第七十五話 救助
今回も前話と共に二話同時投稿です。
とりあえずはクリスマスってことで。
ホブゴブリンに攫われた女性を救うと意見の一致をみたものの、具体的にどうするのかを決める時間はなかった。
ホブゴブリンは近くまで接近しており、15秒も経てば接触してしまう。
俺は『連撃の剣』のメンバーよりも一歩前に出る。
「ここは、俺にやらせてくれ!」
「あ、ああ、分かった…」
「「「「 ……… 」」」」
俺の有無を言わさぬ強い調子の申し出に、フレィたちは驚きながらも従ってくれた。
ホブゴブリンには、並々ならぬ憎しみがある。俺の与り知る所での拉致など到底見逃せる訳もなく、許せるものではない。
一気に全身の血が逆流するかのように怒気が膨らんでいった。
「皆、踏ん張って気をしっかり持ってくれよ。」
俺はホブゴブリンに思いっきりプレッシャーをぶつけるために《気》を練り、ありっ丈の憎しみを《フィールド》に込めて高めていく。
気が十分に高まったところで、ホブゴブリンが樹々の隙間から姿を現した。
向こうも既にこっちの存在に気付いていて、咆哮と共に強烈な《プレッシャー》を放ってくる。
「ガアアアァァァ――――――ッッッ!!!」
「「「「「「 うわぁ―――っ!!! 」」」」」」
俺を除く全員が金縛り状態となり、身動きができなくなる。
俺も、その圧力を受けて膝が震えるが、気を強く持って耐え、自身最高位の《プレッシャー》をホブゴブリン目掛けて放つ。
「ウオオオォォォ―――――――――――――ッッッ!!!!!」
強烈に、体に纏わり付いてくるホブゴブリンの《フィールド》を、俺の放った《フィールド》が打ち破って突き抜け、逆にホブゴブリンの体に纏わりついて縛り上げていく。
「グガガガァァァ――――――――――!!!!!」
ホブゴブリンの動きが完全に固まって、走っていた体勢のまま顔面から地面に激突して、バウンドしながら転がった。
抱えていた女性はホブゴブリンが固まった時に、腕から零れ落ちて地面を転がった。が、運良く俺の《プレッシャー》の煽りがクッションとなって、衝撃は少なかったようだ。
ホブゴブリンは何度も地面にバウンドしながら俺の方に転がって来たので、タイミングを計ってハルバードの斧で首を刎ねた。
頭を失ったホブゴブリンの体はその場に倒れて、大量の血を吹き上げた。
刎ね飛んだ頭部も、首から大量の血を噴き出して、サッカーボールさながらに弾んで転がっていった。
項部分から黒いモヤが湧き出て、少しの間空中で揺らめいてから消えていった。
ホブゴブリンの死を確認すると、俺の憎しみの心が一気に静まっていく。
今しがたの激情が嘘のように、気持ちが平坦になっていく。自分でも驚く程だが、ゴブリンへの憎しみは深く心の奥に根差してしまっている。
俺は深呼吸を繰り返して、普段の自分に戻るように心掛けた。
時間と共に気持ちが落ち着いていき、それと同時に周りの世界が動き始めた。
俺が《プレッシャー》を放った時、世界の動きが止まったように感じた。
多分、実際に動きが止まっていたんだと思う。
あの魔の森で、サーベルタイガーと出遭った時に感じた世界の静寂が、再現されたのかもしれない。少ししてから、鳥のさえずりや樹々の葉がざわめく音が聞こえ始めた。
「「「「「 ……… 」」」」」
フレィたちへの《プレッシャー》は消えたはずだが、『連撃の剣』の全員がその場に膝を着いて固まっていた。
バゲージスは気を失ったのか、泡を吹いて仰向けに地面に横たわっている。
どうやら、俺の《プレッシャー》の余波にやられてしまったようだ。
「皆、大丈夫か?すまない、思わずカッとなって全力で《プレッシャー》を放ってしまった。」
「な、なんとか無事だけど、膝が震えて立てないよ…」
「「「「 ……… 」」」」
フレィはどうにか答えを返せるようだけど、他のメンバーは身動きが取れないようだ。青ざめた顔で僅かに頷いている。
フレィたちは無事だったので、俺はホブゴブリンに攫われた女性を見に行った。
