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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第3章 -請負人-1

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第五十話 創造神グリューサー 中編

 突然目の前に現れた創造神グリューサーによって余命宣告を受けた。

 この世界にやってきて人生をやり直せると思ったが、そうもいかないようだ。

 ショックを受ける俺を、グリューサーはじっと見つめる。


「高梨栄一殿は当然、生き延びたいだろう?」

「そりゃあ…」


 そうですと答えようとしたが、ふと思い止まった。

 いや、本当にそうなのか?

 本当に俺はこの先も生き続けたいのか?


 日本に居た時は、元々残り少なくなった人生をのんびりと自然を見ながら過ごそうと思っていた。人生に疲れて、死を受け入れる準備をしていた。

 それがたまたま、この世界で若い身体になって目覚めたので、人生をやりなせるものならと思って希望を抱いた。

 それは、この先まだずっと生きていられると思ったからだ。


 実際に、俺は日本で死んで寿命を終えた身だ。

 他人の身体になってまで生き延びるのは、自然の営みに反するのではないのか?


 確かにこの身体は生き延びたがっている。

 若くて生命の躍動感に満ちている。

 しかし、俺の魂は自然の営みに反してまで生きていたいとは思っていない。

 特に、今は孤独が身に染みている状態だ。

 生きる事に、それ程前向きになれないでいる。


 さっき『連撃の剣』のメンバーと約束をしたばかりなのに、死が迫っていると知ったらどうでもよくなってしまった。

 それ程、ジリアーヌとの別れが俺に喪失感をもたらしていたのだな。


「ふむ、高梨栄一殿は複雑な事情をお持ちのようだな。」


 予想に反する俺の態度に、グリューサーは若干驚きながらも理解を示そうとする。


「では、我の置かれた状況を説明しよう。」


 グリューサーは普段、天界より地上を見守っているが、数百年ごとに地上に降りて世界を見て歩いている。

 それは先ほど説明されたが、それはついでの事であり、実際には『アイゲースト』のメンテナンスの最終チェックをしているという。


 アイゲーストとは、この惑星『ナチュア』を球状でできた籠のように覆っている、あの構造物の名前だ。

 アイゲーストは異星人が五千年ほど前に作った物だが、その役割は近方宇宙に存在する中性子星からの影響を防いで、この惑星を防御するためだ。


 しかし、その中性子星が引き起こした新星爆発は一度予想値を遥かに上回り、アイゲーストの防御機構の一部を破壊してしまった。その影響でこの惑星の一部は破壊され甚大な被害を受けた。

 その為に、異星人が作り上げたグリューサー大陸上の施設も大半が破壊されて壊滅状態となった。


 しかも、異星人がここへやって来るためのワープゲートと共に、異星人の母星と繋がるネットワークシステムも破壊されてしまい、この惑星ナチュアは孤立状態となってしまった。

 止む無く、異星人たちはこの惑星での事業を一時的に放棄して撤退していった。


 それが、後に『大厄災』と呼ばれる事件の、異星人側の視点によるあらましだ。

 女神システムの根幹であるグリューサーシステムも、機能不全を起こして長い眠りについた。


 しかし、システムの自動修復機能がわずかではあるが働いており、システムの自己増殖を繰り返し、緩やかにではあるが確実にグリューサーシステムは回復していった。

 そして、最低限の機能ながらもシステムが回復した時に見たものは、アバターとしてではなく、独立した知的生命体として繁殖している人間たちの姿だった。


「生命とは、なんと強靭でしなやかな柔軟性をもつ存在なのか。我はこれほど驚愕し、感動を覚えた事はない。」


 予想では、ユーザーを失ったアバターは原人へと回帰して、野生化すると考えられた。しかも、避妊処理を施されていたので一代限りで滅ぶとされていた。


 しかし、現実は違っていた。

 『大厄災』で生き残ったアバターたちの中には、元のユーザーの記憶をおぼろげながら有している者が居て、実験体として確保していた、妊娠可能な様々な雌性体を母体として、アバターたちの子孫が増殖していった。


