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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-2

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第六十二話 ブースト

 森の奥へと進んだ俺は、ジャガーもどきと交戦した。

 辛うじて撃退したものの、ジャガーもどきは明らかに今まで戦ってきた魔物とは次元の違う攻撃をしてきた。《アクセル》や《スライド》を駆使して、空中を自由に移動してみせた。やはり、この世界の森は驚異だと実感した。



 深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。

 水筒を取り出し、水を飲んで気を静めると、体の至る所が痛みを訴えだした。

 戦っている時は気にならなかったが、擦れ違った時や打撃を受けた時に擦り傷や打撲などの軽い怪我をしていた。


 《女神の涙》を試してみようと思い、ビンを取り出して患部に染み渡るように液を垂らしてみる。

 すると、スーッと痛みと共に傷が塞がって皮膚が再生されていく。


 ビックリするような効果だが、暫くは痒みが続いた。皮膚の再生に伴う血液の循環によるものだろう。細胞の再生をこれほど早く行うなんて、どういった仕組みなのだろうか。元々体内にあるディエースナノマシンが活性化して細胞の働きを補助してると思われるが、信じられない効果だ。魔法に見えるのも無理ないな。


 ふと、今倒したジャガーもどきに飲ませたらどうなるんだろうか、と考えた。

 もう死んでしまったので効果はないだろうが、重症の状態なら魔物でも助かったりするんだろうか?


 今度組合か販売所の誰かに訊いてみてから、小動物で実験してみるのも面白いかもしれないな。

 もっとも、人間でも部位の欠損や大きな怪我には劇的な効果がないようなので、魔物であっても、重症の場合は効果が薄いのかもしれないな。


 俺は意識を切り替えて、傷付けられた脛当ての応急処置に取り掛かった。防具屋の女主人に買わされた物の中に、修理キットがあったはずだ。

 表面の皮革は切り裂かれているが、中に編み込まれた蜘蛛の魔物の糸は殆ど無傷だ。多少編み目が不揃いになったくらいだ。どんな蜘蛛なのかは分からないが、こんな強靭な糸を持っているなんて恐ろしいな。


 この糸で作られた蜘蛛の巣に引っかかったら、かなり大きな魔物でも逃れられないんじゃないだろうか。勿論人間も刃物を持っていなければ脱出できないかもな。

 できれば出遭いたくはないが、捕獲できればいい金にはなりそうだ。


 俺は裂けた皮革を元の形に戻して接着剤を塗り込む。更に修理用の皮革片を上から張り付けて補強する。見てくれは悪いが、これで元の脛当てとほぼ変わらない強度になるだろう。


 修理を終えて一息つくと、ギンギンになったジュニアが自己主張する。

 困ったものだと思いながらも、気持ちがそれ程昂っていない事に気づく。

 性欲はあるものの、切羽詰まったような飢餓感のようなものは感じない。


 これはグリューサーが言っていた、女性との性交渉による心の安定だろうか。

 ジリアーヌたちと行為の後も心は落ち着いていられたけど、今も同じ感じがする。これは、シャイエーランたち娼婦との行為によるものだと思う。


 この事から、やはり俺には女性との行為が必要なんだと実感する。

 俺の身体となった肉体(アバター)はディケードの父親が作ったと言っていたけど、なんだってそんな風に作ったのか?