女性は気絶して、地面というか降り積もった葉っぱの上に横たわっている。
〈魔法士〉のようで、全身を覆うマントを身に着けているが、体には防具を至る所に装着している。そのお陰で、大きな怪我はないようだ。腕や脚が変な方向に曲がってもいない。打ち身に関しては分からないが、表面上は所々が土や葉っぱで汚れているくらいだ。
まだ22~23歳位の若い女性だし、顔に怪我もなくて良かった。
しかし、この女性はホブゴブリンと共に俺の《プレッシャー》をモロに浴びたので、当分目を覚まさないかもしれない。最初から気を失っていたみたいなので、精神に影響はないと思うが。
しかし、気になる点があった。
なんとなくだけど、この女性はリュジニィに似ているような気がする。ホブゴブリンに攫われていたので、イメージが重なってしまったのかもしれないが、どことなく顔立ちに面影が感じられる。
「「「 キャ―――――っ!!! 」」」
俺が女性を抱え上げようとした時だ。ホブゴブリンが走って来た方角の奥から女性たちの悲鳴が響き渡った。
俺は女性を放置して、その方向へと走った。
走りながら状況を探る。
どうやら、ホブゴブリンに攫われた女性を追いかけて来た仲間が、更に後から追いかけて来たゴブリンどもに襲われているようだ。
近くまで行くと、三人の若い女性が20匹程のゴブリンに囲まれているのが見えた。ホブゴブリンに攫われた女性と似た様な姿なので、同じ〈魔法士〉だろう。
三人の〈魔法士〉は全員が《火魔法》を放ってゴブリンどもを牽制しているが、パニックに陥っていて、闇雲に撃っている状態で殆どが当たっていない。
ゴブリンどもは《火魔法》の隙を突いて、代わる代わるに突撃して棍棒などで女性たちに打撃を与えている。
なんとか防具に救われているが、女性たちが打ち倒されるのは時間の問題だ。
「いや―――っ!」
「来ないで!止めて―――っ!」
「来るなっ!来るなっ!来るな―――っ!」
俺は、女性に襲い掛かっているゴブリン目掛けて3つの鉄球を投げつけ、ゴブリンどもの中に突っ込んでいった。
俺の《センス》によって誘導加速された鉄球は、三人の女性に襲い掛かるそれぞれのゴブリンの頭を打ちぬいて殺した。
突然、目の前のゴブリンの頭が吹き飛んで驚いた女性たちは、その場にへたり込んでしまった。
「おおぉぉぉ―――っ!」
俺は《プレッシャー》を放ちながら、大声で叫んでゴブリンどもの注意を引き付け、ハルバードを力任せに振り回した。
体の動きを封じ込められたゴブリンどもは、斧が閃いた時にはゴブリンの頭が幾つも宙を飛び、ハンマーが唸りを上げると、ゴブリンの体が幾つもへし折れてぶっ飛んでいった。
僅か1分程で22匹のゴブリンは全滅し、バラバラになった死体が血の海に沈んだ。
目で追う限り、動くゴブリンは居ない。辺りを探ってもゴブリンの反応はないので、俺はようやく戦闘態勢を解除した。
どうしてもゴブリンと戦うと頭に血が上ってしまう。俺は努めて冷静になるように深呼吸を繰り返す。
「ゴブリンが全滅…した…」
「わたしたち、助かった…?」
「無事だ。無事だよ!」
「「「 わぁ―――――っ!!! 」」」
ゴブリンが全滅した事で、パニックから立ち直った女性たちが、無事を確認して抱き合って喜んだ。
「でも、どうして助かったの?」
「彼よ。あの男の人が助けに来てくれたのよ!」
「そう、彼がゴブリンを殲滅してくれたんだよ!」
「「「 キャ―――――アアアっ!!! 」」」
三人の女性が興奮して俺に抱き着いた。
「うわっ!なんだなんだ―――!」
「ありがと―――っ!」
「ありがとうございます――っ!」
「助かった!助かったよ―――っ!」
気を静めようとしていた俺は虚を突かれて、女性たちに揉みくちゃにされた。
途端に女性特有の柔らかさと、少し汗の混じった甘酸っぱい匂いが俺を刺激する。
戦いの興奮で昂ってる俺に、これは毒だ。ゾクリと背筋に衝撃が走り、強烈な性欲が沸き起こってきた。
ヤバい、これはヤバいぞ!
