第七十六話 男女の欲望
今年は、この小説を通して様々な経験ができました。
それも、読んでくださった読者の方々のお陰です。
ありがとうございました。
皆様、良いお年をお迎えください。
危険地域で狩りをしてた俺と『連撃の剣』のメンバーだが、ホブゴブリンに攫われた女性と、それを救出しに来たが窮地に陥った仲間の女性パーティ『魅惑の炎』を助けた。
俺たちは『魅惑の炎』のメンバーと共に、危険地域から出るべく行動を開始した。
出発の際に、ホブゴブリンの死体と魔石を確保した。多数のゴブリンの死体は、迫ってくる残飯漁りを引き止める為に放置された。
俺たちは隊列を組んでエレベトの街に向けて進む。
俺が先頭に立ち、後ろには『魅惑の炎』のメンバーが続く。その後ろには『連撃の剣』の男たちが順番で気絶した女性を背負うか、ホブゴブリンの死体が入った運搬袋を引いている。最後にバゲージスとフレィが続く。
俺たちは森の奥へと進む時に樹の枝に括り付けた黄色いリボンを見つけ、それを確認しながら来た路を戻るので、比較的歩きやすく歩みが早い。
「凄いな。ヒルも蜂もまったく寄せ付けないじゃないか。」
「………」
「ディケードのお陰だね。彼の能力に依るものさ。」
「へぇ、大したものだ。ディケード君は本当に凄いんだね。」
「………」
いくら話し掛けても俺が無視をするので、女性は不安そうなそぶりを見せる。
「…僕は嫌われているのかな?」
「そんな事はないけど、集中してるから、話し掛けないで欲しい。」
「まあ、そういう事だね。」
「ああ、それはすまないね。」
さっきから何かと『魅惑の炎』のリーダーの『イオンテ』が話し掛けてくる。
俺としては、今女を意識してしまうと非常に不味いので極力無視してるのだが、場が気まずくならないようにフレィがフォローを入れてくれる。
本当なら、俺から離れた後ろを歩いて欲しかったのだが、何故かイオンテのたっての希望でこの順番になってしまった。
時折、女の匂いが漂ってくるので、意識しないようにするのが大変だ。
「あの、ディケード君は女性に対して、いつもこんな感じなのかな?」
「………」
「僕たちもディケードに出会って間もないからね。分からないよ。」
「僕も一応年頃の女性なんでね。男性にあからさまに無視されると辛いものがあるよ。」
やれやれ、人の苦労も知らないで。って、解るはずもないか。
普通は女性と居るだけで性欲に苦しむなんて、ないものな。
「大丈夫よ。イオンテは美人だし、スタイルだって良いんだから。ただ単にディケード君が女性に不慣れで照れているだけよ。」
「そうそう、イオンテは魅力的よ。わたしたちだって無視されてるしね。」
「そ、そうかな…そうだと良いんだけどね。」
仲間の女性たちがイオンテを慰める。
そして、イオンテに同情したジュットゥたちが、一斉に俺を責める。
「大丈夫だ。イオンテは魅力的だぞ。俺はそう思う。ディケードが変なだけだ。」
「そうだそうだ。俺もそう思うぞ。」「俺もその通りだと思う。」
「俺もだ。ディケードも話くらいしてやれよ。」
畜生!この男どもは、ここぞとばかりに俺を悪者にして、女性たちの気を惹こうとしてるな。
俺だって、無視するのは悪いと思ってるんだよ。でも、そうしないと襲い掛かってしまいそうなんだよ。
まったく、この異常性欲はどうにかならんのか!
記憶の中で、元々のディケードが女に襲い掛かったところを幼馴染のトモウェイに蹴って止められていたけど、なんだってディケードの父親はこんなアバターを作ったんだ?
