表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/71

第五十三話 女神マウローン

 貴族街への進入禁止を受けて、《天柱》を真下から見る事は叶わなかった。

 それでも、ディケードの記憶が思い出されたりして、それなりに有意義だった。


 俺はディケードの記憶から、もう一つ思い出した。

 《天柱》はディケードたち異星人には《グリュンペス》と呼ばれていたが、あれはグリューサーの男性器を意味しているようだ。


 グリューサーとは天界そのもので、妻の一柱である大地の女神『テアースィン』と交わるために天が地上近くまで下りてきて、その巨大なグリュンペスを突き立てる、というものだ。

 その情交は激しく、一度の交わりが数百年にわたって続き、大地を激しく揺らし続けるという。


 しかも、グリューサーには他に八柱の女神が妻となっていて、10本のグリュンペスで同時に交わったとされている。

 数が合わないと思うが、《女神テアースィン》は女性器が2つあり、2本のグリュンペスを受け入れたという。

 お盛んというか、お盛んすぎるよな、神様。


 昨夜のグリューサーの言動からすると、納得できるものがある。

 グリューサーシステムはディケードの身体(アバター)を使って多くの女性と楽しんでいたようだし、あのシステムはグリューサー神をそのまま擬人化しているのかもな。


 ちなみに、俺が助け出そうとしている《女神ヘメティラース》も、グリューサーの妻の一柱とされている。


 まあ、似た様な神話は地球のギリシャ神話にもあるしな。

 天空神のウラノスが、母であり妻でもある地母神ガイアと交わる時、天が下りてきて大地とつながるので、地上に住んでいた子供のクロノスたちは山影に隠れてやり過ごすしかなく、とても難儀していたとあるからな。


 そのクロノスによってウラノスの男性器が切り落とされてしまう。

 その男性器が落ちた海に泡が立ち、そこから美の女神であるアフロディーテが生れたと云うから、なんともはやだ。


 グリューサー神にはそういった悲惨な話は無いようだが、お盛ん度に関しては圧倒的だな。なんせ10本だからな。


 その10本のグリュンペスは、実際にこの惑星に打ち込まれている《天柱》の数と同じだ。

 それが惑星を覆っているアイゲースト(天牆)を支えているとも言われているけれど、神話になぞって《天柱》を10本にしたのか、はたまた、《天柱》が10本だからグリューサーの男性器が10本とされたのかは、曖昧になっている。


 それを思い出して、改めて《天柱》を見ると変な気分になってしまうな。

 グリューサーの姿を知って、その思考に触れた今では尚更そう思う。

 ブルルル…

 悪寒がしたので、俺は慌ててその考えを打ち消した。



 気持ちを切り替えるために、俺は視線を地上に戻して壁を見た。

 堀りから繋がる壁にはびっしりと彫刻が施されていて、多くの女神の姿が彫られたレリーフになっている。


 沐浴をする女神たちや戦いをする女神たち、人々を導く姿の女神など様々な行いをする姿が30m程の高さの壁にびっしりと彫られている。それが貴族街を取り巻く幅何kmにも渡る壁に延々と続いているのだ。

 その途方もないスケールと共に、注ぎ込まれた労力と芸術性を思うと、驚きでしかない。


 神の子たる《半神と英雄》が造ったとされる《天柱》。それに対する畏怖と畏敬の念がこれらを作らせたのだろう。人々の女神に対する崇拝の念の凄まじさを感じずにはいられない。

 また、魔物が蔓延る壁の外に出られないという状況故に、外の世界へ向ける情熱がこういった芸術に向けられたのだと想像する。


 バチカン市国に行った時も、こんな感じで隙間が無いほどに壁や天井が芸術で溢れていたけど、人間の想像性はつくづく凄いと感嘆してしまう。


 超未来を感じさせる古代の《天柱》と、地球の古代ローマなどを思わせる現代の芸術が同居しながら一つの景色を作り上げている。歴史が逆転したような景色の融合は、この異世界の特徴となっていて、実に魅力的な世界だと心から感心する。



