M-2 性欲の目覚め -前編-上
5000PVに達しましたので、その記念小説として掲載します。
現在の主人公ではなく、本来のディケードの物語です。
前中後編の二話ずつで全6話となりますので、お付き合いいただけると幸いです。
「ふあぁ~~~あ、朝か…ステータスオープン。」
リンケージカプセルの中で目覚めた僕は、日課のボディチェックを行う。
目の前に浮かぶモニターでバイタルを確認するが、異常は見当たらない。
感覚を研ぎ澄まして自分の身体を探るが、違和感はない。
この身体はリンケージカプセル内で眠りについている間にメンテナンスと洗浄を行うので、目が覚めるたびにリフレッシュされている。気分は爽やかで気力が漲っている。
自室にあるリンケージカプセルを開いて、その中から出ていく。
腕に装着したアームリングデバイス、通称ARD以外は何も身に着けていないので真っ裸だ。
リンケージカプセル内で自動的に着替えもできるけど、最近はこの身体のまま、裸でウロウロするのが気に入っている。
これも僕に起こっている最近の変化の一つだ。
以前はこんな感覚、なかったんだけどね。
「おはよう、父さん、母さん。」
「おはよう。」
「おはよう、ディケード。珍しく、朝食前に起きてきたわね。」
「へへ、まあね。」
学校の制服に着替えてキッチンに行くと、両親が少し驚いて迎えてくれた。
いつもなら、リンケージカプセル内でグダグダと過ごすんだけど、今日はいよいよラスボスとの決戦が待ってるんだ。グダグダなんかしてられないよ。
僕はこれから学校へ行き、両親は仕事で研究所のある惑星ナチュアへと向かう。
一見和やかな家族の朝食風景だけど、それはアバターが有ってこそ可能になっている。
というのも、僕たちラティエーラ人は高度に発達した文明の代償なのか、人間としての肉体が極度に衰退してしまったからだ。
僕たちの本来の身体は、種族維持のために惑星の地下深くの施設で保護され、培養育成維持管理されている。ある意味、脳だけが活発に活動する植物状態に近いともいえる。
子供は両親の遺伝情報を基に人工子宮から生まれてくるけど、もはやその身体では自然の中で生きていくのは不可能となっている。それほどまでに衰退してしまっているんだ。
その問題を解消するために生み出されたのがアバターシステムだ。
大昔の人間の遺伝子を使って肉体を復元し、それに自分の遺伝子を加味してアバターとしている。それを本来の身体の自分が遠隔操作しているのが、アバターシステムだ。
これによって、僕たち人類は植物状態にありながらも、普通の健常者として生活している、という訳だ。
もっとも、それで問題がないという訳ではない。
アバターは確かに健常者だけど、操る側に問題があるのか、人間本来の生殖能力が不活発で、性欲が湧き起らなくなっている。
アバター側に問題はなく、あくまで操る側の精神性に問題があるらしい。
学校の先生曰く、何十世代と生殖行為を行っていないので、人間は本能レベルで性欲を失ってしまったらしい。
その授業を受けた時、性欲ってなんの事か、僕にはさっぱり解らなかった。
僕は15歳だけど、本来なら肉体的に性欲のピークにあるらしい。
でも、今まで女性を見て性欲が湧くなんて事、無かったんだけどね。
それでもさ、最近はちょっと変なんだよね。下腹部が妙にムズムズしだす時があるんだ。
ある授業を体験する様になってから、少しずつ変化が起きてきたように感じる。それは僕だけでなく、周りの友達もそう感じるようだ。
先生曰く、僕たちの前の世代からは『新人類』と言われているらしく、性的特徴が現れ出したらしいんだ。
☆ ☆ ☆