創造神グリューサーは楽しめと言っていたけど、欲望に従ったら強姦魔へまっしぐらだ!パートナーを見つけるどころの話じゃないぞ。
「いい加減にしないか!ここは危険地域なんだぞ。もっと慎重に行動しろ!」
フレィが一括する。
流石に堪りかねたのだろう。唯一の常識人だ。ありがたい。
皆が反省して謝る。
「も、申し訳ありません!」
「「 ご、ごめんなさい! 」」
「「「「 す、すまん! 」」」」
特に『魅惑の炎』の面々は身を竦めて恐れ入っている。
彼女たちにとって、『連撃の剣』のリーダーであるフレィは、金鉄ランクなのも相まって遥か上の憧れの存在なのだろう。
俺は軽く手を上げて、フレィに感謝の気持ちを伝える。
フレィも頷いて応える。
やはり、彼は人格者だな。ストイックで、常に自身を高めようと心掛けている。
…と、思っていたんだけどな。
僕だってディケードの話を聞きたいのをずっと我慢してるんだよ。という呟きが聞こえるまではな。
なんだかなぁ、今後フレィには要注意だな。
それは、兎も角としてだ。
やはりというか、男の集団の中に女が入って来ると、それだけで揉め事の種になるな。『連撃の剣』のメンバーだけだと、腕利きの有能な集団なんだけどな。
それを言うなら、『魅惑の炎』のメンバーもそうなのだろう。ホブゴブリンに攫われた仲間を追って、危険地域にまで入ってくるくらいだからな。彼女たちも仲間内だけだと、規律正しく行動する腕の良い〈魔法士〉集団なのだろう。
それが、混じり合ってしまうと、こうもグダグダになってしまうんだな。
『連撃の剣』の男たちは、少しでも女たちの気を惹こうと躍起になるし、『魅惑の炎』の女たちは男に媚を売るような態度を取ってるしな。
若い年頃の男女だから、そうなるのは自然な事かもしれないけど、見苦しいよな。
まあ、俺も精神年齢がいいオッサンなのに、ジリアーヌに入れ込んでしまったから、他人の事は言えないけどな。
サラリーマン時代にも、社内恋愛や社内不倫は腐るほどあった。男と女が入り混じった状態ではしょうがないのだろう。それで身を持ち崩す者が随分といたからな。
かくも、性欲は恐ろしい。という事だ。
一応、イオンテの名誉のために言っておくと、俺から見ても、彼女は魅力的だ。
彼女は『魅惑の炎』という女性〈魔法士〉だけで構成するパーティのリーダーだ。年齢は23〜24歳位で、この年齢にしては珍しい僕っ子だ。
モスグリーンのショートヘアで背が高くボーイッシュな感じだが、雰囲気に華があるので、なんとなくタカラジェンヌの男役のようなイメージだ。
防具を身に着けてマントを羽織る姿は、男装の麗人の様でもある。可愛いというより格好良い姿形だけど、仕草や物腰が女性らしいので、そのギャップが魅力となっている。
他の二人はイオンテと殆ど同じ格好をしてるのに、見るからに可愛らしい女性そのものだ。
小柄でややポッチャリした女性が『コリンコル』で、赤毛のセミロングヘアにアライグマのようなケモ耳を持っている。
モデルの様にスラリとした女性が『マーロウン』で、紺色のロングヘアにチーターのようなケモ耳だ。
気を失っている女性のアンレーヴァンはノーマルで、パープルに近い銀髪を腰まで伸ばしている。この女性はとにかく巨乳だ。
この四人の女性〈魔法士〉は、一人一人の実力はそうでもないが、四人同時に放つ《火魔法》は〈大魔法士〉に匹敵する威力を持つという。それ故にパーティとしては銅鉄ランクとなっている。
四人とも同世代の若く美しい見た目なので、『魅惑の炎』という名に相応しく、男性冒険者にはかなり人気があるらしい。
加えて、イオンテはその容貌から、十代の女の子に絶大な人気らしい。
やはり、この世界にもそういった趣味の世界があるんだな。