 それは種族を残そうとする本能に基づいた行動だと思われる。

 新たに生まれた子孫を護ろうとして、生き残ったアバターたちが野生化しながらも集落を作り上げていく様子が、アイゲーストの記録映像として残されていた。


 その事実を知って、グリューサーシステムはこの惑星の新たな人間たちを観察し、保護していく事に決めた。

 その為に生き残った女神システムを流用して、魔物と化した動物たちの脅威から守るために基本的な知識を与え、文明の礎を築かせたという。


 なんとも凄い話だな。

 ディケードの記憶が無ければ、とてもじゃないが信じられない話だ。

 しかしながら、クレイゲートやジリアーヌなどの現在を生きる者たちから聞いた話と合わせると、この世界の歴史の遷移が理解できる。


 グリューサーが創造神として崇められるのも無理はないな。

 人間が崇める女神たちに役割を与える存在だからな。

 でも、システムの割に随分と人間臭くないか。


 で、問題はこれからだ。

 その『大厄災』によって、惑星は不安定な状態になっているらしい。

 自動修復システムによって一旦は再生されたものの、約千年おきに繰り返される新星爆発がアイゲーストの機能を蝕んでいった。

 やがて再生が追い付かない状態となり、アイゲーストの防御機能が徐々に低下していった。


 その影響が近年顕著に出始めた。

 地軸に微妙なずれが生じて各地で地震が起き始めている。やがては災害級の地震が頻発すると予想された。


 先ほど起こった地震もそうだという。

 地殻の変動が着実に進行しているためだ。

 シミュレーションでは、今後5年~10年の間に巨大地震が日常的に起こるようになると予想された。

 そうなれば、地上の生物は大絶滅を起こすだろうと。


 成程な、もしそれが本当なら大変な事態どころか、すでに緊急事態だな。

 しかし、《女神プディン》の話では、あと三千年程で安定状態になるという話だったはずだが。


「さよう、本来ならそうなる予定であった。

 しかし、ここにきてアイゲーストへのエネルギーの供給が滞り始めてしまったのだ。劣化したシステムの影響が急拡大し始めている。このまま放置すれば、いずれはアイゲースト自体が崩壊してしまうだろう。

 本来なら千年おきに行われる大規模メンテナンスが不可能になってしまったのでな。どんな技術で作られようと、時間の経過による劣化は避けられないものだ。」


 グリューサーはなんともやるせない表情を浮かべた。

 その様子からして、この惑星は母星から見捨てられたか、または母星に手を指し伸ばす事の出来ない何かがあったと推察する。


 グリューサーは女神たちにその事実を公開しないようにしている命じているようだ。パニックを避けるためだ。

 女神のお告げなら、人々は無条件で信じるだろうしな。


 なんにせよ、グリューサーの言う事が本当なら、近年この惑星は大量絶滅を迎えるという事だ。

 唐突だし、話が大きすぎていまいち実感が無くてピンと来ないけどな。


「それで、そのアイゲーストとかの修復は不可能なのですか?」

「望みはある。エネルギー供給が正常に戻れば、自動修復システムは正常に稼働し始めるだろう。さすれば時間はかかるものの、惑星は安定を徐々に取り戻すと予想される。」


 良かった。修復は可能なのか。

 安堵する俺をグリューサーはじっと見つめる。


「もっとも、いつも通りに我がその身体を使っていればの話だ。」

「うっ、それは…」


 グリューサーはアイゲーストの修復のために、ディケードのアバターを培養していた。

 数百年毎の使用となるために、その都度培養するようだが、一度使用されたアバターは破棄されて、次のアバターのための素体となるという。


 しかし完成直前になって、偶然にもシステムの不備を突いて魔物のアンフェルオゥスが研究所内に侵入してしまい、アバターのサンプルや素体を始めとして研究所内の設備を破壊してしまった。


