第三十話 商隊の日常
俺を取り囲んでいた『惨殺の一撃』の面々だが、リーダーのケルパトーが突然抱き着いてきた。
「ディケード、俺たちのパーティに入らないか!お前が来てくれたら俺たちは〈冒険者〉にだってなれるぜ!遺跡で《聖遺物》を発掘して大金持ちだ!」
「それ、最高だよ!夜のお相手はあたしがやるからさ!」
「マジかよ!」
「こ、こいつと組むのか?」
何を言い出すのかと思ったら、パーティへの勧誘か。
「取り分はディケードが4で、残りの6は俺たち四人でいいぜ。悪い話じゃないだろう。」
「そうそう、あたしがタップリとサービスするからさ。入んなよ。」
「「 ……… 」」
俺が返事をしないでいると、具体的な分前の話までしてきた。
初めは見事な連携でレオパールウを倒したので、結構やるなと思ったが、チャービゾンへの対応を見ると、正直このパーティはダメだと思った。
俺が倒さなければ、こいつらは商隊を放置して逃げていただろう。こんな奴らと危険な場所に赴くなんて自殺行為でしかない。
それに、何よりジョージョとは関わり合いたくない。
俺が断りを入れようとした時、クレイゲートがクレイマートとルイッサーたち護衛を引き連れてやって来た。
「ディケード、よくやった。よくこれを商隊への損害無しに防いでくれた。」
「すげぇな、チャービゾンかよ。それもかなりの大物だ。一人で殺ったのか?」
「ああ、まあな。」
ゴブリンの肉を焼く臭いを嫌がりながらも、クレイゲートたちは感謝の言葉を述べる。
「大したもんだぜ。普通なら金鉄ランクの請負人が10人掛かりで倒せるかどうかってところなのにな。」
「しかも目以外は無傷だ。どうやって倒したんだ?」
「それがスゲーんだぜ!石がグルグルグルって円を描いて飛んで行って、チャービゾンが目を回してぶっ倒れたんだ!こんなの普通ありえないぜ!」
「そうだよ、《英雄魔法》だよ!〈冒険者〉が使う《英雄魔法》だよ!あれは。」
クレイゲートの問いに、俺の代わりに興奮しながら説明するケルパトーとジョージョ。その様子に呆れたように肩をすくめるルイッサー。
護衛の一人がチャービゾンの項を裂いて魔石を取り出し、クレイマートに渡す。
クレイマートは魔石をルーペで見ながら鑑定する。
「大きさも凄いけど、色合いも良いしチャービゾンの中でも上級の魔石だね。」
「そうか。良い値が付きそうだな。死体も無傷だしな。ディケード、このチャービゾンを魔石込みで金貨10枚で買い取らせて貰っていいか?」
「ああ、それで頼むよ。」
クレイゲートは証文に金額を書き込んで寄越した。
金額を聞いた『惨殺の一撃』のメンバーが驚く。
「金貨10枚だぁ!!!」
「ひえーっ!抱いて!あたしを抱いて〜〜〜っ!!!」
「ま、マジかよ⁉」
「嘘だろう⁉」
まあ、普通は驚くんだろうな。俺にはまだ金貨の価値がいまいちピンと来ないが、考えてみれば日本円にして約一千万円か。確かに驚くよな。
大間のマグロを釣り上げたようなものか。
ちなみに、『惨殺の一撃』のメンバーが倒したレオパールウは1匹銀貨2枚だという。8匹倒したので銀貨16枚だ。それを四人で頭割りしたら一人当たり銀貨4枚だ。日本円にして4万円だ。命がけの仕事としては微妙なところだな。
まあ、それだけチャービゾンが激レアなんだろうな。ケルパトーが本来はこんな場所にいる魔物じゃないと言っていたからな。
証文を見ると内訳は魔石が金貨6枚で、チャービゾンの本体が金貨4枚になっている。魔石の方が重要度は高いんだな。
