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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-1
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第五十五話 武器屋

 エレベトの街の西門にある兵宿舎から、俺は街の中央へ向かって歩く。

 予定が変わって街中に戻らなくてはならなくなったのだが、10km近くも歩くのを面倒に感じて、街中を移動する乗合の馬車でもないものかと思った。


 で、割と簡単に街を移動する乗合馬車は見つかった。大体500mおきに停車場があり、半刻(約1時間)に1本の運行だ。

 しかし、実際に動いているのを見るとのんびりしすぎていて、自分で走った方が速かった。


 足早に歩いていると、昨日下着を買った露店が営業していたので、立ち寄ってパンツを5枚購入した。

 おばちゃんは発狂に近い形で感激して、根掘り葉掘りパンツの感想を聞かれた。例によってマシンガントークが炸裂して、しばらく足止めを食らってしまった。


 それでも、ほとんど知り合いの居ない俺には、親しげに話しかけてくれるおばちゃんの存在は有難かった。

 ついでなので、タオルや石鹸植物など、生活用具を揃えた。


 おばちゃんの話が終わった時には昼になっていて、腹が減ったので広場にある屋台に立ち寄った。広場は大体500mおきに在り、泉と停車場が有る。そこの屋台でパスタに似た食い物があったので頼んでみた。


 多分小麦粉だと思うが、それを練って5cm程の長さに切ったマカロニっぽいものが木で出来た器に入っていて、トマトソースっぽい物が和えてある。『マーカリーネ』というらしいが、酸味があってそれなりに美味しい。


 隣にある飲み物屋の屋台でベーエルを買って、一緒に食べると更に美味しさが増した。しかし、屋台のベーエルは冷えてないので、いまいち飲み応えがなかった。冷えたベーエルは何処でも飲めるという訳ではないようだ。


 面白かったのは、マーカリーネを食べ終わって器を返すと、料金の半額が返ってきた事だ。器をそのまま持っていく客が多いらしく、その対策らしい。


 一方、飲み物屋の器は返しても金は戻って来ない。殆どの客は、そのまま飲みながら去ってしまうらしい。なので、使い捨て出来るように葉っぱを巻いて円錐状にした器を使っている。


 思わず子供の頃を思い出した。

 俺がまだ小学生の頃は空になったビール瓶や酒瓶を販売店に持っていくと1円とか5円とか返金された。なので、小遣い稼ぎに友達と町中を探し回ったものだ。


 昔は今のように缶やパックなんて殆ど無かったので、多くの物がリサイクルされて使われていた。今のようにエコがどうとかなんて意識はなかったけど、大量に物が無かったのと、物を大切しようという意識から普通に行われていたものだ。


 今もそのシステムはあるのだろうか?ビール瓶やワインの瓶なんて資源回収のゴミに出して終わりだからな。



 昼食を食べ終えると、泉の水で口を濯いでついでに口の周りも洗っておく。

 その時気が付いたけど、公衆トイレが広場の隅っこに設置されていた。勿論水洗だ。水が豊富にあり、インフラが発達しているので街は衛生的だし便利だ。


 やはりこの世界は中世のヨーロッパよりは古代ローマに近いと思う。つくづく中世のヨーロッパのように不潔で貧しい世界でなくて良かったと思う。


 腹ごしらえを終えたので、俺は来た道を戻って武器屋へと向かう。

 『連撃の剣』のフレィが教えてくれた武器屋は、俺が泊まった宿から南大通りに近い所にあるらしい。


 そうそう、通りの名前だが、街の中心から四方向に延びるメインストリートを西大通り、南大通り等と方位に大通りを付けて呼んでいるようだ。俺が勝手に呼んでいた名前で合っていた。


 メインストリートを結ぶそれぞれの通りには、活躍した人物や有名な人物の名前が付けられているらしい。

 ちなみに、俺が泊まった宿がある通りを『マッコォイ通り』という。高名な医者が住んでいたらしい。



 暫く歩くと武器屋の看板が見えてきた。防具屋の看板が隣にあり、建物は繋がっている。フレィの話だと、兄妹で営んでいるという。

 近づくと鉄を打つ音や命令する怒鳴り声が聞こえてくる。裏手に工房があるようだ。『アーセナァラ』という名前の店だ。


 煉瓦造りの三階建てだ。剣と槍が交差する看板の下にある扉を開ける。

 この世界にはまだ板ガラスが無いのか、基本的に建物には窓ガラスが無い。なので、内部の様子が分からない。


 入るのに少しドキドキする。洒落た作りの、中が見えないスナックを訪ねるような気分だ。

 中に入ると、壁や展示テーブルに所狭しと様々な武器が陳列されているのが目に入る。


 20畳ほどの部屋の左側の壁には様々な剣が掛けられており、右側の壁には様々な槍が並べられている。また、中央の棚には短剣やハンマー、戦斧といった武器が並べられている。俺は武器マニアという訳ではないが、やはりこういった武器類を見ると心が沸き立ってしまう。

