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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-1

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第五十二話 天柱



 翌朝、少し身体が重く感じながらもスムーズに目覚めた。

 たっぷり寝たように思うし、あまり寝てないようにも思うが、意識はしっかりしている。

 見慣れない部屋の様子を見ながら、そういえば宿に泊まったのだと思い出した。


 ふと、ジリアーヌが居なくて寂しさを感じた。

 昨日までは、目が覚めると当たり前のように隣で寝息を立てていたのにな。

 あ、いや、そうでもないか。

 目覚めた時には、何故かライーンやカルシーがいたよな。


 まあ、なんにしてもだ。

 今はギンギン坊主を静めるのが重要だ。痛い程に自己主張して漲っている。

 まったく、親の心子知らずで元気なことだ。


 ふう~…

 ふう~…

 ふう~…


 虚しい。虚しすぎる。

 幾分楽にはなるが、いくら自己処理しても、女体への欲求が強くなるばかりだ。

 グリューサーに性欲を抑えるのは無理と、あっさり言われてしまったからな。

 そうなると余計にしたくなってしまう。困ったもんだ。


 昨夜のグリューサーとの邂逅は夢のようにも思えたが、腕輪に内蔵された機能の『コネクト』を立ち上げるとモニターが現れ、グリューサーがくれた《ブースト》のアイコンがしっかりと表示されている。


 やはり夢ではなかったと知り、気分が重くなった。

 俺の今後の行動次第で、この惑星とそこに住む人間及び他の生物の命運が決まってしまうかもしれない。


 それを考えると身がすくむ思いだが、あまりにスケールの大きな話なので、いまいち実感が無いのも確かだ。

 明日地震が来るよと言われれば、日本人なら信じるかもしれないけれど、明日世界が滅びるよと言われて、それを鵜吞みにする人間はそうは居ないだろう。


 グリューサーという神かシステムの言葉だとしても、俺にはその言葉を信じ切るだけの根拠がない。もしかしたら、裏でグリューサーの名を騙って誰かが俺を騙そうとしているのかもしれない。


 近いうちに機能不全を起こすと言われても、自覚症状が無いだけに、本当かどうかも怪しいと思う。不安を煽って信じ込ませようとしているようにも感じる。これってエセ宗教団体がよく使う手口だよな。


 請負人組合のホッシュイー主任が、俺の暗躍を疑って阻止しようとしているとも考えられる。

 どちらかと言えば、その方が現実味があるような気がする。あの組合が持つテクノロジーはあまりにも一般世間と乖離している。


 まあいいか、ここでうだうだ考えても埒が明かない。

 どうであれ、自分を鍛えて危機に備えておくのは大切だ。

 幸いにも、まだ時間の猶予はあるようだしな。



 俺は寝汗を洗い流すために風呂に向かった。

 さっぱりすれば、気分も変わるだろう。部屋にこもっていては無駄な考え事をしてしまうからな。

 汗を流したら、次は食事だ。

 この宿は食事も付いて風呂も入り放題なのが最高だな。

 我ながら、随分と文化的な生活が出来るようになったと実感する。

 オッサンの進化は続いているぜ。


「いらっしゃいませー。」


 『春風と共に』のドアを開けると、ウエイトレス姿の20歳くらいの女性が案内してくれる。

 昨夜接客をしていた女将さんの娘なのかな、ケモ耳は無いが、女将さんを若くキレイにした感じで、よく似ている。

 さしずめ看板娘といったところか。女将さん譲りだと思われる銀髪を揺らしながら、リズミカルに店内を動き回っている。


 この娘が目当てだと思われる男たちで、朝から『春風と共に』は繁盛している。

 確かに、この娘がいると春風と共にという雰囲気が漂っている感じがする。爽やかな笑顔がこちらの気分を軽やかなものにしてくれる。


 テーブルに着くと、直ぐにハンバーガーに似た食べ物が出てきた。『タルティ』というらしい。朝はこれとお茶が固定メニューのようだ。請負人が主な客層なので、ボリュームが凄い。