 また、堀りの手前は大きな広場になっていて、貴族街への門以外の場所は公園になっている。

 低木で囲われた芝生や花壇があり、石畳で造られた地面に彩りを添えている。

 その中央には小さな神殿があり、その中には輝きを放ちながら回転するクリスタルのような《神柱》が納められている。


 人はまばらにしか居ないが、誰もがその神殿の前を通る時には、立ち止まって祈りのポーズをとっている。

 あれも女神様に変化して姿を現すのだろうか。今のところ、その兆候は見られないが。


 人が途切れた時に、神殿に近づいてみた。

 すると、何か膜に包まれたような感覚になり、外界と遮断された感じがした。請負人組合にあった《女神の財布》の前に立った時の感覚をより強力にしたものだ。

 同時に《神柱》が女神へと変化した。


「我は、《女神マウローン》。《創造神グリューサー》の僕にして神託を告げる者なり。」


 突然の女神の顕現に驚いた。

 本当に女神は至る所に居る。

 《女神マウローン》は《女神の庭》で逢った百移の門番とは違う役目を担っているようだ。神託を告げるとの事なので、彼女は人間たちを導いてきた女神の一柱なのかもしれない。


 格好は他の女神と同じように羽衣を纏っているが、キリリとした硬そうな女性の雰囲気が漂っている。美人ではあるが、融通の利かない女教師のようなイメージだ。

 しかし、俺を見つめると深い笑みを浮かべて礼をとった。

 それは慈愛に満ちた表情で、見る者を優しさで包み込んでしまいそうだ。その激しいギャップに俺の心臓は跳ね上がった。


「ディケードとなりし高梨栄一殿よ、そなたをセイバー(救済者)候補の次代ファンターとして、我ら女神はそなたを見守っている。《創造神グリューサー》様の期待を裏切らぬよう望むぞ。

 ついては、我からも一つ祝福を贈ろう。」


 《女神マウローン》が手を振りかざすと、光の粒子が舞って俺を包み込んだ。

 特に何が変わったという訳ではないが、なんとなく自信がついたような気がした。


「そなたに『雄弁』のスキルを授けた。練磨する毎に、そなたの言葉の説得力が増すであろう。」

「あ、ありがとうございます。《女神マウローン》様。」

「我に様はいらぬ。父なる創造神グリューサー様も敬称をつけずに、そなたに御名(みな)を呼ぶ事を許されている。我ら女神にも不要である。」


 《女神マウローン》はキリリとした表情で告げた。


「そなたには期待しておるぞ。」


 もう一度優しく微笑むと、《女神マウローン》は元の《神柱》へと戻っていった。

 それと同時に、膜のような物が消え失せた感じがして、元からあった神殿と周囲の風景が目に映った。


 ハッとしてキョロキョロ周りを見るが、誰も神殿や俺に注意を払う者は居ない。女神が現れた事など誰も認識していないらしい。

 あの膜のような物は、周りからの情報を全て遮断するものなのだろう。その凄い技術に感心するしかない。


 雄弁のスキルか、そんなものを人に与える事が出来るなんて、どうなっているのか?

 理屈は解らないが、確かに話をする自信はついたような気がする。

 もしかしたら、女神は人間の精神操作を行えるのではないだろうか。そんな思いに囚われて不安になった。


 それに、見守っていると言っていたが、要は俺の行動を監視しているという事じゃないのか。

 昨夜の邂逅後に、グリューサーは女神たちに俺の存在を知らせたのだろう。


 逃げ道を塞がれたように思うが、女神の祝福は、俺に与するとの意志表示にも感じられる。

 そんな考え方が出来るのは、洗脳された訳でもないのだろう。

 どのみち大量絶滅が起こるとなれば逃げ場はないのだ。行動で示していくしかない。



 俺は神殿から離れて、公園の縁で屋台を設置しているオッサンの許へ向かった。

 まだ早朝なので人の姿はまばらだが、屋台を設置するための荷車を引いている者がちらほらと見受けられる。

 俺は気の良さそうな屋台のオッサンに大銅貨を見せながら話しかける。


「準備中なのに済まないな。少し話を聞かせて貰ってもいいかな?」

「どうした?串焼きならまだ当分無理だぞ。」

「話を聞きたいだけさ。そこの神殿の女神様だけど、よく姿を現したりするのかな?」

「いや、滅多に現れないな。御神託がある場合だけさ。その時は前もってお触れが出るんで、当日は凄い賑わいだ。俺は三度見た事があるが、怖そうだけど綺麗な女神様だったよ。」