まあ、そんな訳で、俺たちは危険地域を出るまで、やや漫然とした様子で歩みを進めた。
途中、何度か魔物と戦闘をしたが、前もって接近してくるのが判るので、その殆どを投球で打ち倒した。
それを見たイオンテたちは、これでは私たちの《火魔法》なんて児戯に等しいじゃないかと落ち込んでいた。
確かに《火魔法》は射程が短いし、威力も単発だと大した事がない。
しかし、使い方次第で幾らでも用途はあるし、何より見た目が派手だから敵を威圧するには最高だけどな。
まあ、今は関わりたくないから、何も言わずに無視しているけど。
しかし、やばいな。
こうして無視していても、側に女性が居ると思うだけで沸々と性欲が滾ってくる。朝方まで、四人の娼婦を相手にあれだけ吐き出したのにだ。どんな勢いで精液を作り出してるんだよ、この身体は。
これが、処理を終えないままに強制的に目覚めさせられた影響なのか……
☆ ☆ ☆
俺たちはシャソバージと戦った場所に戻って来た。
そこに埋めておいたシャソバージと追跡者は無事に回収できた。幸い、魔物に荒らされる事もなかった。
追跡者の入った運搬袋を、『魅惑の炎』のメンバーがお礼に運ばせて欲しいと言い出した。
フレィは助かるよとお願いしたが、50kg近くある運搬袋2つを路もない場所を引っ張るのは、女性三人掛かりでも相当しんどいようだ。
女性たちは200mも進まない所で、音を上げた。
女性たちは汗だくになってハアハア肩で息をしている。さっきまでの美しかった容貌は見る影もない。
「す、すまない。ハアハア…自分たちから言い出しといてなんだが、ハアハア…こんな体たらくで申し訳ない。」
「ごめんなさい、ハアハア…もうダメぇ~」
「ハアハア…腕が~足が~ガクガク~~~」
〈魔法士〉というのもあるが、女性なので、余計に体力がないのだろう。普段から筋トレをしてないのが丸分かりだな。
そういう意味では、フレィたちがバゲージスを鍛えているのは意味があるな。
「大丈夫だ。俺たちが引いてやるぜ。」
「そうそう、君たちはそのまま歩いて来ればいいよ。」
「うんうん。そうだよ。」
「力仕事は任せてくれ。」
女性を背負う順番で手の空いている、ジュットゥとテレッシが助けに入る。それと、今はシャソバージを運んでいるシレッセとアンレーヴァンを背負っているビラーインもだ。
ジュットゥとテレッシの俺は優しいよアピールが露骨だな。バゲージスに対しては、ジュットゥは蹴りまで入れていたのにな。
「ありがとう。申し訳ないね、『連撃の剣』の人。」
「ジュットゥだ。」「テレッシだ。」「シレッセだ。」「ビラーインだ。」
「ありがとうございます。優しいね。」
「ありがとう。ジュットゥさん、テレッシさん、シレッセさん、ビラーインさん。」
「なあに、これくらい当たり前だぜ。」
「そうそう。力を使うのは男の仕事ってな。」
「うんうん。そうだよ。」
「女性は笑顔で傍に居てくれるのが一番だ。」
名前を呼ばれた途端に、鼻の下が一気に伸びたな。
デレデレする四人に対して、バゲージスが汚物を見るような目をしている。
モテない男は、こうして自ら下僕へと突き進んでいくんだな。
まあ、俺も若い頃は似たようなものだったが…
女たちは感謝の言葉を口にしながらも、当然という態度だしな。
フレィがため息をつきながら、俺を見つめる。
俺は目を逸らして、無言で歩みを進める。
まったく、俺を含めてまともな者が居ないじゃないか。
☆ ☆ ☆
どうにか危険地域を出て、グロゥサングリーを倒した地点まで戻って来た。やはり、ここまで来ると危険地域とは雰囲気が違うと感じる。
