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勇者魔王短編作品

勇者が魔王を倒したが最期のセリフが長すぎるので「最後まで言わせるために延命させてやろう」ということになった

「魔王ーッ!!!」


 勇者マックスが雄叫びと共に、魔王グロイドに斬りかかる。

 その一撃はグロイドの胸を深々と切り裂き、致命傷を与えた。


「ぐ、ぐはっ……!」


 血を吐き出すグロイド。もはや力は残っていないだろう。


「やったぜ、マックス!」


 頼もしき相棒・戦士ロベルトがマックスを称える。


「ついに……倒したのね」


 女魔法使いヒルダも決着を確信する。


「終わりましたね……」


 女僧侶マリーは安堵の吐息を漏らす。


「ぐ、ぐぐ……!」うめくグロイド。


「まだやる気か!?」


 剣を構えるロベルトだが、それをマックスが制止する。


「いや、もう力は残ってない」


 グロイドは絶え絶えの息で、語り始める。


「こんなバカな……このワシが、やられるとは……」


 世界を恐怖に陥れた魔王、その最期の言葉を聞き逃すまいと、マックス達も押し黙る。


「こんなことになろうとは……思わなかった……」


 勇者を甘く見たことを悔いているようだ。


「おぬしらがもっと弱い頃に……最高戦力をぶつけていれば……」


 こうすればよかった、と過去を振り返る。


「思えば……ワシはいつも……こういうところがあった……」


 さらに過去を振り返っているようだ。


「長いな……」ロベルトがつぶやく。


「まあまあ、最期だし言わせてあげましょうよ」とヒルダ。


 魔王が再び血を吐き出す。苦しそうだ。


「ここで……ワシの半生を振り返りたいと思う……」


 何か始まった、とマックス達は思った。


「ワシが生まれたのは……今から五千年ほど前だ……」


 昔話が始まってしまった。

 「ずいぶんおじいちゃんなんですね」とマリーがつぶやく。


「ワシは……自分でいうのもなんだが……優秀な魔族だった……腕力も、魔力も……他より優れていた……」


 グロイドは魔族の中でも突出した存在だったようだ。


「しかし……若気の至りというやつか……。グレてしまったワシは……魔王になった……」


「魔王ってそんな不良になるようなノリでなるものなのかよ」呆れるロベルト。


「世襲制じゃなかったんだ……」ヒルダも意外そうな顔をしている。


「色々無茶をやった……例えば盗んだ馬車で走るとか……」


 しばらくグロイドの武勇伝が続いた。

 他の魔族グループと喧嘩したり、竜に乗ってあちこちを暴走したり、邪神の眠る神殿を破壊したり。

 なにしろ魔王のやることなので悪事のスケールは大きく、四人ともいつの間にか聞き入っていた。


「こうしてビッグになったワシは……次は人間界を滅ぼそうと攻め込んだわけだ……」


 ようやく話が現代に近づいてきた。

 やっと終わるのかと、皆は内心ほっとする。


「さて、ここでワシの知っている小噺を披露しよ……うっ!」


 突如グロイドが苦しみ出した。


「うぐぐぐ……がはっ!」


 ついに生命が尽きる時が来たようだ。


「魔王ッ!?」


 マックスが叫ぶ。


「おい、しっかりしろ! どんな小噺を披露しようとしてたんだ!」


 呼びかけてもグロイドは苦しむばかり。このままではあと数十秒で命は尽きるだろう。


「死なせるわけにはいかない! マリー、治療してくれ!」


「魔王をですか!?」


「ああ……お前だって聞きたいだろ、小噺!」


「聞きたいです!」


 満場一致でグロイドの治療をすることに決まった。

 マリーの回復魔法でかろうじて息を吹き返したグロイドは、小噺を始めた。


「あるゴーレム職人が……作ったゴーレムから『ダイエットしたい』と頼まれた……。しかし、ゴーレムは岩で出来ている……痩せようがない……」


 どうなるんだ、と聞き入る勇者パーティー。


「だから職人は……ゴーレムを軽石で作り直したんだとさ……」


 どっと笑いが起こった。


「ぷ、ぷぷっ……軽石って……」噴き出すマックス。


「その手があったか!」ロベルトもゲラゲラ笑っている。


 その後もグロイドは魔界の笑い話を披露するが、再び苦しみ出した。


「ぐ、ぐふっ……! がはっ!」


「またか! マリー、治療してくれ!」


 話を聞きたいマリーも懸命に治療をするが、


「ダメです! 専門の設備があるところでないと、これ以上は……!」


 専門の設備があるところとなると、心当たりは一つしかなかった。


「よし……魔王を王都まで連れ帰って延命しよう!」


 マックスの出した結論に異論は出なかった。



***



 凱旋したマックス達を国王は温かく迎えた。


「よくぞ戻った勇者たちよ。四人とも無事で何よりだ」


「ありがとうございます、陛下」


「しかし……」


 国王が首を傾げる。


「その五人目は誰だ? ずいぶんと苦しそうだが」


「実はこいつは……魔王でして」


「え!?」


