノイティはもしかすると、俺にとっては救いの女神というか、天使なのかもしれないな。
昔、好きだったアイドルの面影があるからか、それも影響しているのかもな。
「また、ノイティを見てるね。」
「ん、視線を感じる。」
二人がヒソヒソと話してるのが聞こえてしまった。
う〜む、耳が良すぎるのも考えものだな。嫌らしい目で見てる訳じゃないが、そう思ってはくれないだろうな。
それでも、救いなのはノイティが嫌がってないことだな。えへへと照れくさそうにしている。ディケードの身体になって、一番良かったと思うのはこういう時だな。
日本に居た時は、特に50歳を超えてから、若い女性に嫌われることが多かった。会社で一緒に働く若い女性は言うに及ばず、コンビニで買い物をしても、釣銭を渡す時に嫌そうに渡されたりしたからな。
本当に日本ではオッサンなんて汚物扱いだよな。
「よし、これで良いかな。本当にごめんよ、ノイティ。迷惑をかけたね。」
「ん、ほとんど無事だったから、大丈夫だよ。えへ。」
あらかた薬草を拾い終わったので、ノイティの籠の中に入れる。
この時、そっと銀貨1枚を忍ばせておいた。
多分だけど、この前のやり取りから察っするに、迷惑料だと言ってもノイティは受け取らないと思うので、こういう形で受け取って貰うようにした。オッサンの独りよがりのお世話だけど、これで、仲間と美味いものでも食ってくれればと思う。
ノイティたちは、この前ゴブリンに襲われたのを反省したのか、森には入らずに街の周辺で薬草集めをしていたようだ。
良いことだな。無理して危険を冒さなくても、こうしてある程度稼ぐことはできるからな。金が溜まって、装備が整ってから森の中へ行くべきだ。
できればバゲージスのように、どこかの中堅パーティで下働きでもした方が良いと思うけどな。
ノイティとの問題が片付いたので、少年たちの方へ目を向けた。
俺に殴りかかってきたノイティの自称彼氏が、俺に受けた《プレッシャー》で固まったまま転がっていた。
もう一人の少年が助け起こそうとしているが、金縛り状態なので二進も三進もいかなくて困っている。
「うううっ!ううっ!うぐぐぐ…」
「エッフェロン、これどうにもならないよ。」
やれやれ、左程強く《プレッシャー》をかけた訳でもないけど。根本的に体力不足だな。
俺が《プレッシャー》を解除すると、元気に起き上がってエッフェロンはまた殴り掛かって来た。
「この野郎!」
俺はひらりと躱して、エッフェロンの背中を押してやる。
エッフェロンは勢いのままにつんのめって、ケンケンでもするようでも進んで行く。
「うわわわわ―――っ!」
エッフェロンは俺が大嫌いみたいだな。
ノイティにちょっかいを出す、嫌な奴なんだな。さしずめ、恋のライバルってか(笑)。
「それじゃあ、ノイティ。急いでるんで、これで失礼するよ。」
「あ、うん。またね。」
「こら、逃げるな!」
これ以上ここに居ても面倒くさくなるだけなので、とっととおサラバしよう。
俺は早足で街へと向かった。
下手をするとフレィたちに追いつかれてしまう。急用があると辞したのに、遭遇してしまっては様にならないからな。
☆ ☆ ☆
「ステータス・バイタル」
ノイティたちと別れた俺は、街道を走りながら腕輪のデバイスを起動させてモニターを覗き見る。
ここ2時間程のバイタルを確認しながら、官能センサーのグラフを表示させる。
女性だけのパーティ『魅惑の炎』と関わってから、官能センサーの反応が乱高下している。
特にアンレーヴァンと呼ばれた女性と関わった時の、センサーのグラフ値が跳ね上がっている。これはアンレーヴァンの裸を見てしまった時だな。
それから少しの間、高い水準を一定のまま保つが、ある時にがくんと落ち込む。
これはノイティと出会った時だな。
凄いな。ノイティと会話している時は、一定の基準値よりも低くグラフが推移している。
一瞬だけ値が上がった時があるけど、これはアミーエと呼ばれた少女に意識が向いた時だ。
で、ノイティに向き合った時には、また低くなっている。
そして、それからはずっと低水準を維持したままになっている。
自分の性欲の推移がグラフになって見えるのは、異様な感じがするし、恥ずかしいしものだ。
しかし、このグラフから読み取れるのは、やはりノイティの存在が俺の性欲を静める効果があるという事実だ。
何故そうなるのかまでは判らないが、解るのは、ノイティは俺にとって重要な存在となる可能性があるということだ。
面白いな。
性欲の発散には女性との行為が必須だと思っていたけど、こんな方法もあったんだな。
今後はノイティとの交流を深めていく必要がありそうだ。
できるなら、性欲が静まるメカニズムを探ってみたいと思う。
実際、女性との行為自体は楽しいし気持ち良いものだけど、何度も行為をしないと収まらないのは、どう考えても異常だ。
行為の後は、心が静まって穏やかな気分でいられるのは確かだが、そのために時間とお金を随分と消費してしまっている。
賢者タイムになってふと我に返った時、襲ってくる虚しさは相当なものだ。
理想的なのは、一人の女性と週に一度か二度の行為をするくらいだよな。
それなら適度なお楽しみとなって、ストレスにはならないのにな。
ままならないものだ……
「シャットダウン。」
街への門が迫ってきたので、俺は腕輪のデバイスを終了させた。
街へ入る人たちが列をなしているので、宙に浮いているモニターを誰かに見られでもしたら不味いからな。
俺が着けている《神鉄の腕輪》は貴族の当主の証らしいし、それがデバイスだと知っている者が居るかもしれない。
それがもとで、変な形での貴族との接触となる事態は避けたいからな。
俺は南門から請負人専用の入口を使ってエレベトの街に入る。
カードをセンサーに通して、買取屋には寄らずに素通りする。ボディチェックと荷物検査を受けるが、魔物は所持していないので問題なく通過できた。
グロゥサングリーとホブゴブリンの魔石は持っているが、特に問題はなかった。この魔石の換金は請負人組合でもできるので、何かのついでの時でもすればいいだろう。
さて、ノイティのお陰で花街へ行って発散する必要がなくなった。
せっかく空いた時間だ。有意義に過ごすべきだな。
読んでいただき、ありがとうございます。
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