 娘がテーブルにタルティを置いた時に、ふわりと良い匂いがした。

 揺れる銀髪が微かに俺の頬を撫でた。

 その瞬間、ゾクリとして性欲が滾ってしまった。


 自然と眼が、娘の胸の膨らみや腰の括れを追いかけてしまい、(よこしま)な気持ちに捕らわれそうになった。

 俺は不味いと思い、邪念を振り払うように娘の体から視線を逸らした。


 ヤバいヤバいヤバい…


 俺はそそくさと腹に詰め込んで食事を終わらせると、逃げるように『春風と共に』を後にした。

 そして、部屋に戻ってもう一度慰めてから、チェックアウトの準備をした。


 まったく、何をやってるんだか。

 自分を情けなく思いながら、昨日までジリアーヌたちが居てくれた事に感謝した。彼女たちが居なければ、俺はとっくにおかしくなっていただろうと実感した。

 これは早急にパートナーを見つけないと不味いな…



 パシッと両手で頬を強く叩いて気持ちを切り替える。

 荷物を持ってチェックアウトしにフロントに向かった。

 あの若いフロントマンはおらず、老齢の紳士風の男性が業務をしていた。

 年齢を感じさせない動作から優雅さが滲み出ている。


「ありがとうございました。ゆっくりとお休みになれましたか?」

「ああ、たっぷり寝て疲れも取れたよ。世話になった。」

「それはよう御座いました。またのお越しをお待ちしております。」


 紳士風の男性の対応は実に素晴らしい。あの不真面目なフロントマンとは雲泥の差だ。この男性なら、日本の一流ホテルでも十分にやっていけるだろう。また利用したいと思わせる魅力がある。

 後はあの態度の悪いフロントマンの教育をしっかりやって貰いたいもんだ。


 外に出ると、あの変な守衛も居ない。夜勤なのかね。関わり合いになりたくないから有難いが。まさか死んでないよな…



 空を見上げると、今日はどんよりとした雲が空を覆いつくしている。もしかしたら雨が降るのかもしれないな。


 昨日押収されたハルバードを受け取りに行きたいけど、時間的にはまだ早いので、先ずは《天柱》を見に行ってみるか。

 昨日見れなかったのもあり、早く見てみたいと気が逸っている。ここからでも、雲から下の部分は威風堂々とした姿は見られるが、やはり出来れば真下から見てみたいものだ。


 グリューサーから貰った《ブースト》の確認も大事だが、この世界の街について知ってみたいという欲求も強い。

 自分が救わなければならない街を見ておくのも必要だろう。


 宿から西大通りに戻って、街の中央へと向かう。

 まだ早朝で通りは人がまばらだったが、請負人組合の前に来ると人でごった返していた。これから狩りや採集、工事現場等へと向かうのだろう。活気に満ちているので見ていて気持ち良い。この街は景気が良さそうだ。


 組合を通り過ぎて少し行くと、壁が現れた。

 この街を取り囲む三重の壁の一つ中壁(なかかべ)だ。

 そこの西門は開かれていたので通り抜けようとしたら、その際に守衛に止められてボディチェックを受けた。


「これより先は武器の持ち込みは禁止だ。」


 封印された短剣を取り上げられて、預かり証を渡された。

 この門より内側では、原則武器の所持は許されないらしい。

 指弾用の小石も見られたが、特に何も言われなかった。やはり武器だと思わないようだ。


 丸腰になると門を通された。

 見える所に請負人組合のカードを張り付けてあるので、特に不振に思われる事もなかったようだ。一瞬だけカードに反応があったので、何かしらの機械的なチェックをうけたのかもしれない。

 防具に隠された腕輪には反応しなかったようなのでホッとした。


 この街では何かしらのポイントとなる場所で守衛によるチェックを受けるが、あまり良い気分ではない。慣れない俺にはストレスだ。

 まあ、慣れていくしかないのだろう。気を取り直して門を通過する。



 門を通り過ぎながら思ったのは、これが以前の外門で、街はここまでの大きさだったのだろうと推察された。

 壁の作りが随分と年季を感じさせて、いたる所が削れたり禿げたりしている。修復箇所も随所にあり、激戦を思わせる歴史を垣間見せている。


 俺が今通って来た区域と道は、かつては畑だったりまだ開発の進んでいない森だったりしたのだろう。


 人口の増加に伴って街は広がり、新たな壁を築いて生活圏は広がっていく。それに膨大な数の人員と時間をかけてエレベトの街は発展していった。また、そのためにどれだけの魔物との戦いがあったのか、数千年に及ぶ歴史をあの《天柱》は見てきたのだろう。