僕は住んでいるマンションを出て、通学路になっているマンション群の中を歩いて行く。似たようなマンションばかりが延々と建ち並び,殺風景この上ない。
もっとも、これも授業による体験によってそう感じるようになったんだ。
昔は通学なんかしないで、家庭内での通信学習が当たり前だったそうだけど、僕たちの世代になってから学校というものに通うようになった。
なんでも、同世代の子供同士で学校という教育の場を使って、コミュニケーション能力を育成するためらしい。
それになんの意味があるのか僕には解らないけど、友達と毎日会って勉強したり遊んだりするのは楽しいと思う。
「ディケード、おっはよう!」
「いてっ!おはよう、トモウェイ。」
幼馴染でクラスメイトのトモウェイが元気に僕の肩を叩く。
ちょっと痛いけど、元気なトモウェイを見るのは好きだ。元気を分けて貰えるような気がする。
「相変わらず陰キャくさいわねぇ、ディケードは。」
「悪かったな、どうせ僕は陰キャだよ。」
トモウェイは、こうやっていつも僕をからかう。
陽キャのギャルっぽいトモウェイからしたら、無口な僕は暗く感じるんだろう。
でも、悪い気はしないんだ。本心でそう言ってるんじゃないと知ってるからさ。
僕たちは体験授業でグリューサー時空に参加してるけど、トモウェイと一緒にパーティを組んでいる。
そこでの体験はとても楽しいけど、大変なこともいっぱいあって、一緒に苦労することが多いから、仲間だという意識が強いんだ。
そう、とても大切な仲間なんだ。
でも…
最近はトモウェイを見ると変な感じがするんだ。
服装越しだけど、滑らかな体の線を見たり感じたりすると、なんていうか、ムズムズするんだよね。
下腹部辺りがさ…
最初はなんなんだろうって思ったけど、ゲーム体験を通して、段々と解ってきたんだ。
これが、性欲なのかなってさ。
自分一人ではモヤモヤして訳が分からなかったけど、同じ男の友達と相談するうちに理解できるようになったんだよね。
このムズムズって、あれなんだよね。
イヒヒヒヒ…
「なによぉ、気持ち悪い笑い方してさぁ。」
「ああっと、ゴメン。なんか自然に出ちゃってさ。」
「へんなのぉ。」
不審者でも見るような眼差しで、トモウェイは僕を見る。
確かに変だよな、自分でもそう思う。
でも、トモウェイはどう思ってるんだろう。
トモウェイは下腹部がムズムズしたりしないのかな?
男と女じゃあ違うのかな?
授業で習ったけど、男と女では身体の作りが違うんだよね。特に下腹部の構造がかなり違う作りになっている。
大昔の人間たちは、その構造が違う下腹部の性器同士を交合させる性行為をして、子供を作っていたって云うけど、本当なのかな?
なんか、凄く気持ち悪いんだけど。
トモウェイは僕に歩調を合わせて歩く。
二人で横に並んで仲良く歩いているように見えるよね。
トモウェイはちょっと乱暴なところがあるけど、最近は可愛いって思えるようになってきたんだ。たまに、ちょっとした仕草にドキリとさせられる時がある。
よく分かんないけど、不思議な感覚だよね。
そしてさ、そして…なんていうか、その…
トモウェイとだったら、その性行為をしてもいいっていうか、してみたいって思っちゃうんだよね。トモウェイが相手なら、全然気持ち悪いとか思わないんだよね、なぜかさ。
トモウェイは、僕に対してそんな風に思ったりしないのかな?
女の子の考える事って、謎だからな。最近は特にそう思うようになってきた。
以前なら同じ事を面白いと思ったり感動したりしたんだけど、最近はずれを感じるんだよね。これが性差ってやつなのかな。
パチッ―――――ンンン!!!