 その時、システムに変調をきたして俺の霊波と同調してしまったようだ。

 俺はディケードとなって目覚めた訳だが、アンフェルオゥスに追われるままに研究所から居なくなってしまった。


 アバターは未処理だったので、大した能力も発揮できずに身体をアンフェルオゥスに食われてしまったと、グリューサーは思ったようだ。

 受肉する肉体を失ったグリューサーは途方に暮れたという。


 無理もない、活動するための身体が無ければどうしようもないしな。


 それが、先ほど腕輪に情報が登録されたので生きているのを知った。

 それで取り急ぎ、連絡を入れたという事だ。

 喜びを噛み締めながら、グリューサーは俺を見つめている。


「本当に生きていてくれたとはな。我としては感謝に堪えない。」

「………」

「身体を返せという訳ではないぞ。霊波が馴染んでしまっているので、この身体はもう高梨栄一殿にしか扱えないのでな。」


 グリューサーは安心させるように笑いかける。

 そして、申し訳なさそうに口を開く。


「ただ、高梨栄一殿には我に代わってある事を成し遂げて貰いたいと思っている。」

「しかし、この身体の余命は短いのでは?」

「確かにな。このままでは先ほど述べた通り、あと半年ほどしか持たない。まともに行動できるのは3ヵ月ほどだろう。

 しかし、高梨栄一殿が目覚めたアバター研究所に戻られたら、延命処置と共に始めに行われるはずだった様々な肉体への処置を行おう。さすれば、寿命も通常の人間と変わらぬものになるだろう。

 勿論、我の代わりをやり遂げた後にも、その身体を使ってもらって結構だ。」


 成程、悪い話ではない。

 元々は自分の身体ではなく、ふとした偶然から勝手に使う事になってしまった訳だが、その原因が解り、呵責の念なく自由に使えるとなれば有難い事だ。

 本当に俺は人生をやり直せるのだ。


 しかしながら、俺にこれだけ都合の良い条件を出すからには、当然見返りを要求されるよな。人生をやり直せる程の代償だ。さぞや大事なのだろうな。

 俺の表情から察したのか、グリューサーがしたり顔で頷く。


「さよう、高梨栄一殿にはアイゲーストの補修をお願いしたい。」


 やはり、そうなるのか。


「正直、我は身体が無いために地上に降りられず困っている。このままではアイゲーストの修復が出来ず、座して惑星の崩壊を見届けるしかない。

 本来の我の使命は惑星のモニタリングであって、干渉を良しとしない立場にある。とはいえ、我としてはそれは本意ではない。

 アバターより生まれし奇跡の知的生命体を、滅亡させたくないのだ。」


 今まで淡々と語っていたグリューサーだが、最後はやや感情的になっていた。

 余りに人間味のある態度は、本当にシステムなのかと疑いたくなるほどだ。


「グリューサー様用の新しいアバターを作ることは不可能なのですか?」

「我の事はグリューサーで良い。高梨栄一殿は我の僕たる信者ではないからな。

 先ほども述べた通り、アバター研究所内が破壊されたために、アバターの素体そのものが失われてしまったのだ。研究施設を修復したとしても、素体から作り直すとなると最低でも15年は必要となる。

 それだと、アイゲーストの劣化の加速度に追い付けるか微妙なところなのだ。忌々しい事にな。」


 感情が露わになったグリューサーは苦悩して見せた。

 どうにも人間味豊かになってきたグリューサーだが、本当は人間なんじゃないかと疑いたくなってきた。


 それは兎も角、グリューサーの弁を信じるなら、俺が代わりを務めるしか、この惑星を救う手立ては無いようだ。

 本当にそんな事が俺に出来るのか?


 人類どころか、この惑星に生息する全ての生命の命運がかかっているといっても過言ではない。

 余りにも常軌を逸した大き過ぎる問題だ。

 そう考えると、身体が震えて精神が委縮してしまう。


 そんな俺を、グリューサーはジッと見つめて答えを待っている。

 胃がキリキリと痛みだした。




読んでいただき、ありがとうございます。

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