 そして、街は今もなお拡大を続けている。俺が街に入る前に通過した防衛勢力圏の畑がそうだ。やがてはあそこも壁に囲まれて街となっていくのだろう。人類の果てのない努力に感動するし、喝采を送りたくなるな。


 壁を超えると、大通り沿いには大きな商店が立ち並び、演劇場や闘技場といった娯楽施設が目立つようになってきた。脇道には屋敷と思われる邸宅が立ち並んでいる。


 石と煉瓦で造られた大型の施設には、壁に様々な彫刻が彫られている。演劇場には男と女が絡んでいる様子や群衆が取り巻いている様子などが描かれ、闘技場には人間同士の戦いや魔物との戦いが描かれている。


 これにはかなり驚いた。思っていたよりもずっと文化水準が高いようで、人々は様々な娯楽に興じているようだ。古い壁の内側は、一般庶民の中でも裕福層に分類される人々の生活圏となっているのだろう。周りを歩いている人々の衣装もワンランク上の物で、上等な生地で作られてオシャレを感じさせるデザインになっている。

 俺の使い古した請負人の格好だと、ちょっと場違いな感じがする。


 ある程度ここでの生活に慣れたら、演劇を鑑賞したり闘技を観戦してみるのも良いだろう。

 しかし、こうして見た事も無い建築様式の建造物を見ていると、異世界の街に居るんだと実感する。


 昔、スイスやイタリアに旅行に行った時にも、こんな感覚を味わった。

 見た事の無い文化に彩られた景色の中を歩き、人種や言葉の違う人間たちの中に居ると、本当に違う世界に来たんだと感じた。あの時は異世界なんて言葉はポピュラーじゃなかったので思わなかったが、今思うとあれはあれで異世界旅行だったように思う。流石に超能力や魔法は無かったけどな。


 あと、街を歩いていて思ったのは、水場の多さもさることながら、区画整理された都市用水路が網の目のように張り巡らされている事だ。表に出ている水路もあれば、地下へと続く水路もある。水が豊富なのも納得だ。

 計算された計画性に基づいているように思うが、女神の知恵に依るものだろうか。


 聞いた話では、街の北側に『フゥルービィ』と呼ばれる大河があり、そこから水を引いているという。

 フゥルービィは『ニャフネィ』という河の女神の娘の名前らしい。



 街の中央に近づくにつれ、《天柱》の巨大さが際立ってきた。

 西大通りから見ると三面が常に見えていて、もう一面が見えたり見えなくなったりしているので、八面体なのだろうか。一面の幅が100m位あるように思うが、適当な対比物が無いので良く分からない。仮に1面の幅が100mだとすると、直径というか角の対角線は頂点から頂点までの最大幅は約260m位になる。


 エジプトにある最大のギザの大ピラミッドが確か一辺230mなので、それより大きな物が柱となって天(宇宙)まで伸びている事になる。

 東京にあるスカイツリーで底辺の長さは68mだからな、比較にならないよな。しかも《天柱》は柱による組み立てではなく、ビルのように壁で覆われて形作られている。何をか言わんやだ。


 いったいどんな素材で作れば、この巨大な構造物の重量を維持したまま形状を保てるのだろうか。

 異星人が作った物だと知っても、その技術力に驚くだけで只々圧倒される。


 昨夜、『連撃の剣』のフレイたちにも訊いてみたが、《天柱》は人間の祖先となる《半神や英雄》が造った物だと云われていると。

 《天柱》は空が落ちて来ないようにするために天を支えているもので、《天牆(てんしょう)》と呼ばれる、空を覆う網のような壁があると云われている、という事だった。


 《半神や英雄》は神の子とも云われているが、神への畏怖からか、普段は話題にする事もないという。

 ただ、女神たちはその《天牆》の上にある《天界》を住まいとして、必要に応じて女神像に降臨すると信じられているようだ。



 《天柱》を見ながら歩いていると大きな広場に出た。

 広場の向こう側は高い壁があり、入口の門は閉ざされている。壁の手前は幅20m程の掘りになっていて、満たされた水がゆっくりと流れている。

 橋は架かっているが、多くの守衛が立っていて、厳重に守られているといった印象だ。

 橋に近づいていくと、数人の守衛によって行く手を阻まれた。


「これより先は貴族街となる。通行証が無ければ進入禁止だ。」


 やれやれ、どうやらここで行き止まりらしい。

 《天柱》はまだ数km先だが、守衛の態度を見る限り絶対に通さないという強い意志を感じる。もし侵入されたのがばれたら首が飛ぶのかもな。近くをうろついているだけでも捕まりそうだ。