宝石扱いなのか?後でジリアーヌに訊いてみよう。
クレイゲートが例の小さな箱を取り出して操作をする。
青い光が放射してチャービゾンの体の形をなぞっていく。チャービゾンの体が青く光り、徐々に光の粒子になって溶けていくように小さな箱に吸収されていく。全ての粒子が溶け終わると、そこには最初から何も無かったかのように元の地面だけが残されていた。
クレイゲートは小さな箱を見ながらメモを取っていた。
相変わらず不思議な光景だ。『惨殺の一撃』の面々も驚いたように見ている。
「クレイゲートさん、その不思議な箱は何なんだい?」
「これは《魔法函》だ。《半神や英雄》の時代の《聖遺物》で魔法の収納庫だ。生きている物はダメだが、それ以外のある程度の大きさの物なら自由に出し入れが出来る。無限ではないがな。」
「成程、魔法の収納庫なのか。随分と便利な物だね。」
ルイッサーがスッとクレイゲートの前に立って俺を牽制する。
「おい、変な考えを起こして奪おうなんて思うなよ。いくらお前が強くても対抗手段はあるんだからな。」
「そんな事はしないさ。不思議に思ったから訊いただけだ。」
仕事なんだろうが、やはり一言多い。
「それはどうしたら手に入れられるのかな、普通に買えるのかい?」
「買えるといえば買えるが、オークションで手に入れるくらいだな。いろいろとランクがあるが、最低でも白金貨5枚からだな。」
「ブフォっ!」
「な、なんだい白金貨って?そんなの見た事も聞いた事もないよ。」
「「 ? 」」
『惨殺の一撃』の面々が驚いたり不思議がったりしている。庶民には縁の無い貨幣なんだろうな。
多分、白金貨は金貨100枚に相当するのだろう。という事は1枚日本円で一億円か。それが最低でも5枚ということは5億円か。
はっははは…何だそれ。もう笑うしかないな。
「ディケードなら、2〜3年で買えるだろうよ。もっとも、『ダンジョン』で手に入れるという方法もあるにはあるがな。」
クレイゲートがニヤリと笑いかける。
2〜3年はどうだろうな。確かに、チャービゾンを50頭倒せば5億円にはなるだろうから、可能ではあるのか?
しかし、ダンジョンか…やはりあるのか。というより、まだ残ってるんだな。
ダンジョンは元々本来のディケードたちがゲームをしていた舞台だからな。そこには様々なアイテム、今でいう《聖遺物》が隠されていた。
それが現在でも存在して活動してるようだ。
薄っすらとした記憶だが、様々な不思議な世界が展開していたはずだ。今も変わってないのかな。
そういえば魔の森の魔物なんて比べ物にならないくらい、随分と不思議で凶暴な【モンスター】がいたような気がする。
オークションで《魔法函》が出品されるという事は、誰かが取って来ているという事だよな。成程、それが〈冒険者〉か。
クレイゲートが持っている《魔法函》は、確か【アイテムボックス】と呼んでいた物だよな。元々のディケードも持って活動していたはずだ。
原理はディケードの記憶でもあまり理解してないようだな。
俺も詳しくはないが、量子力学のトンネル効果を発展させたようなものなのかね。物質を構成する原子や分子をエネルギー転換して、量子的に場の中に封じ込めていると考えればいいのかな。
実際、現在の地球でもパソコンやスマートフォンなどに使われている半導体を開発する際に量子力学の応用で作られているからな。そんなに突拍子もない技術という訳でもない、事も…ないのか?
