第五十八話 三熟女
いよいよもって性欲が溢れだし、我慢できなくなった俺は花街で熟女専門の娼館を訪ねた。そこでシャイエーランという娼婦を買ったのだが、例によって例の如く、ディケードの記憶がフラッシュバックした。
俺は我を失って、夢中でシャイエーランを攻め立てた。
シャイエーランは絶叫して気絶したが、それを聞きつけた娼館の男たちが部屋へ入ってきて、俺に短剣を突きつけた。
短剣を突きつけてきた男は、確かこの店のマネージャーだ。1階のカウンターの中に居た身なりの良い高齢男性だ。他のガタイの良い男たちは守衛だろう。防具を身に着けて帯剣している。
医者と思われる女が遅れてやって来て、シャイエーランを介抱し始める。
マネージャーは俺に詰め寄る。
「シャイエーランに何をした?」
「いや、普通に行為をしていただけだが…」
「普通だと?なんで普通の行為でこんな風になるんだ?」
「それは…」
「外傷はどこにも無いわね。暴力を振るった訳じゃなさそうだわ。薬を使った訳でもなさそうね…多分、ショックで気を失ったみたいね。」
暫くの間マネージャーとの問答が続いたが、女医に気つけ薬を嗅がされてシャイエーランが目を覚ました。
「ヒィっ!」
シャイエーランは俺を見るなり怯えて後ずさった。
「きさま!やはり何かしたなっ!」
「いや、だから普通に行為をしただけだって…」
「本当なのか?シャイエーラン。」
シャイエーランは怯えながらもコクコクと頷く。
「じゃあ、何故そんなに怯えている?」
「だ、だって…いつまでも終わらないし…何度も何度も昇天させられて…このままじゃあ死んじゃうわ!」
シャイエーランは辛さを訴えるが、そのセリフで現場に弛緩した空気が流れた。
マネージャーも守衛の男たちもポカンとした顔になる。女医はやれやれと額に手を当てる。
「さもありなん…」
「「「 ……… 」」」
「凄いわねぇ…」
マネージャーたちは俺を見て呆れるが、取り敢えず疑いは晴れたようだ。
マネージャーは襟を正して俺に謝罪する。
「お客様、なんと言いますか…あらぬ疑いを掛けて申し訳ありませんでした。」
「疑いが晴れたなら、それで良い。あの状況だとそう思われても仕方がないさ。」
「おお、寛大な心遣いに感謝いたします。」
状況が落ち着くと、マネージャーは疲れ切っているシャイエーランに「休むように」と告げて退出を促した。
その際に、俺は「迷惑を掛けて済まなかった」と謝罪して、銀貨1枚を握らせた。
シャイエーランは驚いて俺を見たが、俺が頷くと「ありがとう」と言って女医に
支えられて退室していった。
それを見ていたマネージャーは満足そうに頷いた。
「その若さで素晴らしい対応ですな、感服いたしました。
また、当店といたしましては、お客様に満足して貰えずご迷惑をお掛けした事に対して、ご利用料の辞退をさせていただきます。つきましては返金させて頂きますので、今日のところはお引き取り願いたく存じます。」
やたらと丁寧な対応だが、暗にもう来ないでくれと言ってるようなものだな。
しかし、俺としてはまだ中途半端で、全然スッキリしていない。
やりたい気持ちだけが募って、一人だけが相手だとこうなるというのを失念していたな。
「返金はしなくていいから、出来れば追加で三人程同時に相手をしてくれないだろうか。その分の追加料金は支払う。」
「は…?