 どんな神託だったか訊いてみると、三度とも近々地震があるので備えよというお告げだったらしい。

 オッサンの話から推測すると、震度4くらいの揺れだったらしいが、お陰で大した被害は無かったらしい。小さな地震の場合はお告げは無いようだが、人々の女神に対する信仰は大きくなる一方だな。

 グリューサーが言っていたように地殻変動の影響がでているのも確かなようだ。


 それにしても、滅多に現れない女神が俺にだけ姿を見せて声を掛けてきたのは、事を公にせずに行動しろという暗示なのだろうな。

 俺はもう一つ気になったことをオッサンに訊ねた。


「ここに貴族様とか来たりするのかい?」

「ここに貴族様は来たりしねーよ。たまにメイドとかが来たりするけどな。」


 やはり、貴族ともなると簡単に出てきたりはしないか。


「なんだいあんちゃん、貴族様に用でもあるのかい?」

「昨日この街に来たばかりでね、貴族様でも見れるのかなって思ってさ。」

「まあ無理だろうな。馬車に乗ってあの門から出入りはするけど、中までは見えねぇからな。」

「成程、そうなのか、残念だ。

 それはそうと、あの《天柱》だけど、光が走っているのを見た事があるけど、しょっちゅう見えるもんなのかい?」

「ああ、神様のお告げかい、俺は昼間しかここに居ねーから分かんねーな。人の話だと、ごく偶にしか無いようだけどな。俺たち庶民にお告げがある時は《女神マウローン》様が伝えてくれるからな。」

「そうなのか、ありがとう。わざわざ済まなかったな。」

「なあに、良いって事よ。こんなに貰ったんだ、せっかくだからこれでも飲んでいきな。」


 オッサンがくれたのは、ワインを水で割って薄めた飲み物だ。殆ど水みたいなものだが、ほんのりと苦みがあって口当たりの良い物だ。『ワリーカ』と言うらしい。


 オッサンに礼を言ってその場を離れると、俺は他の人にもいろいろと訊いてみた。一人の人間に集中してあれこれ聞くと胡散臭いと思われるからな。


 話を総合すると、オッサンの話と大差なかった。

 女神は殆ど姿を現さないし、貴族は一般人とは殆ど関わらないらしい。たまに街中で事故などが起こると、貴族が悪い場合でも一般庶民を処罰する事が殆どのようだ。関わらない方が無難だな。