まあ、とにかくだ。《魔法函》は名前通りの魔法などという訳の分からんものではなくて、ちゃんとした原理がある科学物理的な物だという事だ。
もっとも、それを神や魔法だと信じて今を生きているクレイゲートたち人間に説明しても理解はされないだろうけどな。
それでも、俺の精神を落ち着かせて安定させる役には立っている。
ファンタジーなんて物語で楽しむものだからな、オッサンは安心したぜ。
なんにしても、実際に魔法と思わせるだけの物理現象を起こせるんだから、ディケードたち異星人の科学技術力は凄すぎるよな。
そんな科学技術力を持った異星人が作ったダンジョンか、いずれは実際に行って見てみたいもんだな。想像を絶する世界やアイテムが存在してるんだろうな。
用が済んだクレイゲートたちは中央の馬車へと戻って行った。
すると、途端にケルパトーとジョージョが擦り寄ってきた。
「スゲーな、ディケード。大金持ちじゃねーか。な、な、俺たちと一緒にパーティを組もうぜ。ディケードがリーダーでもいいからよ。」
「そうだよ。あたしを愛人にしていっぱい稼いでよ。何だってするからさぁ♪」
ダメだこいつら…人にたかる気満々だな。
「いや、俺は〈冒険者〉をやるつもりはないから。他を当たってくれ。」
「嘘だろう!あんなに凄腕なのにありえないだろう。考え直せよ。」
「そうよ。あんたが居れば贅沢し放題じゃないか!」
まったく鬱陶しい。人を金づるだと思って纏わり付きやがって。ジョージョなんて、興奮して本音がダダ漏れじゃないか。
「今は護衛中だ。後にしろ!」
「チッ、分かったよ。じゃあ、また後でなぁ〜♪」
ケルパトーは不愉快そうに舌打ちしたが、直ぐに軽薄そうな薄ら笑いを浮かべて自分のポジションへと戻っていった。
チャラ男風を装ってはいるが、実際には蛇のようにねちっこくて残忍な性格なのかも知れないな。『惨殺の一撃』なんてパーティ名を付けるくらいだからな。
ケルパトーは去って行ったが、ジョージョはまだ俺から離れようとはしない。
「ジョージョは護衛をしなくていいのか?」
「あたしは戦闘の時に《火魔法》での後方支援が役目だから、他にやる事は無いよ。あるとしたらディケードを堕とすくらいだね。フフン…」
こいつ…開き直って本当の狙いを隠す気も無くなったな。厄介なこった。
「それに、《火魔法》の事をもっと知りたいだろう?」
「それは…いや、いいや。他の者に訊くよ。」
何かにつけて、ジョージョは胸を俺に押し当ててくる。
ジョージョ自体は鬱陶しいが、胸の感触だけはそのままでいて欲しいと思うのは俺のワガママか。
「連れないねぇ…若いんだから、もっとガバって襲いかかって来てもいいのにねぇ。」
「そんな事は簡単に言うもんじゃないだろう。」
とは言っても、そこまで言われたら襲いたくなるのは確かだな。
ジリアーヌたちで発散してなかったら、簡単に堕ちただろうな。そうなれば、後は蜘蛛の巣に絡め取られた蝶々みたいなもんだ。枯れるまで吸いつくされて終わりだな。
この手の女は一度関係を持つと、とことんそれを利用して寄生しようとするからな。昔、散々に懲りたからもう十分だ。
まったく。孤独も辛いものだが、面倒な人間関係も鬱陶しくて厄介なものだ。
俺がもっと毅然と断ればいいのだが、それが解っていても中々出来ないのが日本人の日本人たる所以だ。身体は異星人のアバターでも、心は日本人だからな。
そんなこんなでジョージョに纏わり付かれながら馬車は進み、休憩地点となる安息エリアに辿り着いた。
道幅が広くなっただけで何もない所だが、山の斜面にはフェンスが張られていて、魔物が街道に侵入し難いようになっている。水場があるので、馬たちに休息を取らせるようだ。