 何か訳があるのだろうが、いまいち分からないな。


 なんにせよ、今の俺がすべき事は実力の底上げと、性交渉可能なパートナーを得る事だ。

 ダンジョン攻略は勿論だが、先ずは俺が目覚めたアバター研究所に戻って身体を治す事が先決だ。そこへ向かうにはどうしてもパートナーが必要だ。

 三か月程で身体が劣化し始めると言っていたので、あまり時間の猶予はない。厄介だが、行動していくしかない。



 気持ちが落ち着いたので、俺は倒したジャガーもどきを見る。

 せっかく倒した強敵だ。できれば魔石だけじゃなく死体も持って帰りたい。初めて見た魔物だし、それなりの値が付くと思う。

 武器と防具の購入でかなり散財したからな。少しでも補っておきたい。


 このジャガーもどきの重さなら担げなくはないが、できれば新しい革鎧が血で汚れるのは避けたい。

 確か、死体を収納する袋が何枚かリュックに入っていたはずだ。例によって防具屋の女主人に買わされたものだが、有難いと思う。


 リュックから袋を取り出していると、血の匂いを嗅ぎつけた魔物の群れが迫っている事に気づいた。厄介な事に2種類の群れが左右から近づいてくる。

 一つは10匹のレオパールウの群れで、モノクロのヒョウ柄が特徴的な奴らだ。もう一つは12匹からなるハイエナに似た魔物の群れだ。


 二つの群れは10m程の距離を置いて、俺を挟んで対峙する形になった。お互いに唸り声をあげて威嚇しあっている。俺は双方から《プレッシャー》を受ける。

 しかも、その背後には漁夫の利を狙っているのか、はたまた食い残しを狙っているのか、幾つかの群れの姿があった。


 厄介だな。

 もしかして、俺が倒したジャガーもどきはこの辺りの覇者だったのだろうか。死んだ事で、食物連鎖の順位が変わろうとしているのかもしれないな。


 流石にこれだけの数を相手にするのは骨が折れそうだ。

 ふと、グリューサーに貰った《ブースト》を思い出した。

 さっきはいきなり戦闘が始まったために失念していたが、今この状況で試してみるのも面白いと思う。


「《ブースト》」


 俺の(フィールド)に反応して腕輪に内蔵された《コネクト》が立ち上がる。同時に《ブースト》アプリが起動して、全身を巡るディエースナノマシンが活性化されていく。


 クアアアァァァ―――――ンンン!!!


 今まで経験した事の無い活力が湧き出てきて、全身に力が漲っていく。

 周りの景色が輝いて見え、色彩のコントラストが強くなって、全てがはっきりと詳細に認識できる。しかも、時間の流れが止まったように感じて、全ての魔物が置物のように見えた。


 一瞬戸惑いを覚えたものの、これはいわゆるゾーンに入った状態ではないのかと思った。


 俺は気合を込めて殺意を溜めこみ、《プレッシャー》に乗せて一気に解放した。

 広範囲に広がった《フィールド》上を爆発的に殺気が拡散されていく。

 殺気の波は津波のように次々と魔物を飲み込んでいき、ビクリと大きく体を震わせて硬直する。


 その隙をついて、投球用の一番小さな鉄球を3つ同時にハイエナもどきに投げつけ、それと同時にレオパールウの居る逆方向へダッシュしてハルバードの斧を一閃する。


 動きの止まった魔物たちは良い的だった。

 一つの鉄球で2匹のハイエナもどきの体を貫き、一瞬にして6匹が死んで半数となる。また、固まって群れを成していたレオパールウは4匹の頭が一斉に宙に舞い、2匹の前足が千切れ飛んだ。


 ほんの束の間に半数になった2つの群れだが、俺は攻撃の手を緩めない。驚きで動揺するレオパールウの群れの中に突っ込み、ハルバードを振り回す。

 虚を突かれたレオパールウはなんの抵抗もできずに全滅する。


 一方、ハイエナもどきはその間に散開して距離を取った。

 俺を包囲するように位置取りをして、一斉に飛びかかって来る。


 ハルバードでの対応が間に合わないと感じた俺は、ハルバードを前方に放り投げ、指弾を数発打ち込む。

 ハルバードに注意を奪われた1匹のハイエナもどきは、指弾を顔面に食らって咄嗟に《スライド》する。


 俺は鞭を打ち込み、《スライド》したハイエナもどきを牽制しつつ、その空いた隙間から脱出して、ハイエナもどきの包囲攻撃を突破した。

 次いで、すぐさま反転して鉄球を投げ、空中で体の重なったハイエナもどきの2匹を打ち抜いた。


 残り4匹。

 俺は落ちてきたハルバードを掴み取って、着地した瞬間のハイエナもどきの頭をぶっ叩いて潰し、近くの1匹にハルバードを突き刺した。残りの2匹は距離があるので、ハルバードの持ち手部分に付いているスイッチを押した。

 するとハンマーの突起部分が外れて鎖と共に飛び出した。


 鎖分銅となったハンマーの突起部分を、俺は繋がった鎖を持って振り回し、勢いが付いたところでハイエナもどきに投げつけた。

 分銅は《センス》によって加速され、ハイエナもどきの《フィールド》を打ち破って頭を打ち抜いた。


 最後の1匹はその間に体を《スライド》しながら飛び掛かって来たが、俺はハルバードの柄の尻からレイピアを引き抜いた。更に《プレッシャー》で空中のそいつの動きを縛ってからレイピアを突き立てた。アダマンタイト製のレイピアは、その針のように細い刀身が根元まで抵抗なく突き刺さった。


 これで魔物たちは全滅し、漁夫の利を得ようと遠巻きに見ていた魔物たちは、慌てて逃げていった。俺の《プレッシャー》が弱くなった隙を突いて、なんとか振り解いたみたいだが、完全に戦意を喪失したようだ。