いきなりビンタを食らってしまった。
「ちょっとっ!さっきからジーっと、どこ見てるのよ!いやらしいわねっ!」
「へっ、あ、その…ご、ゴメン!」
考え事をしながらトモウェイの下腹部を見ていたようだ。トモウェイが真っ赤になって怒っている。
スカート越しとはいえ、恥ずかしいみたいだ。以前なら、ケラケラ笑ってただけだったのにな。
「ディケード、なにボーっとしてるのよ。少し急がないと遅刻しちゃうよ。」
「あ、ああ、そうだね。」
僕たちは駆け足で学校へ向かった。
トモウェイは乱暴だけど、次の瞬間には普通になっているのが良いよね。
やっぱり、トモウェイも少しずつ変わってきてるみたいに感じるね。
時間ギリギリだけど、なんとか校門に滑り込んで遅刻は免れた。
ほとんど同じタイミングで一組のカップルも滑り込んで来た。
「おーっ、間に合ったぜ!」
「はあはあはあ…もう、こうなったのは『ダンファース』のせいなんだからね。」
「あっはは、ごめんよ。でも『フィアン』だってその気になってたじゃないか。」
「うっ…そ、そうだけどぉ…」
ダンファースの突っ込みに対して、真っ赤になって口ごもるフィアン。
二人で何をやっていたのやら。
「よう、ディケード。そっちもぎりぎりだったようだな。」
「はは、まあね。」
「お前らもついに目覚めたのか?」
「な、なに言ってんだよ!そんな訳ないだろう…」
ダンファースは僕の親友だ。そして、隣にいるフィアンはダンファースの彼女だ。
僕とトモウェイとこの二人はゲーム内で同じパーティを組んでいる。
あと一人仲間が居るんだけど、彼女は別の学校の生徒なので、ゲーム内で合流する事になっている。
で、ダンファースとフィアンなんだけど、二人は恋人同士で付き合ってるんだよね。
恋人同士なんだよ!凄いよね。
今までの常識からしたら、考えられない事だよ。
通常なら、学校を卒業して社会に出てから、適齢期になったらマッチングした相手と婚姻関係を結ぶんだ。
そして、経済的基盤が整ったら、二人の遺伝子を提供して人工子宮で子供を作る。それが極一般的な家庭の在りかたなんだけどね。
でも、僕たち『新人類』世代は、チラホラとだけど、カップルとなって恋人同士となる者が現れだしたんだ。
お互いが感情的に好きになって惹かれ合うなんて、どんな感じなんだろう?
恋人同士になると、男女で何をするんだろうね?
その答えは、MMORPGのグリューサー時空の中にあるんだ。
あの場所では、凄い体験の連続なんだよね。
「へへ、ディケード。俺、ついにやっちゃったよ。」
「や、やったって、何をさ?」
「ん~~~、ここでは不味いから、グリューサー時空に行ってからな。」
「あ、ああ…」
ダンファースが僕の肩に腕を回して、小声で話し掛けてきた。
自慢げに、言いたくて言いたくてしょうがない感じだ。その興奮した様子から、何を言いたいのか気になってしまう。
「ええ―――――っ!!!うそっ、マジで!!!」
いっぽう、トモウェイもフィアンから話を聞いて驚いている。
しかも、顔が真っ赤っかだ。
いったい、何を聞いたんだ?
気になってしまう…
キンコーンカンコーンキンコーンカンコーン…
「「「「 あっ… 」」」」
校門のところで話に夢中になっていたら、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。
あちゃ―――!
結局遅刻して、先生に説教を食らってしまった。
授業が始まり、ダンジョンでの注意事項を耳にタコができる程聞かされる。
緊急コード『ダンジョン№01~№10』とか、救援コード『女神№01~№12』とかさ。
危険回避が一番大切なのは解るんだけどさ。ちょっとうざいよね。早くゲームをさせてくれって思うよ。
ようやく長い長い注意事項が終わって、いよいよゲームの開始だ。
今日は一日を使って、惑星ナチュアで行われているMMORPGのグリューサー時空に参加する。
授業時間を使ってゲームをするなんて驚きだけど、これは惑星統治機構が推進する計画の一環として、カリキュラムに組み込まれているみたいだ。
惑星植民地化計画の一環とからしいけど、僕には難しい事は分からない。
ただ、そこで行われるゲームは楽しくてしょうがないので、ラッキーという感じだよね。