 一応話には聞いていたが、実際に通行止めを食らうと悔しさを覚える。《天柱》は一時期、俺にとって心の支えだったからな。


 貴族街を囲う壁は建て増しされたようで、外壁や途中にあった壁よりも倍ほど高くなっている。そのため、中の様子を伺う事が出来ない。

 これを見る限り、貴族と一般人とでは隔絶した状態にあるようだ。クレイゲートやジリアーヌたちが随分と貴族を恐れていたが、解るような気がする。


 残念だが、一般人が《天柱》を見るにはここが一番近い場所のようだ。

 壁があるために基部が見えないが、宇宙から吊るされている柱が地上とどんな風に繋がっているのか見てみたかった。


 今日はあいにく曇っているので、地上から数百m程度しか見えていないが、実際には惑星の自転速度と同期を取るために静止衛星軌道から繋がっている。地球の場合だと約36,000kmだ。この惑星もそれに近い数値だと思う。


 そんな超長大な建造物が宇宙から繋がって下りているのだと思うと、神の偉業だと云われても信じざるを得ないよな。それだけ異星人の科学技術が発達しているのだろうけど、建造から五千年以上が経った今でも形を保って維持されているのが凄すぎる。ここから見る限り、表面がツルツルで経年劣化しているようには見えない。どんな技術で造ればそんな事が可能なのか。


 そういえば、この世界で流通している硬貨も常に真新しさを保っている。古い硬貨を見た事が無い。まるで金属が生きて新陳代謝をしているようにも思える。単純に金や銀などで出来ている訳ではないのだろう。


 昨夜のグリューサーとの邂逅で、《天柱》と繋がるアイゲーストの役割を知ったが、惑星自体を護る技術とはどういったものなのか、凄すぎて想像もつかない。

 それが崩壊の危機にあると言われても、にわかには信じられないな。


 ディケードの記憶を探ってみると、《天柱》は『グリュンぺス』と呼ばれていて、地上と宇宙を繋ぐ懸け橋になっていた。朧げだが、グリュンペスに設置された展望エレベーターを使って宇宙へ昇って行った記憶がある。


 地上を離れて眼下の景色が小さくなり、大地が丸みを帯びていってやがて球体の惑星が見えていた。約1時間程の行程だったが、目まぐるしく変化する惑星の姿に感動していた。


 残念ながら、記憶は曖昧で写真のようにはっきりしたビジュアルではないので、そんな感じのものが有ったなとしか覚えていない。

 しかし、その記憶によれば、グリュンぺスの基部には巨大なターミナルがあったはずだ。宇宙からのエネルギーと物資を受け取るための施設とそれを取り巻く環境を作る街だ。


 その場所が、現在は王弟一族と貴族が住む街になっている。

 どんな暮らしをしているのか分からないが、その者たちは異星人が残したテクノロジーの生き残りを利用していると考えられる。

 その一端が、王族が運営する請負人組合だろう。あそこの設備を見るかぎり、王弟貴族街も同様なのだろうと推察する。


 王族と貴族はそれらのテクノロジーを独占しているようだが、一般庶民の様子を見る限り、恐れられてはいるが圧政を敷かれている訳でもないようだ。それなりに(まつりごと)は行われていると思われる。


 気になるのは、その者たちが危惧されている大量絶滅について認識しているのか、という事だ。

 グリューサーは、それに関して言及していなかった。


 ただ常識的に考えれば、俺一人だけに任せっきりにするとは思えないので、並行して第二第三の手を打っているはずだ。

 それに王族と貴族が関わっているのかは判らない。グリューサーの口振りでは内政干渉はしないようだしな。


 昨夜の感じでは、グリューサーは神として振舞っていたが、述べていた事が本当かどうか、俺には確信が持てない。

 しかし、その言動に矛盾を感じなかったので、取り敢えずはそれを信じて行動するとしよう。

 今は俺に出来る事をするだけだな。




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