太陽を見ると南中を少し回ったくらいなので昼時のようだ。俺たち護衛は交代要員が来たら昼飯となる。
程なくして、交代要員と共にジリアーヌが迎えに来てくれた。正直助かった。これでジョージョから開放される。
「ディケード、お昼にしましょう。」
「お、おう。」
「飯ならあたしらと一緒に食べようよ。」
「あ、いや…」
勘弁してくれと思っていると、ジリアーヌが俺とジョージョの間に割って入る。
ジョージョが激昂する。
「何するんだい、この商売女!奴隷のくせに厚かましいね!」
「行きましょう、ディケード。」
「あ、ああ…」
「あたしを無視するんじゃないよ!」
ジリアーヌは何も無いかのように俺と腕を組んで歩き出そうとする。
ジョージョはジリアーヌの肩に手を掛けようとするが、スルリと躱されてしまう。
「くっ、この奴隷女がぁっ!」
怒り狂ったジョージョがパンチを次々と放つが、ジリアーヌは最小限の動きだけで安々と躱していく。脚の悪さなどハンデにもなっていない。
「もう十分でしょう。」
「うぅ…」
動き疲れて肩で息をするジョージョに対して、ジリアーヌは涼しい顔で睨みつける。
黒鉄ランクのジョージョと、引退したとはいえ元金鉄ランクのジリアーヌでは、明らかに格が違うな。思わずキャットファイトになるかと思ったが、そんな心配は無用だった。
ジリアーヌが俺の腕を引いて歩き出したので、俺も歩き出す。
若干後ろ髪を引かれる思いもあったが、あえてジョージョを無視するよう努めた。
「一度ならず二度までも掻っ攫いやがって!覚えてろよ、この泥棒女!」
ジョージョが屈辱に震えて喚き散らすが、ケルパトーがすかさず宥めている。
フォローしてくれる相手がいれば、ある程度は安心だ。
それにしても、ジョージョは気性が激しいな。俺には手に余るよ…
馬車の中央へ向かう途中、ジリアーヌが不安そうに告げる。
「あの、嫌そうに見えたから割って入ったけど、迷惑だったかしら…」
「そんな事はないよ。正直困っていたんで助かったよ。」
「そう。なら良かったわ。」
ジリアーヌがホッとしたように笑みを浮かべた。
「済まないね、嫌な役目をさせてしまった。俺がちゃんと断れば良かったんだけどな。」
「しょうがないわよ。殆どの男は女には強く出れないみたいだしね。特に若くて胸の大きな女にはね。」
「面目ない…」
チクリと刺される嫌味が心に痛いぜ。
しかし、奴隷という身分は主人に対してだけのものなのだろうか?
ジョージョに対する態度を見てるとそうみたいだが、あくまで市民権を剥奪されただけの人間という扱いなのだろうか?
微妙な問題なので、ジリアーヌ本人には聞きにくいな。
ジリアーヌと歩いていると、脇でガルーという男が馬の世話をしていた。草と水と塩を与えながら馬車間を行き来している。
馬といっても種類が様々で、大きなものからポニーのような小さめのものがいて、シマウマだったり牛の模様をしているものもいる。
興味が湧いたので、馬の事を少し訊いてみた。
家畜となる馬は魔物の馬種から育成するらしい。
親とその子供は人間に懐かなくて、いつまでも襲おうとするらしい。が、孫の世代から大人しい性格のものは攻撃性が無くなって、人間に懐いて言う事を聞くようになるという。
馬の種類については、産まれてくるまでどんな姿形のものかは判らないとの事だ。傾向として、大型のものは懐きにくく、中型か小型のものは懐きやすいらしい。
草食動物なのに、人間や動物を襲うと聞いて驚いたが、そもそも魔物なのでそういったものだという。
そもそも魔物、それこそが謎だ。
ディケードの記憶だと、ディケードたちがアバターとして活動していた時代には自然の中に魔物なんか居なかったように思う。あくまで普通の動物がいるだけで、草食動物が身を護るため以外に人間や動物を襲うなんてことは無かった筈だ。