僕たち生徒は、学校に設置されたリンケージカプセルに入り、意識を切り離して惑星ナチュアにある自分専用のアバターへと飛ぶ。
ハイパーリンクシステムによって光速を超え、瞬時に意識が数千光年先へと飛躍するんだ。
☆ ☆ ☆
新たに目覚めた僕は、朝目覚めた時と同じようにバイタルチェックとボディチェックを行う。
よし、問題なし。
「今日の服装は古代ロマニーケ風だったな。」
左腕に装着したARDのモニターからスタイルアプリを起動して、グリューサー時空で着る服を選ぶ。
パーティメンバーとの打ち合わせ通りに、古代ロマニーケ風の衣装を選択する。
これは約一万年前に世界の中心と言われた都市、ロマニで一般的だった衣装だ。
ロゥニカと呼ばれる一枚布を体に纏って腰をベルトで絞ったもので、肩から膝までを包み込んでいる。
男性はその上にローガと呼ばれるマフラーに似たマントを巻き付けるのが正装とされている。
靴は編み込み式のサンダルを履く。
準備が整ったのでリンケージカプセルを出る。
クラスの他の連中はとっくに出かけたようだ。僕を待っているダンファース以外は誰もいない。ちょっと準備に時間をかけ過ぎたようだ。
女子たちのリンケージカプセルは別の部屋に設置されているので、トモウェイとフィアンはまだ向こうだろう。女の子は準備に時間が掛かるからね。
僕は体をほぐしながら衣装の着心地をチェックする。
普段着てる服とは違い、ゆったりしているので動く度に布が揺れて擦れるけど、さほど違和感はない。
実際に古代人が着ていたウールではなく、現代の化学繊維製なので、軽くて衣擦れの音もしない優れ物だ。勿論、防御力にも優れている。
まあ、衣装はどうでもいいか。
それよりもアバターだ。
この世界、惑星ナチュアで使用するアバターはラティエーラで普段使っている物とは全然違う。
とにかく、エネルギッシュで躍動感に満ちている。じっとしているのが辛く感じるくらいだ。
思わず飛び跳ねて《スライド》をする。
体が空中で90度近くグイ―――ンと方向転換して進んで行く。
着地を決めると、ダンファースが呆れたように僕を見ていた。
「相変わらず、ディケードの《スライド》能力はスゲーな。軽く跳ねただけでそれだもんな。」
「まあね、これが僕の得意技だしね。」
いつものようにダンファースが僕を褒めてくれる。
でも、言葉とは裏腹に、気持ちは他の方に向いているという感じだ。
ダンファースが僕の肩に手を回して囁くように話をする。
「ディケード、さっき俺が校門のところでやったって話をしただろう。」
「ああ、そうだったね。いったい、何をやったのさ。」
ダンファースがいかにも訊いてくれという雰囲気を醸し出すので、僕はそれに乗っかって質問した。実際、気になっていたしね。
すると、ダンファースはニヤリと笑ってから、興奮しながら話し始めた。
「俺、ついにフィアンとやっちゃったんだよ、Hをさ!」
「……………っつ!ま、マジか!Hって、あのHだよね!!!」
「おおっ、あのHだぜ!」
一瞬、僕はなんの事か解らなかったけど、次の瞬間には判ったんだ。
ダンファースがなぜ惑星ナチュアに来てから、僕に教えたのかを。
惑星ナチュアで使用するアバターは身体能力が優れていて、超越力だって使えるんだ。
でも、それだけじゃなくて、あっちの方の機能も凄いんだよね。
本星のアバターは下腹部がウズウズする程度だけど、惑星ナチュアで使用するアバターははっきり反応するんだよね。大きく硬くなるんだ。
アバターの素になっている身体はこの惑星の原人だ。
原始的な野生の本能が、操る側の精神性を凌駕しちゃってるんだよね。
実際に、ダンファースの話を聞いて、僕のモノが反応しちゃってる。
この現象に、最初は凄く戸惑ったけど、なんとなく気持ち好いし、狂おしいような切ないような、不思議な気分になるんだよね。
そしてさ、なんか凄く誇らしいような気持ちになるんだ。
以前からダンファースとその事についていろいろと話をしてたけど、まさか本当にフィアンとしちゃうなんて、ビックリドッキリドッキドキだよ!
「そ、そそそ、それで、ど、どどど、どうだった?」
「フヒッ♪」
ダンファースの眼差しが更なる向こうの世界へ行ってしまった。
「凄いなんてもんじゃなかったぜ!天国だよ天国!極楽とはあの事だぜ!