 店内を見回していると、二十代半ばの男性の店員が近寄ってきた。


「いらっしゃいませ。どんな御用でしょう?」

「幾つかの武器の購入とメンテナンスを頼みたい。それと、出来れば作って欲しい物がある。」

「承りましょう。」


 俺を上客だと思ったのか、店員の愛想が良くなる。

 店員は名簿に記帳するように求めたので、兵宿舎への訪問の時と同じようにカードを使って押印した。

 武器を扱う店なので、一見(いちげん)さんへの対応なのだろう。


 が、黒のカードを見て若干テンションが落ちる。高い買い物はしないと思ったようだ。態度に出るのが若さの証明だな。


 今回、俺が求める物はハルバードの代わりになる武器と鞭だ。それと、短剣とナイフのメンテナンスをして、作って貰えるなら指弾用と投球用の鉄球を頼みたいと思っている。


 先ずは接収されてしまったハルバードの代わりとなる武器だが、やはり使い慣れた同じようなハルバードが良いだろう。一本で刺す切る叩くの使い分けが出来るのは便利だし、状況や獲物に合った戦い方ができる。


 要望を店員に告げると、幾つかのハルバードを見せてくれた。

 一つ一つの武器には鍵が掛かっていて、棚に括り付けられている。なので取り出すのに少し手間が掛かる。これに関してはしょうがないな。武器を自由に取り出せたら危険極まりないからな。


 どれも作りは良く出来ているが、いまいちしっくりとこない。全てに言えるのは、俺には軽すぎるのだ。どれも大体2〜3kg程だが、これでは大型の魔物と戦うには貧弱すぎる。以前使っていた物は5kgは有ったので、できれば同じかそれ以上の物が欲しい。


 店員に訊ねると、そういった物は普通の人間では扱えないので、オーダーメイドになるらしい。しかも、料金が金貨3枚〜6枚になると言われた。

 それでも構わないと言うと、若い店員は驚いて店の奥に親方を呼びに行った。


「お前さんか、特注のハルバードが欲しいってのは?」

「そうだ。」


 いかにも頑固職人という感じの髭もじゃのごついオヤジが現れた。

 金槌を長年振ってきたせいなのか、右腕が異様に太い。背が低いのでドワーフっぽく見えるのが、なんとも言えないな。


「作るのは構わないが、本当に扱えるのか?」


 親方は俺の全身を見ながら、胡散臭そうに訊ねる。

 俺の体は割と大きい方だが、ボディビルダーや野球のメジャーリーガーのような筋肉隆々のごつい体をしてる訳じゃないからな。疑問に思うのも無理はないか。


 親方は若い店員に指示して、展示しているハルバードの一番重い物を取り出して俺に持たせた。


「これを振ってみな。」


 こんな狭い店内で振るのか、と思ったが、親方は俺の腕力だけじゃなく腕前も見たいのだと理解した。

 渡されたハルバードは大体3kgちょっとというところか。俺はデモンストレーションのつもりで、突く切る叩くの一連の動作を行う。


 大体の感触が掴めたので、腕の筋肉を《センス》で加速する《アクセル》という技術でハルバードを振る。

 床や天井、壁に当たらないように気を付けながら、様々な動作を行う。


 『ぶおぉんっ!』『ぶおおおおぉぉぉんんん…』『コ―――ンっ!』


 普通では鳴らない風切り音を響かせてハルバードが空を舞う。最後にハルバードの端を持って大きく振り回すと、余りの速さに不思議な音を響かせた。


「………」

「………」


 親方と若い店員は唖然としながらハルバードの動きを見ていた。

 暫くして親方が笑い出した。


「く、くくく、こいつは恐れ入ったぜ、大男用に作ったハルバードを短剣でも扱うように振り回すとはな。スゲー奴もいたもんだ。」

「信じられない…」


 親方は俺からハルバードを受け取って点検する。


「確かにお前さんにはこれじゃあ軽すぎるな。しかも強度が全然足りねぇ。振り回しただけで穂先と柄の繋ぎ目が微妙に緩んでやがる。木製の柄じゃあ、お前さんの力で獲物をぶっ叩いたら折れちまうな。」


 接収されたハルバードは全てが金属製だったからな。重たい分頑丈に出来ていたんだな。以前の持ち主は相当な力持ちだったんだろう。


 親方はオーダーメイドを請け負ってくれたが、完成には一週間はかかるという。

 それは仕方ないとして、それまでの繋ぎになる物は無いのか訊ねると、あっさり無いと言われた。


 元々ハルバードは対人用で狩りに使う武器ではなく、しかも使い手が少ないのでさほど作り置きは無いという。今有る物だと、俺が使えば一度の狩りで使い物にならなくなるだろうと言われた。


