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スカーレット・ワールド ~六翼の英雄編~  作者: 上下 帷
メフィーナ編 第1章  自称武者修行中の騎士
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森林の男女 1-1

 ベルドラ大国は大きく分けて6つの領にから成り立っていた。

 

 そしてここは、イージラス・ババ・バレッシュユステッド六世か統治する地。

 大陸の南東に位置するバレッシュユステッド帝国である。


 格式高いこの地は騎士が国を治めていた。

 この国は肥沃の大地に恵まれ農業と近郊の豊かな海によって漁業が栄えていた。また近くの坑道からとれる鉱石と高い技術の製鉄技術によって産業を賑わせていた。


 土地にも、人材にも恵まれたこの地は六領地の中で一番小さい領地なれど、国が持つ力は他国にも引けを取らないものだった。


 要するに。金があり。武力もあり。資源もあった。


 その帝国領地内。

 首都から少し距離のある名前があるのかも分からない森林の中で、何かの燃えカスから白い煙となって空へ伸び靄の様に消えていった。


 それを眺めていたのは一人の鎧を着た青年と一頭の白馬だった。

 まだ少年の面影を残す青髪の青年は、木に背を預け天から伸びているような白煙の先を目で追っていた。

 

 青年にとって野営は慣れたものだった。

 遠征の訓練をこなし野宿で必要となる技術の習得できている、と本人は思っていた。

 

 だが、一人で行う事は初めてだった。

 ここに来るまでに場数はこなし、最初に比べ手順よく行えるようになった。

 荷ほどきや火おこし。地べたに寝ることにも抵抗はなかった。


 そんな青年にとって一番の問題点は夜襲の備えだった。


 獣や魔獣に盗賊と危難となるものはいくらでもある。

 帝国内は他国に比べ自国の治安維持に力を入れており、帝国騎士団の巡回も定期的に行っている。


 それでも広い領土だ。

 根絶というのは無理な話だ。


 だが、青年が一番危惧していたのは、盗賊や魔獣ではなかった。

 その帝国騎士団こそ彼が最も警戒しているものだった。


 眠らない事には体力が持たない。

 帝国から出るには夜通し馬を走らせることが最適だろう。

 それにもリスクはある。ならばと街道から外れそれに沿うように森林の中を移動していた。


 青年もそれが最善ではない事は分かっていた。

 彼の騎士団が本気を出せばとうに索敵されていたとしてもおかしくはない。


 日に日に募る疲労と心労が確実に青年の精神をすり減らしていった。


 手早く自身と馬の食事を終わらせ魔獣除けのお香を焚いた。

 いつでも発てる様に荷をまとめ、剣と盾を抱え抱える様に浅い睡眠をとる。


 微かな風音。

 鳥の羽ばたき。

 愛馬の鳴き声。

 不審な音が聞こえるたびに体に緊張が走り、膝を立て囲を警戒する。


 日中も遠くに見える行商の馬車を警戒し息をひそめる様に距離を稼いだ。気の休まる時などはなく。緊張の糸が常に張っていた。


「いや、わざわざ俺なんかのために人員は割かないか」


 夢うつつに発した言葉。

 現実であったのか夢の中であったのか青年には判然としなかった。


 泥のように眠りたい衝動を必死に抑え、何かにすがるように剣の柄を強く握りなおす。


 いつまでこんな事が続くのだろう。

 自身が招いた自体に、青年は何処にも向けることができない気持ちを、微睡の中へと溶かし、曖昧にして、考えないようにした。


「…………」


 ふと、暗闇に意識が持っていかれそうになった時に周囲の茂みががさりと音を立てた。 


「だ、誰だ!」


 青年は片膝を付きいつでも剣を抜ける姿勢をとる。

 返事はない。

 

 代わりに聞こえてきたのは奇声だった。


「う……うぅ……あぁっ」


 聞きなれない鳴き声に、青年が警戒を露わにしていると、すぐ近くの茂みから何かが這い出た。


 それは細い影を作り青年の方へと伸びた。

 最初、それは蛇のように見えたが、微かに照らされた月明かりによってその細部が露わになった。蛇の頭にあたると思われる場所は5つに細く割れており、それが人の左手だと気付いた。

 よくよく見ればその手首には鉄製の輪っかが付けられた。


「…………」


 青年は恐る恐るといった様子でその片腕に近づいた。


「おっ」


「お?」


 左腕が声を放つ。にじり寄った足が止まり青年はその先の言葉を待った。


「お……お腹……す、すい。し……ぬ……」


「…………は?」


 それは、餓死寸前の女性のものだった。

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