グロゥサングリーが荷車ごと無くなっていたので、運び屋が回収して行ったようだ。『連撃の剣』のカードに返信の信号があったという。
周りに少し争った形跡があるので、グロゥサングリーの死体を荒らしに来た魔物と戦ったのだろう。幾つか放血の跡があるので、その魔物も回収されたようだ。
荷車のパーツや素材が散乱してないので、被害はないようだが、俺たちが置いておいた荷車も、そのままになっている。
ここからは杣道が続いているので、シャソバージとホブゴブリンの死体が入った運搬袋を荷車に積んで行ける。
かなり無理をして、女性たちに良い顔をしていたジュットゥとテレッシとシレッセが、ホッと胸を撫で下ろしていた。
その後、最初に倒した残飯漁りを積んだ荷車を回収して、森を抜けるべく街道へと向かった。
イオンテがフレィに話しかける。
「これが『連撃の剣』の一日の成果なんですか、凄いですね!」
「それと、グロゥサングリーもね。」
「グロゥサングリーまで!す、凄すぎです!」
「はは…もっとも、殆どがディケード一人の成果だよ。僕たちだけの力で倒したのは残飯漁り位だね。」
「そうなんですか!? ディケード君はやっぱり凄腕なんだね!」
「それに、本当ならゴブリン20体もだもんねぇ。」
「だよねぇ。」
「ディケードの力は圧倒的だからね。実力は完全に上級クラスだよ。」
「そんなに!」
褒めてくれるのはありがたいが、そういった話はできれば俺の居ない所でして欲しい。本当に、どう反応して良いのか困ってしまうぞ。
それに、何故にフレィがドヤ顔で話をしているのかが疑問だ。
「それで、ディケード君は『連撃の剣』のメンバーなんですか?」
「いや、違うよ。最初は加入して欲しいと思ったんだけどね。余りに実力差があるから諦めたよ。」
「あ、そうなんですか。」
フレィとの話が終わると、『魅惑の炎』の女性たちはコソコソと話を始めた。
聞き耳を立てた訳ではないが、直ぐ後ろに居るので話の内容が聞こえてしまう。
「やったね。ディケード君はフリーだよ。」
「これはチャンスだよね。」
「だよねぇ。」
どうやら、俺について話をしてるようだ。
嫌な予感がするな。
「やっぱり男性が居ると、頼りになるしありがたいね。」
「だよねぇ。女だけだと色々と不都合な事が多いよね。」
「特に、今回のようにゴブリンに襲われたりすると、考えちゃうよね。」
「今までは女性の〈魔法士〉だけに拘ってきたけど、実際の戦いや実入りを考えると男性アタッカーが欲しいよね。」
「だよねぇ。今までは実力があっても、粗暴な男ばっかで嫌だったけどさ。」
「でも、彼ならシャイだし、簡単に手を出してこなさそうだもんね。その上、実力は超が付くくらい凄いしね。」
「「「 ニッシッシィ♪ 」」」
こ、こいつら……
俺を利用する気満々だな。これだから若い女とは関わりたくないんだよ。若いというだけで周りの男がチヤホヤするから、直ぐに女はつけあがる。なんでも自分たちの思い通りになると思っているからな。
まったく、街道まで出たら、こいつらとはとっととお別れしたいぜ。
と思っても、気絶した女性が目を覚まさないのが気掛かりなんだよな。
ゴブリンに襲われたといっても、怪我もしてないからな。普通なら、とっくに意識が戻っていても良いと思うけど、まだ気を失ったままだ。
やはり、俺の《プレッシャー》をまともに受けたのが不味かったのだろうか。目を覚ました時に、精神に異常をきたしてたら問題だしな。
くそ。本当に若い女とは関わるもんじゃないな。
けど、こんな女たちでも性欲を刺激されてしまう。それが余計に不愉快だ。
読んでいただき、ありがとうございます。
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