 マックス達は死にかけているグロイドを連れ帰っていたのである。


「な、なんで……?」


「お願いがあります、陛下」


 パーティーが一斉に頭を下げる。


「王国の最新医療で、こいつを延命させてもらえないでしょうか!」


「延命って……こいつ魔王なんでしょ? トドメを刺した方が……」


「お願いしますッ! 俺たちはこいつの言葉を最後まで聞かねばならないのです!」


 幾多の死線を潜り抜けた四人に必死の形相で懇願されては、国王としても返事は一つしかなかった。


「分かった……好きにせよ」



***



 さっそくグロイドは城の治療室に送られ、最新の設備で延命治療を施された。

 すでにマックスから致命傷を受けているので全快は不可能だが、どうにか再び言葉を紡げる程度には回復した。


「魔王!」


「勇者……か」


「よかった、喋れるようになったんだな」


「ああ……どうにかな……おぬしたちのおかげだ……」


「勘違いするな。俺はお前に最後まで喋らせてやりたいって一心でやったんだ」


「分かっている……では、話の続きをしよう……。まずはワシの知ってる魔界豆知識を……」


 それからというもの、グロイドは延命治療を受けながら、最期のセリフをひたすら喋り続けた。

 初めは魔王を延命することに反対の声もあった。

 しかし五千年生きているだけあって多くのことを知っており、これは生かしておいた方が王国の利益になると判断され、やがて反対の声は消えていった。


 それどころか、グロイドに相談に行く人間も増えていった。


 こんな兵士がいた。


「しょせん俺なんて、勇者様達に比べればいくらでも替えがきく駒に過ぎないんでしょうか……」


「そんなこと……はない。おぬしたちのような兵士がいたからこそ……勇者は安心して旅立つことができ……ワシもこうして敗れた。世の中に……替えがきく人間など……おらん。誇りを持て……」


「ありがとうございますっ!」


 あるメイドはこんな相談をした。


「いつもドジをして、メイド長様に怒られるんです」


「ドジをすまい、と意識すると……焦ってドジを生む……。それより、自分の仕事をきっちりこなす、と意識するのだ……。落ち着いて深呼吸してから、仕事をすれば……ドジも減るはず……」


「焦らないことと深呼吸が大事なんですね!」


 グロイドのアドバイスは的確であり、たちまち評判になった。

 ついには国王まで――


「今や、余より勇者の方が国民の人気は高い。余は恐ろしいのだ。勇者に自分の地位を脅かされるのではないかと」


「案ずるな……。勇者は……おぬしの地位を……奪おうとするような輩では……ない。それに……王には王の……勇者には勇者の仕事というものが……ある。目先の人気に囚われず……自分の使命をまっとうしろ。さすれば……国民は必ずついてくる……」


「魔王……ッ!」


 国王もグロイドに相談して救われた一人だった。


 グロイドは治療を受けながら、最期のセリフを喋り続けた。

 やがて勇者マックスは王女と結婚し、一男を授かった。グロイドの見立て通り、彼は国王の地位を脅かすようなことはしなかった。

 

 マックスは赤子をグロイドに見せに行く。


「ばぶ、ばぶ」


「魔王、これが俺の子だ。名前はマイクって名付けたんだ」


「マイクか……いい名だ」


「ありがとう。これからも見守ってくれよ」


「いや、残念ながらそれは叶わぬようだ……」


「え?」


「うぐっ!」


 苦しみ出すグロイド。

 今までとは苦しみ方が違う。


「待ってろ! 今、誰か呼んで――」


「いや、呼ぶな……!」


「魔王!」


「感覚で分かる……もう延命はできん……。ワシの本当の最期のセリフを聞いてくれ……」


「分かった……聞いてやる!」


 マックスは覚悟を決めた。


「ワシは死ぬ時……『いつか必ず復活する!』と言い残し、死ぬつもりだった……。現に恨みを残して死ねば……魔王はその怨念で復活できる……」


 マックスは黙って聞いている。


「だが、今のワシは……満足している。こうして丁重に扱われ……ワシの言葉で、皆を笑わせ、皆を励まし、時には感謝すらされた……。魔王時代には味わえなかった……幸福感を……味わうことができたのだからな……」


「魔王……!」


「勇者、ワシを倒した……宿敵の息子を見ることができて……嬉しかった、ぞ……」


 グロイドは微笑むと、笑顔のまま目を閉じた。その全身から瞬時に生気が抜け落ちる。

 これを見たマックスは、かつてグロイドを倒した時以上の絶叫を轟かせた。


「魔王ーッ!!!」






お読み下さりましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
千夜一夜物語ーっ!!! 魔王の話を全て記録し書物にした誰かがいるはずですw
[良い点] 魔王… いいやつだったよ(なーむ)
[一言] なにげに勇者に不信感を抱いた王様を説得して追放回避してる魔王有能すぎる。 どうしたらこんなネタおもいつくん?
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