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異世界で俺だけがSFしている…のか?  作者: 時空震
第1章  -迷い込んだ異世界-
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第五話 発光星雲

 どれくらい眠ったのか、かなり長い時間寝たような気もするし、少しだけのような気もする。


 外でヒタヒタと歩く音がするので、それで目を覚ました。一気に緊張が高まり、息を潜めて様子を伺う。多分ワニもどきだと思うが、1匹がうろついている。

 一度だけ蓋をしている岩にちょっかいを掛けてきたが、動かないので諦めたのか去って行った。


 ホッとして、 止めていた息を吐き出す。お陰ですっかり目が覚めてしまった。

 外から明かりが入って来ないところを見ると、焚火は消えたみたいで、まだ朝にもなっていない。

 幸いな事に、蚊やダニ等の小さな虫による被害は無かった。


 もう一度眠りに着こうとしたが、なかなか寝付けず、ここは何処で自分は誰なんだろうという堂々巡りの考えに耽ってしまった。

 考えても無駄なのだが、どうしても頭を過ってしまう。

 オッサンの悪あがきだな。


 思考を切り替えて、これからの予定を考える。

 夜が明けたら、食事をして森へ入って行くが、その前にナイフ代わりの石器と小石を入れておくカバンを作ろうと思う。


 槍は出来たが、小回りの利く武器が欲しい。

 しかし、出来れば格闘戦はしたくないので、投石と指弾を使った遠距離戦を基本的な戦いにしたい。

 オッサンは臆病なのだ。


 それと《念動力》といっていいのか解らないが、《当たれ!》と《念》じた時に投げた石が軌道を変えた現象を検証したい。

 《念動力》が自在に操れるなら戦い方も変わってくるはずだ。


 外がほんのりと明るくなったのが岩の隙間から見えた。

 俺は神経を研ぎ澄まして外の様子を伺う。

 生き物の気配や動きは感じられないので、用心しながらそっと岩をどかして外の様子を見る。ワニもどきは居なくなっていた。


 俺は外へと出たが、まだ夜が明けた訳ではなかった。頭上にはまだ星々が輝き、天の川がうっすらと見えていた。

 夜明けと勘違いさせたのは、東の空に広がっている発光する雲だった。空の4分の1程を占める大きさで、様々な色で複雑な模様を作り出していた。


 が、それは良く見ると、雲ではなくて星雲だった。夜空に星々と共に光を帯びて輝く発光星雲だ。

 天体写真にある、オリオン星雲のような淡い光の広がりが地平線からせり上がっていて、その奥には星が瞬いている。


 淡く光るガスの広がりが様々な色の濃淡を作り出していて、その中を輝線となる光の帯が縦横無尽に走っている。

 視野の殆どを占めるほどに広がる光景は、正に夜空のキャンバスに描かれた光の絵画の様だ。

 俺はあまりの美しさに、しばらく茫然と見入ってしまった。


 星雲と呼ばれるものには幾つかの種類があり、遠くの銀河だったり星が爆発した後に広がるガスだったりするが、肉眼で見えるものは数えるほどしかなく、アマチュアが一般的に持てる天体望遠鏡だと、ぼんやりと広がるモヤのようにしか見えない。


 昔、ハレー彗星が来た時にちょっとした天文ブームになり、俺も安い天体望遠鏡を買ったが、ろくに見えなくてがっかりした覚えがある。

 よく写真なんかでは渦巻き模様の銀河や赤く広がったガス星雲の模様などがあるが、あれはカメラで長時間露出をかけて撮るとああなるだけで、実際に天体望遠鏡を覗いてもああは見えないと天文雑誌で知り、実際に体験した。


 なのに、今目の前に広がる星雲は赤や緑や黄色といった色に輝き、複雑な模様を描いているのがハッキリと見える。

 よほど近くの星が爆発でもしたのだろうか?

 それとも巨大なガス雲があって恒星の輝きを受けている?

 どちらにせよ、余程の近距離でなければ、こんな光景は見れないと思う。


 その事から、ここはどうやっても俺が知っている地球では無いというのが事実のようだ。

 なぜなら、地球からはこんな巨大な星雲を肉眼で見る事は出来ないからだ。


 それと、星々の位置を見ても、知っている星座の並びが全く無い。

 千年や二千年、例え一万年経とうとも、星座の並びはそうそう大きく崩れるものではないという話だ。


 仮にここが南半球だとしたら、見慣れない星座は沢山あるはずだが、それでも、黄道付近の星座は北半球から見るのと同じ星座が見えるはずだ。逆さまに見えはするだろうけども。

 どうやら俺は、本当に地球ではない世界に来たしまったようだ。

 当然、何故そんな事になったのかなんて解るはずもない。


 ははは………もう笑うしかないな。


 いや、待て待て、もしかしてバーチャルの世界に泳がされていると考えてはどうだ?

 俺の本当の体は治療中で、その間バーチャルの世界を体験させられているとか…

 って、それこそオッサンの悪あがきだな。


 第一そんなものを体験させる意味がないし、これほどリアルな世界が作れるとは思えない。視覚や聴覚はともかく、臭いや質感、痛みを再現するなんてありえないだろう。


 はぁ~…


 諦めて現実を受け入れるしかないのだろうな。

 死んで他の星に来てしまった、そんな感じなの…かね。

 ここはあの世というものだろうか?

 それとも輪廻転生でもしたのか?

 生まれ変わった訳ではなくて、若い体に意識が乗り移ったみたいだが。


 なんにせよ、俺は別の体で生きてるようなので、これからもこの世界で生きていくしかないようだ。

 なんともはや………


 俺は様々な想いを抱きながら夜空を見つめた。

 このムカつく位に哀しく美しい発光星雲は、時間と共にさらに広がりを見せて、夜空の3分の1程を占めるようになった。


 天の川を凌駕するほどに、更に複雑で煌びやかな形と色合いを見せたが、夜明けを告げる薄明が始まると、徐々にその明るさの中に呑み込まれていった。


 眩い輝きを放つ太陽が顔を出すと、その存在を誇示するように夜の世界の痕跡を全て拭い去ってしまった。

 まるで星雲など、初めから無かったかのように。


 ふと、ギリシャ神話を思い出した。

 夜明け前に現れて夜明けと共に消えていくなんて、あの発光星雲はまるで曙の女神エオスだな。

 確か、ギリシャ神話からローマ神話に移り変わってアウロラ(オーロラ)と呼ばれるようになったはずだが、あの美しさは正に女神に相応しいと思う。




 ☆   ☆   ☆




 さて、明るくなった事だし、出発の準備をするか。

 森には何が待ち受けているか分からないが、何としても森を突っ切って文明を探し出す!


 そこにいるのは人間なのか異星人なのかは分からない。

 でも、俺がこの体に意識が乗り移ったのなら、やはりそこには同じ体を持った人間がいるはずだ。

 いや、いて欲しい。


 俺は太陽に背を向けて歩き始めた。




読んでいただき、ありがとうございます。

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