女の子の体ってさ、すっげー柔らかくて良い匂いがするんだぜ。」
「おおおーっ!」
「そしてさ、フワッとしながらキュッとなってて熱々のトロトロなんだぜ。もう、この世のものとは思えないほど気持ちいい―――んだぜ!!!」
「おおおっ、おおおっ、おおおっ―――――っっっ!!!」
スゲー、スゲーよ!女の子ってそうなんだ。スゲ―――――っ!!!
僕とダンファースはこれ以上ないくらいに盛り上がった。
ドガガガガ―――――――――――――――ッッッ!!!!!
「がっ!」「ぐえぇっ!」
どこからともなく丸太が飛んできて、僕とダンファースが吹っ飛んだ。
「この男どもは、なに馬鹿なこと言ってんのよ!」
「サイテ―――っ!」
羞恥に震えながら、真っ赤になって怒りを表しているトモウェイとフィアンが立っていた。
「ま、丸太なんて、どこから持ってきたんだ…よ…」
「て、転移魔法…なのか?」
「そんなのどうだっていいじゃない!今日はラスボスを倒して女神様を開放するんだからね。早くしなさいよ!」
「男って本当にHなんだから!」
そうだった。
あまりに衝撃的な告白で忘れていたけど、今日は決戦の日だった。
それに課題もこなさないといけなかった。
Hの事は一旦忘れて、ゲームに集中しないと、だな。
☆ ☆ ☆
僕たちはリンケージカプセルを設置しているアバター待機室を出て、外の世界に足を踏み出した。
そこには、古代都市ロマニを再現した街並みが広がっていた。
この街自体は、ロマニの街と呼ばれている。
ロマニ調といわれる建築様式で、石とコンクリートでアーチやドームを作り、その組み合わせで様々な建築物が立ち並んでいる。特に巨大な柱が並んでドームの屋根を支えているのは圧巻だ。
全ての建築物が巨大で、ゆったりとした空間が広がる街並みは、コンパクトにまとまっている本星とは全く趣きが違う。
「凄いわねぇ、こんな街並みが一万年以上も前にあったなんてね。」
「そうだね、重機も重力キャンセラーも無いのに、よくこんな大きな物を作ったよね。」
「俺たちの遠い先祖様は偉大だな。」
「本当にね。しかも、単に大きいだけでなくて、細かい芸術的彫刻がびっしりと彫られているんですものね。」
今回は学校の勧めもあって、マロニの街を経由してダンジョンへ向かう。
後でレポートを提出しないといけないので、街の観光もしないといけない。
でも、こんな凄い昔の街並みを見ていると、レポートの為じゃなくても歩いてみたいって思うよ。
屋台で飲み物を売っていたので、トモウェイとフィアンが買い物をした。
「おじさん、このワリーカっていうのを4つください。」
「あいよ、お嬢ちゃんたちはこの街は初めてかい。おまけで増量しといたよ。楽しんでいってくれよ。」
「「 ありがとう。 」」
やっぱりここでも女の子は得をするんだね。
僕やダンファースが買い物をしても、こんな風におまけしてくるなんて事は無い。可愛い女の子はいいよね。ちょっとした差別に嫉妬するけど、僕もおじさんの立場だったら、やっぱり同じようにするかもね。
屋台のおじさんに銀貨で料金を支払うと、銅貨のお釣りが返ってくる。
本星では硬貨なんて使う事がない。というか金銭の授受自体がないので、すごく不思議な感じがする。
でも、大昔の人はこうして稼いで生活していたんだよね。
屋台のおじさんは|ノンプレイキャラクター《NPC》で、アンドロイドだ。
見た目も行動も人間そっくりだけど、見分けがつく様に額部分がカメラセンサーになっている。これはプレイヤーの行動を見守る意味もある。監視しているともいえるけど。
防災防犯救護機能が優れているので、事件や事故の時には頼りになるんだ。
買ったワリーカを飲んでみた。
ワインを水で凄く薄めたものらしいけど、正直美味くない。温いし。皆も同じ意見だ。大昔の人は実際にこれを飲んでいたみたいだけど、僕たちの舌には合わなかった。
無理もないよね。僕たちの時代にはありとあらゆる清涼飲料水があるからね。しかも種類ごとに適温に管理されているからね。