「完成まで我慢するんだな。」

「う~ん…」


 困った。

 明日にでも一度狩りに出たいと思っていたのに。時間があるなら今日だって様子見くらいはしておきたかったんだが。

 今更他の武器をメインにするのも違和感があるしな。


 悩んでいると、若い店員が口をはさんできた。


「親方、あれが有るじゃないですか。我が武器工房の戒めにしてる物ですよ。」

「ば、馬鹿野郎!何言いだすんだよ。あれは俺の黒歴史だぞ!恥を忍んで教訓としてるんだ。客に出せる訳ねーだろっ!」

「でも、このお客さんなら使えるんじゃないですか。」

「だ、ダメだ!ダメだ!ダメだっ!!」


 ほう、何やら秘蔵の物が有るようだな。

 二人の態度から察するに、物は十分に使えそうだが一般的じゃない物らしい。

 頑なな親方の態度を見る限り、見せてもくれなさそうだ。


 俺は若い店員を切り崩す事にした。

 親方からは見えないようにして、俺は財布からこっそり取り出した大銀貨を若い店員に握らせた。

 途端に若い店員は瞳を輝かせた。お主も悪よのう。


「親方、見て貰うだけなら良いじゃないですか。こんな物使える奴はいねーっていつも言ってるけど、本当は誰かに使って欲しいんでしょう。」

「馬鹿野郎!オメー何言いだすんだよ!あんな物他人に見せるなんざ、死んだ方がましだ―――――って、この野郎、どこ行きやがるっ!」


 若い店員は怒鳴る親方を無視して奥の工房へと走って行った。

 親方も慌てて追いかけるが、当然足の速さで若者に適うはずがない。

 奥の工房から罵詈雑言が聞こえてくるが、その様子から親方が追い付けずに難儀しているのが解る。


 少しすると、若い店員がハルバードを抱えてやって来た。親方が追い付いて若い店員を殴りつけるが、若い店員は渾身の力をふり絞るようにして、俺にハルバードを投げて寄こした。


「業物だから、良く見てみてよ。」

「テメー、この野郎っ!」


 親方は若い店員をボコボコにぶん殴る。

 大銀貨1枚(約10万円)の為とはいえ、これでいいのか不安になった。これで若い店員が首になったら俺の責任だよな。


 まあ、それはそれとして、受け取ったハルバードはズッシリと重い。多分10kg近くはあるだろう。


 だが、振れない重さじゃない。これだけ頑丈な作りをしてるなら、俺が《センス》や《アクセル》を使って渾身の力でぶっ叩いてもびくともしないだろう。

 俺はさっきのハルバードと同じように振り回してみる。


 『ぶおおぉんっ!』『ぶおおおおぉぉぉぉんんんん…』『コォ――――ンっ!』


 強めに《アクセル》を掛けながら振り回すと、さっきと同様かそれ以上にハルバードが唸りを上げる。

 親方と若い店員は動きを止めて、俺の素振りに見入る。


「………」

「………」

「ば、化け物かよ…」

「すげーっ!!!」


 悪くないな。若干重く感じるが、手に馴染むしバランスが最高だ。

 この重量なら全力で振り回すのは10分が限界かな。まあ、それだけあれば大概の戦闘にケリが着くけどな。


 ヨーロッパ中世時代のハルバードだと、大体2kg前後が一般的だったらしいし、重い物でも3kgをオーバーする位だ。ロングソードでも1.5〜2kg位だったらしいので、このハルバードは5倍程になる。流石に武器としては重すぎるだろう。


 親方が黒歴史というのも頷ける。これで戦闘はできないよな。普通の人間なら2〜3回は振れるだろうけど、余りに動きが遅くなって、その間に攻撃されて終わりだ。


「まさか、それを扱える人間がいるとは思わなかったぞ。」

「本当だよ!俺もそこまで振れるとは思わなかったよ。」


 親方と若い店員は呆れたように感心する。

 良い感触だな。俺はこのハルバードが気に入った。これなら、以前の物よりも俺のパワーに応えてくれるだろう。


「で、これは売ってくれるのかな?」

「ダメだ。」

「親方!?」


 親方の頑なさは筋金入りのようだ。

 俺同様に良い感じだと思った若い店員は驚いている。

 はてさて、どうしたものか。

 俺はこのハルバードをなんとしても手に入れたくなった。どうしたらこの頑固な親方を説得できるのか思案した。




読んでいただき、ありがとうございます。

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