ポンニチ怪談 その71 インガスイ 巡る物質
大事故をおこし、いまだ収拾がつかないニホン国トンデン電力会社の原子炉からの冷却水。棄権といいつつ今までタンクに保管していたその水を海に流し始めた途端…
パタン
床に崩れ落ちるスーツ姿の女性のそばで、初老の男性が震えだした。
「ま、また、倒れた、も、もう何人目だ」
そういう男性の顔色もかなり悪い。
「か、会長、すでにわが社では、その、数百、いや、軽微な体調不良を含めますと、すでに数千人にものぼるかと」
男性に話しかけている男性も声にハリがなく、明らかに具合が悪そうだ。
「そ、そんなに!ひ、秘書の君がいうなら、そ、そうなんだろう。し、しかしそんなに休んでいたら、業務にかなり支障が出るではないか。わがトンデン電力会社は、ニンいやニホン国最大手の電力会社。8月の終わりとはいえ、この残暑、いや酷暑にエアコンがフル稼働で電力需要がひんぱ、いや逼迫して…」
言い淀みながら、話す会長に秘書はけだるそうに
「会長…、それは、…大丈夫です。工事などは一次下請けのカンデン…コンが、ほぼ仕切っているはず…。コールセンター…や、電力の計測…、すべて外部委託なので…」
「そう、だな。外回り、や、受付などはすべて下請け、請求でさえ。わが社は大元だけ、そのおかげで、ほぼ正常。ははは、皮肉だな、こんなに人が減っているのに」
「本社の…指示がないときは、基本、前の通り…問題が起きても…なんとか…対処しているようです。むしろ、トンデン病院のほうが…大変です。患者がつめかけて…。社員だけでなく…、家族、退職者…まで」
「あ、ああ。前会長や、前社長もだ。本人よりも、か、かぞ、くが、さ、先に。お孫さん、ヨーロッパにいた、前社長の。か、隔離された、っていうじゃないか」
「は、…はい。その…症状が…髪が抜け…血を吐かれ…、そして値が、値が…危険なレベルなため…隔離。治療もほぼ、不可能、…あれだけの量では…とのことで。他のご家族も…。昨日の朝から…一気に」
「わ、儂のところも、だ。家内が血、血を吐いて。子供たちは、すでに、入院だ、ん?」
会長のスマートフォンが鳴った。
「ああ、儂だ。ええ!ま、孫が、ま、孫が、手、手の施しようがないだと、値が高すぎる、治療できないだって!そんな、まだ、孫は生きて、医者や看護師の命が危険だから、そ、それでも医者かああ、孫を。そ、そんな子供も家内もなのか、ぜ、全員隔離」
怒りのせいか、体調の悪さかワナワナと体を震わせる会長。
「やはり…本当になったんですか…。あの…書き込みが…」
「な、何を言うんだ、き、君まで。あ、あんな、水の海への放出に、難癖を、つける、あんな、わが社のホームページを書き換えるような真似」
「しかし…会長。確かに…あの水は…処理しきれていない可能性が…。魚も実際高濃度の値が…。水は飲まない…飲めるものではない…。壊れた原子炉…違う、いまだ壊れ続けている原子炉の水は…フツウノ原子炉の水とは…明らかに違う…と」
「そ、それを言うな。そ、それに確かにしょ、処理はしている。た、たとえ取り切れなくても、実際は計測できていない、き、危険な、ほ、放射線を発するぶ、物質があった、としても。測れなかったのだし。こ、国際、機関が…認め」
「その…お墨付きは、…原子力推進…機関など、どうせ、甘めの見積もり…真の負の影響ではない…と。薄めても…海をめぐり、生物の…食物連鎖…で、濃縮されて…巡り巡って、人や動物に影響…だから」
「わ、我々が、その影響を、症状を、受ける、べきだと。他の、生物でも、他国の貧しい人々でもなく、約束を、破って、水を流した我々が、というのか。そんな、もの、どこかの、サイバー、テロだかの団体の、いやがらせ、だ。きっと、ちゅうご、く。そ、そうだ、きっと、わが社の水道に、何か、いれたん、だ」
「会長…、それは…無理…です。だいいち、ご家族…お孫さんまでも…被ばく…したような症状…がでた…説明が…つき…ません。ヨーロッパにいっていた…前社長のお孫…さんが…なぜ…。ほ…ん…と…うに、う…みの…かみ…の…ろ…ぃ」
「馬鹿、な。漁業団体の、ボケた、ジイサン、のいったこと、など。漁師、たちが、納得、しなければ、水は、海に、流さ、ない。これ、は、海の、神に、も、誓った、や、く、そく。破れば、お、そ、ろ、しい、た、たり」
「そ…う…です。な…ん十年も…水…放出…の…影響…が、すべて…わ…れ…わ…れに…。政府…も。水…飲める…言った…アトウダ大臣…も。亡くなった…元総理…墓石…崩れ落ち…骨が…ぼろぼろ…。銅像…肖像…写真、著書まで…危険な…値、すべて…廃棄、家族、自宅、支援者…。そんなこと…人ができるわけ…」
「そんな、そんな、対策、不十分、事故の、研究も、廃炉、処理も、ろくに、考えて、研究していない、それなのに、儲けた。原発、事故のあとも、真剣に、謝罪もせず、誤魔化し、都合の悪い事実、調査結果は、隠蔽。あらゆる、手立て、尽くさず、責任のがれで、会社、存続、利権を優先した、その、報い、だとでも」
言い終わらないうちに会長は椅子に倒れこんだ。鼻からは血がとめどなく流れ、目はうつろで、皮膚がところどころ爛れていた。そばに立っていた秘書も崩れるように床に倒れた。
“緊急ニュースです。関係者に原因不明の死者、傷病者が相次いでいるトンデン本社ビルより異常な放射線の値が検出され、立ち入り禁止となりました。付近の方々は速やかに避難を。なお、政府関係者が次々と入院、死亡が確認されている与党ジコウ党関連施設も同様の危険があり…”
どこぞの国では安全、安全とか言いつつ、大嘘ばかりつきすぎて、まったく信用してもらえない政府と電力会社があるようですが、まあ嘘しか言わないお取り巻きの言動も怪しげな前々首相とか、想定外を連発し、そんな予測もできない能無しなら、いままでの報酬ほか全部返せやといいたくなる幹部連中ばかりなので、仕方ないのかもしれませんねえ。