俺は咄嗟に女性たちを振り解いて離れた。
が、女性たちは不安からか、俺を追いかけて来る。
「ま、待ってよ、行かないで!」
「そうよ、こんな所に置いてかないで!」
「おい、行かないでくれ。」
「置いて行かないから安心してくれ。ただ、くっつかないで欲しんだ。」
俺は女性たちを見ないようにして距離を取る。
女性たちは俺が去らないと知って安堵する。
が、自分たちが安全だと知ると、余裕をかましてきた。
「あら、よく見たら、まだ少年じゃない。」
「ホントだ。すっごい強いからベテランの請負人かと思ったけど、随分と若い男じゃないの。」
「へェ~、もしかして照れてるのか。シャイで可愛いじゃないか。」
「良いわねぇ、逞しいのに照れてるところなんか、ズキューンと来ちゃうわ。」
「ホントホント。顔も中々良いし、ステキだわ~~~」
「当たりだ!僕たちは、当たりを引いたよ!」
「「「 ネェ~~~♪ 」」」
なんだ、こいつらは!?
俺が年下だと判った途端に態度を変えたぞ。なんか、変な誤解をしているようだが、取り敢えず放っておこう。
今は性欲を爆発させないように、極力関わらないようにしないとな。
「着いて来てくれ、先に一人助けたけど、君たちの仲間だろう。」
「あ、そうだ!仲間の『アンレーヴァン』は無事なの?」
「良かった。助かったんだね!」
「ホブゴブリンから救い出してくれたのか!?」
やれやれ、俺に関心を持つよりも、真っ先にそっちを心配して欲しいもんだ。
ホブゴブリンを倒した場所に着くと、フレィたちが女性とバゲージスを介抱していた。運搬袋の上で横になっている。
バゲージスは目を覚ましたようだが、女性はまだ気を失っている。
〈魔法士〉の3人はフレィたちを見るなり、姿勢を正して感謝の言葉を述べる。
「『連撃の剣』じゃないか!そうか、あなたたちがホブゴブリンからアンレーヴァンを救ってくれたのか。ありがとう、感謝する。」
「『魅惑の炎』か。いや、彼女を救ったのはそこに居るディケードだよ。」
「そうなのか、彼が強いのは見たけど、わたしと同じ銅鉄ランクじゃないか。一人でホブゴブリンを倒すなんて可能なのか?」
『魅惑の炎』とかいう妙な名前のパーティの女性が、訝しそうに俺を見ながらフレィに訊ねる。
フレィを始め、『連撃の剣』の面々は困ったような顔をする。
「本当だよ。ディケードが銅鉄ランクなのは、請負人になって間もないからさ。彼の実力は、僕たちが全員で相手をしても、足元にも及ばないよ。」
「なっ、嘘だろう!そんな事、有り得るのかい!?」
「すごーい!この少年、そんなに強いんだ!」
「ゴブリン20体をあっという間に殲滅したものね。有り得るかもね。」
「なに、それは本当かい!ああ、見たかったなぁ。
ねえ、どんな戦い方をディケードはしたんだい!ぜひ教えて欲しいっ!」
「ひっ!」
フレィが我を忘れて女性の一人に掴みかかった。
女性はフレィの勢いに恐れをなしているし、周りはドン引きしている。
やれやれ、俺の戦いの事になるとフレィは夢中になって周りが見えなくなるな。
面倒くさい事になりそうなので、俺は目を覚ましたばかりのバゲージスの所へ足を運んだ。
「すまない、バゲージス。大丈夫か、どこかに異常はないか?」
「あ…だ、だ、大丈夫…です……なんとも…ないです……」
大丈夫と言いつつ、全然大丈夫じゃない。明らかに俺を恐れている。
はあ~…無理もないか。余波とはいえ、強烈な《プレッシャー》を浴びちゃったものな。トラウマになっていなければ良いけどな。
「諦めな。バゲージスはお前の顔を見たくねーだろうよ。」
「くっ…」