いやはや、これは驚きましたな。まだまだ元気に漲っているのでしょうか。若いというか凄まじいですな。」
マネージャーは少しの間考え込んだが、俺が金を持っていると踏んだのか、次のような提案をしてきた。
「ふむ、それでは当店の体力自慢の嬢を三人付けましょう。特別料金となりますが宜しいですかな?」
「ああ、それで頼む。無理を言ってすまない。」
料金を支払うと、マネージャーは守衛を伴って引き揚げていった。
少しすると、三人の嬢がやって来た。
「『ノベンジュ』で~す♪」
「『トロイス』よ。」
「『ファム』といいます。」
ノベンジュは黄色人種っぽい肌をした大柄なケモ嬢で、青味がかった髪の毛に同じ毛色の熊耳が乗っている。後の二人は普通の女性で、トロイスは黒人、ファムはピンク色の肌をした桃色人種だ。
黒人のトロイスは背が高くてファッションモデルのような体型をしている。桃色人のファムは背が随分と小さいが、胸がⅠカップはありそうな爆乳だ。トランジスタグラマーというやつなのかな。
どうやら三人共奴隷のようだ。アクセサリーっぽく見せかけた《奴隷環》が様々な色の光を弾いて輝いている。
俺はそれぞれの嬢にチップを渡す。すると、途端に色めき立って喜びだした。
「まあ、こんなに!わたしもまだ捨てたものじゃないわね…」
「凄い凄い!思い切りサービスしちゃうわ!」
「ああ、凄い…左乳房が疼くわ!」
思った通りだ。その反応を見る限り、彼女たちは人気に衰えが出てきた娼婦なのだろう。容姿に年齢を感じさせる部分が表れ始めていて、溌溂さが今一つだ。
あのマネージャーは体力自慢の嬢と言っていたが、物は言いようだな。要は客の付かなくなった嬢を纏めて俺に宛がったという訳だ。
「シャイエーランを負かしたようだけど、わたしは手強いわよ。」
「わたしのテクニックは、そこらの小娘なんて足元にも及ばないのよ。」
「フフフ…わたしの左乳房に封印されし邪気が目覚めた時、それがあなたの最後よ。」
この三人の嬢、強気な口上でドレスを脱ぎ始めるが、いまいち所作が乱暴で、優雅さとか妖艶さといった女性ならではの色気が足りないように思う。
なんとなく、人気がないのが理解できてしまうな。
一人だけ中二病っぽいのがいるけど、中年に差し掛かる歳でそれはどうなんだ、と思わないでもない。爆乳の左乳房にドクロの刺青が小さく掘られているが、それが封印の証しなのだろう…な。
爆乳だけで十分に魅力的なのに、変なオプションを付けるから、ちょっと萎えてしまう。
まあ、それでも物事は考え方次第だ。
確かに一人一人で見ると、それぞれの嬢たちの魅力に陰りを感じるが、三人が同時に並び立つとどうだろう。
様々な人種で肌の色の違いがあり、体形や肉感の違いを楽しみながら味わえる。しかも、それぞれの嬢が俺を顧客に取り込もうとして、競ってサービスに励んでいる。
「ふふふ…こんなのはどうかしら♪」
「わたしだって負けないわよ。」
「ああ、わたしの左乳房の疼きを感じて…」
「おお、おおっ、これは凄いぞ!」
まさにパラダイス!
三人の嬢が自分の持つテクニックを駆使して、俺の五感全てをもてなしてくれる。二人だけではできないプレイの数々は、俺を新境地へと誘ってくれる。これぞハーレムプレイ、気分は王様だ。
日本に居た時は、こんなのは体力的にも経済的にも経験出来なかったからな。
クレイゲートの商隊に居た時は、ジリアーヌが気を失うと後から少女たちが相手をしてくれたようだけど、殆ど記憶にないしな。
そして、何より嬉しいのは、交わる際に三人の嬢が上手くタイミングを計りながら、代わる代わる休憩を取って俺の相手をしてくれる事だ。
俺が夢中になって一人を攻め立て始めると、上手く隙をついて次の嬢が体を入れ替えて相手をしてくれる。
「はいは~い、次はわたしよ♪」
「た、助かった…凄すぎるよ…」
「ああ…左乳房の疼き…どころじゃな~い!」
「まだまだ―――っ!」
そのお陰で、俺は意識を保ったまま交わりを楽しむ事ができた。
こんな事は今の身体になってから初めてで、改めて性の悦びに浸った。
こうして俺は夜明け近くまで励んで性欲を吐き出した。
やはりというか、最初は意気揚々としていた嬢たちも、次第に体力の限界を迎えて一人また一人と力尽きていった。
「も、もうダメ、堪忍して…」
最後の一人が力尽きたところで、俺は十分に満足して終える事ができた。なんというか、初めて心行くまで放出した充実感を味わえたような気がする。
俺はそのまま三人の嬢と共にベッドに突っ伏して眠りについた。
☆ ☆ ☆
夜明けから2刻程が経ち、閉館時間となって俺は『熟練の薔薇』を後にする。
閉館時間が迫って来た時に、嬢たちは眠たい目を擦りながら俺を起こして身支度を整えてくれた。
三人で俺の体を洗い、服を着させて髪をセットしてくれた。それはもう、至れり尽くせりの扱いで、気分は最高だ。
別れる時は、何度もまたお願いねとキスされた。
マネージャーも感心しきりという佇まいで、チェックアウトに応じた。
「いやはや、まさかあれから更に三人をノックダウンさせるとは、本当に恐れ入りました。一人の男として、純粋に羨ましく思いますよ。」
「あの嬢たちの献身的なサービスのお陰だよ。」
「それはそれは。うちの自慢の嬢たちですからね。」
少し嫌味を込めて返したが、マネージャーは意に返した様子もなく微笑んでいる。なかなかの狸だな。
マネージャーはニコニコしたまま一枚のカードを差し出した。
「宜しければ、これをお受け取り下さい。今後、我が娼館への入場料金がサービスになりますよ。」
「ほう、有難く頂戴するよ。」
「それでは、今後も『熟練の薔薇』を御贔屓にお願いいたします。」
マネージャーは深々と頭を下げて俺を見送った。
どうやら俺は、招かれざる客から上客へとクラスチェンジしたようだ。金払いが良くて、人気の衰えた嬢を三人も貸し切りにしたからな。店からすると、最高の客だろう。
俺も性欲を出し尽くして満足したからな。これだけ下腹部が軽く感じて爽やかなのは初めてだ。WINWINだな。
三人の嬢とのプレイというか複数プレイ自体初めてだったけど、凄い世界だったな。情の交わりというより、遊びとしてのプレイを楽しんだという感じだ。
太陽が黄色くて眩しいぜ。
しかし、俺の身体は本当にこれで、少しは延命できたのだろうか?