いつしか動物は様々な交配を繰り返して魔物化していったように思うが、何故そうなったのかはさっぱり解らない。
まあ、『大厄災』とか云われている事件が原因なんだろうとは思うが。それがどんなものかさっぱりだしな。
不思議だなと思いつつ、俺はガルーにお礼を言って立ち去ろうとしたが、ジリアーヌがガルーにお礼を言いながら銅貨を渡していた。
ガルーから離れた所でジリアーヌに注意された。
繋がりのない初対面の者や見知らぬ者に情報を聞きたい時は、支払う硬貨を見せてから話しかけるのが常識だという。
これで攻撃の意思が無い事と、知りたい事があるというのをアピールするようだ。不意に話しかけたり近づいたりすると怪しい者だと思われて、下手をすると攻撃される事もあるらしい。
厄介だなと思ったが、武器を所持して歩くのが当たり前の世界なので、無用の争いを避けるためにこういった慣習となっていったようだ。
成程と思うと同時に、日本との違いに驚いた。
今回ガルーが好意的だったのは、俺が飛竜を倒してこの商隊を救ったと知っていたからのようだ。
どうやら、この世界は俺が思っている以上に危険で、他人に対して警戒心が強いらしい。『惨殺の一撃』の連中も同じ理由で俺に対して最初からそれなりに友好的だったのだろう。
俺はジリアーヌに立て替えてくれた銅貨を渡しながらお礼を言った。こういった小さな常識の積み重ねが、異世界の社会に溶け込んで行くためには、とても大切なのだろう。
ジリアーヌに案内された場所へ着くと、バーバダーと三人の少女たちが食事をしていた。馬車の脇にテーブルセットを出して日除けとなる大きなパラソルを刺している。
山間の外での食事風景はちょっとしたピクニックを思わせる。他にも同じようにテーブルセットを広げて食事をしている者たちが幾つも見られる。
俺とジリアーヌも同じテーブルに着く。
「バーバダー、ディケードとわたしの食事も頼むわ。」
「あいよ。」
バーバダーが食事を皿に盛っている時に、三人の少女たちは寄ってくるハエやてんとう虫等を鬱陶しそうに手で払いながら食事をしている。ハイキングやキャンプではあるあるだ。
俺は自分の周りに張っている《フィールドウォール》を拡大してテーブルの周りを包み込んだ。すると、飛び交っていた虫たちが一斉に弾き出されていった。
ジリアーヌと少女たちは驚いて目をパチクリさせる。
「「「 あっ! 」」」
「何をしたの?」
「普段身に纏っている《フィールドウォール》を拡大したのさ。これで虫は寄って来ないよ。」
「そんな事出来るの!」
「これが出来ないと、魔の森の中ではデカい蜂やヒルに刺されて無事でいられないよ。」
「やっぱり森の奥は怖いわねぇ…わたしも何度か経験があるけど、そうなると先へ進めないのよね。」
ジリアーヌが自分の体を抱きしめてブルブル震える。
女性だけに、余計に虫類は苦手なのだろう。
「ディケード様しゅご~イ♪ありがとウ〜♫」
「ありがとうございます、ディケード様。これでうっかりハエを一緒に食べなくて済みます。」
「本当よねぇ、てんとう虫が混ざるのなんてしょっちゅうだもんね。」
「あ、ああ、良かったな…」
お礼を言われるのは嬉しいけど、それは聞きたくなかったぞ。特に食事前の今はな。
ハンバーガーと言っていいのか、パンの上に焼いた肉が乗っている昼食を俺とジリアーヌが食べ始めた頃、三人の少女たちは食後のお茶を飲みながら金貨を見せ合っている。
「お前たち、そんな物を持っていると知られたら盗まれるよ。見るなら一人の時にこっそりと見な。」
「そうだけドォ〜♪、日の光に当たるとォ〜キラキラしテ〜、しゅご〜く綺麗なんだヨ〜♫」