でも、昔の人が同じものを飲んでいたというだけで、なんか特別な体験をしたような気がするよね。
僕たちは古代都市の街並みをバックに記念撮影をした。
僕たち男性陣と同じように、トモウェイとフィアンの女性陣は古代ロマニーケ風の衣装ロゥニカを着用している。そしてその上に、ラトールと呼ばれる女性用のストールのような布を巻き付けている。
ほんの少しの違いなのに、ラトールの生地が作り出すアコーディオンのような折り返しの皺が、女性らしさを際立たせている。
女の子の華奢な体が動く度に、優雅な可愛らしさが見え隠れする。
ゾクゾクしちゃうね。
写した写真を見ると、僕とトモウェイが横に並び、ダンファースとフィアンが手を繋いでいる。
ダンファースとフィアンが照れくさそうなのが印象的だ。
撮影の最中に、それをトモウェイがチラチラと見ていた。
そして、その後に僕をじっと見ていた。
僕も手を繋げばいいのかな。でも、恥ずかしいよね。
そんな事を考えている間に、写真撮影が終わっていた。
「ん、もうっ!」
「いでっ!」
トモウェイに蹴りを入れられて痛かった。
☆ ☆ ☆
街の通りを歩いて、ある程度観光を終えた。
これで一応レポートは書けるだろう。
僕たちは街のはずれにある、《女神の庭》に来ていた。
芝生の広がる、のどかな雰囲気の場所だ。
中央に小さな神殿があり、その中では降臨石が宙に浮いて、回転しながら輝きを放っている。
僕たちが神殿に入ると、降臨石が女神へと変化する。
降臨石が一瞬だけ眩い光を放つと、淡く光輝く衣装を纏った女神様が顕現した。
「我は、《女神シュリーム》。《創造神グリューサー》の僕にして百移の門番なり。」
何度見ても、どの女神様も気高い美しさを持っていて、見惚れてしまう。
4次元映像だと解っていても、その存在感は圧倒的だ。
この《女神シュリーム》様も、女性的な魅力に溢れた物凄い美人なんだけど、なんか恐れ多くて性的に興奮なんかしないんだよね。そんな事を考えてはいけない雰囲気を纏っているんだ。
「「「「 《女神シュリーム》様、ご機嫌麗しゅうございます。 」」」」
「うむ、そなたたちも健在でなによりだ。して、本日の用向きは何か?」
「《泉の精フオンティ》様の下へ転送願いたく存じます。つきましては、この壺をお納めくださいませ。」
女神様とのやり取りは、変な言葉を使わなければいけないので厄介だ。
祝詞って言うらしく、学校で習ったけど、いまいち正しいのか不安だ。
ここへ来る途中の店で買った壺を女神様の前にある台座に置く。
なんでも、《女神シュリーム》様は壺の収集家だというので、買わされたけど。
「ほう、この壺は良いものだ。伊万里焼を模したものだな。ありがたく受け取るとしよう。」
《女神シュリーム》様はにっこり微笑みながら壺を見つめると、目に見えないスピード、神速で懐に仕舞い込んだ。
なんだかよく解らないけど、気に入ってくれたようで何よりだ。
女神様の機嫌を損ねると、神罰を受けるか無視されて消えてしまうからね。
正直、面倒臭いやり取りだとは思うけど、こういった儀式をこなせない人間は、この惑星ナチュアでは途方に暮れるしかなくなってしまう。
これは他人に迷惑をかける輩の排除の為らしい。ある一定の教養と情操能力が求められる。
誰もがなるべく不愉快な思いをせずに、ゲームやレジャーを楽しむためには、止むを得ない処置だと思うよ。
一通り儀式が終わって、僕たちは神殿の中にある転送陣の上に立つ。
女神様の合図で僕たちの足元に魔法陣が広がり、複雑な模様が描かれた魔法陣の模様をなぞるように光が走る。
全ての模様が光に満たされて、その光が僕たちを包み込む。
「《女神イーレテゥス》様の解放を願う。」
女神の言葉が終わると同時に、僕たちは光に溶けて量子化した。
読んでいただき、ありがとうございます。
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