グリューサーの話では、多くの女性と交わるほどに延命効果が高くなるという事だったけど。
実感はないが、確かに精神が落ち着いて安定しているようには感じる。ストレスが解消されて心穏やかな感じだけど、こういった状態が身体に良いのかもな。
まあ、あれはあれで楽しかったのは確かだけど、その代償として俺は何か大切な物を失ったような気がするな。
俺は元々セックスの快感を楽しむよりも、二人で情を交える歓びを感じ取れる方が好きだったからな。お互いの思いやりが通じ合うみたいな感じでさ。
以前、妻とは長い間セックスレスだったからな。愛情への飢餓感が余計にそう感じさせるんだろうな。
そういった意味では、ジリアーヌとの交わりは楽しかったし、嬉しかったな。
彼女からは俺を想う気持ちがひしひしと伝わってきたからな。
ふう…
いかんいかん、いつまでもジリアーヌの事を引きずっている訳にはいかない。
もう彼女との縁は切れてしまったんだ。
忘れなければな。
俺は通りの広場で屋台を探した。
ワリーカでも飲んで気分を変えようと思ったけど、まだ屋台は営業していない。
やむなく、広場の泉で水を飲んだ。
一応一息はついたけど、ちょっと悲しい。24時間いつでも好きなものが飲めた日本の自動販売機やコンビニが懐かしいぜ。
一息ついたお陰で冷静になって、俺は財布を握りしめた。
初めての娼館体験とはいえ、散財したのは確かだ。一晩で銀貨40枚以上(日本円で約40万円)使ってしまったからな。
あの流れなら仕方がないとは思うけど、流石に使い過ぎだろう。
昨夜、武器や防具を買って散財には注意しようと思った矢先にこれだ。
どうにも金銭感覚がおかしくなっている。本当に気をつけなければな。
これだと毎晩娼館通いという訳にはいかないし、困ったもんだな。
何よりも、今回のことではっきりしたけど、俺の相手をするには一人の女性では無理だと判った。娼館へ通うたびに最低でも三人以上で相手をして貰わないとな。
バーバダーが言っていたけど、三人の嫁を貰うというのは、ある意味的を得ていたんだな。
はてさて、どうしたもんかね。
そうなると、余計にパートナー探しが大変だな。
三人もの女性が俺の相手をしながら、一緒にダンジョン攻略への旅へなんて行ってくれるのかね?
普通に考えて、娼婦でもない女性がハーレム状態なんかに納得する訳ないよな。
娼婦のジリアーヌだって、俺が他の女性を相手にすると怒っていたからな。
この世界は妻を複数娶る重婚が許されているようだけど、法が許しても女性のメンタルはまた別問題だよな。
女性同士で仲良くしてくれたら良いけど、普通はそんなの有り得ないよな。
常に女性同士で争われたら、ダンジョン攻略どころじゃないぞ。俺のメンタルが持たないよな。
たまに夢に出てくるけど、ディケードのガールフレンドのトモウェイとルチルケーイの争いはなぁ…
ディケードの優柔不断が原因だけど、見ていて可哀想に思うよな。
ふむ。
という事は、恋愛感情を抜きにした関係の構築が必要という事だな。
こうしてみると、ジョージョを選んでおけば良かったのかもな。
彼女なら、ある程度贅沢をさせておけば体の関係は勿論、〈魔法士〉として冒険も一緒にできたよな。
って、ダメだな。
ジョージョと組んだら全てを奪いつくされて、俺が破滅させられる。
贅沢好きな女の散財力は天井知らずだ。この世界ではどうか知らないけど、地球上での歴史では、至る所で行われてきたからな。
ああ~、止め止め!
この件は保留だ、保留!
だいたい、ハーレムパーティを作るなんて、俺には無謀でしかないよな。頭がおかしくなりそうだ。
まだ時間はあるんだ。縁があれば、条件に見合う女性が見つかるはずだ。
多分、きっとな…
俺は泉の水で顔を洗って、今度こそ気持ちを切り替えた。
先ずは戦いの腕を磨いてランクアップが先だな。
武器や防具が揃った事だし、慣らしを兼ねて今日は街の外に出て狩りをしてみよう。
常時受付をしている魔物なら、依頼を確認しなくても勝手に狩って売りに出せるようだしな。
俺は気合を入れると、請負人組合へと足を向けた。
読んでいただき、ありがとうございます。
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