 まさか、《ブースト》の効果がこれ程とは思わなかった。

 あまり強くない魔物とはいえ、22匹を倒すのに1分もかからなかった。

 全ての魔物の動きが手に取るように判り、動きがスローモーションのように見えた。これでまだ《アクセル》を使用してないので、併用したらどうなるのか楽しみだ。


 しかし、集中を解くと《ブースト》の効果が切れたのか、身体がずっしりと重くなってだるさを感じた。

 確かにこれでは何度も使えないし、インターバルは必要だろう。緊急時以外は使わないのが無難なようだ。


「インフォメーション。」


 俺の声に反応して目の前にモニター画面が浮かび上がる。

 バイタルを確認すると、疲労度がかなり高くなっている。

 疲労の原因となる筋グリコーゲンが枯渇して、乳酸と水素イオンがおびただしく生成されている。また、筋繊維の裂傷も多く見られる。


 ディエースナノマシンによって急速に回復していく様子がグラフ化されている。これによると約15分後に完全回復するようだ。

 しかし、次の《ブースト》使用は30分後以降が推奨となっている。

 成程、《ブースト》の再使用は30分を目途にするという事だな。


 あと、《ブースト》の使用によって性欲がある程度治まったようだ。

 グラフにもそれが表れている。

 筋肉疲労によって溜まった乳酸を運ぶために、血流が活発になっているためだろう。ジュニアの海綿体に流れ込む血流が抑制されるようだ。


 面白いな。

 切羽詰まった時には、《ブースト》の使用が効果的かもしれないな。

 でも、《ブースト》が掛った状態で女性との行為や自慰をしたらどうなるんだろうか?

 いや、考えるのを止めよう。恐ろしい事になりそうだ………



 不毛な考えを捨てて、俺は後半に使ったハルバードの隠し武器について考えた。

 余裕があったので使用してみたが、微妙というのが正直な感想だ。


 レイピアの使い勝手は悪くないが、咄嗟の場合は腰に差している短剣を使った方が動作が少ないし、レイピアを抜いた事で若干だがハルバードのバランスが崩れてしまう。


 鎖分銅は威力としては申し分ない。《センス》を使えば威力もスピードも増すのでなおさらだ。しかし、飛び出した鎖が瞬時に戻らず、巻き取らないといけないので、ハルバードを元の状態で使えるようになるまで時間が掛かってしまう。


 レイピアにしても鎖分銅にしても、使い所がかなり限られると感じる。他の弓にしても、俺の場合だと鉄球を投げた方が早いし威力もある。

 結局、止むを得ない場合以外は隠し武器は使わない方が無難なようだ。


 それでも、いざという時に隠し武器を使えるのは、人間が相手だと意表を突いたり欺いたり出来るので、悪くはないと思う。


 隠し武器の感想はそんなものだが、やはり今回も《センス》による鉄球の加速や減速、曲がり具合等が格段に反応が良かった。

 鉄球に替えた事で反応が良くなったとしたら、多分材料による磁化のしやすさに原因があると思う。


 鉄は磁化しやすい物質だからな。《センス》による《フィールド》の影響を受けやすいのだろう。これは予想以上に嬉しい効果だ。

 これで、更に俺の攻撃力は増すだろう。




 ☆   ☆   ☆




 それにしても、随分と魔物の死体が増えてしまった。

 収入を考えると全てを持って帰りたいが、どうやっても無理だ。ジャガーもどき以外は魔石だけ回収するしかないな。

 クレイゲートが使っていた《魔法函》でも有れば良いと思うが、金貨500枚は途方もなく高すぎる。



 意識を集中してディケードの記憶を探ってみる。

 うっすらと見えてくる。

 やはり、あのアバター研究所にはディケードの私室があり、そこに《魔法函》があるようだ。

 えっと、【アイテムボックス】か、そう呼んでいた物を以前は使っていたんだな。それは今も使えるのだろうか?


 クレイゲートたちが使っている《魔法函》は遺跡から発掘してきたものなので、五千年以上が経っても問題なく使えるのだろう。凄すぎるよな、異星人のテクノロジーは。


 だけど、アンフェルオウスだったか、あの大熊に施設は破壊されたので修復中だとグリューサーが言っていたな。

 どの程度の被害かは判らないが、【アイテムボックス】を始め様々なアイテムが有ったはずだ。無事だと良いけどな。


 俺はそんな事を考えながら、レオパールウとハイエナもどきの魔石を取り出し、同時に鉄球の回収も行った。


 鉄球は半分ほどしか回収できなかった。流石に戦闘中に回収の事までは考えてられないので、遠くに飛んで行った物は諦めるしかない。

 消耗率が今後の課題になりそうだ。


 今までは拾った石を使っていたので、後先考えずに使用していたが、金の掛かる鉄球となると使い捨てという訳にはいかない。少しでも回収して再利用したい。

 ブーメランのように戻って来れば良いのだが、そんな風に飛ばす事ができるのか、今後の練習課題としておこう。

 今は使い所を見極めて、拾った石ころと併用していくのが良いだろう。


 これも《魔法函》が有れば、大量に鉄球を保存して置けるんだけどな。そうすれば、重さやリュックに入れておくスペースを気にしなくて済むのにな。

 まあ、無い物ねだりをしてもしょうがない。できる範囲で地道にやっていくしかない。


 俺はゲームの舞台となった世界に居るが、ゲームをやっている訳ではないからな。




読んでいただき、ありがとうございます。

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