 《天柱》に関しては『連撃の剣』の連中が言った事とほぼ同じで、普段は口にしないようだ。現在どういった状態にあるのかを知る者はいなかったし、役割についても同様だ。


 壁を見つめる老婦人が居たので声をかけてみた。

 その老婦人は毎朝散歩がてら、女神様に祈りを捧げながら挨拶をして回っているという。

 老婦人はとても詳しくて、女神一人一人の名前と役割について教えてくれた。


「女神様は、その誰もが若々しくて美しくあられる。羨ましい限りだわ。それは崇高な理念と正義をお持ちだからなのよ。

 特に《約束の女神ミトーィレ》様は苛烈な正義感をお持ちだわ。」


 そう言って、老婦人が祈りを捧げた先には、《女神ミトーィレ》のレリーフがあった。

 約束を破った者には苛烈な神罰を与えると云われる《女神ミトーィレ》だが、その様子が克明に描かれていた。


 腕をもがれた者、足を切り落とされた者、眼を抉られた者など、罰を与えられた多くの人間たちが《女神ミトーィレ》に平伏している。

 また、身体を二つに裂かれた者、首を刎ねられた者など、死の罰を与えられた人間たちはさらに体を炎で焼かれている。


 湯処でマッサージ師のトフティッコリーと、女神の誓いで約束を交わした事もあり、その存在は知っていたが、外見は知らなかった。

 レリーフに掘られた《女神ミトーィレ》は全身から炎を噴き出していて、怒った顔は般若さながらに見る者に恐怖を与えている。

 こうして見てみると本当に恐ろしい女神なんだと思う。


 また、一方では約束を守った者に対して慈悲深い笑顔で接しているレリーフもある。

 極端な二面性を持っているが、約束はそれだけ大切な取り扱い事として認識させようとしているのだろう。


 こうして女神たちの話を聞いてみると、やはりディケードたち異星人が配置したレジャーのナビゲーターやゲームに登場する女神たちとは、その役割や存在意義がほぼ同じという事だ。

 多分、グリューサーがそれらの女神の役割のままに、新しい人類を導いてきたのだろうな。


「教会を訪ねたら、神父様からもっと詳しいお話が聞けますよ。」


 俺が熱心に耳を傾けるので、老婦人はそう教えてくれた。

 教会には《聖書》の写本があり、そこには膨大な数の女神や精霊についての記述があるとの事だ。

 残念ながら、《聖書》の写本は一般公開はされていないようだが、神父が口頭で教えてくれるという。


 成程、《聖書》か。そんな物があるんだな。

 俺が興味深げにしていると、老婦人はもう一つ教えてくれた。


 《聖書》に記述されている女神や精霊の数は多いが、実際に存在している女神や精霊はごく少数らしい。

 残りの多くはまだ地中に埋まっているらしく、遺跡やダンジョン付近で発見される事があるそうだ。


 教会の上層部は、そういった女神や精霊の発見や発掘に力を入れているようで、新しく見つかると、この壁のレリーフにその姿と使命を追加するそうだ。

 そういえば、ジリアーヌもそんな話をしていたな。

 俺に、教会との関わりに気を付けるように忠告してくれたっけな。


 しかしなぁ、女神や精霊の発見はいいとして、発掘するというのはどうなんだ?

 確かに言葉通りの意味なんだろうけど、超常的な存在が土に埋もれていて良いのだろうか?そんなのを崇拝できるのか?

 まあ、何かしら宗教的な解釈をつけるのだろうけど。


 老婦人の話によると、『大厄災』とは女神による戦いであり、それに敗れた女神が地中に幽閉されたらしい。

 長い年月を経て、罪を許された女神が地上へと姿を現すので、教会はその救いの手伝いをしているという事らしい。


 成程ね。

 それを聞いて、教会もいろいろと理屈をつけるものだと、関心と呆れを同時に感じてしまった。


「うふふ、面白いわよね。」


 さすがにその話は老婦人もどうかと思っているようで、苦笑いを浮かべていた。

 俺は去って行く老婦人の後ろ姿を見ながら、女神や精霊が記述してある《聖書》について考えていた。


 もしかして、その《聖書》というのは、昔ディケードたちが使っていたチートシートを指しているんじゃないのか。

 チートシートは、いわゆるゲームの攻略マニュアルだ。


 確か、そこにはダンジョンの攻略法は勿論、精霊巡りや女神攻略の方法などが記述されていたような記憶がある。

 ゲームのプレイヤーが各自発見した攻略法を、掲示板にアップしたものを纏めたものだったと思う。


 もしそれが当たっているなら、教会は女神の扱いを知って利用しているのかもしれない。グリューサーの背後には教会の存在があるのではないだろうか。

 教会の意志がグリューサーと同じなら良いのだけどな。

 教会とはどんな所なのか、一度足を運んでみてもいいかもな。


 俺はもう一度《天柱》を仰ぎ見た。

 その圧倒的で威風堂々とした佇まいは、人間のちっぽけな思いや感情など全く意に介した様子はなく聳え立っている。

 不思議と、見ていると勇気が湧いてくる。そんな気がした。




読んでいただき、ありがとうございます。

感想や誤字脱字を知らせていただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