ジュットゥが俺をバゲージスから遠ざける。
くそっ。そんなにきっぱり言わなくても良いだろうに。
「俺だってまだ膝が震えてるぜ。まったく、とんでもねー《プレッシャー》だったぜ。今まで、どんな魔物からもあんな凄い《プレッシャー》を感じた事なんてないぜ。あれで、余波だってんだから、お前の能力ってどうなってんだよ。」
「なんだよ、あれくらい。俺が魔の森で戦ったレジョンティーゲルは、あんなもんじゃなかったぞ。」
「なっ、魔の森って、マジかよ!レジョンティーゲルなんて、幻の魔物じゃねーか。お前、そんなのと戦ったのか!」
っと、いかん。熱くなって無駄口を叩いてしまった。
「ほおぉ~~~~~っ!面白そうな話じゃないか。ねぇ、ディケード、是非、その話も聞きたいねぇ~~~~~」
「………」
フレィが手揉みしながら近づいて来る。
やれやれ、厄介事から逃げたのに、余計に厄介な状況になってしまった。
「まあ、それは後々にするとして、先ずはこの場所から離れないか。残飯漁りだったか、数十体が近づいて来てる。」
「おっと、それは不味いね。負傷者も居るし、危険地域から出た方が良いね。」
「そうだな、成果も十分にあったしな。」
「『魅惑の炎』もそれで良いだろう。元々君たちが居て良い場所じゃないしね。」
「勿論だ。ホブゴブリンを追いかけて、こんな所まで来てしまっただけだしね。」
危険地域から出る事は問題なく決まったが、気絶したままの女性をどうするかで、ちょっと揉めた。
荷車が無いので、誰かが背負わなければならないのだが、フレィ以外の『連撃の剣』のメンバー全員が立候補して、自分が背負うと口論になった。
対象者が若い女性だけに、男の欲望が剥き出しになっている。気を失っている女性は、見るからに巨乳だしな。
「だから、俺が背負うって!」
「いや、俺が一番力があるから、俺に決まってるだろう。」
「お前は妻帯者だろう。ヒンヌーの嫁に言いつけるぞ!その点、俺には女が居ないからな。」
「女が居ない奴の方が、余計に危険だろう!俺は女の扱いに慣れている。それと、嫁を愚弄するな!」
「歳が近くて一番若い俺が適任だろう。」
「その理由に、何の意味があるんだよ!」
「「「 ……… 」」」
男の醜い争いに、女性たちはドン引きしている。
それでも、仲間を連れて行って貰わないといけないので口出しはしないが、じっとりと蔑んだ目で見ている。
なんというか、皆必死だが、とりわけジュットゥが一番気合が入っている。というか、必死過ぎるな。自己主張すればするほど、女性から引かれるというのが解っていない。モテない男の哀しい言動だな。
「ハァ~…やれやれだね。同じ男として見ているのが辛いね。」
呆れたフレィが仕切って、メンバーの男たちに順番で背負わせると決めた。男たちは一応、それで納得したようだ。
欲望を露わにしないフレィにお願いしたいと、こっそりと女性たちから要望が出たが、フレィは森を出るにあたって僕が殿を務めないといけないからねと、断っていた。
女性たちは残念そうに意見を取り下げたが、この事でフレィのお株は更に上がったようだ。女性たちの信頼の眼差しがフレィに向けられる。
やはり、モテる男は違うな。こういった行動の差が、モテ男と非モテ男に二分していくんだな。
全くと言っていい程、フレィは女性たちを性的な目で見ないが、逆に女自体に興味がないようにも感じられる。
それよりも、俺に向けられる熱い眼差しが気になるのだが、まさか薔薇の人じゃない…よな。
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