「だよね〜♪太陽の色がそのまま光ってるみたい。」
「そうそう。そして、凄くお金持ちになった気分になれるの。」
「「「 ネ〜〜〜っ♪ 」」」
三人の少女たちは本当に嬉しそうにしながら仲良くはしゃぐ。
金貨1枚を持っているだけなのでピンと来ないが、15〜16歳の少女たちが百万円の札束を見せ合いながらニコニコしていると考えると異様な光景だな。
まあでも、お金というよりアクセサリーのような感覚で見ているので、まだ可愛らしいと感じるな。これがジョージョのようにお金に目が眩む状態になってしまうとウンザリさせられるけどな。
そういう意味では、まだこの娘たちには純真さが残っていてホッとするな。
昨夜は三人の間に溝が出来かけたが、結果的にはこうして仲良く出来ている。愛でたし愛でたしだ。
だが、ジリアーヌは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
その視線を追ってみると、カルシーの金貨を見ていた。カルシーが金貨を貰った事に納得できないという感じだが、原因が自分にあるので文句も言えないようだ。
ジリアーヌの視線に気づいたカルシーは、挑発するようにニヤリと笑った。
ジリアーヌの顔が一瞬だけ般若のようになり、手に持っていた木のスプーンの柄をバキッと折ってしまった。
「あらやだ、古くなっていたのね…」
「ああ、そうみたいだな。怪我しなくて良かったよ。」
取り繕うように作り笑いを浮かべるジリアーヌに、俺は気づかないふりをしながら強く握りしめる手からスプーンを抜き取る。
俺はバーバダーから新しいスプーンを受け取ると、ジリアーヌの手にスプーンを差し込んだ。
俺の所作を見て、ジリアーヌは赤くなって俯く。
「あ、ありがとう。ごめんなさい…」
色んな意味の込められた感謝と謝罪の言葉だ。キツネ耳がしおれて倒れている。
「ジリアーヌ姉さま、カワイイ〜♪」
「………」
空気を読まないシーミルに指摘されて、真っ赤になってしまう。
「ば、ばか。後でこっ酷く怒られるわよ。」
「ええェ〜、だってェ〜、カワイイんだもン〜♪」
「だよね〜♪」
一番年上のライーンが嗜めるが、シーミルの天然さはどこ吹く風だ。カルシーは完全に煽っているな。
ジリアーヌは尻尾をプルプル震わせてじっと耐えている。俺がいなければ叱り飛ばしているんだろうな。
なんとなくだが、ジリアーヌにお局OLのような悲哀を感じるな。
自分は年を取り、若い娘が台頭してくる。花形だった自分はいつの間にか蚊帳の外へ追い出されようとしている。正論で躾けようとしても、若い娘は人気を背にして生意気な態度を取ってくる。
長年のサラリーマン生活で幾度となく見てきた花形OLの新旧交代劇だ。
ジリアーヌも性格上、自分が若い時はそうやってベテランを牽制してきたと思うが、自分の番になってようやく過去の自分を振り返れるようになるのだろう。
俺はジリアーヌの背中に手を回して優しく撫でた。
ジリアーヌがビクリと体を震わせて驚いたが、微笑む俺の顔を見て嬉しそうに笑い返す。
ジリアーヌは可愛いな、言葉にはしないが自然とそう思える。
時折見せるポカンとした表情も良いが、クールビューティがチラリと見せる悲哀の表情はゾクリとさせられる程、魅力的だ。
「お前さんは見どころがあるね。」
バーバダーがニカッと笑って、頼んでもいないお替りのハンバーガー(?)をドンと置く。
せっかくなので頂くが、ボリュームが多くて大変だ。
聞くところによると、バーバダーもかつては娼婦をしていたという。もしかしたら、お局化していくジリアーヌにかつての自分を重ねたのかも知れないな。
年齢を感じさせるクマ耳がピコピコ動いていた。
読んでいただき、ありがとうございます。




